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オトコの道は異世界にあり!  作者: 踊る大横綱
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ドキドキ☆初対面

「――――は――――――なのです」

「うんうん」


「つまり――――――で――――――――なのでございます」

「ほうほう」


「お理解()かりいただけましたか?」

「おう! 多分な!」


 ヘレネーのこの世界についての講習はおよそ数時間にも及んだ。

 懇切丁寧に一から説明するまでの徹底ぶりである。


 しかし残念かな、竜司は半分も理解しきれていなかった。

 これには、返事だけは元気いっぱいの彼に、彼女も苦笑いを浮かべることしか出来ない。


「ヘレネー様、そろそろよろしいのでは?」

「え、あ、ああ、そうね」


 流石に辟易してきたのだろう、セリアは暗に話を切り上げるように促す。

 二人が話し込んでいる間、ヘレネーの隣でずっと立って待機していたのだ。

 誰だってしびれを切らすに違いない。

 むしろ何時間も立ち続けていたのだ、賞賛に値する。

 セリアのフォローにヘレネーも喰いついた。


「実はリュージ様にお会いして頂きたい方々がいらっしゃいまして……」


 スッと坐した椅子から立ち上がった。

 その会わせたい方々とやらの場所まで案内するつもりなのだろう。

 ちなみに、さっき竜司がその『勇者様』呼びはむず痒いのでやめてくれと言ったら、このような呼称となった。

 様呼びはやめてくれなかった。


「誰なんや?」


 セリアが先導し、絢爛な廊下を歩く。

 壁には無駄にデカい、何枚ものよく分からん髭のオッサンの肖像画が等間隔に並べられている。


「それは恐らく実際にお会いすれば分かるかと」

「こちらです」


 もったいぶった言い方をするヘレネー。

 そうこう言っている内に着いたようで、目的の部屋の扉の前に立つ。


「失礼いたします」


 コンコンと部屋の扉をノックするセリア。

 重厚な木造の扉を開く。


「すみません、お待たせ致しましたわ」


 室内にいたのは四人の男女。


「それがクリオスの勇者か。フン、この国にふさわしい悪人面だ」


 ソファに腰掛ける少女の傍らに立つ騎士らしき男。

 敵愾心を剥き出しにしてこちらを睨んでくる。

 竜司個人というよりも、クリオスという国自体に良い感情を抱いていないようだ。


「失礼じゃないかしら、シャムガル」

「は! す、すみませんノア様……」

「付き人の不躾な態度、ワタシからお詫びするわ」


 彼の不遜な言動を諫めるノアという少女。

 あどけなさの残るその外見とは裏腹に、凛としたその佇まいは堂に入っている。

 しかし、それよりも目につくのはその容姿。


 どう見ても竜司と同郷のものだった。


「全く、こんなにナオミ様を待たせるなんて。やっぱり礼儀知らずな国ですわね」

「ぼ、僕は大丈夫ですから……デボラ様」

「まあ、ナオミ様ったら何てお優しいのでしょう!」


 二人してソファに着座する男女。

 女性の方はデボラというらしく、高貴な身分だというのは言葉遣いと身なりから推測できた。

 ナオミと呼ばれた少年は竜司を見て顔を青くしている。

 そのあからさまに怖がっている表情は、竜司の職業をその厳つい外面から推測してのことだろう。多分あってる。

 少なくとも、気を遣っての発言ではないだろう。自衛だ。


 そして彼もまた、竜司と故郷を同じくする者の外見をしていた。


「それでは始めましょうか」


 各々が言いたいことを言いたいだけ言った後、ヘレネーが口を開く。


「始めるって何をや?」

「勇者様方の顔合わせにございます」






「えーっと一応クリオス王国、やったかのトコの勇者の龍田竜司、こう見えても十九歳や。前の世界では極道やっとりました」


「ターブロス公国の勇者、牛上乃蒼(うしがみのあ)。十七歳。高校生よ」


「あの、魚尾直海(うおおなおみ)です。イッスィーエス王国の勇者……らしいです。今年で十五歳です」


 各々が自己紹介を交わす。

 幾度か言葉を交わし、互いの緊張も少しばかり解けてきた。

 竜司としても同郷の人間と会話を交わせることが嬉しかった。

 ターブロス公国とイッスィーエス王国というのは、クリオス王国と同じ、アーニクシィ大陸にその城を構える国。

 先ほどのヘレネーによる異世界講習に出てきた国だ。竜司は覚えていない。無論、覚えていない。


 それはそれとして、呼ばれた国や境遇は違えども生まれは同じ国。

 皆の思いは合致した。


「なあ、アンタらももしかして……」

「ええ、呼ばれたわ。死んだのかと思ったのだけれど」

「ぼ、僕もです……」


 死んだはずだと思ったらこの世界にいた。否、呼ばれた。

 それは皆同じだったらしい。


「訳が分からないわ……勝手に勇者だ何だって持ち上げられて……」

「ハハ、ホンマやで」

「僕もそういうのには向かないかなーって……」


 突然異国の、いや異世界の勇者なんて告げられるという異色中の異色な境遇に身を落とされた者同士。

 同郷の(よしみ)ということもあってか、互いに不思議な共感(シンパシー)を覚えた。


「そんなことありませんわ。皆様ご立派な勇者様でございます」


 フォローのつもりなのか、ヘレネーが三人を称える言葉を口にする。

 三人は照れ臭そうに後ろ頭を掻いたり、居心地悪そうに俯いたり、そう言ってほしかったのではないと言わんばかりに溜め息をついたりと、各人各様のリアクションを見せた。


「特にリュージ様は……」


 ヘレネーの独り言のような呟きは三人には聞こえない。

 しかし、特に面倒くさい二人の耳はその独白をキッチリ聞き取ってしまった。


「ああ? ノア様が至高の勇者に決まっているだろう!」

「ヘレネー様? それは聞き捨てなりませんわね。ナオミ様こそ最高の勇者様でございますわ」


 本人たちを置き去りに、誰が最優の勇者かという論争が始まってしまった。


 シャムガルは明らかな敵意を隠そうともしない。

 デボラはデボラで、鋭い視線をヘレネーに投げかける。

 ヘレネーは穏やかな微笑みを湛えてはいるものの、その目は笑っていない。


「やめなさいシャムガル、恥ずかしいったらないわ……」

「デボラ様、ぼ、僕はそんなんじゃないから……」


 それが等身大の評価なのか過大評価なのかは定かではないが、持ち上げられている本人たちは心底恥ずかしがっているようだ。

 満更でもないような素振りはこれっぽっちもない。

 本気で止めに行っている。


「いいえ、やめません! 大体そんなチンピラと軟弱者が我らが勇者ノア様と対等だとでも本気で思っているのか!?」

「軟弱者ですって……? 貴方、ナオミ様の何を知っているというのかしら!? 口を慎みなさい!」

「お二人とも落ち着いてください。ノア様もナオミ様も非凡なお力をお持ちなのは承知の上でございますわ」


 頭に血が上り、互いに激しく詰りあうシャムガルとデボラ。

 それを飽くまで穏やかに、温良に諭すヘレネー。

 興奮していた二人も、彼女の落ち着いた口振りに幾分か冷静さを取り戻す。

 場に秩序が戻ってきたところで、もう一度ヘレネーが口を開いた。


「まあリュウジ様の足下にも及ばないですけどね♡」


 二ラウンド目のゴングが高らかに鳴った。


 三人の勇者は後にそう語る。

方言補足


「ホンマ」→「本当に」

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