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リアムの話

「僕の実家と両隣の領地は、黒の森から湧き出る魔物の掃討に追われています」


ガタゴト揺れる馬車の中、リアムはまるで窓の外に故郷が見えているかのように話した。

六十年に一度聖女が祠で祈りを捧げると、しばらく魔物の出現がなくなる。

しかし十年過ぎから少しずつ魔物が現れはじめ、リアムが物心つく頃には毎日のように対魔物の戦闘が行われていたという。


「魔物が出なければ、のどかで美しい所だそうです。でも僕や兄は、攻撃魔法や魔物の爪痕で抉れ、草も生えない場所しか知りません」

税金の減免措置は多少あるものの、魔物の対処は費用も人員も領地任せという。

第三騎士団はと聞くと、国の騎士団はあくまで補助で、重要な街道や普段魔物の出ない所に出現した魔物を倒す隊なので、黒の森周辺は対象外らしい。


「聖女様の騎士の選抜のために領地を出てびっくりしました。見渡す限りの緑豊かな景色も、商売人が列を成して行き交う街道も初めて見ました」


「特に王都です。ものすごく沢山の人がいて、立派な建物が並び、店頭には食べ物も服も宝石も山のようにある。多くの人は魔物を見たこともないでしょう」


「毎日同じような服を着て、魔物に怯えて眠り、芋を食べ、耕した土地を魔物に荒らされ、また苗を植える。そんな暮らしをしている僕のいたところと、本当に同じ国なのかと思いました」


リアムがこちらを見る。

「聖女の騎士として同輩になった方は、皆さん素晴らしい方々です。でもこの国の北端の暮らしを知っているのは僕だけです」


「聖女と結婚すると、問題が解決すると?」

目を見返して聞く。

「聖女様の祈りで魔物が出現しなくなるなら、聖女様に領地に留まって、祈りを捧げ続けて頂きたいのです」

なるほど。

そういうことか。


「本当は二歳上の兄が聖女様の騎士になるはずでした。でも兄は魔物に片腕を奪われ、騎士になることが叶いませんでした」


「聖女様との婚姻は、黒の森と接する領地を持つ三家の悲願です。でなければまた十年後魔物が出現し始め、次回の聖女様の召喚まで持ち堪えられる保証はありません」


リアムはぐっと両手を握り、身体をこちらに向けた。

目に決意が宿っている。

こんな若い子が、こんな重いものを負っていたのか。

リアムの握った拳に、そっと手を重ねた。


「大変だったんだね。話してくれてありがとう」

リアムの瞳が期待で輝く。

でもごめん、結婚はできないよ。

「リアムやリアムの領地の力になりたいと思う。結婚しなくても祈りの儀式はできる。どんな方法があるか考えよう」


リアムの大きい手を握る。

ギュッと握り返してくれた。

丁度明日の休養日はリアムも出勤だし、改めて明日話し合うことにした。



馬車から下りて部屋に戻り、一人で考える。

聖女の召喚は六十年に一度としても、召喚された聖女はずっと国にいるんだから何度でも祠で儀式をすればいいのに。

そうしたら、魔物の被害をもっと減らせた。

けれど過去の聖女で、二度目の祈り巡りの旅をした人はいない。

旅の後は皆結婚して、家から出なかった。出られなかった。

結婚は、聖女に子どもを産ませるため。

生まれた子は嫁や婿に取られ、たくさんの貴族が自分の家に聖女の血を迎えたがった。


うーん、グロいなぁ。

そもそも結婚で聖女を閉じ込めなければ、何度でも祈りの儀式はできたんじゃないのかな。

そしたら黒の森周辺ももう少しマシになったのでは?

魔物の脅威を肌で知っている人が聖女の周りにいなかったんだろうな。

だから聖女の血の利用価値に囚われて、魔物被害の大きい土地を省みなかった。

リアムの家とかが必死で食い止めてくれてるから、きっと大多数の貴族は森周辺の被害の実態も知らないだろうし、魔物の怖さもわかってないんだろう。


魔物被害の防止の為に私ができることは、ひとまず祈り巡りの旅で陽脈の乱れを整えること。

全国の祠を巡り終えた後に、森周辺の領地や祠に何かできることはありそう。

また明日、みんなで考えよう。

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