オルタファイズ帝国の悪人
家の二階でぐっすり寝ていると、階下が騒がしいことに気付いて目が覚めた。日時計によると、今は朝の七時。寝過ぎたか。
頬を叩いてから、一階へ下りた。
「どうしたんですか、スナイダーさん?」
「タツヤ君! これからタツヤ君のお供をする冒険者がやって来たんだ」
「お供? 俺には必要はないと思いますが......」
すると、お供の冒険者と思われる奴が家に入ってきた。「魔王ガルドを倒したからって、調子に乗るなよ」
こう見えて、こいつは女だ。それもかなり美形な方だろう。口は悪いが、まあ見た目で±ゼロか。
「君が俺のお供の?」
「サラ・スミスだ! 冒険者ギルド所属の冒険者ランクA、LV115、防御魔法師。防御魔法に特化はしているが、攻撃の方もそこらの冒険者よりはマシと言ったところか」
冒険者ランクは最高がA。つまり、冒険者ギルドが誇る最強の冒険者の内に入る奴か。LV115なら、頼りにもなる。防御魔法に特化しているなら、俺とバランスの取れたコンビになるし、即採用だ。
「腕利き......これからよろしくお願いします」
「チッ! ギルドマスター直々のお願いだったから受けただけで、何で勇者と一緒に悪人狩りをしなきゃいけないんだ」
「えっと、スミスさん? どんな防御魔法を使えるんですか?」
「結界魔法なら大抵は使える。それに、上級の結界魔法もお手の物だぜ?」
「防音結界魔法はどうですか?」
「そもそも防音結界魔法は存在しないぞ?」
「それはそうですよね......」
何かわかるかと思ったが、駄目か。
「それより、悪人狩りに行くなら早く行こうぜ。こっちはストレス溜まってんだ。悪人潰すぞ」
口調は最低だが、腕は確かそうだ。ちょっと不安要素はあるが、大丈夫ではあると思う。
「攻撃なら俺の方が向いてるけど?」
「英雄様はピンチの時以外は攻撃すんな」
「わかりました」
こうして唐突に家を出ると、町を抜けていった。
「こんな町外れに悪人がいるんですか?」
「あ? 町中に悪人がいると思ってんのか? ここら辺は金粉の匂いがすんだろーが」
「そ、そうですかね?」
「ほら、あの工場が臭い」
どっちの臭いだ? 金粉の臭いか? ん?
「それじゃあ、突っ込もう」
「もうですか!?」
スミスは転移結界魔法を展開した。
転移結界の中では、転移結界を展開した術者だけ超速転移をすることが出来る。しかし、転移結界の欠点は二つある。展開出来る範囲が狭いのと、魔力を大幅に使用しなくては展開出来ないことだ。
と、転移結界の説明をしていたらスミスはすでに転移していた。工場の中に駆け込むと、スミスは中にいた奴らを倒し終わっていた。
「な? 攻撃も得意なんだ」
「転移結界と併用で攻撃。冒険者ランクAは、伊達じゃないですね」
「まあな。他の奴らは転移結界を極めても、攻撃は弱いから戦闘での使用は向いていない。が、私に限っては使用出来るんだ」
一人称は『私』なのか。意外。
「確かに、攻撃をするのに転移結界は使えますね」
現在のところ、この異世界で転移と言えば転移結界しかない。転移結界を使わないと、転移をすることは不可能らしい。魔法も不便だ。長距離を転移したいが、無理なのである。
「おい、勇者。ここに金粉があるぜ」
「見せてください」
スミスから布袋を受け取って、中を覗く。金粉がたっぷりと詰まっていた。
「この人達が金貨を削ったのでしょうか?」
「いや、ステータス解析によると、こいつらのLVじゃ高位魔法ドリルは使えない。多分、金貨を削った組織から買い取ったってところだろう」
ステータス解析、とは魔法だ。相手のステータスを解析して盗み見ることが可能。かなり上級の魔法だが、使えるとは。
「一応、拘束して国王の元に連れて行きましょう」
「悪人を拘束したら、普通は冒険者ギルドに連れて行くんだよ」
「そうなんですね。では、ギルドへ」
俺は全員を仰向けにさせて、拘束魔法を掛けた。これで身動きは出来まい。
「大人数ですし、どうやって連れて行きましょうか」
「こんなの、下級収納魔法で良いだろ」
「下級収納魔法は、空気が存在しないんじゃないですか?」
「こんな悪人に空気はもったいないだろ」
怖っ! 空気は必要だよ!
中級収納魔法なら、狭いけど空気はあるよな? だけど、収納系の魔法は習ってない。
「スミスさんは中級収納魔法、使えますか?」
「魔力は無駄になるが、使える」
「なら、中級収納魔法内にこの人達を詰め込みましょうか」
「ああ、わぁったよ」
スミスが開いた中級収納魔法の口に、悪人数人を押し込んでいった。最後の一人の手が中級収納魔法の口から出てしまい、なかなか奥に詰め込めずに苦労した。
やっとの思いで全員を詰め込むと、冒険者ギルドに向かう。
召喚されて一年ずっと、修行のために外へは出てこなかったから冒険者ギルドは初だ。外観はいかにもギルド。キレイだから、毎日掃除係が丁寧に磨いているんだな。
玄関口から中に入り、内観を見回す。内観もキレイだし、ゲームでお馴染みの受付嬢! 気分が上がる。
「あそこにいる受付嬢に悪人を引き渡す」
スミスは受付嬢の元へ行き、中級収納魔法の口を開いて悪人を出した。受付嬢は困っていたが、他のギルドの職員とともに、せっせと悪人を奥へ運んでいった。なんか、人身売買の様子みたいで悪寒がする。