表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

奇妙な書物―ネガティブな作家編―

暗め注意

ネガティブとは言えないかも

本棚に引き込まれて世界が変わり

ぼーとした意識がリアルに戻ってくる。


此処はさっきの場所とは違う。

この場所は図書館と言っても良い。


警戒しながら歩を進める。


足音がする・・・・する。

後ろからもう一つする。

咄嗟に近くの本棚の後ろに隠れた。


カツ カツ カツ

本の隙間から様子を見る。


カツーン

彼は立ち止まり、私が隠れている本棚の方へと向いた。

ゆらりゆらりとまるで幽霊の様に暗い、体も痣、傷だらけの可哀想な男。


そう無意識に思った。


貴方もそう思うのですか?


静かな図書館で一人、男の声が響く。


私はいらない子だって。可哀想な男だって。死ねなくて哀れな男だって。


彼は微笑した。


だって仕方がないもの。死にたくない。

でも死ねなきゃ報われないないのも現実。あはは!うける。

自暴自棄に笑いながら


彼は異質な黒い本棚に収まっている本を全て、乱暴に出した。


バサバサっと落ちた瞬間。


脳内に、彼が自分を殺そうとしても死を恐れて未遂で終わる姿が流れる。


死んだ目でこちらを睨んでいる彼。


じゃあ今度はこっちを見せてあげるよ。


次は赤い本棚の本を全て同じように出し落とす。


バサバサと落ちる瞬間


脳内に再生されるのは、綺麗な女性に哀れな目を向けられ、期待外れだわと呟かれている映像。


これは・・・・彼の記憶・・・・なのかな?

とても寂しく冷たい映像。


まだまだあるからさ、私の話を見てよ!もっともっと!これだけじゃあまだ足りない!


同じように落としていく。


その姿は認めて欲しそうに、何かを求めて本を落としている様に見えた。


私は次から次へと流れてくる話にめまいを起こす。


――


私はネガティブな作家。


ご主人の悪い部分を遺伝的に受け継いだ作家。


止まらない作家と魔に落とす作家とは違う哀れな哀れな出来損ない。


生まれた当初はこんな性格では無かったが、ある出来事をきっかけに黒い何かがつきまとうようになった。


期待に応えられなかったのだ。今までずっと期待されて優遇されていつも楽しい日々だった。


一人の子供として親を慕うのは当たり前だと思っている。


その当たり前に慣れすぎた。


それ故に離された時の痛みは、幸せに比例した痛さとして残る。


どうして?どうして急に捨てるのですか?


ごめんなさいごめんなさい!謝るから昔の優しかったお母さんに戻ってよ!!


捨てないで、と何度口にしたか。


今まで日に当たって暖かった部屋は、伸びきった植物が邪魔をして日が通らなくなり冷たくなった。


私はこの時から、自分を殺そうとした。


だって何もないんだもん生きる目的が。私のせいでお母さんが愛想を尽かしたんだ。


もうそんな目で見ないで。疲れたから。

――

やっと映像が止まる。


全ての本が本棚から引っ張り出されて、辺りは色とりどりの本で悲しみの華を作り出している。


体も痣だらけ傷だらけの男は


芸術の華の最後の仕上げは、観客の前で


と目を瞑り、刃先が鋭いナイフで自分の首を斬ろうとする。


のを止めなきゃと思った体が勝手に動き、彼を強く抱きしめた。


もういいんだよ。


貴方は凄く頑張った。


その傷こそが、辛いことを耐えたものだと分かるよ。


心から思った事を口にする。


彼の目からは今まで冷たかったであろう涙が、今は暖かい涙としてポロポロとあふれ出す。


ナイフがカランカランと彼の手から何処か嬉しそうに落ちた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ