神々の愛は幸運か、不運か。
異世界転生に冒険GO!
むかし 昔。
ずうっと昔……。
幾度世界は終わりの危機を迎え、そのたびにどこからともなく英雄なる者達があらわれ、滅亡からまぬがれていました。
大地は幾度も裂かれ、海は汚され、人々の心は歪み、正しさを忘れ。
傷ついてからようやくあやまちを知り、道を思い出し、光を見上げ涙を流す。
けれどひとたび穏熟が続くと再び争い初めて、また同じことを繰り返す。
神々は呆れながらも、愚かな人間達を愛しく見守り続けます。
そうして、数百年と数千年経った頃……。
時代の流れから忘れ去られたような、小さな小さな国の片隅にて。
神々にも感知されることなく、新たな生命が芽吹きます──。
(……あったかい……ココは……?)
頬をくすぐる優しい感触に、彼は最初の目覚めを与えられた。
ゆっくりゆったり膨らみ、戻る、暖かな弾力が人肌だと感じ取り、なんともいえない安堵に包まれる。
息を吸う。
ふわりと肺に吸い込まれる空気には、なにか清らかなものが混じっている。
(コレは、なんだ?)
清らかな粒は冷たくて熱くて、彼の身体の内側を駆け巡り、きれいにしてから外へ出ていく。
呼吸するたびに、粒たちは身体のなかの中心……渦を巻く場所に蓄積されて、密度を増してゆくのだった。
うっすらとようやく開いた目が、初めてこの世界で見たモノは、空気中に舞いふわりふわりと飛び交う、光の粒。
(きれいだ)
素直にそう思った。
粒たちは、彼の意識がまるで届いたかのように、煌めいてみせた。
キラキラとまたたく神秘的な光景に見とれていると、暖かな何かが顔を撫でてくる。手のひらだ。細くて白い、華奢な指先。
ついで、深い深い青紫色の瞳が、間近に覗き込んでくる。
「──おはよう、私のぼうや」
(──……え?)
すぐには、なにを言われたのかが、分からなかった。
愛おしげに自分を撫でる優しい存在が、全く見覚えのない女性だったから。
(ちがう──オレの母親は──…あれ?)
顔が容姿が、思い出せない。必死に思い出そうとするが、ぼんやりとしか。
(オレは……? ココは)
記憶にない、歳若い女性に抱き上げられ、視界が回る。
木造らしき家屋から外に出て、見せられた世界は。
「ルシア。私の愛しい子……もうすぐお父様が帰られるわ」
空に、幾つも大地が浮いていた。
「……!」
はふ、と、まだ声は出ないのか、空気だけが出た。
濃い蒼穹に幾筋も帯のような幕が流れ、近くにも遠くにも、大小様々な島が浮いている。
島には緑と建物があり、それぞれの島に誰かが居る気配を感じた。
そして、遠くの蒼穹からこちらに向かって飛んでくるのは──!
(……ドラゴン!?)
ありえない光景を目撃し、ようやくオレは気づいた。
ココは、地球じゃない、と。