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第7話:行き倒れの「異邦人」

「最近、ステラソフィアに変な人多いよねー」

変な人ね。

確かにこの前の盗撮騒ぎと言い変な人が多いような気はするが……。

「まぁ、元々なんじゃねーの」

「たしかにステラソフィア生は変な子多いって聞くけど、そうじゃなくて」

「そうじゃなくて?」

「なんか道端で倒れてる人とかいるじゃない?」

「は?」

シュピチュカの視線を辿ると確かにいた。

道端で倒れてる黒髪の少女が。

「おい、大丈夫か?」

「は…………は……い」

どうやら意識はあるようだ。

「ベチュカ、救護班呼ぶから!」

「ま……だ、だいじょうぶ、です…………」

シュピチュカを制止すると、少女はゆっくりと身体を起こす。

「本当に大丈夫なの……?」

「は、はい……お腹が、すいた、だけなので」

「は?」

瞬間鳴り響く腹の鳴る音。

「腹が減って行き倒れってマジかよ」

シュピチュカの買ってきたお菓子ひのきの林を貪るその少女。

本当、よっぽど腹が減っていたんだろう。

「お前、ステラソフィア生じゃないよな」

「ユウ・ナと言います! 華國カノクニから来ました!」

「華國ってそんな遠くから!?」

華國――オレ達の住むマルクト共和国から遥か東にある大国の1つだ。

マルクトとは古くから交流があり、国家連合の一員でもある。

オレ達の住む通称エヴロパとは全く異なる文化を持つ異色な国。

「それが何でこんなとこに」

「はい! せっかくステラソフィアに来たんだからチャンステ配信したくて!」

「チャンステ?」

「わぁ、あなたステラーなの!?」

「ステラー?」

「ベチュカ知らないの?」

「遅れてますねー!」

シュピチュカだけじゃなくてユウ・ナにもそんなことを言われる。

なんだ、なんかよくわからないけどシュピチュカが2人いるみたいですっげームカつくな!

「写真やいろんな画像を共有できるサイトのフォトステ、そして自分が作った動画を配信できるチャンステ! その配信者のことをステラーって言うんだよ!」

「はい。わたしはチャンステラー――つまりは、動画配信者ってことですね」

そう言えば、ネットやテレビでそんな感じの話を聞いたことがあるような……。

「ナっちゃんはどんな動画配信してるの~?」

「ナっちゃんって……」

「はい! "民族間の情勢調べてみた!"とか"世論調査やってみた!"とかそういうのが多いんですけど……」

「ええ…………」

オレはそういう配信者ステラーというものをよく知らないけれど、なんかそれは違う気がするんだが。

実際、シュピチュカもちょっと表情が引き気味だ。

まさかのシュピチュカ以上のバカか……。

いやまぁ、内容としてはかなり頭が良さそうではあるけど……なんでまたこんな――

「今回はちゃんとマルクト共和国の強さのヒミツ探ってみた! ってことでやってますから」

「うーん、ちょっとズレてるような……まるでスパイみたい」

「そうですかー?」

そうとぼける様に笑うユウ・ナ。

「ん? ユウ・ナ……?」

ふと何かが引っ掛かった。

ユウ・ナと言う名前――そんな感じの名前を聞いたことあるような気がしたからだ。

「ナっちゃんは将来政治家にでもなる気なのー?」

「あー、なれたらいいですねー!」

政治家?

そう言えば、今の華國の代表って確か――

「ユウ・ラって名前だったよな。お前と同じ"ユウ"って名字だけど……」

「わかりますー? 華國の女帝ユウ・ラはわたしの母です!」

「ええっ!? それってつまり、ナ、ナっちゃんって……」

「分かりやすく言うなら、お姫さまですね! 自分で言うのもなんですけどっ」

コイツが華國のお姫さまだって!?

「バレてしまったなら仕方ないです! そう、今回ステラソフィアに来たのも国民の支持率を上げる為です!」

「支持率を上げるぅ?」

「華國の代表は世襲制――であるならばこのわたしもゆくゆくは華國の女帝となるべき存在! だと思うでしょ?」

「そういうもんなのか?」

「ところがそうもいかないんですよー」

ユウ・ナは言う。

「確かに世襲制――なんですが、今の華國をまとめ上げたわたしのおばあ様――ユウ・ハ様の方針で帝位は実力のある者にと」

「世襲制なのに実力がある人にって変なのー」

「つまり、長男長女――第一子じゃなくても家を継げるってことになるのか?」

マルクトでも基本的に第一子に家名を継がせるという伝統がある。

華國にもそういうのがあるらしいが、ユウ・ナの口ぶりからすると皇族は違うようだ。

「そもそも兄弟姉妹の数が多すぎるんですよー! となると後は血みどろの兄弟間抗争! とかやったらおばあ様に殺されるので、正々堂々国民の支持率を上げることで一番支持を得られた1人が次の皇帝になれるということなんです!」

「な、なるほどね……だからチャンステで知名度上げたり、調査をして政治に活かそうってこと――なのね?」

「その通りです! 思ったより頭がまわりますね!」

「まぁね!」

胸を張るシュピチュカだが、今のユウ・ナの言い回し的にお前ちょっとバカにされてたぞ。

「いろいろ大変なんだな。ユウ・ナ様も」

「そこはナっちゃんで!」

「ナっちゃんでいいのか?」

「はい! わりと良い響きですよ。ナっちゃん!」

なんて話をしていると不意に鳴り響く警報!

「ったく、またか!」

「この警報って、もしかするんですか!?」

「うんそーだよ! お約束の時間だねっ」

「なるほどつまり、「侵攻者」!」

いつも通り装騎の申請を終え、運ばれてきた装騎に飛び乗る。

「お前も出るのか!?」

「もちろんです!」

そこに姿を見せたのは、オレ達の乗る機甲装騎とはまた違った雰囲気を持つ騎体。

全体に丸みを帯び、どこか女性的なデザイン。

装甲はにぶく光り、赤紫色のアズルを発した。

「これが華國の装騎――――機甲装士か!」

「はいっ、わたしの装士イーメイレン! その力、見せてあげますよっ」

「スパルロヴ、敵は?」

六本脚型ティプ・シェストノヒ亡霊型ティプ・ドゥフの混成部隊です》

当然と言えば当然だが、今までで見知った顔ぶれだ。

そうホイホイと新型が姿を見せられても困るしな!

「行くぜ!」

「うん、がんばろうっ」

「では――倒させてもらいますっ」

そして戦いがはじまった。

装士イーメイレンの武装は華式直刀――これは真っ直ぐな刀身ながら刺突よりは斬撃に重点を置いた直刀らしい。

それを両手に――いや、さらに同じものを4本は背負っているのが見える。

しなやかで素早い動き――完全にユウ・ナは戦い慣れていた。

「お前、結構強いじゃんか!」

「これくらい戦い抜けないと、お姫さまは務まらないんですよ。イマドキ!」

二本の華式直刀を振り払う。

その一撃が、二体の六本脚型を斬り裂いた。

「それだけ華國の皇位争いって激しいんだね……」

「それもありますね。それに――"コレ"はわたしの取り柄ですから!」

装士イーメイレンはグッと身体を沈み込むと、加速。

『Kyyyyyyyyyy!!!』

甲高い声を上げながら亡霊型がマントの下から鉤爪を露わにした。

その動きは素早く、鋭い。

けれど――

「キュウキ」

装士イーメイレンと亡霊型がすれ違う瞬間――装士イーメイレンが風になった。

柔らかく、優しく亡霊型の傍を吹き抜けていくそよ風。

けれど、一見優しいその風は――鋭いカマイタチとなった。

鮮やか過ぎる手際で両断される亡霊型「侵攻者」。

きっと、その一撃が入ったことすら理解できなかっただろう。

断末魔を上げる間もなく息絶えた。

「これだけ実力があれば、わたしも特別選抜部隊とか入れますかねぇ~」

「お前、特別選抜部隊に!? そうか――だからステラソフィアに!」

「もしかしてベっちゃんも特別選抜部隊入り目指してたり?」

「ベっちゃんって……いや、まぁ、興味があるなら選抜試験的なの受けて見ろって言われたけどよ」

「なるほどぉ! ベっちゃんはわたしの仲間になるのかはたまたライバルか! 楽しみですね」

なんて雑談してる間に六本脚型は全滅。

けどまだ亡霊型が残っている!

「この亡霊型――でしたっけ? 厄介ですねー」

「ああ、飛行するヤツは厄介だぜ! 捕まりづれーし!」

「ですよねぇ」

何を思ったのか、装士イーメイレンは両手に持った華式直刀を放り投げた。

「ナっちゃん?」

「ここはお姫さまに任せてください」

更に、背負っていた華式直刀を放り投げ――地面に突き刺す。

「ベっちゃん、シュっちゃん、もうちょっと敵をこっちに連れてこれません?」

「はいはい、やってやるよ!」

「まっかせてー!」

両使短剣イージークの霊子砲と、霊子突撃銃アンドラステの霊子弾――その牽制射撃で亡霊型が一か所にまとまる。

っていうか最近こんな役割ばっかだな!

「多謝でーす」

やっぱなんかムカツクなコイツ!

「では、行きますよー。重戸結界じゅうどけっかい印縛土いんぱくと!」

瞬間、周囲の空気が震えた。

そして宙を舞っていた亡霊型が地面に叩きつけられる。

「これは――?」

《周囲の大気反応から魔術の一種だと判断》

「魔術――お前、まさか異能者アウトノミアなのか!?」

「そのとおりでーす。わたしの得意とするのは結界魔術! その力は――見てのとおり!」

そうか、最初に放り投げたあの直刀たち。

それぞれが基点となって陣を描き、その領域内に魔術の力を及ぼす。

力の及んでる領域がユウ・ナのいう所の"結界"て訳か!

「ちゃんと敵味方の区別も頑張ってるんですよー? さすがはお姫さまなだけはありますね!」

「自分でいうかよ!」

けれど、ユウ・ナの言う通りその結界内にはオレとシュピチュカの装騎も入っている。

なのに結界による重圧は全く感じない。

こういうタイプの魔術使に会ったことはないが――それでもかなりやり手だと感じるぜ。

「あとはコイツらを――」

「倒しちゃえばいいんだね!」

「はいっ」

「ヴラベツィー・ジェザチュカ!」

「アンドラステ・モドリット!」

《領域内の敵は全滅……いえ、反応あり》

「ベチュカ、空!」

シュピチュカに促され、オレは空を見上げた。

空からゆっくりと降りてくるのは海月型ティプ・メドゥーザ

なのだが、その触手に奇妙な物が掴まれていた。

「アレは……機甲装騎か?」

それは確かに機甲装騎に似ていた。

片腕や頭部が無かったり、やけにボロボロだったり、胸部から円筒状の何かが聳え立っている以外は。

瞬間、その円筒状の物がオレたちの方を向く。

まさか――アレは!

「いけませんねっ」

そして砲撃!

やっぱり、対装騎砲だ!

不意の一撃にオレたちは――

「無事か?」

「う、うん!」

周囲の結界が光を放つ。

これは魔術障壁か!

防禍結界ぼうかけっかい火途至不来ひとしずく……さすがはわたしです!」

「だから自分で言うかって!」

「それよりもあの「侵攻者」! 見たことないっ」

「スパルロヴ!」

《照合終了。自走砲型ティプ・サモヒブネーヂェロ――鹵獲した機甲装騎を自走式の砲台に改造した「侵攻者」です》

海月型に持ち去られた機甲装騎。

それがあんな風に改造されるのか。

中には戦闘で破壊されたような装騎、ダメージを負ったような装騎も見える。

「しかもご丁寧に実弾と霊子砲、両方用意してくれるなんてな!」

発火炎マズルフラッシュ霊子光アズルフラッシュ……激しい砲撃が繰り返された。

地面に降り立った自走砲型はその二本脚で地面を歩く。

動きこそはゆっくりだが、自走砲型と名付けられただけはあるな。

「一つ、二つ! チッ、やりづれぇ!」

「ナっちゃんの結界もあるし、まだマシ、かもしれないけどねっ」

「でも効率悪いですよねー。あ、ベっちゃん、その霊子砲最大出力でファイアーしてくれません?」

「任せろ!」

何を考えているかは分からないが、まぁいいだろう。

乗ってやる。

「行くぜ、ヴラベツィー・ボウジェ!!」

輝反結界きはんけっかい毘武防流ぴんぼうる

オレの放った暴風ボウジェが一体の自走砲型を撃ち抜いた。

その一撃は威力そのまま、ユウ・ナの作った結界の壁にぶつかる。

その瞬間――

「ヴラベツィー・ボウジェが曲がった!」

シュピチュカが驚きの声を上げた。

そう、曲がった。

まるで跳ね回るスーパーボールのように自走砲型を焼き払いながら結界内を縦横無尽に反射する。

「コントロールはこちらにお任せを。相手も混乱してるみたいです、トドメを!」

「ヴラベツィー・スヴェトロ!」

《目標の殲滅を確認。増援も確認できません》

「やー、なんとかなりましたねー」

「うん! ナっちゃんすごいね!」

無邪気に笑うシュピチュカとユウ・ナ。

そんな二人をよそに、オレは考えていた。

ユウ・ナはすごい。

あの強力な魔術に明確な目標。

魔術を抜きにしたってすごいのもよくわかる。

彼女は特別選抜プログラムに参加して、「侵攻者」殲滅の特殊部隊に入ろうとしている。

「オレは――何のために戦おうと思ってるんだろう」


挿絵(By みてみん)

インハリテッドキャラクター名鑑

「ユウ・ナ(誘・奈」

華國の皇族ユウ家の一員。

本人曰く、「わかりやすく言えばお姫さま」

若干おとぼけ気味でミーハーでノリの軽いところがあるものの、次期皇帝の座を虎視眈々と狙う野心家。

最新のツールや流行を利用した知名度、支持率アップを狙っている。

今回、ステラソフィア学園都市に来たのは特別選抜プログラムに参加し、「侵攻者」との戦いで名を上げることで支持率を上げられると思ったから。

デザインモチーフは自作小説「機甲女学園ステラソフィア」に登場したヒラサカ・イザナ及び女帝ユウ・ハ。

デザインもほぼ同じようだが、気持ちユウ・ナの方が髪の毛がまるっこい。

いや、わかるかそんな違い!

ヒラサカ・イザナを知ってるいるなら、魔術が使えるイザナとか実質最強なのでは? 感はある。


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