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終わりの神語り  作者: 銀蝶
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最初に覚えた。

ルシア・ライヌ。


それが自分の名前らしい。


青紫色の瞳と、淡いピンクがかった銀の髪と、真っ白な肌。


3歳になって、ようやく周りの環境が分かりはじめ、庭にある水鏡を覗き込んで、やっと自分の容姿を見ることができた。


「ルシア〜、ママはお洗濯してくるから、お庭で遊んでいてね? 森に入っちゃダメよ?」


オレより濃い銀緋色の髪と、青紫の瞳の母親が言い聞かせてくる。


まだ少女みたいに若い母親は、ルテア。美人である。


「あーい!」


オレは元気よく良い子の返事をして、花の咲き乱れる庭に向かう。


青みがかかった丈の短い苔みたいな絨毯が家の周囲を覆っていて、ふかふかと柔らかい。


転んでも柔らかいので、オレは安心してゴロゴロ転がる。


庭の周囲は低めの柵があり、そこから先は木々がまばらに生えて、途中から森に変わる。


幹も葉っぱも青みがかった不思議な色合いで、お香のような不思議な香りがする。


苔の芝生もどきに寝っ転がってそのまま空を見上げれば──遠くや近くにポツポツと浮かぶ、大小様々な浮島が見えた。


そう、島がなんの支えもなく浮いているのだ。


喋れるようになってから、なんで浮いているのか両親に聞いてみたが、わからないと言われた。


ずっと昔から浮いているらしい。


空には色のついた雲の層が幾つも流れ、常にゆっくりと流れていた。


チチ、と鳴き声がして、空から小さな生き物が飛んでくる。オレは頭を巡らせて、小さなシルエットを目で追いかける。


トカゲに羽が生えた生き物──害のない小動物は、エサを探しにきたのか、我が家の庭先に降り立った。


「あーぅ?」


ゴロンと転がり、そっちに近付く。


小トカゲモドキは、びっくりした顔で、サッと木立の中に逃げた。


森には色々な木々が生えていて、食べられる木の実がたくさんある。だから毎日のように、渡りトカゲモドキがエサを探しに訪れるのだが、オレはまだ一度も奴らを捕まえられない。


父親は簡単に捕まえるというのに、貴重な肉だというのに、くそぅ……今日も無理か。


庭と森を隔てる境界線の柵の前で、オレは小さな手を精一杯伸ばす──うん。届かない。あっという間に森の奥に逃げられてしまった。


「あぅ〜…」


柵にしがみついてガジガジしていたら、母親が飛んできた。


「ルシア、ダメよー、それはご飯じゃありませんー」


「あーぅ?」


ふわりと抱き上げられ、視界が高くなる。頭を優しく撫でられ、オレはうとうととまぶたをおろす。


母親に抱きしめられ、いい匂いと安心感で睡魔が襲ってきた。


くすりと笑う気配のあと、母親は小さく歌い出す。ゆったりとした静かな歌。優しい優しい声。とてつもなく平穏な世界。




次に目を覚ますと、家の中のオレ専用のソファに座っていた。


「……おや、目を覚ました。ただいまルシア」


穏やかにオレに微笑みかけるのは、父親だ。リビングの椅子から立ち上がり、わざわざオレを抱き上げにくる。


青い髪に金色の瞳。大人しそうな容姿。身長はあまりないがそこそこ鍛えられた体躯をしている。仕事は飛竜の調整医で、動物のお医者さんみたいなものらしい。毎日、相棒の飛竜と一緒に訪問医をしている。


ジリア・ライヌ。オレの現世での父親だ。


この世界は、オレの記憶にある『地球』とは全く異なる異世界だ。浮島と、流れる雲と不思議な生き物達と、魔法。


そう、魔法が存在する。


母親が家事をする時、手をかざしたりヒラっと払ったりするだけで、部屋が一瞬で綺麗になり、洗濯物が空中を舞ったり勝手に畳まれたりする。


料理はさすがに手を使っていたが、食器を洗い乾かすのは魔法で一瞬だ。


便利だなーと、ただただ感心した。


そして、当然期待した。早くオレも魔法を使いたい!


「ふーっ、うーっ」


「おや、ルシアどうした?」


父親の腕に抱かれたまま、オレは魔法が発動しないかと踏ん張った。なんでもいい! 魔法出ろー! で──……あっ。違うものが出た……。


母親が、あ、という顔をして、慌ててオレを奪った。手早くオムツを開けられる。あっ、父親が後ろからじっと覗き込んでいる。恥ずかしい! 綺麗になれ……!


フッ……とオレの身体が何かに包まれ、下半身の気持ち悪さが消えた。


お? いま、何か……。


母親と父親がびっくりしてオレを見ている。


「まあ……ルシア、自分で綺麗にしたの?」


「な……今のは、浄化か?」


どうやら、魔法が使えたらしい。やった! オレにも魔法が使える!


ピコーン、と空から音がした。


『スキル:浄化を覚えました』


機械的な声が空から降ってきた。







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