2
「その格好もお似合いですよ」
部屋に迎えに来てくれたのは、ブレント第一騎士団長だった。
ねえそれ褒めてる?今日はいつものナチュラル風盛りメイクじゃないから自信ないんですけど。
「とりあえず一言も話さずに、私の後を付いて来てください」
それだけ言うと、ブレントさんは部屋を出た。
扉を開けてくれていたので急いで私も廊下に出る。
扉を閉めると、ブレントさんはぐんぐん歩いていく。
普段はファイブ達が至れり尽くせりで歩調なんて私に合わせてくれて当たり前だったから、ちょっとびっくりしてしまった。慌てて速歩きで追いかけた。
侍女は流石に走らないよね、というくらいの常識は私にもあるんですよ。
そっか、侍女やブレントさんは仕事中だからササッと歩くってこと?
毎日何となく過ごしちゃってる私とは違うよね。
いつぞや降りた階段をまた降りて、これまたいつぞや問い詰められた小さな物置部屋へ。
扉をきっちり締めて内側から鍵までかけて、ブレントさんはぐぐっとこちらに近づいた。
「上出来です。侍女の一人にしか見えません」
背が高くて身体が大きいから、屈んで耳打ちする体勢になるだけで何かもう囲い込まれてる感がすごい。
ヒー!しかも顔が近いです!
身体に今にも触れそうな距離で、何かもういけないことをしてるくらいの感覚なんですけど!
何かいいにおいがする!
大人のにおい!香水?わかんないけど静まれ心臓!
息を限界まで押し殺す。
「この後私と厩に行き、馬車で聖女様の騎士二人と落ち合います」
「はい」
「この部屋を出ましたら、貴方様を侍女として扱います。言葉遣いも変わりますのでお気を悪くされませんよう。恐れ入りますが貴方様は私と騎士に敬語をお使いください」
「はい、わかりました」
ヒェー何のサービスタイムだよぉ!
ひっくい声でそんなに話されたら駄目です!
とも言えないのでとにかく素直に良いお返事を返した。
話し終えると通常の距離を取ってくれた。
ほっとしたけど、名残惜しい気もする。
まだドキドキしていた心臓が、ニコラスとパーシヴァルに会って落ち着いた。
召喚されてから毎日会ってるもんね君たち。いつメン最高。
馬車に乗り込んだ。
前乗った、聖女用の馬車とは大分違う。この馬車も上質ではあるけど、実用性重視な感じ。
聖女用は広くて内装がすごくて外観も白を貴重にゴテゴテしてて、メリーゴーランドみたいだったもんね。
こっちの普通の黒っぽい馬車の方が落ち着くや。
これから初めて会うなんか偉い人相手にプレゼン、二件連続。
頑張れ私。団長さんの色気にやられている場合じゃない!
これは気合い入れが必要だな。
馬車の中での会話は、万一があるといけないからってブレントさんに禁止されているので声は出せない。
パーシヴァルとニコラスの目を見た。
二人も真剣な顔でこちらを見返してくれた。
私が前に手を出して二人にも出すように目で訴えると、おずおずと手を重ねてくれる。
ニコラスの指の長いキレイな手と、パーシヴァルの大きくて温かい手。声に出さずに口だけで、頑張っていきま、っしょーい!した。
実は好きなのだ、女性アイドル。
二人はよく分かっていないながらも付き合ってくれた。
こちらには騎士団と辺境伯のデータ、それを見やすくまとめた地図、そして皆で練った資料がある。
大丈夫、大丈夫。数字は嘘をつかない。
ただ、もしもそういうまともな話の通じない人だったら困るんだよなぁ。
いい人でありますようにと祈った。