ロックドラゴンの弱点
ロックドラゴンの頭上で一時停止していた俺は、脳天を貫くための魔法を構築した。ポーズは、某有名漫画の『元気玉』みたいなものだ。両手を拡げて万歳をしているイメージ、と考えてくれ。
魔法は、電気系統で一番威力のある『雷槍雨』。槍のような雷の雨が降らせるわけだが、雷槍雨程度の威力ならサラは結界で防御出来る。この辺り一帯に雷槍雨を発動させよう。
ロックドラゴンは叫び狂った。
俺の発動した雷槍雨が、ロックドラゴンに炸裂したからだ。ダメージを与えることは出来たが、致命傷ではない。電気系統の最強威力の魔法でこれでは、他の系統の魔法でも意味は無い。何より、魔力をかなり消費した。
考えろ。ロックドラゴンには弱点はないのか? あるはずだ。RPGゲームでお馴染みのドラゴン族の弱点はなんだ。逆鱗がポピュラーだな。逆鱗か。
俺はロックドラゴンの懐に潜り込んで、逆鱗を確認する。逆鱗はドラゴンの顎の、逆さに生えた鱗の一枚だ。それを見つけた俺は、すかさず強化した拳で殴りつけた。
「グオオォォォ!」
何だ!? 逆鱗は弱点じゃないのか?
「コロス! ニンゲン、コロス」
「何でだよ! 逆鱗は弱点じゃねぇのか!」
「タツヤ! ドラゴンの逆鱗に触れたら、すぐに殺されんだ! 逆鱗は弱点じゃない!」
「マジかよ! それを先に言え、サラ!」
逆鱗って、RPGじゃ弱点になってなかったか!? でも、怒らせた時に逆鱗に触れたとも言うし、逆鱗を殴ったのは失敗だ。
「ドラゴンの逆鱗に触れないのは、世の常だぞ」
「知るか! それより、結界の形を自在に変えられるか?」
「まあ、出来るけどっうおぉ!」
サラはロックドラゴンの攻撃を、ギリギリで防いだ。
「結界の形を変えられるなら、硬くしてから剣の形にしてくれ!」
「なるほど!」
懐にいることでロックドラゴンが攻めあぐねている内に、何とか防御に努めた。その内にサラは剣の形に変形させた結界を作り、俺はそれを受け取る。
強度のある、良い剣だ。
「タツヤ、その剣の形に結界を維持するのには魔力を大量に消費する。すぐにロックドラゴンを倒さないと、その剣は消滅するぞ」
「了解!」
ロックドラゴン。その弱点はどこだ!? 逆鱗は弱点ではなかった。だったら、その弱点は......。
いや、待てよ。そうだ。ちゃんとした弱点が存在するぞ! 弱点がわかったなら、早期討伐だ。ロックドラゴンに、正面から突っ込む。
「バカ、タツヤ! 食われるぞ!」
ロックドラゴンは顔を動かし、俺を食べた。これで作戦は成功。外皮がどれだけ硬くとも、内皮は硬いわけがないよな!
「ギアアアァァァァァ────!」
ほお、かなりダメージを受けているな。では、このまま歩きながら、食道から胃にかけて切り裂いていこう。
予想通り、内皮は柔らかすぎる。粘液は汚いが、倒すには我慢だ。結界の剣で、丁寧に傷つける。胃に到着すると、何か光るものがあった。これが、サラの言っていたコアか。
魔物のコアを破壊することでも、魔物は倒せる。すぐさま、俺はコア目掛けて剣を突き刺した。
ふむ。動きがなくなった。ロックドラゴン討伐完了か。内皮を切り進み、ロックドラゴンの体外へと出た。
「タツヤ、生きていたのか」
「表皮が硬かったとしても、中は硬くはないだろ? コアを破壊してきた」
「ロックドラゴン、討伐か」
「さて。疑問に思うことはないか?」
「ロックドラゴンが起きていたことか?」
「そうだ。国王は、ロックドラゴンが午後六時から一時間寝ると言っていた。もしロックドラゴンが午後六時から午後七時の間に寝ていなかったら、世界の法則が根底から崩れると言われた」
「世界の滅亡!?」
「急いで国王に伝えにいった方がいいのか、否か」
「報告した方が良いんじゃないか? まずいぞ。世界の法則が崩れるなんて」
まさか、異世界転生してすぐに異世界が滅亡してしまうのか。それは困る。
「おい。まずはロックドラゴンの討伐の証を回収しておけよ」
「それもそうか」
ロックドラゴンの体を退かすと、討伐の証を見つけた。『イーガ山脈のロックドラゴン討伐』と記されている。それと確か、ドラゴンの死骸からは素材も回収しておいた方が良いんだよな。
「サラ。下級収納魔法にロックドラゴンの死骸を収納してくれ」
「あ? わかった」
「ちょ、待て。腐敗防止魔法を掛ける」
腐敗防止魔法を掛けてから、サラの下級収納魔法に押し込んだ。
「なあ、サラ」
「何だ?」
「魔物のコアって売れたりするのか?」
RPGだと、コアが売れたりするのが当たり前だった気がする。
「コアが売れるわけないだろ」
「そうなのか?」
「そうだ。売れるコアと言ったら、あの魔物のコアしかない」
「売れるコアもあるのか?」
「これから倒しに行く予定のゴーレムキングのコアは、他の魔物のコアと違って非常に硬いから高く売れる。ゴーレムキング以外の魔物のコアは、糞としてしか扱われないぞ。それが例え、ロックドラゴンのコアだとしてもな」
「残念だ。それより、ゴーレムキングのコアは硬いのか」
「硬いぞ。例えるなら、アダマンタイト鉱石であるダイヤモンド級の硬さだ。ゴーレムキングのコアは、ダイヤモンドと似た分子配列とかしているらしく、ダイヤモンドと同じと言っても過言じゃない。それに、ゴーレムキングのコアを使えば他の魔物の強化も可能になるからだ」
「なら、コアを破壊せずにゴーレムキングを倒すか」
仕方ないから、世界の法則が根底から崩れ去ることにはあまり触れないことにしよう。