Kei.ThaWestのストロング怪談ナイト
ストロングゼロ文学は原則としてひとつのジャンルにつき一作品のみ投稿しております。
が、ホラー部門は『ストロングゼロさん』とこちらと甲乙つけがたい完成度だったので特別に公開します。
私のデザイナー時代の友人にね、鳥居さんという方がおられましてね。今はもう立派な絵描きさんなんだ。キュビズムって言ってね。適当な筆かなんかでもってこう、つぅーっと一本、線を引くわけだ。これが結構儲かる。
そんな彼がね、東京の郊外に自分のアトリエを持つことになった。作業場も併設してね。この、アトリエというのが築100年以上にもなる古ーい長屋を改造したものでしてね。リノベーション、っていうやつですよね。ここで住み込みで、絵を描き始めたわけだ。
そうこうするうちに新天地での仕事も軌道にのってきた。新しい付き合いも増えたりなんかして、忙しーくしている。このアトリエは夜にもなると街灯もほとんど無くて外はしーんとして真っ暗なんだ。都会の喧騒が嫌いな鳥居さんはそこが、逆に気に入ってたらしいんですよね。
彼は絵を描く時には酒を飲みながら描くことが多かったらしいんですがね、深夜、一人でストロングゼロをちーびちび、やりながらあーでもないこーでもない、筆を走らせるのが日課でしてね。外はしーんとして暗ーい闇。人っ子一人いやしない。静かーな環境で、一人、絵を描いてる。
鳥居さんというのは若いころから大層な大酒のみでね、ずいぶんともう歳もとってきたもんで、時々休肝日を設けることにしていたそうなんですがね、その日はちょうど、月に一度の休肝日だったそうですよ。
あーいい構図が思い浮かばねぇなぁ、今日はもう、やめにしとこうかなぁ。やっぱり俺ぁ、酒を飲まないと描けねぇなぁーなんて鳥居さん、なかなか思った通りの絵が描けないところでもって、もうこの辺で切り上げて寝ようかなーなんて考えちゃった。
せんべい布団を敷いてね、こう、ゴローンと、横になったっていうんですね。ふと時計を見るともう、深夜の1時を回ってる。随分遅い時間になっちゃったなぁ、ぼんやーり、そんなことを考えてたそうなんですね。
うぁーもう寝ようかなーってね、鳥居さん、欠伸なんかしたりして、うつらうつらしてきた。そうこうしているうちに彼ね、小さーな、物音に気が付いたそうなんですよ。なにせ夜ともなると静かーな土地柄でもってね、音はよく響くんだ。
廊下の向こうからね、
トントン、トントン、って、小さーく、玄関の戸を叩く音が聞こえてきたそうなんですよ。あれぇ~おかしいよなぁ、こんな時間に、俺を訪ねてくるやつなんかいねぇよなぁー、空耳かなぁー、鳥居さん、最初はそう思ったそうです。あれぇ~、おかしいぞ、確かに聞こえる。そう、聞こえるんだ。しかもその音、
ドンドン、ドンドンドン、
だんだん大きくなってきてるんだ。おい、やっぱりおかしいぞこれ。鳥居さん、思ったっていうんですよね。誰かが、玄関の戸を叩いてる。空耳なんかじゃない、誰かが、来てるんだ。
待てよ、一体どこの誰が、こんな深夜に俺を訪ねてくるっていうんだよ。仕事の仲間なら事前に連絡を入れてくる。女房と子供は合鍵があるんだからわざわざ、あんなふうに玄関をドンドンやったりなんかするわけがない。
おい、あの、今、戸を叩いているやつは一体誰なんだ。
鳥居さんふいに、ぞーっとしたそうなんですね。
ドンドン、ドンドンドン、
音はずーっと聞こえてる。どうにも気になって、眠れやしない。
よぅし、見に行ってやろう。鳥居さん、そーっと音をたてないようにそっと、そーっと廊下を歩いて玄関まで行ったそうなんですよ。すると薄暗ーい廊下の向こう、すりガラスのはまった玄関の戸が月明かりで照らされてる。そこに、真っ黒ーい人影が、
ポツン、
て立ってるんだ。
ドンドン、ドンドンドン、
叩いてる。
鳥居さん思わず、ううおぅぅ!声が漏れそうになった。でもここで声を漏らしたら外のアイツに気づかれると思って鳥居さん必死に声を殺した。
ドンドン、ドンドンドンドン、
おお~ぃ、トリちゃぁ~ん
影が、ふいに自分を呼んだ。その声、聞き覚えがあるんだ。それ、肝臓を患ってずっと病院に入院しっぱなしの筈の、飲み仲間の木林さんの声なんだ。
おお~ぃ、トリちゃぁ~ん、病院抜け出してきちゃったよ~、おお~ぃ
自分を呼んでる。ずっと戸を叩いてるんだ、木林さん。
おお~ぃ、一番搾りで乾杯しようやぁ~
晩酌に誘ってるんだ。鳥居さん、恐ろしくなってその場にへたり込んだ。
ううぅぅ、今日は俺休肝日なんだよー、頼むよ、帰ってくれよぉ、お願いだよ、帰って、帰ってくれよぉ……なんまんだぶなんまんだぶ……
ぐーっと目をつぶって、鳥居さん、ガタガタガタガタ震えながら夜が明けるのを待ってたそうなんです。そのうち、ふーっと、気が遠くなった。
翌朝、鳥居さんは廊下で目を覚ました。すーっかり、外は明るくなってる。玄関にはもちろん、人影なんか無くなってる。
木林ちゃん、ほんとうに病院抜け出してきちゃったのかなぁー、カミさんに怒られるぞ、なぁーんて考えながら鳥居さん、玄関をガラガラー、開けたそうなんですよ。
そこにね、
一人で酔い潰れて眠りこけた木林さんが、倒れていたそうですよ。
とまぁこんな話を昨年ね、私、鳥居さんから聞かされていたんですけどね。つい最近、たまたま同じ現場で鉢合わせしましてね、少ーし、話す機会があったんだ。やぁー、Kei.ThaWestさん元気にしてた? おーどうもぉ、なんて他愛のないこといいながらね、雑談してた。
ねぇ、Kei.ThaWestちゃん。
どうしたのー、改まって。
実はね、あの話、あれで終わりじゃなかったんだ。
あの話ってまさかあの、木林さんの?
うん、そうなんだ。
鳥居さん、少し困ったような顔で私に言ってきたんですね。実はあの後、酔い潰れた木林さん、鳥居さんがタクシー代出してあげてウチまで送り届けたらしいんですよ。あんなにお医者さんから止められてたお酒をね、病院抜け出してまでね、木林さん、飲んでたわけでしてね、
家に帰ったら奥さんがね、
冷たくなってたそうなんですよ。
それから程なく、木林さん、離婚したみたいです。こういう話って、あるんですよねぇ……。
ちなみにウチはラブラブです。