英雄と化す
さて。ここで他の勇者達、特に龍聖勇者が魔王ガルドを倒せなかったのかを説明する。
俺は魔法詠唱は、英語でしなければならないと言った。ここで諸君に質問する。君達が覚えている英語は、本当に英語なのだろうか?
例えば、アイスクリームとかソフトクリームと呼ぶものがある。実はこれは和製英語だ。和製英語ってのは、海外じゃ通じない英語で、日本が勝手に作った英語のことだ。ソフトクリームは英語だと『soft serve ice cream』と呼ばれている。つまり、ソフトクリームまたはアイスクリームは英語ではないのだ。
攻撃にスピードを上乗せするために行う魔法の詠唱は『accelerator』。アクセラレーターを和製英語で言うならば、『axel』だ。そう、龍聖勇者達はスピードを上乗せするために魔法を掛けたが、詠唱を『アクセラレーター』ではなく『アクセル』と言ってしまったのだ。龍聖勇者達は和製英語を英語と認識していた。
対して俺は、正しく『アクセラレーター』と言った。
オルタファイズ帝国が魔王ガルドを脅威だと思い込んだのは、召喚した勇者を全員魔王ガルドの元へ送り込んだからだ。もし召喚した勇者を最初に魔王ガルドの元に送り込まず、他の敵の元に送り込んでいたら、オルタファイズ帝国は和製英語の存在に気づけたかもしれない。
でも、オルタファイズ帝国のミスは仕方ない。なぜなら、日本に和製英語があることを気づくことは難しいからだ。これはオルタファイズの失敗ではなく、勇者自身の失敗だ。ちゃんと英語を勉強しておけ。
「ふあぁ」
あくびをしてから、魔王ガルドが座っていた椅子に近づく。あの椅子には、いわく魔王討伐の証があるはずだ。その証を持って帰らないと魔王ガルド討伐の証明は出来ない。
それより、俺は和製英語の存在をオルタファイズ帝国に言うことはない。言ってしまったら、史上最恐の魔王を倒した勇者、ということにはならないからだ。史上最恐の魔王を倒した勇者ということにしておけば、俺は最強の勇者となる。諸君も、このことを外部には漏らさないでほしい。
俺は、魔王ガルド討伐、と記されたカードを懐にしまってから帰路についた。
魔王ガルド討伐の証を持ち、オルタファイズ帝国の首都に戻っていた。スナイダーさんは泣いて喜んでいた。
「タツヤ君!」
「スナイダーさん!」
「よく魔王ガルドを倒したね! 龍聖勇者でも倒せなかったのに」
「弱かったですよ。余裕でした」
「すぐに国王に伝えましょう! タツヤ君はオルタファイズ帝国の英雄だ」
スナイダーさんに連れられて、オルタファイズ帝国の国王の元に行った。
オルタファイズ帝国第二十七代国王カルロ・オルタファイズ。召喚者を除けば、オルタファイズ帝国一の戦闘力の保有者らしい。
「汝、タツヤ・ミウラよ。貴殿の功績を褒め称える。『オルタファイズ帝国の英雄』の称号を与える」
「ありがたき、幸せ」
「英雄・タツヤにはオルタファイズ帝国の永住権も与え、オルタファイズ帝国からのモンスター討伐依頼を受けて頂きたい。後者については、強制ではない」
「後者、お受けします。オルタファイズ帝国直属の勇者にしていただきましょう」
「よかろう。史上最恐の魔王・ガルドが倒された報は、諸国に流す。貴殿はどのような家に住みたい?」
「どこでも構いませんが、強いて言うなればオルタファイズ帝国の首都にしてほしいです」
「首都だな? 了承した。付き人としてスナイダー、そして数人の使用人を付ける。明日には、もしかすると貴殿にまた魔王討伐を依頼する。覚悟しておけ」
「はい。襲撃にも対応出来るでしょう」
「ハハハ。では、スナイダー。英雄の付き人、全うしろ」
「ハハァ! お任せくだされ」
よし! これでオルタファイズ帝国の英雄となった! これから、俺の理想とする異世界ライフを送る。
スナイダーに案内され、オルタファイズ帝国首都の立派な家に住むことになった。かなり広い。異世界ライフ、素晴らしい。
「英雄だ! 英雄様がいるぞ!」
民間人が俺の姿を見て騒ぎ立てる。それにつられて、周囲も英雄だと騒ぐ。
「龍聖勇者ですら倒せなかった魔王ガルドを討伐してくださった、オルタファイズ帝国の英雄だ!」
「あの魔王ガルドを!? 数百年倒されていなかった史上最恐の!?」
「英雄様は、史上最強の勇者だ!」
「これからもオルタファイズ帝国をお守りになってくださるぞ!」
「我らオルタファイズ帝国人は安泰だ!」
少し大げさだが、悪い気はしない。英雄、良い響きだ。魔王を一掃すれば、もっと知られた存在となる。まずはこの異世界で、地位を確立しなくてはいけない。魔王ガルド討伐で、地盤は固まった。あとは、魔王ガルド討伐以上の偉業を成し遂げる。
邪神龍討伐だろう。邪神龍はドラゴン族の頂点に立つ神龍が、邪神化した状態だ。ここ数千年は姿を現してはいないが、現れたらすぐに討伐をしよう。世界の勇者となれるぞ。
俺三浦竜哉の戦いはまだまだ続く。終わるわけがない。この異世界で俺が頂点に位置するまで、この物語は終わることを知らないのだ。