1話 神様系Vtuber星乃シソ
「れんこんさん、『スパチャ読みセンクス代』ありがとー! それじゃあ、今日はここまで! また見てね、おつノシー!」
星乃シソの配信画面が蓋絵に変わる。
蓋絵は白髮青目で6枚の翼が背から生えている見る者の心がかわいいで満たされるような女性……星乃シソが踊っていた。
そしてマイクがオフになり数秒の余韻後配信が止まる。
OBSを切りもしもの対策用にカメラに蓋をする。
先程まで配信していたものはその体を崩す。
……こんなときに「ふー」とか「よし」とか言うんだろうなと。
その者は考えた。
「多分、生物ならそう思うよね」
……星乃シソを名乗っていた存在は生物ではなかった。
全身がゲル状で構成されており少なくともいま下半身がただの塊。
ヌメヌメと不安定な色合いを醸し出し人間には理解不可能な何かが高速で行き来している。
星乃シソはバーチャル上のミーチューバー。
そして星乃シソを名乗ったソレは現実では存在してはいけないなにかだった。
星乃シソは株式会社ブレイカーに所属するバーチャミーチューバー、略してVtuberの部門ハンマーに所属するバーチャルタレントである。
年齢は46億と永遠の17歳。
地球の誕生と共に産まれた神さま系Vtuberである。
ただ神というと宗派的にややこしいので神系である。
別にあの世を司ったり働いたりはしていない。
そしていかにもな大天使をベースにしてかわいらしい女の子に仕立て上げた姿をしておりファンからは、
「心が洗われる」
「心が満たされる」
「俺の無い心の棒がフルチャージされるぜ」
とのこと。
最後のは星乃シソの同僚による妄言だ。
そして。
星乃シソを語る3次元の肉体。
名前はまだない。
つけるとしたら宇宙ウイルスだろうか。
約46億年前に地球誕生の余波に巻き込まれ発生した存在で宇宙にただようウイルスが突然変異した存在たちの1つだ。
メカニズムは不明だがまだ意志すら存在しない知能だけが横たわるモノが発生したのだ。
やがて地球の引力にひかれ落ちていく。
元がウイルスなため生命活動がなくウイルスのような増殖能力も
失ったが……
長い時と地球変化を受けて、やがてただ空に舞うだけの存在ではなくなった。
意志と魂が揃った瞬間はそれぞれの個体ごとに別で億年単位でのズレがあり。
それぞれの宇宙ウイルスたちは意思をもって地球に降り立つと自身に出来ることをこなし……やがて様々な理由で星を去る。
6度の大繁殖と5度の大絶滅は全てこの宇宙ウイルスたちによる外部関与があるとされている。
彼らは人の時代にも現れた。
人たちは彼らを記すという行為で世に痕跡を残させる。
……宇宙ウイルスたち難航の時代である。
彼らはまさしく神だった。
神のように振る舞い神のように裁き神のように恵む。
だからこそ……人にその身を喰われてしまわぬように最後には悪魔として去った。
神話の時代は終わった。
時は進み人が21世紀と名付けた時代。
ここにいた宇宙ウイルスはなんとなく、
「もう仲間はいないんだろうな」
と、察していた。
彼らは今この次元にいるのかすらわからない。
隣の宇宙へ移ったやつも少なからずいるだろう。
36億年も神として振る舞うことなく生物たちに紛れ『遊んで』いたらこうなった。
宇宙ウイルスたちは無生物なうえ群れるという性質がないため横の繋がりがない。
寂しいという単語は群れを作る生物の中で使われた共通認識だ。
宇宙ウイルスたちはせっかく獲得した精神構造が人間どころかほとんどの生物と違うためこういう所に疎い。
なので地球にまだいる宇宙ウイルスも気にはしなかった。
相変わらず『遊んで』人間たちに擬態し暮らしていた。
だが宇宙ウイルス、ここで閃きが落雷のように全身の思考回路に落ちる。
「寂しいと、マズイのでは!?」
過去何度も群れを作る生物で『遊んで』来た経験を持つ宇宙ウイルスは経験則から答えを導き出す。
そう。異端狩りだ。
寂しいという状態はアイツ怪しいとされそこから変な疑りをかけられる。
そして僅かな違いを見つけ出して実質擬態を見破られる。
事実か無実かどうかは関係なく永劫群れからはじき出されるのだ。
宇宙ウイルスはここでさらに閃く。
「そうだ! ニンゲンたちは記すからマズイ!」
この宇宙ウイルスは地球が気に入っていてあと1億年はダラダラしているつもりがあった。
もし記されたら……特にこの時代のニンゲンたちに記されれば。
バッチリ自身の姿を解剖されこの星に迷惑をかけた存在として記録され宇宙へ追放される。
そこまで閃いたこの宇宙ウイルスはたいそう焦り。
自身の擬態がバレにくくなるべく手っ取り早く多くの者と繋がれる方法を求めた。
色々と職はあったが思ったよりも職は擬態に危険性が生じる。
この宇宙ウイルスはナウなヤングにバカウケの最新流行というものにはそこそこ目ざとかった。
なので最初に戦争を思いついてあれは20世紀の話だったと否定してから。
今度こそネットワークというものを思い出した。
宇宙ウイルスはだてに長年生きていないのでここからしっくりくる事に平然と数年単位かける。
感覚的には数分単位でやることを変えただけだ。
そして最後にたどり着いたのはいかにも怪しい会社ブレイカー。
会社概要すら載っていなかった怪しすぎる所だったが宇宙ウイルスは今度こそ最新の事を見つけた。
デジタル上の絵やモデルを機械を通して動かし配信業をするという本当にここ数年から始まった流行り。
この宇宙ウイルスからしたら感覚上ほんの1秒前に流行りだした最新流行かつ、擬態がバレる不安はほとんどなく、しかも大量の人間がいて寂しい状態だと見られない超良物件。
えいやっと応募にクリックして。
早数年。
星乃シソはチャンネル登録者数46万人の人気Vtuberである。
星乃シソ自身なんでこんなに人気なのかはわからないと常に思ってはいるが数分……ではなく数年やって気づいたことが有る。
……何やっても人間ではないことを疑われない!
正直かなり危うい橋を渡ってきたと今も思っている。
星乃シソは学んではいるものの学べただけで人間そのものではない。
うっかり心理テスト配信でサイコパスだと診断されたり、先日の栗鉄配信で星乃シソが学んだ心理戦と効率重視の動きで見事全員を争わせ蹴落とし1位になった動きでコメント欄が、
「こわい」
「神に慈悲はない」
「死は救済だった?」
で埋まったが、それでも正体が人間だと信じて疑われなかった。
ちなみに栗鉄とは20年以上の歴史があるゲームで、電子すごろくだ。
最後に総資産が1位ならば勝ちでゲーム内カードを使って妨害や強化ができる。
Vtuberにも人気で派手な殴り合いで簡単に数億円の資金が吹き飛び誰かが叫ぶ。
仮想じゃない栗鉄しぐさを見たことのある星乃シソにとってどうやればニンゲンが動くのかたまたまわかっていただけなのだ。
最後に、
「本当にゲームでよかったねー!」
と他3人に声をかければ。
「ほ、ほんとだよね……」
「それはそう……」
「っぱノシ先輩なんだよなあ」
と、返ってきたので間違いなかったと星乃シソは自負している。
幸いにして宇宙ウイルスにも愉快と不快はある。
こういう時は間違いなく愉快だった。
その後……コメント欄を見たら恐れられていたので首をかしげたが。
そんな順調に見える星乃シソこと宇宙ウイルスが唯一避け続けているものが有る。
それは。
「オフコラボしない?」
「ごめん、行きたいのはやまやまなんだけれど、東京は遠くて……!」
「あー、ノシは島住まいだからね!」
このテンプレート文を何度返したことか。
少し前までなら流行ウイルスを避けるため全員誘っては来なかったが、最近とんでもなくウイルスが駆逐され反動でめちゃくちゃ誘われるようになった。
会社からもリアルイベントに出てほしいと何度もマネージャー経由で頼まれる始末。
幸いマネージャーは理解あるので星乃の代わりに断ってはくれる。
星乃シソはオフNGである。
それはほぼ周知の事実としては広まりつつ有る。