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狂ってしまった絶対的な法則 後編

 俺は『地獄の殺人』を読み終えて、本を閉じた。面白く読めたことには読めたが、俺が住んでいた世界の推理小説の方がクオリティは高かった。ただ、この世界では超貴重な小説。大切にカバンにしまった。

「サラ。今は何時だ?」

「何だ、本は読み終わったのか? 確か、結構前に午後五時の鐘が鳴ったぞ」

「なら、そろそろ午後六時か」

 サラは結界魔法を解除してから、ため息をもらす。「そう言えば、タツヤの元住んでいた世界には魔法はなかったんだろ?」

「魔法はなかった。こっちの世界に来てから、驚くことばかりだ」

「似ている部分は何もないのか」

「そうでもない。部分部分が、江戸時代に微妙に似ているんだ」

「江戸時代?」

「俺が元住んでいた世界の、日本って国にあった時代の一つ。鎖国と言って、他国との関係を()っていた」

 完全に他国と交流がなかったわけじゃないが、こういう説明で良いと思うが......。

「面白そうな世界だな」

「ある程度は(ニートとして)楽しめていた」

「ほー」

 日本について、とことん自慢をしたところで午後六時の鐘の音が聞こえてきた。

「もう六時だ。行こう」

「そうだな」

 イーガ山脈に足を踏み入れ、険しい道を進んだ。イーガ山脈はオルタファイズ山脈よりは険しくない。簡単に越えて、ゴーレムのいる場所に着くだろう。

 やがてロックドラゴンの住処に近づいていった。魔物の中で、 ドラゴンだけは常に『威圧(いあつ)』という魔法を発動している。そのため、ここまで近づいてくると圧が掛かってくる。この常時発動している威圧も、ロックドラゴンの魔力消費量が半端ない一因とのこと。

(すさ)まじい威圧だ」

「タツヤは会ったことはないかもしれないけど、攻撃に特化した『(ソード)(ドラゴン)』の威圧はロックドラゴンの数倍だぜ」

「ソードドラゴン!」

「ソードドラゴンは手強い。けど、ロックドラゴンに比べたら防御力は低いから少しは楽に討伐出来る。ロックドラゴンは、討伐しようとしたら普通の冒険者なら命懸けだ。間違っても、ロックドラゴンを起こすなよ」

「大丈夫。午後六時から午後七時までの一時間は、絶対にロックドラゴンは目覚めないらしいし」

 呑気なものだった。ロックドラゴンは討伐しなくても良いと考えていたからだ。だけど、実際はロックドラゴンは目覚めてしまった。

 俺達はロックドラゴンの姿が目視出来る場所まで来ていた。かなり歩いたな。数十分か。

 ロックドラゴンの表皮は、岩そのものだ。ダメージはあまり通らない。体の大きさは、魔王ガルドと同じくらい。巨体。

 慎重に素通りしようと、差し足忍び足に歩いていた。その瞬間、ロックドラゴンは巨体をゆっくりと起き上がらせた。

「ニンゲン......ノニオイ!」

 匂い!? へ? 何でロックドラゴンが起き上がったんだ!!

 最初は混乱したが、ロックドラゴンが攻撃してきた時にはこれは現実なんだと知る。

 ロックドラゴンの攻撃は、サラの結界魔法で何とか防げた。

「仕方ない。タツヤ、ロックドラゴンを倒そう!」

「ああ、わかった!」

 こういうことがあり、俺はロックドラゴンと戦っていたのだ。わかっていただけただろうか?

 ロックドラゴンを討伐する準備はしていなかった。ロックドラゴンに致命傷を与えられる剣は存在するが、あいにく持ち合わせていない。

 俺が魔法と物理攻撃で、ロックドラゴンを倒すしかない。サラには防御に専念させ、俺を結界で守る役割を頼んだ。いくら冒険者ランクAでも、防御特化のサラの攻撃はロックドラゴンには無意味だからだ。

 俺の攻撃も無意味かもしれないが、サラより俺の攻撃の方がマシだ。すぐに片を付けよう。

「サラ! サラは何層にも結界を重ねて、強固な結界にしてロックドラゴンの攻撃に耐えられるようにしろ!」

「重層結界か。よく思いつくな」

「RPGじゃ当たり前のことだ」

「RPG?」

「今はRPGより、目の前のロックドラゴンに集中しよう」

「それをそうか」

 剣はない。ゴーレムくらいなら素手で殲滅(せんめつ)出来るからだ。

 ロックドラゴンに素手の攻撃は通用しない。かといって剣は持ってない。逃げるか? いや、背中を見せたらやられる。逃走も討伐も絶望的。

 そもそも、なぜロックドラゴンは起きている!?

 国王は


──「イーガ山脈のロックドラゴンなら、午後六時から午後七時の一時間、眠りに就く。これは毎日であり、死ぬまで狂うことがない。逆にこれが狂ったら、多分世界の法則が根底から崩れ去るだろう」


 と言っていた。まさか、この世界が根底から崩れ去っているとでも言うのか!? いや、そんなことは......。魔物の生態が突如(とつじょ)として変化することなんてあり得ないと、スナイダーさんが言っていた。

 なら何で、ロックドラゴンは寝ていない? チクショウ、こんな依頼は受けないのが得策だった。

「いくぞ、ロックドラゴン!」

 俺はまず、身体強化魔法を体に掛ける。筋力が増した気がしたが、どれくらい力が強化されたのかは不明だ。

 ひとまず地面を蹴り飛ばし、ロックドラゴンの頭上で一時停止。ここからなら、脳天を貫けそうだ。

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