手紙
「いつも美味しいご飯をありがとうございます。差し入れもとっても喜んでもらえると思います」
料理担当の方にそう言うと、深々と頭を下げられた。
お昼ごはんを食べた後、厨房の方と打ち合わせして、差し入れのお菓子作りをお願いした。
お茶の時間に食べているような日持ちのする一口サイズの焼菓子を作ってもらえることになった。
ひとまず在庫のある材料で作り、それだけでは足りないのでこれから買い出しに行くという。
入れ物や包装もいるしね。
デスクワーク中に食べても手が汚れないように、紙やセロハンで一つずつ包んでもらうようお願いしたのだ。
お仕事増やしてすみません。
ニコラスの手配で、包装は侍女やメイドさんにも手伝ってもらえる事になった。
数が多いから有難い。私が手伝えればいいんだけど、他にすることがあるから心苦しいけれどお任せしてしまおう。
買い出しには運搬担当としてリアムについて行ってもらうことにした。
私達の晩ごはんの用意と差し入れの焼菓子とで厨房は忙しくなるので、話は手短に終えた。
「全部の祠の祭祀に手紙を出したいんだけど可能かな」
いつもの会議室へ戻って、ニコラスに聞いた。
「早い順番だった所は後に回されて不満が出ると思うんだよね。そのお詫びと、国全体の魔物の被害を減らすためにご協力くださいみたいなフォローをしときたい」
「かしこまりました」
「んで後に回された訳ではない所には、順番を変えた理由と訪問を楽しみにしています的な」
ニコラスは頷いてくれる。
「王城からも通達は出るでしょうが、重きを置かれるのは領主と貴族ですから、聖女様から祭祀に一筆入れられるのは大変良い対応と思います」
よかった。
でも王城の祠は別として、九十九通の手紙を書かなきゃいけないわけですね。
「パターン別に雛形をニコラスが作ってくれる?んで手分けして書いてもらえるかな、私申し訳ないけどまだこちらの筆記は力になれそうにないから」
ニコラスの笑みが一瞬引き攣った。そりゃそうだよね。
「聖女名義の手紙にして私のステンシルのサインつけるし、私が全部読んで確認するから書き写す役だけ誰か他の人にも頼めないかな」
アレックスが部屋の隅にいたエリンさんにこそっと話しかけた。
「侍女から三人手伝えるそうだ」
「エリンさんありがとう!」
でもそうすると焼菓子の包装の手伝いが減っちゃう。
「俺は厨房の方に回っていいか?生憎きれいな字が書けないもんで。買い出しから戻ったらリアムも一緒にそっち手伝う」
ギルバートが申し出てくれた。有難い。
確かにギルバートもリアムも、あまり美しい字って感じではなかったから丁度いいかも。
アレックスがちょっとだけギルバートを羨ましそうに見たけど、結局手紙を書きまくる腹を括ったようだった。
「ならニコラスは先に手紙の見本作成お願い。アレックスとパーシヴァルは私と旅順表見比べて、どこにどんな内容を出すか整理しよう」
早速ニコラスは机に向かい、私達は地図を広げた。
極力手間を減らしたいから、旅の前に日帰りでこの屋敷から行く祠には手紙を省くことにした。
それでも数は多い。
「手紙って何日くらいで届くのかな?元の順番が早かったところにはすぐ送っとかないとやばいよね」
「長距離経由速達!」
アレックスがはっとして叫んだ。
「許可がいるんだっけ?」
「前回は一件だけでしたが今回は数が多いので許可申請に時間がかかってしまうかもしれません。担当部署に、申請意思があることだけでも一報入れてきますっ」
アレックスが部屋を飛び出していった。
「とりあえずどこに送るかは申請に必要だよね、送りたい順に送り先リストだけ作っちゃお」
パーシヴァルと私は旅順表を見比べながらリスト作りに専念した。