御札増産
「ありがとうございます。何と御礼を申していいか」
ブレントさんは私の書いた御札を喜んで受け取ってくれた。
そして次の瞬間、跪いて手をそっと取られ、手の甲にキス。
え?
そんなこと始めてされたからびっくりだよ。
おずおず周りを見ると、部屋にいたファイブやエリンさん達もちょっとびっくりしてた。
ってことは手にキスって、こっちでも珍しい感じ?
ドギマギしている間にブレントさんは総長さんの元へ颯爽と出かけてしまった。
え、気まずい。
ファイブ達は一応聖女の婿候補なんだし、彼らの目の前でってまずくないの?
よくわからない。
なにか意味がある行為なんだろうか。
えー聞けない!
いやでも、手にキスするのってテレビで見たことあるぞ。
イギリスのエリザベス女王に誰かがしてた。
多分高貴な挨拶か何かなんだろう。
ブレントさんに触れられた手がいつまでも変な感じで、むず痒い。
その日の夜まで、手を見る度に思い出してしまっていた。
翌日、ニコラスが私に言った。
「聖女様のアミュレットを、何枚かお作り頂けませんでしょうか」
「いいよ別に。何に使うの?」
「父から、貴族委員会の票のために三枚ほど融通を依頼されまして」
なるほど。御札をワイロに清き一票を、ってことかな。
「書くだけなら何枚でも書けるから、もっと多くても大丈夫だよ」
配って票がもらえるなら委員会全員に配ればいいじゃんと言うと、少数の持つものだからこそ価値があり、権力勾配ができるとのことだった。貴族って怖い。
でも御札がこうやって使えるなら、今後もっと必要な場面もあるかもしれない。
御札用の紙をもっとたくさん切っておいてもらおう。
ファイブに、いくつかのサイズで用紙のカットをお願いした。
こういうきちっとした作業は、パーシヴァルがうまい。
ギルバートも案外きっちり仕上げてくれる。
リアムは仕上がりがちょっと甘くて、アレックスは存外不器用な様子。
ニコラスはそつなくこなすけど、用紙やカッターの手配などの補助に回ることが多い。
私はせっせと御札を書く。
貴族へ票のために配るものは、ドロドロした駆け引きに溺れずきれいな心を保ってくださいという気持ちを込めて「明鏡止水」とした。
後は祠に納める「安全祈願」を書き溜めておく。
委員会を通れば、希望した旅順で日程が組み直されると思う。その時すぐに持っていけるように。
出発までの時間は伸びてしまうけれど、魔物の被害を少なくする為には、このタイムロスも必要なのだ。
「そういえば、祈り巡りの旅って同行者全部で何人くらいなのか知ってる?」
私とファイブ、エリンさんたち、後は騎士団の護衛も付くのかな。
結構な長旅、一緒に行ってくれる方には参加賞的な御札を渡すのもいいかもしれない。記念になるし。
「二百名から四百名程の行列で行ったという記録を見たことがあります」
ニコラスが教えてくれた。参勤交代かよ。
残念だけど、そんな数なら書けないな。
今回の旅についてのはっきりとした数字は知らないらしい。
自分が担がれての大移動だし、なるべく全容を把握したい。
「詳しく教えてもらうことはできますか」
そう言うと、アレックスとニコラスが資料閲覧の許可を取りに出ていった。
何百人なら手書きは無理だからハンコかステンシルかな。
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