始まりの祠
「すごい。聖女って感じ」
今日はいよいよ祈り巡りの旅の始まる日。
エリンさん達に朝からお風呂で全身くまなく洗われ清められまくり、白と金を基調としたいかにも聖女風の布が多いドレスを着せられた。
神秘的できれいだけど、裾が床ギリギリの丈なので踏んで転びそう。
靴がぺたんこでヒール無しなのが救いだ。
髪は金のリボンを編み込まれ、頭には顔を隠すように薄いベールをかけられた。
「本日は大勢の皆様の前に出られますので、俯いて、あまりお顔を上げられないように願います」
エリンさんからのアドバイス。キョロキョロすんなってことかな。
ファイブは今日は五人お揃いの騎士服で、帯剣もしていた。襟にはテーマカラーのラインが入っている。
アイドルグループの衣装みたいでかっこいい。並んで立たれると結構テンション上がるなこれ。
ファンサしてもらおうとアレックスに小さく手を振ってみたけど、怪訝な顔をされただけだった。
じゃあとギルバートに手を降ったら無視。
ニコラスとパーシヴァルは笑顔と共に控えめに振り返してくれた。
リアムはブンブン手を振ってくれた。決めた。君を推す。
王城の大ホールはそれはもうすごかった。
本当にお城。壁面も天井も装飾がすごそうでまじまじ見たかったけど、エリンさんのアドバイスに従ってなるべく床を見て歩いた。
出立前、王様王妃様から激励のお言葉を賜るらしい。
返答は不要、とにかくファイブ達と合わせて頭を下げるようにとアレックスに言われたのでその通りにした。
前に王様王妃様、周りは一面着飾った貴族だらけで緊張したけど、ベールを被っているからまだましだった。
そして最初の祠にやって来た。祠というか、ちょっとした建物だ。
もうベールは取っていいらしい。
中に入れるのは聖女と聖女の騎士、後は祭祀のみだという。
祭祀が扉を開けた。
6畳ほどの空間。天井近くに明かり取りの窓があり、電灯がなくても明るい。
石で出来た床にまた扉があり、そこを開けると地下へ続く階段が現れた。
「ここから先は聖女様お一人でお進みください」
「えっ」
めっちゃ怖くない?
灯りにとランタンのような物を渡されて、階段へさあどうぞってされてしまった。
「アレックス達は付いてきてくれないの」
「ここから先は聖女様だけが入れる聖域ですので」
ひえー。薄暗い地下室に一人なんて無理だよぉ。
「扉は閉めないよね?ずっとここで待っててくれるよね?」
「聖女様がお戻りになるまでお待ちしています」
絶対閉めないでね、と何度も良い置いて、一人で階段を降りる。
振り返りながら狭い階段をしぼらくまっすぐ降りた先に、開けた空間があった。
地下だけど、思ったより広い。風通しはあるようで、ジメジメしてなかった。
六十年封印されてた地下室って、なんかもうカビとか腐敗とかしてんじゃないかと思ったけど、割ときれいだ。埃っぽくはあるけど。
これは聖女パワーなんだろうか。
ランタンをかざして部屋を探検する。
壁には棚が作りつけてあって、多分今までの聖女さん達のアミュレットが置いてある。
木でできた人形のようなもの、宝石のついたペンダント、ビーズの首飾り、大きくてすべすべした石、骨で作られたような置物、本当に色々だ。
その中に木簡があった。覗き込むと、漢字が書いてある。
漢字!字体が難しいし平仮名や片仮名が混ざってないから中国語だろうか。
過去の聖女達は私と同じ世界から来ていたんだ。
そう思って部屋を見回すと、一つのアミュレットに一人ずつ、この世界に召喚されてしまった若い女の子たちがいたのだと胸が苦しくなった。
きっと私より大分幼かったその子達は、ここで幸せに暮らせたのだろうか。
彼女達のために祈りたくて、両手を合わせた。
祭祀を誤用していました。(祀る人という意味があると誤認していました)
「祭祀」とは祭りやまつることそのものを指し、人を意味しません。
ですが「司祭」等とすると特定の宗教感があるので使用したくありません。
この物語の中では「祭祀」を、祭りをする人、神主のような役目の人という意味で使おうと思います。