「天宮堂(あまみやどう)書店(しょてん)の不思議(ふしぎ)な目録(もくろく)」
文学フリマ10周年の冊子に収録したものを掲載しています。
「噂……それはどんな内容なのかしら?」
古びた古書店、その奥にある座敷の畳の上で長髪の少女が口を開いた。
「ああ、何でも若い男の人が行方知れずになっているのが町内で頻発しているらしいって話。最近うちの学校ではこの噂で持ちきりさ」
丸いちゃぶ台を囲んでその左隣にもうひとりの短髪の少女が興味津々といった様子で話した。
「神隠し? それにしてはなんで男の人だけなんだろう」
長髪の少女の右脇には温和そうな短髪の少年が不思議そうにそんな事を言う。
少年の言葉に首を傾げる二人。
「そんなに人がいなくなっているなら警察は動いていたりはしないの? 椿」
椿と呼ばれた少女が唸り声を短く出すとこう言った。
「ん~聞いた話によると、勿論、警察も動いてるんだけど共通点は男の人ってところだけであとは手がかりなしなんだって、でもこの二週間で4人もいなくなっているらしい」
彼女はどこか腑に落ちなさそうな顔をしていた。
無表情でそれを眺めながらちゃぶ台の上の湯呑をすする長髪の少女。
隣の少年が口を開く。
「紗月ちゃんはこの噂どう思う? 本当に事件かな?」
紗月と呼ばれた長髪の少女は少年の問にこう答えた。
「そうね蒼司くんこれは私達が動き回る事になりそうね、あとで紀伊お祖母様に相談してみる」
蒼司は頷いて。
「だって、椿姉さん。紗月ちゃんもこの通り」
姉さんと呼ばれた椿は紗月を見て。
「そうこなくちゃな! これでこそ天宮堂書店の孫娘、天宮紗月様だな」
椿の茶々にうるさい、と一蹴する紗月。
「姉弟の割に姉はやかましいわね、蒼司君はとても大人しくて優しいのに、がさつな女は嫌いだわ」
「なんだと紗月、褒めてやったのに喧嘩売るなんてひどいな」
視線と視線で火花が散る女子二人。
「まあまあ、ふたりとも喧嘩はよしてね」
その空気を蒼司が制して二人は同時にそっぽを向いた。
「それよりも僕らのやることをやらなければね? 姉さん」
「ああ」
「そのとおりよね蒼司君、さすが私の頼れるパートナーだわ」
蒼司がニコニコ照れて、椿がムスッとした。
「我が弟ながら女の趣味がわからん、ふんっ」
「言ってなさい、負け犬」
「まあまあ」
そんなこんなで女のバトルが繰り広げられ、その日は噂を確かめることなく終わった。
だが彼らはこのとき本当に不思議な事件を目に焼き付けるとは思っていなかった。
◇◇◇
週末、噂の情報を集めるべく椿は蒼司を連れて警察官で叔父に当たる慎太郎宅に来て話を聞いていた。
「それで叔父さん、行方不明の人達はどんな人なの?」
「また今日もその話か椿? いいぞ、教えてやるよ」
最近の捜査の話を慎太郎は教えてくれた。
「近々行方不明になったのは皆、男。捜査では連続殺人犯という線も出始めているが何せ犯人の手がかりがない」
二人は叔父の話を聴く。
「でも奇っ怪な失踪事件だな、何せ遺書もなければ共通するのは独り身の奴って所だけ、犯人も見つからないし、手がかりも無いからわけわからん」
「行方不明の人は見つかってないんですか、叔父さん?」
蒼司が慎太郎に問いかける。
すると慎太郎はため息を付いてこう言う。
「それがひとり残らずまだ行方不明だな、町内全て隈なく探したけどまるで遺物すらでてこない始末で捜査チームもほぼお手上げ状態だ、なんてこった」
椿が腕を組んで首を傾げる。
「うーん……そうなんだ?」
慎太郎は頭をかきながら。
「まあそんな感じだ」
「叔父さん最近他にはなにかなかったですか? 事件とか」
「ん? そうだな……あまり関係ないかもしれないが女の人が行方不明になってる、こっちは理由がはっきりしているんだが男女関係のもつれで失踪したらしい、それくらいかな」
慎太郎の話しを聞いて椿は質問する。
「―――ちなみにその女の人はどういう経緯でいなくなったの」
「これも捜査の関係上機密情報だが教えてやろう、その女の人は失恋をしたんだ。男に手ひどく振られてな、失踪前は書き置きがあったそうだ」
「―――なんて?」
「男が、相手が許せない。何もかも滅茶苦茶にしてやる、てな」
「ふーん、失恋てそんなに辛いのかな?」
思いついたように蒼司を見た椿。
蒼司を見て思い出したように言う。
「あんたは紗月のどこがいいのかわからないけど付き合っていると色々無い?」
「特に無いよ、波風なくホント穏やかだよ、僕らは」
「あーはい、ごちそうさま」
蒼司の答えに椿はやれやれ、と言ってため息を吐く。
「おう、ごちそうさまといえば、お前ら、叔父さんが今日は宅配寿司ごちそうしてやるよ、せっかく姉弟してきたんだからな」
蒼司はニッコリして慎太郎の提案を喜ぶ。
「わーい!」
椿はガッツポーズで喜んだ。
「お、やった! ラッキー!」
二人は情報収集がてら寿司を満喫した。
◇◇◇
「椿の能力はある程度先の未来を探知すること、危機察知能力とでも言うのかしら……それに蒼司の共感能力。高度な感覚共有、ふたりとも余り使うこと機会がなさそうね」
天宮堂書店の奥で紗月が考え事をしていた。
ちゃぶ台を挟んで向かい側にしわくちゃの顔の白髪の老婆が座っていた。
「そのようじゃな紗月、あの小娘が拾って来た噂、まだはっきりした事はわからんのだろ」
「ええ、紀伊お祖母様」
紗月が紀伊お祖母様と呼ぶその人物こそ、この天宮堂書店を道楽で経営する紗月の実祖母である紀伊だった。
「お祖母様はあの噂どう思いますか? あれは単なる事件だと思いますか」
紗月は紀伊に質問する。
紀伊は静かに茶をすするとこう紗月に言う。
「それは魔性じゃよ、この街の山にある泉に人が連れこまれておる。放っておけ、お前達では殺されるのが落ちだ」
紗月は納得行かなさそうな顔をする。
「やっぱり魔性の類でしたか、でもそれで放っておっておけばどんどん被害が……」
「そうじゃな」
紀伊が紗月の言葉に頷く。
「だが、今そやつは満足している、しばらくは行方知れずは出ないじゃろう、そのうち私が始末しておく」
「……わかりました」
紗月が紀伊の話に安堵したような顔をした。
会話の直後店の入口の鈴がなる。
「邪魔するぞー紗月」
「こんにちわー。あ、今日は紗月ちゃんのおばあさんもいらっしゃるんですか?」
二人が入ってきて一気に店内が騒がしくなる。
「やかましいのが来たな」
「その様ですね、お祖母様」
中の二人は厄介そうに入口付近を見る。
「お、幽霊婆さんじゃないの~久しぶり」
椿が開口一番、古本の棚の間を抜けて奥に入るなり紀伊に絡む。
「お前はいつでもやかましい奴よのぉ椿」
「元気なのが取り柄なのさ」
「はぁ……」
「やれやれですね、お祖母様」
一気に騒音度合いが増えて元いた二人は渋い顔をする。
「ところで紗月、婆さん、何か進展ある? こっちは叔父さんから色々こっそり教えてもらって来たけど」
椿の質問に紀伊が答える。
「お前たちの知りたいことなら私が知っているぞ、警察の情報なんぞ必要ないわ、この騒ぎの正体は魔性の手のものじゃ」
「なんでそんな事がわかるんだよ」
椿が疑問を口にすると紗月が彼女の疑問に答えた。
「それは私が説明するわ、椿。お祖母様はこの街に陣を敷いているの、この陣の中なら千里眼で街を見渡す位のことはできるわ」
「すごいですねー」
蒼司が目を見張る。
「そんでその千里眼で何が見えたんだよ、婆さん」
「霊じゃ……泉に居る」
「霊……?」
椿が何か歯に何か挟まったときのような顔をして紀伊の答えを聞く。
「それはどんな霊なんですかお婆さん」
蒼司が恐る恐るといった様子で尋ねた。
「女の霊じゃよ……性根のねじ曲がった地縛霊じゃ、この最近見つかってない女が居るはずじゃろう? そいつじゃ」
椿は急に動きが固まって驚いた様子だった。
「女の人ってまさか……叔父さんが言ってた事件で出た行方不明者は……!」
「だよね?、姉さん」
椿と蒼司が顔を見合わせる。
「どういう事、椿?」
紗月が椿を問い詰める。
「叔父さんが言ってたんだ、男女関係のもつれで失踪してる女の人が居るって」
椿の言葉を聞いて紗月腕を組んで片手を顎にあてて考え込んだ。
「その話の様だといなくなったその女が騒ぎを起こしているのじゃないかの? 直近そやつは何もしないはずじゃが……始末は私がやろう、お前たちは手出しするな」
紀伊が見開いて三人に向けて言い放つ。
「はい、お祖母様」
「ええっと……はい」
紗月と蒼司が了承したが椿は納得していなさそうだった。
「なんでだ婆さん、あたしらじゃ駄目なのか? いつもみたいに道具があればあたしらでも―――」
紀伊は首を横に振り否定する。
「ならんの、今回のはお前たちではとり殺されるだけだからの」
「ぐっ……でもさぁ、こんな悠長に構えていていいのか? このままじゃまた次の被害が出るんじゃ」
「それは心配に及ばん、そやつは何人か取り殺して一時の満足を得ている。今は手出ししないじゃろ」
紀伊は説明した。
「そうか……じゃあ、婆さんの言うことで外れた試しはないから信じるほかない、今日のところは帰るよあたしら」
椿が紀伊の説明に渋々納得して言う。
「そうだね、姉さん僕らは帰ろう」
蒼司も頷きながらこう話す。
「じゃあ帰ろう蒼司、じゃあな婆さん、紗月」
「うん、姉さん、さよならお二人とも、お邪魔しました」
二人は挨拶をして、店を後にする。
「そうか、まあ、さっさと帰れ」
「またね蒼司君、椿」
残りの天宮家二人は去る客人達を見送った。
◇◇◇
その晩の事。
自宅で眠りについていた蒼司は自分の部屋で妙な夢を見る。
女の人が泣いているのだ。それは、それは真っ暗な場所で。
蒼司はぼんやりとした意識の中その女の人に向かって歩いていった。
しかし、どんなに歩いてもその女の人のもとには近づけない。それどころか夢の中にしては妙に感覚が鮮明で、まるで白昼夢のようだった。
「どうして泣いているんですか……」
答えは返って来ない。
「どうして泣いているんですか? 悲しいことでもあったんですか?」
蒼司は何度も言葉を投げかける。
するとその女の人は、
「―――許せない」
喉から絞り出すような声でそう言った。
◇◇◇
一方で椿の方は能力の発現で妙な映像を垣間見て布団から飛び起きた。
「――蒼司っ!」
映像は蒼司が真っ暗な森でフラフラと彷徨う様に歩いている様子だった。
「何……? 何だよ今の……」
椿は慌てて蒼司の部屋に向かうとすぐに異常に気づいた。
寝床に蒼司の姿がない。
椿は慌ててジャージに着替えて、家を飛び出した。
目指すのは自宅から自転車で10分くらいの天宮堂書堂。
全速力で走っていると時折警察のパトロールが巡回していたが、それはうまくやり過ごして進む。
目的地につくと店舗のシャッターは空いていて真夜中だというのに明かりがついていた。
椿は自転車を乗り捨てて店内に駆け込む。
すると古書を片手に紀伊が店のレジに座っていた。
横には今までにない険しい表情の紗月もいた。
「婆さん!!」
「――わかっておる、落ち着け小娘」
「蒼司君が連れてかれたのね? お祖母様から聞いたわ」
店内に重い空気が流れる。
「未来視が発現したんだ、蒼司は森の中だ!」
「知っておるわ……奴め、蒼司の能力と共鳴して蒼司を取り込もうとしている……これは私も予想の外だった」
「そんなっ!」
泣きそうな顔で悲嘆にくれる椿。
「そんな顔しないで欲しいわ椿、これからお祖母様が対策を取るんだから、心配いらないわ……心配なのは私だってそうよ……」
紗月が唇をギュッと噛んで言う。
紀伊は古書をカウンターに置くと懐から何かを二人に手渡した。
「今からお前たちにこれを渡す。今この店を開けるとやつがこの街に何を仕掛けるかわからん、対処するために私はここに残る。お前たちだけで奴を鎮めるのじゃ」
「……ああ」
「―――ええ、お祖母様」
二人の表情はまさに決死の様子だった。
「婆さん、今回の道具は一体どういうやつなんだ?」
椿が紀伊に尋ねる。
「お前に渡したのは守りの石、災から逃れるお守りじゃ、そして紗月、お前のは邪悪を鎮める浄霊の石じゃ、湖の魔性に投げつけるんじゃ」
「よし、わかった! 行くぞ紗月!」
「ええ!」
二人はその後、紀伊が場所を示し、蒼司と泉の霊がいるところに向かう。
場所は街の外れの山の中、森の湖へと向かった。
「待ってて蒼司君、私が必ず無事に貴方を連れ戻す」
「蒼司、無事でいてくれ」
少女たちは思い思いの祈りを口にした。
◇◇◇
暗闇の中二人は懐中電灯の明かりを頼りに森へと進む。
途中で木々に白い布が張り付いているのが見えて紗月が足を止めた。
「これは、もしかしたら被害にあった人の遺留品かもしれないわ。ちょっと私に時間を頂戴、泉の正確な位置がわかるかもしれない」
「なんだよ、婆さんは正確に知らせてくれたわけじゃないの?」
「お祖母様の千里眼もあの霊の力である程度阻害されてるらしいわ、あとは自力で探すしかない」
紗月が悔しげに言う。
白い布をよくライトで照らして見るとぼろぼろになったシャツで紗月はそれにゆっくり触れると念じるようにじっと目を閉じた。
紗月の能力は一般的にはサイコメトリーと呼ばれる者からの思念や情報を読み取る透視能力。
紗月の脳裏に幾多の映像が浮かぶ。
「この服の持ち主……この先の奥地でもう亡くなっている……眠ったままここにつれてこられてそのまま泉に溺れ死んだんだわ」
「――ってことは蒼司も」
紗月と椿が青ざめる。
「ええ、泉の場所もこれで特定できたし、急ぎましょ……手遅れになる前に蒼司君を助けなきゃ!」
紗月が駆け出した。
暗闇を走ること数分、二人は異様な景色に出くわす。
「蒼司!」
「蒼司君!」
虚ろな表情の蒼司の後ろ、泉の上に幾多の水死体と思しき物体が浮かんでいた、ひどい腐臭もする。
泉の周りにはそこら中に遺留品が転がっていた。
「そこから動かないで蒼司君! 今そっちに行くから!」
紗月が声を張り上げる。
「どうやらそうは行かないみたいだ」
椿が忌々しそうに蒼司の頭上を睨んで言った。
「ぅああああぁぁ」
そこには長い髪を垂らして憎悪に満ちた顔の女の亡霊が浮かんでいた。
まるでホラー映画に出てくる絵に書いたような姿だったが、そのチープな絵面が鮮明に浮 かんでいるのはこの世ならざる、正に常識を逸脱した光景と言えた。
同時に恐怖と不気味さで二人は足がすくんだ。
「あれが……」
「泉の霊……」
空気はピンと張り詰め二人は亡霊の様子を窺う。
二人共、蒼司のもとにたどり着きたいのは最もであるのだが霊の圧、むき出しの血走った目がそれを阻んでいた。
「――どうする、紗月」
「仕方ないわ、これをここから投げる」
そういうと紗月は懐から紀伊から渡された浄霊の石を取り出す。
「はぁっ!」
そして思い切り亡霊めがけて投げつける。
「くっ、どうかしら! お祖母様の破魔の石は!」
まるで昼間の太陽が出たような光に目を覆う二人。
だがしかし、それは焼け石に水を垂らす程度の効果しかないことを二人はすぐ知る。
「あああああああああっ!」
亡霊が今度はおぞましい叫びを上げて蒼司を湖に引きずり落とした。
「くっ、蒼司っ!」
たまらず椿は恐怖を押して駆け出す。
紗月は守りの石を持たされていないため、亡霊の怨念に当てられて気を失った。
◇◇◇
蒼司は湖に引きずり込まれ、ぼうっとした意識で何かと対話する。
「どうしてこんなことをするんですか」
「……私は無念があるの、それをみんなに知ってほしいだけ」
もう一つの声の主が答える。
「でも誰にもそれは気付いて貰えていない」
蒼司は悲しそうに投げかける。
「だから貴方に来てもらった……私の悲恋、無念、苦しさを」
もう一つの声が言う。
「僕にはどうすることもできない、助けることはできない。でもこれだけは言える。貴方はもう人には許されないかもしれないけど、貴方も苦しかった、だからやめましょう、もうこんなこと……貴方と同じ思いの人を増やしてはいけない」
蒼司は温かい空気でその意識を包み込む。
蒼司の共感能力は如何なるものにも適用できる。
そこで感じ取ったのであろう。
この声の主の苦しみを。
「でももう私は許されない……たくさん殺した、たくさん男の人を巻き込んだ! あの人にただ一度振り向いて欲しかっただけなのに、気づいたらこんな事になってて――」
蒼司に反論する声。
「じゃあ僕が許します、あなたの苦しみを知った僕が、どうか来世で罪を償ってください」
「あああああああああああああ!」
蒼司とその声の対話はそこで終わった。
声の主は泣き叫ぶように、悔いるように泣き叫ぶとどこか遠くへと消えていった。
それはこの世への後悔を知ってもらえた声の主の悲痛な訴えでもあった。
◇◇◇
それから一週間、天宮堂書店の奥の座敷で紀伊、紗月、蒼司椿が談笑していた。
「全く、今回の道具は使い物にならないのだったぞ婆さん、危うく蒼司が溺れ死ぬ所だった」
「すまんの、どうにも今回はちと厄介過ぎたからの」
「すまんで済んだらケーサツいらない! ったく蒼司もなんとか言って」
椿が紀伊に文句を言う。
「まあ浄霊もできて無事みんなここに入れるんだからいいんじゃないかな姉さん?」
蒼司はマイペースに言う。
紗月が顔を曇らせて蒼司に言う。
「でも蒼司君、貴方……本当に危なかったのよ、湖で溺れて意識がしばらくなくて、すぐに上がって来たのはいいいけど目を開けてなくて……心配したんだから」
蒼司が紗月に謝る。
「ごめん紗月ちゃん……紗月ちゃんが一番心配してくれてたのに、ほんとごめんね」
紗月は首を横に振った。
「無事に帰ってくれて私は安心だわ、それが何より一番よ」
見つめ合う二人。
「ヒュー妬けるねお二人さん」
「もう、姉さんたら」
「茶化すな椿」
おどけた椿に顔を赤らめる二人。
「それにしても一体どうやってあの霊を退治したの? 浄霊の石もなしに?」
紗月が蒼司に問いかけると、蒼司はキョトンとした顔をして言う。
「僕は何もしてないよ、ただあの女の人の霊に言っただけさ、こんなことは意味がないから止めててって」
「……そう」
紗月が考え込むようにして頷く。
「よくわからないな、まあ無事に一件落着だし、あとは叔父さんたちに任せよう」
「そうだね、姉さん」
蒼司がニッコリとして言う。
店のカウンターでは一方で紀伊が古い何も書かれてない古書を片手に眺めていた。
しばらく見ていると何もないページに文字が浮かび上がり出す。
そこにはこう書かれていた。
「不思議目録○月○日追記、蒼司の能力により霊は説得され成仏する。ほか二人の時間を稼いでいる間がなかったらその前に飲み込まれていたであろう」
紀伊は、なるほど。と言ってそれを閉じた。
「あ、婆さん何だそれ、また良くわからない変な本とかじゃないよな」
椿が遠巻きに興味本位で聞く。
「あれは不思議目録よ、この天宮堂書店の記録冊子。お祖母様が作ったもの、この前の事の他にもまだまだいろいろな怪異の記録が残っているわ」
紗月がそれに答えて。
「へー紗月ちゃんさすがここの娘だね詳しい」
蒼司は感心したように言った。
紗月は少しばかり得意げそうだったが顔には出ていなかった。
画して、連続失踪事件は犯人不明のままの怪事件として迷宮入り。
だが、それから被害者もなく、被害者達を発見したのは三人の功績ということになった。
椿、蒼司、紗月の三人は地元新聞紙の取材に逢い、偶然の遺体発見という功績と噂に尾ひれがついて少しばかり有名人となる。
巷ではお手柄高校生トリオとも。
でも一般の人達は知らない。
彼らがこの世界からずれた異能を使い、怪異に立ち向かっていたことを。
それは天宮堂書店に関わる四人とその記録を記した不思議目録にしか記録されない事実だった。
天宮堂書店の不思議目録「了」
会話が割とスムーズにかけたのでこのキャラたちは書いていて楽しかったです。