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02王家と褒美

勇者達との謁見が終わり、執務室で報告書に目を通していた国王は、その騒ぎに手を止めた。


「姫様、お辞め下さい。陛下は執務中にございます」

「邪魔をしないで!私は陛下に用があるのです」


声と扉を開ける音が徐々に近付いている。


皇太子はと見れば、コメカミをピクピクさせながらも、執務を続けている。


そして、ついに執務室のドアが大きな音をたてて開いた。

いや、部屋着に着替えた姫が、側仕えを使わずに自らの手で扉を押し開いたのだ。


「陛下!いいえ御父様!勇者様に何を申されたのですか?」

「何を・・・と言われても、何も申してはおらぬが?」


姫の予想に反して国王の表情は、晴天の霹靂の様に驚いていた。


「そんな筈はございません。勇者様とわたくしとは、いろいろと話し合っておりました。御父様が手を回されなけれ、あの様な事を申される筈はないのです」


国王が何も命じなくとも、他の者の進言を黙認したり、目配せだけで指示する事は多分にある。


「元より何も申し付けてはおらぬが・・姫よ。勇者も王家と関係を持つのはかんばしくないと理解したのだろう」

「御父様、それはどういう意味ですか?」

「例えばじゃ。勇者が王家と敵対した時に、あれを抑えられる力は、我が国には無い」


通常の軍備で魔王を倒せないから、勇者が魔王討伐へと向かったのだ。

その勇者が王家と敵対したら、抑えられるわけがない。


「勇者様が、そんな事をする訳がありません」

「しかし、騙されたり、姫を人質に取られたりしたら、どうなのじゃ?その後に姫をめとった彼を王に据えて、まつりごとの補佐と称して国を牛耳ろうとする野心家は、下級貴族にはゴロゴロ居る」

「・・・・・」

「例え、将軍として皇太子の下に付けても、上や周りの者が勇者をぎょせぬと知れたら、兵達は皇太子ではなく勇者を次期国王へとすかもしれぬ。内乱が起きるのは間違いないであろうな?」

「それでも・・・なんとか・・でも、でも、私は・・・私は・・・」


頭でわかっていても、心が納得できず、頭が心を抑えられないのが、今の姫だった。



「姉上。執務中にうるさいぞ。教会出身の奴としては、身分をわきまえる事を覚えたのだろう。そもそも、魔王討伐の直前は、かなり疎遠になっていたではないか?」


ついに皇太子が手を止めて口を挟んできた。

当初は毎日の様に語らっていた姫と勇者だが、同行者の選抜が終わり、連携訓練をする様になってからは、週に一度会えれば良い方だったのを彼は報告で知っていたのだった。


「身分と申されますが、私も調べましたのよ。過去には幾人も商人に嫁いだ姫が居た事を。それは勇者様にもお話ししております。それに教会出身と申されるなら、皇太子も教会の出ではないですか?」


貴族から嫁いだ妃と国王の間に生まれた姫に対して、皇太子は彼が五歳の時に、いきなり教会からやって来た。

母親の情報すら定かではない。

ある意味では、国王の息子である点すら疑わしい。


むしろ、処女受胎で巫女から生まれたと言う勇者の方が血筋が見えるくらいだ。


「姫よ。皇太子の件については、そなたが知って良い事柄ではない」

「陛下。元は貴方が子など作るから面倒が起きるのです」


皇太子は立ち上がると、顎をやや右上に上げて、部屋に居る側仕え達を睨んだ。

彼のやる【人払い】のしぐさだ。


私用人や側仕えは、礼をして部屋を出てゆき、執務室には皇太子と国王と姫の三人だけとなった。


皇太子は、ゆっくりと席を離れると、執務室に飾られた四枚の歴代国王の肖像画の方へ向かい、先々代国王の肖像画の前で姫の方へと振り返った。


「姉上。そなたは【復活の儀式】と言うのを存じておるか?」

「はい。一部の者だけに許された、死後に再び甦る事ができる儀式だと聞いた事があり・・・」


姫は話しながら皇太子と先々代国王の肖像画を見比べて、言葉を失った。

肖像画と、その前に立つ皇太子の面影が、あまりに似ていたからだ。

勿論、年齢による違いはあるし、血筋による類似点は有るのだろうが、あまりに似ていたのだ。


姫は先々代の肖像画の隣を見て、膝から力が抜けた。


髪形などは変えてあるが、先先々代の肖像画は、現国王にソックリだったのだ。


見ると国王は、机で眉間を押さえている。


「これ以上は何も申さぬ。姉上も身分をわきまえよ。病死などはしたくないだろう?」


確かに皇太子は、姉である姫より立場が上だが、幼き身で執務をこなし、品格のある所作を行う弟に違和感を覚えていた。


だが、これで姫の中で合点がいった。


「同じ教会から出ても、勇者と私の間には、歴然とした違いがある。ましてや下賎の腹から生まれた奴や姉上と同等などと思うなよ」


皇太子の逆鱗に触れたのだろう。

いつもは感情を言葉にしない皇太子だが、今回は違っていた。


「まったく。肉体が若いと、こうも感情を抑えられないものとは・・」


眉間を押さえた国王が呟く。


パンパン


皇太子が手を叩くと、扉を開けて側仕えが姿を現した。


「姉上は暫く自室に籠りたいそうだ。お連れしろ」


言葉は優しいが、実質的に軟禁の命令だ。


数人の側仕えが、覇気を失った姫を執務室から連れ出していく。


「まったく、道具は道具として大人しくしておれば、良いものを・・」


現実の王家においては、自由恋愛など公的には認められない。

かのマリー・アントワネットも政略結婚であり、隣国の国王を夫に持ちながら愛人を作っていた。


王家の人間は、国の利益の為に結婚し、子をもうけなくてはならない。

相手が、どんなに醜くとも、年齢に開きがあろうとも、性格が悪くとも、拒否権は無い。


子作りの光景を、家臣が見守る風習すらある。

将来、自分達が仕える後継者が正しき血統である事を見守る必要性が有るのだろう。

実際、皇太子が生まれるまでは、妃には常に監視がつく。


引きずられる様に退出していく姫を見ながら、皇太子は再び席につき、何事も無かった様に執務を再開した。



----------



謁見の間を出た勇者達を四人の側仕えが待ち受けていた。


「勇者様は、こちらへどうぞ」


勇者達は四人の側仕えにバラバラの控え室へと案内されていく。

謁見前は同じ部屋で待っていた彼等が、今回は分断される事に違和感を覚えた勇者が側仕えに問いただした。


「なぜバラバラに?」

「皆様の御要望がバラバラなので、それぞれに対応した者が御案内する為です。戦友と言えども話したくない事も有るでしょうから」


確かに忍者などは家族と離れる事になるのだろうが、彼は生まれ故郷の事を話したがらなった。

恐らくは、そう言ったプライベートな事まで話題にあがる事は予想できる。


勇者とて、姫を求めない理由や王都や教会を離れる理由を聞かれたくはない。


「わかりました」

「では、こちらへ」


側仕えに案内されて小部屋へ行くと、そこには城の役人と教会の職員が待っていた。


「勇者様。まず、こちらが討伐の褒賞金と、親子で暮らす為の生活費でございます」


役人が、重そうな布袋を幾つもテーブルの上に出してきた。


「そして、これが勇者と巫女を自由にする為の、法皇様よりの許可状です」

「先ほど申し上げたばかりなのに、もう有るのですか?」

「勇者様の晴れの舞台を、影から祝福される為に、登城なさっておられたのですよ。インクが乾いていないので、まだ丸めない様に注意して下さい」


教会職員が差し出す書類を見れば、インクが光を反射している部分があり、匂いも真新しい。


勇者の母親は教会の巫女で、儀式で彼を身籠ったと聞いている。

勇者も巫女も教会に属しているので、勝手に引っ越したり旅に出たりはできない。

だが今回は、その存在理由である魔王討伐も終えて、無用の長物となった故の特例とも言える。


「訳は聞かないのですか?」

「勇者様。陛下が認められた褒美なのですから、誰かがドウコウ言えるものではないのですよ」


当然、教会からは聞かれると思っていた還俗( げんぞく)の理由を問われなかった事に、むしろ勇者は驚いていた。


「法皇様も御待ちなので、私はこれで失礼致します」

「私も、席を外させていただきます。先の控え室から勇者様の御荷物をお持ちせねばならないので」


教会職員が部屋を出て、城の役人が後に続く。


独りになった勇者は考える。

【命を狙われている】と言われても、ここまでは問題なく進んでいる。

もっとも、城で丸腰の勇者を襲っても、勝てる見込みは皆無なのだから当たり前なのだ。


「問題は、教会で母さんを連れ出した後か!」


教会には、勇者を倒せるだけの法具があるかもしれないが、王都内にある教会で騒ぎが起きれば、問題になるだろう。

考えられるのは、教会内での毒殺。


「早めに、どこまで逃げるかだな」


既に候補地に目星はつけている。

そして、この件は、母にも話していない。


やがて、先ほどの役人とは違う側仕えが持ってきた勇者の荷物に、褒美の金貨と許可状を入れ、勇者は王城を出た。


暫くまったが、法師や剣士達は、姿を現さない。


「所詮は仮りそめのチームがからな・・・」


そう言って歩き出す勇者は、彼を見張る姿があるのには、気付いていなかった。


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