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Crystal drive  作者: 根号月腕
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荒廃した世界でロボットに搭乗し戦う少年少女達の物語

ご覧いただきましてありがとうございます。書いたりするのは初めてですが、誰かに楽しんで頂けたらうれしいです。

 静かな黒い世界。空には分厚い雲がかかっていて、光を遮っていた。その天幕とぎざぎざした地平線の間には銀色のゆらゆらした境界が微かに見える。地面にはボロボロになってしまった高層ビルの残骸や、大きな傷跡が残った道路など、人のいない都市があった。塀や火器といった防衛設備が配備されていないことから、随分と昔に滅んだ都市なのだろう。その所為か、誰かがこの都市に降り立ったならば、早朝に流れる空気の冷たさは数割増しと感じるかもしれない。

 そんな有り体に言って不気味なその都市の中で、動くものがあった。

 淡い茶色の大きなヒトガタの機械が、今や昔住居であった瓦礫の下から這い出てくる。住宅街にガラガラと騒音が響くが、文句を言う者は居ない。ただ廃墟を包む静謐な空気が、その大音響をスポンジのように吸っていく。やがて機械の巨人が立ち上がった時には、ただ小石の転がるやや高い音に変わっていた。気まぐれに地面に落下し、古びたコンクリートにぶつかって奏でられる小石達の、小気味良い音をその都市の中で唯一聞いていた存在が居た。

 とはいえ、彼は神でもなければ鬼でもない。無論瓦礫の下から這い出た巨人そのものでもなんでもなく、ただの人、その機械の巨人〈兵装機甲〉の胸部に収められたコックピット内部に居る操縦士であった。

 操縦士はコックピットから機体の状態を確認すると、脚に取り付けられたリフトファンを起動する。脚部装甲の中に埋め込まれたファンが空気を吸い込み、足の裏から吐き出して機体を微妙に浮き上がらせた。

 機体は背面についているスラスターの出力を上げ、地面の上を滑るように動き出す。橙色の炎を煌めかせ、一夜の宿とした廃墟群を去った。

 スラスターの推力でぐんぐんと加速する機体の中で、彼は周囲を警戒する。

 現在都市を抜けるべく広いメインストリートを快走中だが、七階弱の建物が多いこの周辺は兵装機甲の頭頂部にぎりぎり建物の高さが届く。視界を遮るものが多いので、不意打ちで死なないための警戒だ。

 暫く走っていると次第に建物の背が低くなって、ついには地面が土になる。脚部のリフトファンがもうもうと土煙を巻き上げて、むせ返るような土の匂いがコックピットまで漂ってくるような錯覚を覚えた。無論、コックピット内部はほぼ完全に外部と隔絶されている。そのため、土の匂いも、廃墟の香りも、その静謐な空気だってコックピットハッチさえ空けなければ直に触れることはないのだが。

 操縦士は意味もなく顔を顰めると、外の景色が投影されているディスプレイから視線を外さずに、手探りを始めた。さわさわと彼の左手がマットなナイロン素材の内張りを撫でて、その一部分にあった安っぽいプラスチックの凹凸を捉える。

 手慣れたようにそのスイッチをいくつか押すと、ヘッドアップディスプレイに地形情報が表示された。

 とはいえ、ほぼ役には立たない。あの地平線に見える銀色の境界内部では既存の地図が参考にならないし、方位磁針もかなりの確率で狂ってしまう。

 この鉄のカーテンに囲まれたエリアは隔絶領域と呼ばれていて、非常に危険な場所だ。自分の位置情報すら満足につかめる状況では無いのに…。

 「…!」

 巨大な蜘蛛がいる。やや遠いため姿形はおぼろげだが、平べったい生物である蜘蛛という形をとっていながら、体高だけで兵装機甲を超えそうな程だ。

 静止していた大蜘蛛はぴく…と、一瞬体を沈める。その反応を見て、操縦士は確信した。

 運の悪いことに、その蜘蛛もこちらを捕捉したようだ、と。

 「会敵…か。」

 だが、結局やることは決まっていた。向かうべき場所へ歩みを進めるのみである。

 距離を詰める合間に、シートのスイッチを順次切り替える。パチ、パチと軽い音が鳴る毎に、機体のシステムは移動から戦闘へ適したモノへと処理が切り替わっていく。

 戦闘モードへの移行完了。火器開放、照準確認。

 肩部にポン付けされた高射砲の機械式給弾装置がキュルルルと独特な音を立て、チャンバー内部に砲弾が装填された。それをセンサーが感知し、HUDに射撃可能マークが表示される。

 そして、彼は操縦桿についているトリガーを引いた。

 滑走する機体の肩からアンバランスに飛び出した高射砲が火を吹く。

 行進間射撃にも関わらず砲弾は素直な軌道を描いて大蜘蛛の頭部に命中する。が、甲殻を貫通することなく弾かれて明後日の方向へと飛んでいってしまった。

 大蜘蛛は相変わらず動かない。

 次弾が装填され、停止せずに再び砲撃。その再装填で装填装置が鳴く頃にはもう大蜘蛛との距離がほぼ消えていた。

 この段階で操縦士は大蜘蛛の様子を伺う事が出来た。動く筈の触肢や顎が動いていない。砲弾の当たり所が悪かったのだろう、人間で言う気絶に近い状態だ。一瞬だがそれに気付いて、戦闘を無駄を省くものへと切り替えた。

 そして、距離がゼロになる。機体を滑らせてスライディングし、動きに合わせて背部のスラスターを増開。高射砲は最大仰角をとって当たらないように配慮し、考えうる限り一番低い姿勢で大蜘蛛の足元に潜り込み、そのまま勢いを殺さずに通り抜ける。

 彼が通り抜けたあとで、蜘蛛は思い出したかのように反転して薄茶色の巨人を追いかけ始めた。

 しかし、大地を滑走する巨人は人類の技術の結晶である。高速移動には生物の脚より機械の脚に軍配が上がり、あっという間に蜘蛛を引き離していった。

 一安心、と思いきやその戦闘をどこから聞きつけたのか次々と怪物が群がってくる。サイズは兵装機甲より大きいものから小さいものまで多種多様だが、とにかく数が多かった。

 進行方向から来るものを躱したり、一撃を加えて反らしたり、いなし続けているとだんだん追いかけてくる怪物の量が増えていった。

 まるで、蠱毒の壺に放り込まれたかのようだ。

 彼は速度をそのままに、機体の向きだけ器用に反転させると左腕と胸部に埋め込まれている機関砲を一斉射し、薙ぎ払う。

 撃破確認の暇もない。次から次へとやってくる魑魅魍魎から逃げるため、機械の巨人は平原を走り抜けた。

ここまでご覧いただきましてありがとうございます。感想などを頂けると励みになります。

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