パーティー
領主の屋敷に移動し、控室でエリンさん達にヘアメイクを直してもらった。
聖女の衣装も簡素なものから人前に出る用の少し豪華なものに着替えた。
王城に行くときに使ったベールも被るらしい。
ファイブと合流すると、彼らもおめかし用の騎士服で、やっぱり並ぶとアイドルグループ感が強くて最高だった。
もしかして私って、彼らのプロデューサーなのでは?
ステージ衣装とか考えさせて欲しい。
「ふわっ」
そんなことを考えていたら、ファイブの後ろから盛装のブレントさんが現れた。
実用的な騎士服しか見たことなかったから思わず変な声が出てしまった。
かっっっこいい。
白の騎士服の胸には沢山バッチみたいなものやネックレスのようなもの等の飾りが付いている。
そしてオールバック。オールバックだよ。
大好きなんだよなぁ。イケオジのオールバックはズルすぎるでしょ。
きれいに撫でつけられた前髪が自然に右に流されていて、かっっっこいい。
思わずベールを捲って見入ってしまう。
バチッと目があった。ちょっとだけ笑われる。だからずるいってそんな笑顔!
心の中で地団駄を踏んでいたらアレックスにサッとベールを直された。
はい、にやけた顔は隠しときましょうね。
「聖女様、恐れ入りますが、私ども聖女の騎士から離れないでください。ホールに入りましたら誰ともお言葉を交わさないようお願いします」
アレックスに言われた。
「挨拶とかもダメなの?失礼じゃない?」
「代わりに私どもが対応しますので大丈夫です」
「余計な言質を取られないようにってことだ」
アレックスに続いてギルバートが言った。
なるほど。
「わかった。何も言わずに、俯いとけばいいんだね」
「相手の顔を見る必要はありませんが、多少の笑顔は向けていただけるとよろしいかと思います」
ニコラスのアドバイス。了解了解。
知らないおじさん達と話さなくていいのはラッキー。
前にアレックスとニコラス、横にギルバート、後ろにパーシヴァルとリアムという万全の警戒態勢でホールに入った。ブレントさんも後についている。
さすが領主様のお屋敷、広くて床に豪華な模様がついてて、なんだかすごい。
沢山の人がいたけど、私達を避けてざぁっと道ができた。
ホスト役であろう恰幅のいいおじさんが近寄ってきた。領主かな。
「これはこれは聖女様。わが領へよくぞいらして下さいました」
目の前のアレックスとニコラスすっ飛ばしてめっちゃ話しかけられた。
おじさんが私の腰に手をやろうとするのをアレックスがさっと制しておじさんと私の間に入ってくれた。
おじさんは構わず話し続ける。
ざっくり言うと自分は貴族間でも一目置かれる重要人物であり、聖女も初めにここに来るなんてよくわかっている、みたいな話を自慢を交えながらしていた。
アレックスとニコラスは当たり障りなく相槌を打っている。大人だな。
私はこういうの面倒臭くなってしまうタイプなので、他の参加者さん達の素晴らしく豪華なドレスを見たりテーブルに乗る食べ物を見たりしていた。
「キョロキョロするな。とりあえず微笑んで、でも頷くな」
ギルバートに耳打ちされる。
めーんーどーくーさーいー。
私つまらないと顔にすぐ出ちゃうタイプ。
仕方ないから目の前の若者二人の見事なおじさん接待術を応援しながら観察していた。
その後は領主のおじさんに他の有力者のおじさんとそのパートナーを紹介され続けた。
皆様に当たり障りない笑顔を向けてお辞儀する。
たまに手を取ろうとしたり肩を触ろうとしたりして近づいてくる人は全てファイブがシャットアウトしてくれた。
それでも至近距離で沢山のおじさんにジロジロ見られるのは気持ち悪かった。
会話に時折田舎のおじさん的セクハラが入るのも嫌だった。
ベールがあってよかった。
こういう気持ち悪さは久しぶりだった。
会社の変な上司や、無駄に絡んでくる年配の男性客を思い出して大変不快。
話したら駄目と言われているので言い返すこともできないし、勝手に立ち去ることもできない。
聖女というのは不便な立場だと思った。何もできない。