帰還
家に戻り、中級収納魔法の口を開けてサラを出した。
「サラ! 家に到着したぞ」
「すまん。助かった」
「着替えてから国王に会いに行くからな」
「わかっている」
俺達はまず久々の風呂に浸かり、着替える。それから王城に向かい、国王の前で平伏した。
「勇者タツヤよ! 報告をせよ」
「はっ!」俺は顔を上げた。「道中でロックドラゴンと遭遇。起きていたのは予想外でしたが、ロックドラゴンの討伐しました。それからゴーレムキングを含めたゴーレムの群れの殲滅完了です」
「イーガ山脈のロックドラゴンが起きていたということは、きっちり午後六時から午後七時の間に通らなかったのか?」
「いえ、午後六時の鐘が鳴ってからイーガ山脈に入りました」
「ではなぜだ?」
「この世界では正確な時計が一国に一つしかなく、それを基準に鐘を鳴らします。しかし、鐘の音というのもかなり遠くまでは届きません。ですから、いろいろな位置に鐘を設置して、王城の鐘が鳴る音が聞こえてから鐘を叩く、というようなリレーが行われています」
「それがどうした?」
やはりか。この世界では、音に早さがある、という概念がないようだ。鐘のリレーをしたら、王城から離れた場所になるほど時間が遅れていく。イーガ山脈は王城からかなりの距離があるから、あの時はおそらく午後七時を過ぎてしまっていたのだろう。これを改善する必要がある。
江戸時代には、これと同じことが起きていた。この国は江戸時代に似ている部分があると言ったが、これも似ている部分の一つに含まれる。
そのことを国王に説明し、驚いた国王はオロオロした。「どうすれば改善出来るんだ?」
「私が正確な時計を何個かお作りして、各場所に設置しましょう」
「時計を作れるのか!?」
「ええ」
日時計、火時計、水時計などの作り方は習った。試行錯誤すれば二十一世紀に見る時計も作れるかもしれない。やる価値はあるだろう。
「よし、では早速時計作りをお願いする!」
「わかりました。では、この国の職人を集めてください。一緒に開発していきます」
「直ちにしよう」
それから数ヶ月、時計作りを始めた。俺の思い描く日時計と火時計は出来た。水時計は難しかったが、それでも何とか完成はした。俺はホッと胸を撫で下ろした。
それら時計は各鐘がある場所に設置され、鐘は正確な時間を示すものへとなっていった。それをどこから聞きつけたのか、各国は『防音結界魔法』の時と同様に作り方を公開しろ、と言ってきた。これにはさすがにムッとした。『防音結界魔法』は俺のアイディアじゃないから怒らなかったが、時計に関しては俺のアイディアだ。それなのに作り方を公開しろとか......偉そうに言いやがって。そもそも、一つの新しい魔法を作るのもかなり難しかったんだぞ。魔法陣だって俺が工夫したんだ。そう考えたら、段々と腹が立ってきた。
国王にどうすれば良いのか意見を求められたから、時計の作り方は公開するなと答えた。
「公開しない理由を他国の国王から尋ねられたらどうする?」
「だとしたら、時計の作り方の著作権は私にあると言ってください」
「それでも引き下がらなかったら?」
「そういう場合は、『防音結界魔法』も私が創ったものだと言ってください。そして、『防音結界魔法』の時は他国のためだとして特例で公開しましたが二度目があると思いますか、とでも言えばいいでしょう」
「なるほど。そうしよう」
国王は俺に言われた通りに他国の国王に言って、魔王ガルドを倒した勇者が一枚噛んでいるなら仕方ないと諦めた。諦めない国もあり、俺は国王とともに二国会議に参加した。
俺は椅子から立ちあがって説明する。「これらは私の作ったものです。国王であろうとも、作り方を公開するかしないかは私に権利があります。『防音結界魔法』も私が魔法陣と詠唱を工夫したもので、この時は仕方なく公開しました。もし時計の作り方すらも公開すれば、万人の権利がなくなるということになります。これはおかしいと思うのです。時計が欲しければ、我が国から時計を買い取ってください!」
それを了解し、その国は時計を数個ほど買い取った。おそらく、買い取った時計を解体して作り方を盗み見ようとしているんだろう。だが、それの対策はしてある。国王と許可を取って、その国に売った時計の心臓部に物理攻撃も魔法攻撃も無効化する結界魔法を付けた。コアを核にしていて、永久持続型結界魔法となっている。バカめ、時計を解体することは出来ないぞ。
これでその国は定期的に我が国から時計を輸入しなくてはいけなくなった。
俺はスカッとして家に戻った。家にはサラとスナイダーさんがいて、美味しい料理がそろっていた。
「スナイダーさん、お腹空きました!」
「料理はそろっているよ。さあ、食べようか」
異世界に来てからわからないこともたくさんある。今でもわからないことが多いが、これからもたくましく生き抜こう!
が、まずは飯だ。腹が減っては戦は出来ぬ。邪神龍を倒すにはもっと時間が掛かりそうだな......。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。完結しました。
続きは気が向いたら書きます。