ドラゴンとの戦い
俺は今、ドラゴンと戦っている。このドラゴンは防御に特化した『岩龍』という種類だ。だからと言って、攻撃力が低いわけじゃない。魔王ガルドの半分くらいの攻撃力はある。それに、防御力がやばい。どんなに攻撃してもダメージを受けていないように見受けられる。
倒せない。防御力が高いから、なかなかヒットポイントが削れない。
俺とサラの二人で戦っているのだが、元々この依頼はロックドラゴンの討伐ではなかった。チクショウ! 国王め!
元々の依頼内容は、ロックドラゴンの住処の先にいる上級の魔物の討伐だ。
それがなんでドラゴン討伐に変わったかと言うと、まずは数日程度前に話しは遡ることになる。
数日程度前、オルタファイズ帝国の俺の家。
この日はサラが正式に仲間になった翌日、つまりオルタファイズ帝国で硬貨が廃止されて紙幣制度が導入された当日だ。
サラと、家の庭で練習試合をしていた。
「タツヤ! 私の防御を簡単に破れないようでは、邪神龍を倒すなんて夢のまた夢だぞ!」
「サラの防御が固いんだよ!」
「そうかな? そんなに固くはないけどっ!」
サラの防御に使っていた結界はなかなかのもので、本人は言っていないが上級の防御結界に該当していると思う。魔王は防御に特化していないから、攻撃さえ防げれば難なく倒せる(ってほどでもないが)。けど防御に特化したサラを倒すのは難しい。ダメージがまったく通らない。強敵と言っても過言じゃない。
「ここいらで休憩しないか?」
「私は疲れてないけど、タツヤが言うならそうしよう」
汗を拭って床で大の字になっていると、スナイダーさんがお茶を持ってきてくれた。
「タツヤ君、サラ君。練習試合も良いけど、それだと体調を崩すよ。たまにはゆっくり休養するのも悪くない」
「ありがとうございます、スナイダーさん」
「タツヤ君には教えることはなくなったし、敬語じゃなくても良いんだよ?」
「いえ、スナイダーさんは師匠なので」
それを見たサラは、お茶すすってから口を開いた。「師匠?」
「あれ、言ってなかった? スナイダーさんは俺が召喚されてからの一年間、俺を育ててくれた師匠なんだ」
「そうなのか。強いの、スナイダーさん?」
「ハハハ。タツヤ君と互角に戦えているサラ君には、負けるなぁ」
という会話を交わした。すると節操なく国王から、また呼び出しがあった。ため息をもらしてから、サラとともに王城に向かう。
「勇者タツヤと、その従者サラ。また依頼したいことがある」
「何ですか?」
「自動破壊装置・ゴーレム族の族長であるゴーレムキングが新たに生まれた」
「自動破壊装置?」
「そう、ゴーレム。古の文明が魔物を倒すために作り出した自動破壊装置のゴーレム。しかし、ある魔術師によってゴーレムに魂が与えられた。自律思考を可能とするゴーレムはやがて魔物と化した。そのゴーレム族には、百年に一度の確率でゴーレムの族長が出現する。それにより、統制の取れたゴーレム族になる。それが脅威だ。
ゴーレム族の族長ゴーレムキングが生まれたんだが、これはまずい。ゴーレムキングが力を付ける前に、ゴーレムキング討伐を依頼したい」
自動破壊装置・ゴーレム。強いかどうかわからんが、腕試しに倒してみるのも良いか。
「わかりました。その依頼、受けましょう」
「そう言うと思ったぞ。......ただ、少々厄介なんだ」
「何がですか?」
「ゴーレム族の住処に行くには、ある場所を横切らねばならない」
「ある場所?」
「イーガ山脈のロックドラゴンだ」
「ロックドラゴン?」
「岩のように防御力は高いから、こいつを倒してからゴーレムキングを倒すのは至難」
無理難題振って来やがったな。
「ならどうするんですか!?」
「まあ、安心しろ。ロックドラゴンはその防御力の高さ故に、魔力消費量が半端なく多い。だから、ドラゴン族の他のドラゴンとは違い、ロックドラゴンだけはある特定の時間に一時間だけ睡眠に入る」
「特定の時間?」
「特定の時間、つまりロックドラゴンが眠る時間は個体によって十人十色。イーガ山脈のロックドラゴンなら、午後六時から午後七時の一時間、眠りに就く。これは毎日であり、死ぬまで狂うことがない。逆にこれが狂ったら、多分世界の法則が根底から崩れ去るだろう」
「ということは、ロックドラゴンは必ず午後六時から一時間寝る、と言うことですか」
「だから、その間にゴーレムキングを討伐してから野宿。次の日の午後六時にまたロックドラゴンの横を通って、ここに戻ってくれば良いんだ」
案外楽そうな依頼だ。族長と言っても弱そうだし、サクッと片付くな。
この依頼を受けたのが間違いだった。チクショウ!
軽い気持ちで依頼を受けた俺は、サラと一緒に野宿するための準備をしていた。勝つことを前提としていた。それもそうだ。ゴーレムキングなど、俺達なら瞬殺だ。が、まさかロックドラゴンを相手に戦うとは考えていなかった。
こうして、地獄の入り口に立つことになった俺達は、その先が地獄ともつゆ知らず進んでいってしまった。