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貴族年鑑

「過去の聖女たちについて、どんな風に暮らしたかが知りたいんだけど、本とかある?」

「聖女様の暮らしですか」


今まで何人もの若い女の子たちが召喚されて、アミュレットを作り、全国の祠で祈りを捧げたことはわかっている。

できればもっと、彼女達が旅の後どう暮らしたかとか、何が好きだったかとか、パーソナルな事が知りたい。

祠の地下で見た沢山の遺物。一つ一つを作った彼女たちのことを知りたいと思った。

彼女たちのために祈ることは、同じ地球から来た私がやることだとも思う。


聖女って言うくらいだから伝記くらいあるのかなって思ったけど、ニコラスの口ぶりだとそれは難しそうだ。

「祈り巡りの旅を終えた聖女様は、通例ですとすぐに結婚し、婚家に入って生涯を過ごされます。ですので旅を終えた後の聖女様については、それぞれの家に伝わる話を個別に収集するほか無いと思います」

「えっ結婚したらもう聖女って仕事無いの?しかも家から出ないの?」

「全国を祈り巡られた聖女様に、その後は落ち着いてお過ごしいただくためです。婚家が贅を尽くした別邸を用意するのが慣例です」


へー。

でも貴族の結婚って、妻は社交したり、家の中の事取り仕切って働いたりなイメージだけど。

「聖女様はこの世界の外から来たお方ですから、当然我々の慣例や風習についてご存知ない。聖女様には負担をお掛けしないようになっています」

「でも貴族って社交もあるし、例えばパーティーとかお茶会とかに出ないといけないよね?」

「聖女様を雑事で煩わせないよう、聖女様の伴侶となる者には、家の内向きや社交を取り仕切る役割の女性が添います。これを内儀と呼びます」

「その人は何する人なの」

「聖女様と伴侶の生活を整え、家の内部の仕事を取仕切り、社交の場に出、通常の妻が行うこと全てです」

それってその人が奥さんじゃない?

「聖女様と伴侶との間に生まれるお子様の教育等も仕事に含まれます」

本当に奥さんじゃん。

よく分からないな。


とりあえず簡単なものでいいから歴代聖女についてわかる資料を見せてほしいと頼んだ。

聖女一覧みたいな、聖女だけについて載っている本は無いらしい。

だから面倒だけれど貴族年鑑を見て、聖女と結婚した相手を探してそこから読み取っていくしかないという。

私に貴族年鑑を見せていいかの許可をニコラスが取りに行ってくれた。


しばらくして許可が下りたらしく、皆で館の図書室に移動した。

初めて入る部屋だ。


壁一面に並んだ貴族年鑑から、聖女が載っていそうな物をギルバートがピックアップしてくれる。

ニコラスがそれを受け取って、聖女の結婚相手のページを開いて渡してくれた。

ブレントさんは私の座る机の側に控えている。


貴族年鑑は当然家ごとの表記で、家長になれるのは男だけ。

いくら聖女が頑張って全国を巡っても、国を助けても、本に残るのは結婚相手の隣に付属物としてなのかと思うと何だかなー。


とりあえず直近三人の聖女について見てみると、召喚の三年後に大体結婚している。

没年は召喚後十年、十九年、十七年と、何と召喚されてから二十年生きた人がいない。


え、やばくない?

これはショックだ。

私が聖女として年齢行き過ぎてるって話だから、きっと過去の聖女たちは十代か遅くとも二十代で召喚されてる。

その子達が二十年生きられないって、三十代や四十代で亡くなってるじゃん。

聖女ってもしかして長生き出来ない?


考えられるのは地下でのビリビリ。

もしかしてあれって寿命削れてる?

どっと嫌な汗をかいた。

どうしよう。

心臓が変な音を立てている。


「聖女様、どうかされましたか」

ブレントさんが声をかけてくれた。

顔を見る。じっとこちらの目を覗き込んでくれる。

美しい瞳に飲まれそうになって、心臓が平穏を取り戻した。

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