寿命
「ありがとうございます。もっと過去遡りたいので、手伝ってください」
手をグーパーする。落ち着け。
勝手な推論で怖がっちゃダメ。
まずは事実確認から。
やれること一つずつやってこう。
ニコラスとギルバート、ブレントさんに、ここにある年鑑で確認できるだけの聖女の没年について調べてもらうことにした。
年齢はわからないが、召喚されてから何年後に亡くなったかはわかる。
私は年鑑の見方が難しいので休憩。
筆記具を用意して結果をメモする。
三人に調べてもらって、八人の聖女について確認できた。
八人の聖女は召喚から最長四十年、最短五年で亡くなっていた。
でも五年で亡くなったのは災害が原因らしいので、寿命ではなさそう。
ざっと見たところ、十年から二十年で亡くなった方が多い。
四十年生きた人は一人突出して長生き。
死因は何だろう。
これって、聞いていい話かな。
聖女が祈りの儀式をすると早死にするって、それが本当なら私がそれに気付いたと知られたらまずくない?
いや没年調べまくってるからもう遅いか。
「こうして見ると聖女は短命だな」
考えていたらギルバートにズバッと言われてしまった。
「やっぱりそう思うよね。何でか知ってる?」
皆知らないという。
えー怖い。
この世界の平均寿命が短い可能性もあると思って三人に聞いてみたけど、日本ほどではないけど普通に六十歳や七十歳の人はいるらしい。
じゃあなんで聖女は四十代とかで死ぬの。
落ち着け。
もしかしたら一人一人別個の理由でたまたま亡くなっただけかもしれない。
もう少し丁寧に年鑑を読み込む必要がある。
一旦お昼休憩にして、午後からもう一度年鑑を見ることにした。
「聖女、子ども産みすぎでは?」
年鑑から過去の聖女について読み取っていくと、子どもがめちゃくちゃ沢山いることが分かった。
五人と八人とか、最高十人ってのも見た。
その子どもが他家に嫁入りしたり婿に行ったり、聖女の子どもはもしかして社交のカードなのか。
他の家を見てみると、流石にそんな人数の子どもがいる家は殆ど無い。
「ニコラスって何人兄弟」
「三人です。弟と妹が一人ずついます」
「ギルバートは」
「俺は姉が一人」
ブレントさんには聞きづらかったからやめておいた。
ニコラスとギルバートのお父さん、お母さんの兄弟の人数も聞いたけど二人か三人だった。
こんなに多い人数を産んでるのは聖女だけ。
背筋がゾワッとする。
これはこれでホラーでは。
「もしかして聖女の子どもって嫁入り婿入りさせるといいことあるとかそんなことある?」
「聖女様の血を家に入れたいと誰しも思うのが普通ではないですか」
さらっとニコラスに言われてしまった。
めちゃくちゃ怖い可能性に気付いたんだけど、これ、聖女は結婚後、ひたすら子ども産まされるんじゃないの。
聖女の結婚からの年数と子供の人数を確認すると、あまり間を空けずに妊娠していると読み取れる。
ひえー。
本当にホラー。
怖すぎてニコラスとギルバートの顔が見れない。
もしかして私今まで、とんでもないサイコパス五人に囲まれて日常を送ってた?
「ちょっとタイム。考えを整理したい」
一人になりたいけど多分許可されない。
聖女の伴侶候補のニコラスとギルバートとは一緒にいたくない。
「ブレントさんと二人にしてください」
ニコラスとギルバートが訝しげな顔をしているのがわかる。
でももう無理。
「侍女さんも一緒でいいので、ニコラスとギルバートは部屋を出て、会議室で待っててください」
二人が部屋を出た。