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1話 他人のパソコンを勝手に触ってはいけないらしい


 一応今日やることは決まっててその打ち合わせも済んでいる。

 なので清掃に力を入れられたわけだが。


「ふうっ!」


「あ、それいいですね、私もやっておこう。ふうっ!」


 ミケダマ根古のマネをして星乃シソも息を吐く。

 ミケダマ根古は「なんすかそれ、アハハハ」と笑うが星乃シソは頭に疑問符を浮かべるばかりだった。

 配信時間は既に30分前。


「根古さんがやったところが配信部屋なんですよね? そろそろ準備しましょうか」


「あ、身体の汚れはどうします? シャワーならありますけど」


「それなら」


 星乃シソは身震わすと全身の汚れがなくなった。

 もとい……取り込んだのだ。

 内部で凝縮し塊にして。


 そして手のひらからポンと出す。

 塊はそのままゴミへ入れた。


「おおー」


「根古さんは?」


「オレはシャワー!」


 なるほどと素直に星乃シソら感心した。

 こっちは少なくとも36億年分の技術があるため老練とも言えるが向こうは若い。

 だが若いからこそニンゲンの行動様式のうつしを普段から心がけているのだということがよく分かる。


 シャワーを浴びて汚れを落とすという行為自体が経験を普段から詰まなければ会話で齟齬がおきかねないのだと星乃シソは思う。

 そのことに関して星乃シソは活動初期にはヒヤリ・ハットを経験した。

 活動初期時に聞かれた質問コーナーでのこと。


「シャンプーは何を使っていますか?」


 たったこれだけの文章にひどく苦しめられた苦い思い出がある。

 製品を何使ってどうケアしているかという話は日常会話レベルだ。

 今では暗記した化粧品や流行を止まることなく言えるようになったものの当時は苦労した。


 必死に、


「えーっと今思いだすから待っててね!」


と言いつつニンゲンならば汗をダラダラとかくのかなと思いながらも片手で必死に検索をかけていた。

 確かその時は女性人気1位の無難そうなものを話したはず。

 コメント欄は、


「うわでた」

「変態だ!」

「答えなくて良いんですよ!」

「グルシャン勢だ逃げろ!」


などと、当時はよく分からない文字列が並んでいた。

 今ではわかる。

 ……いや今でもニンゲンの趣向の深さはたまにわからなくなると星乃シソは気分だけ嘆息する。


 配信部屋へと足を向け扉を開く。

 ……だがそこは。

 星乃シソは見た瞬間卒倒するかと思った。


 汚くは、ない。

 汚いきれいというラインでは星乃シソもミケダマ根古も腕前は同じくらいしかできないのでミケダマ根古がやったからといって雑になることはない。


 問題は。

 カメラ! なんかオンにまったままレンズも閉じずそのままにしてある。

 窓際! 大きな窓が開いてあって庭にも簡単に出られるし日当たりも良い。

 吸音材なし! 部屋の隅に不気味な黒いイボイボがなくて見栄えが良いね。


「コワイッ!」


 その他にももう色々言いたいことはあるしなんでマイクが床に置いてあって設置してないかみたいな話もしたいが。

 星乃シソは身の毛もよだつほどの恐怖体験を味わった。

 群れから何度も弾かれて身についた自身がバレることへの恐怖感が加速的に高まる。


 星乃シソは悪いとは思ったもののその身体は動きが止まらなかった。

 直ぐにパソコン前まで行き直接カメラ電源を引っこ抜く。

 ただスリープがかかっているだけのPCを起こせばロックもかからずホーム画面に移される。


 ガタガタと必須のアドオンと設定をパソコン内で探らせる。

 ……ない。

 必須というのは配信者として身バレを防ぐための設備。


「あーっ! ちょ、ちょっと!」


「根古さん!」


「う、うん!?」


 ミケダマ根古がシャワーあがりにタオルを頭に乗せながらやって来たが。

 当然いきなりパソコンを触っている姿をみるわけで慌てて止めに入るが。

 くるりと振り返った星乃シソが逆にミケダマ根古の肩を捕らえる。


「配信環境、すぐにどうにかしましょう!」


「……へ?」


 ソレは残り15分程度で切り出された提案だった。


「あまりにも今の環境じゃあ怖すぎます! 絶対身バレしますよ!」


「え、え、でもまだ枠立ててないし……」


「枠もまだなんですかっ?」


 今日はミケダマ根古のPCを使うため使用チャンネルはミケダマ根古/MIKEDAMA NEKO【ハンマー】チャンネルだ。

 普段ミケダマ根古がどれほど雑に配信しているかを思い知らせる星乃シソ。

 だいぶ内側にたまるものがあった。


「い、急いでお願いします根古さん!」


「ええとOBS立ち上げて……サムネイルサムネイル……」


「作ってないんですか!? 立ち絵を引っ張り出して……それです、それが私のです!」


「背景どうしよう、なんか、いつものでいいか! っうん!? カメラが反応してない、なんでえ!?」


「あ、さっき引っこ抜きました。ちゃんと電源を落としてカバーしないと危険ですよ」


「後でお説教は聞くよ……」


「そうそう、並べて……身長差はたしか私のほうがマイナス5cmくらいですから」


「あとで、後で調整するから!」


「見てますよ! 【サムネイルあとで】枠が3連続くらい並んでいるの!」


「後でやるから!! いつとは言ってないから!!」


「ええっ!? ファイルがごちゃごちゃ……どれがどの名前!?」


「いつも感覚で名前つけるから……これだ!」


「「全然違う!」」


 ふたりでやる作業はまるでコントのようで。

 ただふたりはそれに気付けるのは後になるほど必死で。

 結局配信告知ツイートをギリギリまでしていなかったのを利用して予定開始時間を30分遅らせた。







「私の方も開始ツイートしました」


「うわすごい、配信前なのに異様に人が集まってる!」


「そうですか? 私のコラボではいつもこんなものですよ。1枠でのコラボだとここに集まるしか無いから、自然に数が膨れ上がるんです」


 ミケダマ根古の通常配信では開始前で500人、開始時数分で跳ね上がっていく感じだったが今回の放送、

[今度は協力プレイコラボ!? 星乃シソ先輩と貼り合いパズル!(サムネイルはゲーム、いっしょにパリッとキリフダーズプラス商品画像に二人の顔を大きく配置)]

は、すでに10倍近く、4400人を記録していた。

 実はミケダマ根古の配信は遅刻常習犯なため始まった通知を受けて行く人が多いだけなのはまだふたりとも気づいていない。


 しかしさすがに星乃シソはそこまで遅刻をしない。

 遅刻をしないということが擬態だったからだ。

 まさか遅刻をするほうが擬態になりそうなのがこのグループ、ハンマーの実体だとは思っていなかったせいである。


 そして星乃シソのツイートも関係がある。

 ツイートとは、ツイスターと言うショートブログのアプリまたはウェブサイトで書き込みすることでハンマー所属ライバーは義務で全員そこにアカウントを持っている。

 利用は個人で制御できる範囲で自由。


 星乃シソはここに引用ツイートの形で、


「今回ここに遊びに来ています。ノシの信徒である皆さんには驚くべ来話もするので、ぜひ来てくださいね」


と書いている。

膨れ上がるのも当然の話だった。

ちなみに信徒とは星乃シソが神系Vtuberということでそこにかこつけた形でファンネームとしている。

既にコメント欄は、


「お邪魔します」

「協力プレイなのにボコボコにするノシが見れると聞いて」

「これはミケの放送以来トップの視聴者数になるかも」


「驚くべき話って何!? 実は既婚済み!?」

「ノシは基本的に驚くポイントがズレててなんもわからん」

「なんか草で終わりそう」


と、そんな感じのコメントたちがミケダマ根古放送前最速速度で端から端まで流されていた。

 放送前でここのコメント部分はアーカイブに残らないため自由なチャット欄のようになっている。

 実際星乃シソからしても別に今回の話はしっかり数年間追い続けたり設定を把握しているファンでなければまったく驚かない話だとは思っている。


 ただ個人的には非常に大きな進歩なのでそうツイートしたかったのだ。

 ちなみにハンマー所属Vtuberは男女コラボは珍しくない。

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