申請書類
「疲れた!もう無理ー!」
あの後、紙の束を山程抱えて戻ってきたアレックスに驚き、パーシヴァルと私三人で長距離経由速達なる魔法の申請書類を書いているわけだけれど。
面倒くさすぎるー!
会社なら書類の共通部分だけ書いた状態でコピーして、地名だけ手書きして完成ってできるけど、コピー機が無い。
アレックスが書いてくれた見本を見ながら見様見真似で書いても書いても、終わらない。慣れない文字だし余計きつい。
書類の決済に時間がかかるらしいのでとりあえず今日中に中身だけ書いちゃいたいんだけど、まだ半分もできていない。
「わかった。私ギルバートとリアムと交代してくる。手紙は無理でも書類は書けるでしょ」
アレックスとパーシヴァルが同意してくれたので、早速厨房へ行こう。
付き添いを申し出られたけど、さっき行ったから場所はわかるし今は二人の手を止めたくないから断った。
「聖女様、お出かけでしょうか」
書類から開放されてルンルン気分でドアを開けると、すぐブレントさんが立っていた。
え?暇なの?って護衛か。
「厨房行って、ギルバートとリアムと交代します」
「ご案内致します」
ブレントさんの後ろを歩きながら、首を回して肩を回して、腰も回しておく。慣れない文字を頑張って書いてたからバキバキだよ。
「ふふっ」
前を歩くブレントさんが笑った。
え、見えてた?あ、ガラスに写って見えてたんですね?恥ずかし。
「書類を書いて疲れたんです」
「それはお疲れ様でした」
言葉は優しいけどまだ笑いが収まってない気配。低い笑い声も格好いい。
案外ゲラなのかな。
って!
「今ここに騎士団の方って何人いるんですか」
人手発見!お手隙の方がいたら一枚でも申請書を手伝ってほしい。
「どうされましたか」
「今日中に百枚近くの魔法の申請書類を書きたいんです。手伝ってもらえませんか」
「私どもは聖女様の護衛のためにおりますので」
さらっと断られてしまった。うーん。
「聖女からの手紙を各地の祠の祭祀に届けるための申請です。特に、聖女来訪が遅くなってしまった地域の方々の不安を、少しでも和らげられたらと考えて、聖女の騎士が今も一生懸命書いてくれています」
ブレントさんの目を見る。
この人は人の器を量る人だ。
熱量で押し通す。あと聖女パワー。
「一人か二人、書類を書くのを手伝ってほしいんです。お願いします」
目を逸らしたら負け。
「いいでしょう」
ぐっと顔を覗かれて頷かれた。
勧誘成功。よかった。
ブレントさんちょっと笑って、比較的字のきれいな二人を会議室に回すと言ってくれた。
その笑顔がまぶしい。
厨房に入ると料理担当の方々がテキパキとお菓子を作ったり器具を洗ったりしていて、端の机でギルバートとリアムがメイドさん達に混じって包装をしていた。
「お疲れ様です」
調理場のほとんどの方とメイドさんは初対面。
さっきも代表者と話しただけだし。
大きい声で言うと、皆さんちょっとびっくりして姿勢を正した。
「ごめんなさい、お仕事続けてください。包装のお手伝いに来ました」
ギルバートとリアムのいる机に行くと、ギルバートは無駄のない手つきで次々とお菓子を包み、リアムは慣れない様子でゆっくり丁寧に包装していた。
メイドさん達の手の動きはギルバートより素早い。
「ギルバートとリアムは会議室で魔法の申請書類書いて来てくれる?私まだ文字に慣れてなくて戦力にならないから交代しよ」
「申請書類?」
「長距離経由速達ですか?」
ギルバートが言うとすぐにリアムが思い当たったようだ。
「そう。百枚近い書類をアレックスとパーシヴァルで書いてる。ブレント第一騎士団長に頼んで騎士団からも二人手伝ってくれるってことになったけど」
ギルバートはちょっと嫌そうな顔をしてたけど、会議室のみんなの分のお菓子を持ってリアムと連れ立って行った。