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仮設風向計/詩集その3

メモリー/Give me our yesterdays

作者: 浅黄 悠

メモリー


遠くで子供達の笑い声が聞こえた午後の熱が

眠りにつこうとした僕の耳に残って

海の揺らぎに抱かれているようだった


思い出せば

いつもみんなでどこかを目指して走っていたような気がする

暗く塞ぎ込む暇なんて無かった

一緒にいれば何でもできるように感じていた僕達が立ち向かうものは

いつも大きすぎた


汗ばんだ腕

よく乾いた洗濯物の匂い

癖のあるそれぞれの喋り方

互いの友情を何も感じなくなるほどに

長く傍にいた気がしたから

形に残るものは少ない


今は

閉じられた窓の中で

虚空の高みを駆ける風を想う


時にはひとりで

時には誰かと笑っていて

それでもあの頃をふと思い出せたら

僕達はそれでいいのだろう





_____


Give me our yesterdays


わたしを抱きしめて

あたたかくふんわり抱きしめて

帰って来たあなたに包まれるのが好きなの


極上の真綿みたいに

やさしいあなたの声を聴かせて

せつなさだけが残る電話もいいけれど


曇った窓辺のガラスのおもちゃや

クリスマスの飾りつけ

造花に街灯に噴水に

髪かざりとお菓子を売るワゴン

でもわたしはいなくてあなたもいない

そんな日々


色んなお話をしてほしい

あかるい冗談交じりのお喋り

あなたが誰かから聞いたというあのお話を

もう一度聞かせてほしい


わたしの髪を撫でてほしい

小さかったころみたいに

笑いかけてほしいの


困った顔をされるかもしれないけれど

またあんな風に甘えてみたい

泣いて意地を張ってみたい


もしあなたにお願いをしていいのなら

どうかぺたぺたに赤く塗られた木靴みたいに

わたしの見せた笑顔を飾らないで

わたしがあなたに贈った季節を忘れないで


どれだけきれいなリボンを結んでいても

素敵なプレゼントを抱えていても

寂しくなってしまう


たしかにわたしはあなたに会わない間

色んな間違いをしてしまったけれど

色んなことを知ってしまったけれど

くだかれたばかりの石みたいに

冷酷で尖っていていつ爆ぜるともつかない

人をゆるす心もない

どうかわたしをそんな人間に書き換えないでね

わたしを怖がらないで


もし

あなたが自分を怖がっていたのなら

抱きしめてくれるだけでいいから

そうしたらわたしは

わたしの想いをありったけのレースでくるんで

きっとあなたに渡すから


だからわたしの前にあるこの樫の扉を

どうか早く開けてほしい

わたしの__いつまでも愛しい人


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「メモリー」 純文学的な作者様らしいとても詩的で美しい作品だと思います。 こういう詩作品を私も書いてみたいです。 「Give me our yesterdays」 女性らしさがよく表現さ…
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