第51話:貫け! 脅威への「潜入戦」
『技呪術霊子砲、発射!』
異界航行艦シュプルギーティスから強烈な霊子の奔流が放たれる。
それは母型の表面を焼き、砕くがあまりダメージは大きくなさそうだ。
けれどそんなことは百も承知。
一番の目的は僅かでも母型の表層を薄くすること。
そして、
「今だ、全速全開!!」
スパルロヴ・ヴィーチェが母型へ接近するためのルートを開けることだ!
「ムスチテルキ隊はヴラベツの援護だ。「侵攻者」を倒して道を作るぞ。置いていかれるなよ」
「り! ってもシュプルギーティスからこんだけ離れても平気なの?」
「フチェラやプラーステフもついてる。それに――」
『ああ、こちらは任せろ。ヒノキ・ゲッコウ、ゲツガ出るぞ』
「なるほどですねー! ではこちらはこちらで暴れちゃいましょー!」
「ショータイム」
「ムスチテルキ隊、ヴラベツに負けるな。進め!!」
「「「諒解っ」」」
五つの閃光が「侵攻者」たちを駆逐する。
「ちょっと失礼ーっ!」
「うわ、ネーシャ!」
鎌剣ドラコビイツェの鉤爪がスパルロヴ・ヴィーチェの背中に引っかかった。
オレの速度に便乗する装騎イフリータ。
「うーん、ラクチンラクチン」
「ちゃんと運賃は払ってもらうぜ!」
「とーぜん! やるわよ、ドラコビイツェ!」
装騎イフリータは左手に持った鎌剣ドラコビイツェにアズルを流し、そして、放り投げる。
アズルの刃は大きく広がり、通り過ぎざまの「侵攻者」たちを次々と切り裂いていった。
「んじゃ、頑張りなさいよベチュカ!」
「お前もなネーシャ! ……ってかお前のことネーシャなんて呼んでたっけオレ……」
「呼んでた呼んでた! ケッコー前から呼んでた!」
「そうだっけか?」
なんだか違和感があるような、それこそ小さいころから慣れ親しんだ呼び方のような。
なんとも奇妙な感覚があるが――まぁ、特に支障はないか。
多分。
「ブルスト……」
そこに追い付いてきたのは装騎ククルクン。
無数のフチェラと自らから離脱させた攻撃端末機をお供に巨大な群れを形成している。
「ヴラベツ……調子は?」
「快調! グルルは?」
「おなじく」
「んじゃ、一発頼むぜ!!」
正面からうねる様に向かってくるのは鮫型。
その巨体を装騎で撃破するのは骨が折れるだろうが――
「問題ない」
ウングが装騎ククルクンの目の前で陣を組む。
虚空にチートコードを描き、常識を超えた異能の力を発揮するインヴェイダーズの持つ技呪術の一つ。
いや、それだけじゃない。
フチェラが鮫型の周囲に纏わりつき、まるで蜂球をつくるかのように球体を作った。
「フヴンリィ・ドストルイル……」
瞬間、装騎ククルクンから放たれた魔力の火花がフチェラの球に触れた瞬間、強烈な爆発が巻き起こる。
フチェラを犠牲にすることで鮫型のような巨大な「侵攻者」でも破壊できる、今まで見せたことのない鮮烈すぎる技呪術。
出し惜しみ無しの最終決戦だからこそ使える手ってことか!
「そゆこと」
「わたしももっと活躍したーい!!」
雀蜂型に後押しされながら前面に弾き飛ばされてきた(ようにしか見えない)のは装士イーメイレン。
クルクルと回りながら巨人型の胴体を引き裂いた。
「これぞ必殺、鋭月軌道! お姉さまに教えてもらいました!」
「シャープムーン・オービットな! てかお姉さまって」
ばあちゃんのことだというのは何となく分かるが、あのババア相手にお姉さまはないだろう。
ていうか、最初のころは「おばあさま」って呼んでたような……。
「いろいろあったんですよー」
なんて言いながら、装士イーメイレンが何やら合図を出した。
それに従うように雀蜂型が陣を組む。
「ってことで、戟圧結界・破威風裂灼亜!!」
まーた頭の悪そうな魔術を使うナっちゃん。
だがその威力は本物だ。
周囲の「侵攻者」がその結界に一気に引き寄せられ――圧縮、破壊される。
欠点は雀蜂型が数体一緒に巻き込まれることか……。
「お前らそんな技ばっかりなの?」
「何かを得るには何かを捨てなくちゃですよー」
「ちょっと悪役っぽいぞそのセリフ」
「ふっ、ヴラベツは全部手に入れようとするからな」
なんてどこかカッコつけたような言い方をしながら前に出てきたのはアーデルハイトの装騎アインザムリッターZ。
「なんだよその顔」
サブディスプレイに映るアーデルハイトはどこか引っかかる笑みを浮かべている。
「結構近づいたな」
「無視すんなよ!」
なんてつっこみながら正面に目を向けた。
母型「侵攻者」の圧倒的巨体。
もはや視界の全てがその体を構成する岩石で埋め尽くされている。
これだけ巨大なものが目の前にあると遠近感がおかしくなりそうだ。
その一部は焼けただれている。
異界航行艦シュプルギーティスの技呪術霊子砲によってダメージを受けた場所だ。
オレたちが狙うのはそこ。
「ヴラベツ、潜入はできそうか?」
「まだちょっと微妙だな。ツェラ、ヴィーチェの武装で突破できそうか?」
「可能だとは思う。念のための一押しは欲しい」
「グルル、ナっちゃん! なんかすごいやつお願いできるか?」
「もっちろんさー!」
「もちろんさ」
「だがその前に雑魚散らしが必要なようだな」
装騎アインザムリッターがツヴァイヘンダーを構えた。
母型の中から姿を見せるのはまだ残っていた近衛型。
「コイツらは任せろ。グルルとユウ・ナは突破魔術の準備を」
「りょうかい!」
「まかされた」
装騎アインザムリッターZの動きは相変わらず見事なものだった。
強烈な加速力を誇るブースターを利用し、一体の近衛型の懐へと飛び込む。
そして武装の巨大さを感じさせない動きで瞬時に一閃――近衛型を引き裂いた。
振り払いざま、アーデルハイトはツヴァイヘンダーモードを解除する。
その勢いでシルトの先端に取り付けられた片手剣シュヴェルトが飛び出した。
「これで二体」
片手剣シュヴェルトの刃は近衛型を貫く。
と同時に盾シルトを左手に構え、軽く掲げた。
そこに襲いかかる近衛型の一撃。
見事に盾で防ぎ、そしてその衝撃で流れるように片手剣シュヴェルトを回収すると、
「スツィンティリーレン」
突撃技でお返しをした。
ド派手な技こそないが、高速かつ最低限の動きで流れるように近衛型を引き裂いていく。
まさにアーデルハイトらしい戦い方だった。
「ふっ、派手な技なぞ花拳繍腿。試合はまだしも実戦では意味がない」
といいながら、再び盾シルトの先端に片手剣シュヴェルトを差し込みツヴァイヘンダーモードへと変化させる。
「だが、見た目通り威力を持ち、それを最大限発揮できる場所へ打ち込めたのなら?」
アズルがツヴァイヘンダーへ集まり、光が一気に強くなった。
「それは有効な一撃になる――リヒターローエン・ノートゥング!」
アーデルハイトの言う通り、振り払われた巨大な光剣は綺麗に複数の近衛型を焼き尽くす。
「では、やっちゃいましょう」
「そうしましょう」
「「技呪術結界・吾騎汰射符!」」
瞬間、装騎ククルクンの技呪術と装士イーメイレンの結界魔術が融合した大魔術が発動した。
それは目の前の敵を殲滅するための攻撃魔術――ではない。
その標的はオレたちスパルロヴ・ヴィーチェ。
強烈な魔力がスパルロヴ・ヴィーチェの体を包み込み、力を与える。
そう、これは"突破魔術"。
突破といっても色々あるが、今回の手段は――
「しっかりつかまれよ、ツェラ!」
「うん」
オレたち自身が強烈な弾丸となり――母型の大要塞に穴を穿つことだ!!
「前進!!」
加速に加速を重ね閃光となったオレたちは母型の中へと飛び込んだ。
ここからはオレたちだけの戦いになる。
速やかに母型の中枢に至り、それを破壊する。
それで多くの「侵攻者」は能力を大幅に低下させるはずだ。
可能な限り早く、可能な限り速やかに。
乙女型との交戦経験や、アデレードとアリツェのもたらした情報を元に母型の心臓部を狙う。
とは言えその身体は圧倒的巨体。
うかうかしていれば、あっという間に免疫機能のような「侵攻者」たちが集まってくるだろう。
多少なら簡単にあしらえる。
スパルロヴ・ヴィーチェの持つ戦艦クラスの圧倒的武装ならば。
事実、襲い掛かってくる無数の鳥型は成すすべもなく灰燼と帰している。
そして――たどりついた。
乙女型の中枢ともどこか似た――だがより巨大でより重厚なその場所。
「ここが母型の――」
「そう。中枢」
だがそこには――無数の衛士たちが待ち受けていた。
近衛型、巨人型、駆逐型――無数の「侵攻者」たちが待ち受ける。
やはり――そう簡単に破壊はさせないか。
その刃が、銃口がスパルロヴ・ヴィーチェへ向けられる。
「ヴラベツ」
だが不幸中の幸い。
そこで待つ「侵攻者」の多くは――――娘型だった。
「頼むぜツェラ、そしてアデレード!」
ヴィーチェユニットのアズル精製能力全てを装置の発揮の為に駆使する。
本当に効果があるのかはわからない。
だが、ツェラやアデレード、そしてアリツェが作り上げた秘密兵器。
それをオレは信じるぜ!!
「ソウツィットシステム――発動!!」




