順番
「わー!おいしそう!」
エリンさん達の用意してくれたお茶菓子は素晴らしかった。
小さなマドレーヌやクッキー、カットフルーツ、サンドイッチ。全部一つずつ食べたい。
ファイブ達も普段より疲れたようで、お茶会というより軽食を食べている。若い男の子は食べる量すごいね。
「いくつかやり方を考えたんだけど」
お菓子一つとフルーツ一通りを食べ終えた私は、同じく食後のお茶を飲む皆に言った。ファイブはさすがたくさん食べるし食べるの早いね。
「一個は言われた順番を守って、日程をとにかく詰めてどんどん祠を巡ることにするプラン」
順番を変えられないのなら、とにかく早く回り切ることだ。
儀式にどれくらいの体力を持っていかれるか、一度目は三時間だったけど次は何時間かかるのか、って所がネックだけど。
「今組んである日程だと二年くらいかかるんでしょ?私は移動中に馬車の中で寝かせてもらって、他のメンバーは騎士団と合わせて交代で付いてくることにして休憩取って、強行軍で何とかする案。私の体力が自信ないからあまり積極的に採用したくないけど」
みんなの表情が曇る。心配してくれてるんだね。
「二個目は、聖女が自分で決めたルートでしか祈らないって言い張るプラン」
祠で祈りの儀式ができるのは聖女だけ。だから聖女が絶対やだ!って言ったら何とかなるんじゃないかっていう。
「聖女がとにかくワガママで人の言うこと聞かない。自分の好きな順番じゃないと祈りを捧げないぞ、無理やりなら祈らないぞって脅して言うこと聞かせる」
皆困った顔して、ギルバートだけ顔に馬鹿じゃね?って書いてあるね。うーん。
「委員会の面々にとって、聖女様が意見を言うなど考えられないことだと思います」
とニコラス。まぁそうだろうね。
召喚されて以来、私の意見を必要とされたことは一度もない。
全て決められたことを用意された通りにやってるだけだもん。
聖女様って大層な呼ばれ方して偉くなったような気がしてたけど、実際私の好きにできることなんてほとんど無い。
ファイブやサイモンさんがデータ集め手伝ってくれたのも職務じゃなくて厚意だしね。
「聖女様が全国を巡ることは六十年に一度のこの国最大の行事ですから、各地の領民も楽しみにしております。聖女様の馬車を一目見ようと大勢が詰めかけますし、先々で領主様から饗しの場も設けられるかと思いますので、変更は中々難しいかと」
とサイモンさん。
えっ馬車見に来るとか、そういう感じなんだ。天皇陛下の行幸みたいじゃん。手振るやつじゃん。
「でもさ」
もう一度地図を見る。数字の書かれたメモを手に取る。
「去年一年だけでも結構な数の死者が出てる訳で。こっからまた最大二年待たせたとして、場所によっては倍以上の人数が亡くなるかもしれないよ」
皆がはっとした表情になる。
リアムは祈るような目でこちらを見ている。
「何かやり方がないか考えよう。こんだけ人数集まってるし。もしくはアイデア出なかったら頭良さそうな人に相談したい」
使えるものは何でも使え。
皆貴族令息なら何かコネがあるかもしれないし、サイモンさんの文官OBとしての知識や人脈もあるかも。
祠へ訪れる順番だけで死ぬ人が減るならやった方がいいよ絶対。
見回すと、皆も頷いてくれた。