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ネコノガイネン

作者: 川野笹舟

 六畳一間のワンルームで、パソコンだけをにらみつけて二年ほど引きこもっていると、気が狂い始めた。

 冬は寒すぎた。一人は(さみ)しすぎた。

 窓の外にいるのは機械の人ばかりだった。

 パソコンの向こうにいるのは気持ちの悪い生き物ばかりだった。


 猫を飼いたくなった。

 本物の猫は存在が強すぎて私の部屋に適合しないので、あきらめた。


 次の日、「もうだめだ」と私が泣いていると、すぅっ、と猫の概念(がいねん)が部屋に顕現(けんげん)した。

 私は猫の概念を飼うことにした。

 名前はネコノガイネンにした。


 ネコノガイネンは私の部屋で自由を謳歌(おうか)している。

 パソコンで勝手に私のメールを返信したり、私が飲もうとしたコーヒーをぶちまけたり、カーテンレールの上から私を監視していたりする。


 私は何一つ自由を持たないため魂が変質し始めたが、ネコノガイネンから自由を二つインストールして事なきを得た。


 ネコノガイネンは大きくなったり小さくなったりする。

 部屋いっぱいまで大きくなったネコノガイネンに包まれて眠ったり、二センチほどに小さくなったネコノガイネンをポケットに入れて遊んだりした。


 日々は過ぎ去り、冬を流す雨が来た。

 雨音は小さく、私の涙が落ちる音よりも柔らかい音だった。しかし、恐ろしい音でもあった。

 継ぎ目がわからないほど(なめ)らかに、冬の雨音は春の雨音へ変化した。

 猫の概念は、春の雨音に弱かった。

「あぁ」

 とネコノガイネンが鳴いた。それは初めて聞いた声だった。

「あぁ」

 と私も泣いた。


 ネコノガイネンは春の雨音に流され、消えてしまった。


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