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「何これ」
部屋の一番奥に、いかにもあやしい楕円形の鏡のようなものが付いている。
その横の壁には、鏡に手を入れなさいという指示がイラスト入りで。
手を入れろって?これに?
覗き込むと鏡が水面のようにさざめいて、奥に空間があるのが見えた。
怖いけど、これやらないと終わらないやつだよね。
しょうがない。
恐る恐る、片手の指先を鏡につけた。
ビリッと電流が流れてきて、反射的に手を引き抜いた。
「いったぁ!」
何これびっくりした!
手がじんじんする。痛いわけじゃないけど、ものすごく変な感じ。
でももう一回。やるしかない。
「わー!!!」
大声出して気合を入れた。
両足を開いて、踏ん張って立つ。
えいやっ!
今度は両手をバシッと鏡面に付けると、手首辺りまでズズッと埋まって、ビリビリがやってきた。
「うーわーなーにーこーれー」
声が波立つ。
鏡の中から振動が体全体に広がって、つんのめってしまいそうになる。
手は抜けない。
振動を我慢しながら、じっとしている他ない。
する事もないので、頭の中で歌を歌っていた。
しばらくすると振動が段々と弱くなり、手が抜けた。
手のひらにジーンと名残が残っていて、感覚がおかしい。グーパー繰り返す。
終わったっぽい。
聖女の祈り、って儀式はこれで達成なんだろうか。私にもできたのか。
これ、成功とか失敗とかわかるのかな。
念の為もう一度鏡に触ってみると、硬くてもう手は入らなかった。
他に何か意味ありげな物は無かったので、最後にもう一度手を合わせてお辞儀をして、部屋を出た。
ランタンを持って階段を上ると、地下への入り口を囲むようにして皆が立っていた。
「お待たせー」
「お怪我はありませんか?」
何故か剣を抜いている緑のリアムが言った。
「大丈夫だよ、なに、もしかしてそんなに危険なミッションだったのこれ?」
「すごい声が聞こえたからですよ」
と、紫のニコラス。
もしかしてわー!とか聞こえてた?恥ずかしっ。
「念の為確認させてください」
黄色のパーシヴァルが私の両手を取って目を閉じた。魔法で体調の確認をしてくれてるのかな。
思ったより大きい手。温かい。ドキッとしてしまった。不覚。
何年も彼氏いないし人との触れ合い自体無かったからね。触れた手からいたわりと優しさを感じた。
「ありがとう、でも本当に大丈夫だよ。そんなに疲れてもないし」
「三時間も地下に篭ってたんだ、心配して見に行くって言うコイツら止めるのに苦労した」
青のギルバートがアレックスとリアムを指して言った。
「三時間!?」
「正確には三時間十分です。心配しましたがご無事で何よりです」
と赤のアレックス。心配してくれたんだ。
「そんなに長い間待っててくれたの。私の体感ではほんの三十分くらいだったからびっくりだよ」
「聖域ですから、時の流れが違うのかもしれません」
三時間はびっくり。皆よくそんなにじっと待っててくれてたな。私なら飽きてお腹すいちゃう。
「聖女の祈りの儀式って、うまく行ったんでしょうか」
五人の後ろの祭祀さんに聞いてみると、陽力が滞りなくなったから大丈夫とのこと。私には全然わからないけど、祭祀になる人は陽脈の力を感知できるらしい。
ひとまず一つ目の祠クリア。おめでとうございます!
「お腹すいたから休憩にしよう」
そう言うとリアムがニコッと笑って可愛かった。お腹空いてたんだね君。
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