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第5話:褐色肌の「同盟者」

チーム・ブローウィングの寮室。

オレは眠い目を擦りながら自室から出る。

「おはようございますわ」

「ざいます……」

リビングに広がる良い香り。

このチーム・ブローウィングでは毎朝アーラ先輩が朝食を作ってくれていた。

このステラソフィア機甲学園には他の学校とは少し変わったシステムが導入されている。

それがこのチーム制。

一年生から四年生までの各学年から一人ずつ――計四人で一つのチームとする制度だ。

チーム毎に部屋が一つ与えられ、ステラソフィアでの生活中は寝食を共にする。

「いつもありがとうございます……」

「いえいえ」

にこやかに笑顔を浮かべるアーラ先輩は本当、まるで母さんのようだ。

まぁ、オレの母さんはもっと破天荒な人だが。

「フッ、遠慮することないぞ! アーラの料理は絶品だからな!」

「テメーはもっと遠慮しろ」

いつものようにテレビの前に陣取りながら、どこか偉そうなカルラ先輩。

後輩の暴言に気を悪くした様子もなく悠々としている。

さすがというか、何というか。

とりあえず、朝はさっさとシャワーを浴びてメシを食う。

「今日の一限、なんだっけか……」

そんなことを考えながらリビングに戻ると、こんがり焼いたトーストに目玉焼きとベーコン、そしてスープとアーラ先輩の作る定番朝食が並べられていた。

「ヴラベツちゃん、どうぞ」

「ありがとうごさいます」

既に食べはじめているカルラ先輩にオレを待ってたのだろうアーラ先輩……。

「カケル先輩は?」

「まだ寝てるんじゃないですの?」

「いつもの事だな」

「あれ、でも今日の一限、確かカケル先輩と同じ講義だったような……」

今日の一限は装騎整備実習。

機甲装騎の整備方法をより詳しく学ぶ為の講義だけど、必修科目ではないから後になって履修する先輩も何人かいる。

それこそカケル先輩とか。

「あっぶねぇ! 寝過ごすトコだった!!」

ドタドタと慌てながらカケル先輩が部屋から飛び出てくる。

「ヴラベツ! 今日の一限、一緒だったよな!?」

「そうですよ」

「アーラ先輩、とりあえずトーストだけ! すぐ準備するから待っててヴラベツ!」

「はいはい」

まぁ、時間的にはまだ余裕そうだし平気だろう。

とか思ってると寮室のチャイムが鳴った。

間違いなくシュピチュカだな。

「ベチュカ、一限いこー!」

「カケル先輩の準備ができてからな」

講義の場所は屋内装騎稼動試験場。

始まる時間になるまで駄弁だべっていると、見知らぬ二人組がその場に姿を見せた。

どこか独特な感じのある白服で、褐色の肌に黒髪、身体の一部に奇妙な紋様が入っている。

渡航者インヴェイダーズか?」

インヴェイダーズ。

それは海を越えた遥か向こうに存在する大陸――通称、新大陸からやってきた人々の呼称であり組織名だ。

かつてはオレたちの住むマルクト共和国を始めとしたエヴロパ連合と戦争状態にあったインヴェイダーズだが、オレの生まれる前には戦争も終結。

今は国家連合と呼ばれる集まりの加盟国にもなっている。

「そういえば、今ステラソフィアの視察に来てるインヴェイダーズがいるって聞いたけど……あの人たちかな」

「男女のペアか。顔立ちも良く似てるし……兄弟かね? ちょっと声かけてこよっと!」

「カケル先輩!?」

割と雑な行動力――それがカケル先輩の持ち味だった。

「フルク・グルル。よろしくお願いします」

「僕はフルク・ビィ。いやぁ、急に声を掛けられるからびっくりしたよ」

「二人は姉弟きょうだいなんだって。姉のグルルちゃんと、弟のビィくん」

カケル先輩が二人をオレ達の所まで引っ張ってきて自己紹介をさせる。

「シュヴィトジット・ヴラベツだ」

「アマリエ・シュピチュカだよ! よろしくね」

まぁ当然オレ達も自己紹介をすることになる。

「二人はマルクト共和国との友好のために留学してきたんだってさ!」

「はい。我々インヴェイダーズが国家連合の一員になってから30年を迎えようとしています。ですけど我々に対する偏見も多い。だからこそ交流を深めることで我々のより良い未来の礎になればと思ったんです」

朗らかな笑顔を浮かべながら言うビィの側で、グルルもしきりに頷く。

たったこれだけのやり取りだが、少しこの二人の関係性が見えたような気がした。

やがて講師のシュタルケス・ソニア先生が姿を見せ、講義が始まる。

「このように、手順さえ守れば機甲装騎のリアクターは簡単に交換ができるわ」

「なるほど。規格をしっかり統一してるんだね。それぞれのパーツの互換性もある……僕たちと違って広く普及させることを目的にしてるんだね、姉さん」

「うん」

かつて、十年は先を行っていると言われたマルクトの装騎技術。

だからこそ現行のあらゆる装騎には基礎としてマルクト装騎の設計が使われている。

――というのがオレのばあちゃん談だ。

「その話、僕も聞いたよ。ああ、そうか……君は」

瞬間、警報が鳴り響く。

それが何か言うまでもない。

「「侵攻者」だ!」

当然オレは迎撃に出る。

それに続いてシュピチュカやカケル先輩――そして、

「ああ、姉さん。問題ないよ」

この姉弟もでるのか!

ビィの申請で見たことない装騎が姿を現した。

美しい白色で、翼のようにも見える背部のパーツが特徴的だ。

それに乗り込むのは――

「ってビィじゃねえのかよ!」

「装騎戦は姉さんの領分。僕にはとてもとても」

そう、グルルだ。

「フルク・グルル、ククルクン出ます」

一瞬、装騎ククルクンの全身にインヴェイダーズ特有の紋様が浮かび上がり、虹色の光を放出した。

それは恐らく、起動完了の合図なのだろう。

「ウング……」

そして、グルルが何かを呟いた。

瞬間、装騎ククルクンの翼が計14個の、羽のようにも爪のようにも見える形に分裂し、宙を舞う。

宙で円を描き、そして空に向かって虹色のエネルギーを放射した。

攻撃支援子機フィンか!?」

騎使と感応し、自在に攻撃を行う支援端末フィン。

それとよく似た装備だ。

「正確にはルムトアトトックル。僕たちの言語ではそういうんだ。まぁ、君たちの言うフィンとほぼ同じようなものだと思ってくれて構わない」

そしてその一撃は降ってくる「侵攻者」を数体、焼き払った。

それが開戦の合図だ!

「敵は亡霊型ティプ・ドゥフ。ボロ布を纏ったような見た目と、六本の鋭い爪が特徴的だね」

宙を素早く飛行し、爪で装騎の装甲すら切断する。

「意外と厄介な相手だなッ!」

「けれど耐久性はほとんど無いんだ。一撃でも当てられれば倒せるよ」

「知ってるよ! けどよ――」

「まかせて。行って、ウング」

装騎ククルクンがウングと名付けられたルムトアト――攻撃子機を走らせた。

亡霊型の素早さに負けず劣らず高速で宙を駆けるウング。

虹色の閃光がある亡霊型を焼き払い、ある亡霊型を地上近くまで誘い出し、ある亡霊型の動きを阻む。

「今だ。ヴラベツくん」

「任せろ!」

動きが止まったその瞬間を狙い、両使短剣イージークで切り裂く!

「なるほど! すごい騎使だね、グルルちゃんって!」

シュピチュカも霊子突撃銃アンドラステによる狙撃で着実に亡霊型を仕留め、

「先輩として負けてられないね!」

カケル先輩もワイヤーエッジで敵を捕縛――そして切断。

「しっかし、数が多いぜ!」

魔電霊子砲ヴラベツィー・スヴェトロを撃ち放ち、何体かの亡霊型を焼き払ったが数はまだまだ多い。

「ビィ」

「うん。ヴラベツくん、シュピチュカちゃん、カケルさん、今から僕が座標を送ります。みなさん、そこへの攻撃をお願いします」

ビィはそういうとタブレットを手に何やら入力を始める。

そしてビィの言っていた座標というヤツが装騎スパルロヴへと送られてきた。

狙うべきは――

「全く明後日の方向じゃねーか!」

亡霊型の集団、そこから僅かに逸れた位置――そこを狙えという。

「いいから頼むよ、ヴラベツくん」

「仕方ねーな! ヴラベツィー・スヴェトロ!」

シュピチュカの装騎イツェナ、カケル先輩の装騎テンペストもビィの指示に合わせて攻撃を開始した。

何度か座標が送られ、そこを攻撃する。

「ありがとうみんな。準備はできた――だよね、姉さん」

「うん」

「準備……?」

装騎ククルクンから虹色のエネルギーが放出される。

その力は、空中に静止するウングに伝わった。

「空に、模様が!?」

ウングを点として宙に描かれた紋様。

それはまさに魔法陣だ。

「その通り。僕らの使う技呪術は君達のいう魔術のようなものさ」

空気中の霊子へ語りかけることのできる特殊な才能(アウトノミア)を持つ人々――魔術使。

世界の作りを一瞬歪め、そこから霊子アズルホログラムのように事象を擬似的に――だけど事実として再現する能力。

そして装騎ククルクンが、グルルが宙に描いたあの魔法陣も世界の作りを一瞬歪める為のもの。

言うなればチートコードを空に描き、超常を為す。

そしてこれは力を意味するフルクの一族に伝わる上級技呪術。

「フヴンス……イドグムント」

放たれるのは光の波動。

大気を揺らし、敵を焼き尽くす灼熱の閃光。

その一撃の前に敵は無力となる。

とかなんとかさっきからビィが実況だか解説だかをしている。

ああいうのは止めても無駄なのでとりあえず聞き流し、目の前の出来事に集中することにした。

「しっかしすげぇな……」

その威力はビィの解説通り驚異的なものだった。

一箇所に集まった亡霊型「侵攻者」を次々と焼き払う。

一箇所に……?

「そうか、お前グルルにトドメ刺させるために!」

「その通り! あれだけの数だ。纏めて倒せるならそうした方が楽だろう」

ビィがオレたちに送っていた指示、それはバラバラだった亡霊型を一箇所は集めるためのもの。

そのタイミングを見計らって、グルルのあの閃光魔術――いや、技呪術だったか――で仕留めさせたんだ。

光が収まり、空中に展開していたウングも装騎ククルクンの背へと収まる。

「「侵攻者」の全滅を確認。お疲れ様、姉さん」

「うん」

ふとオレの視界の端に人影が見えた。

「あれは……」

オレは装騎スパルロヴから降りると、オレたちのいるこの場所へ近づいてくる二人組に顔を向ける。

「すごい能力ですね……インヴェイダーズの紋章装騎ククルクンですか」

そう呟く女性にオレは見覚えがあった。

この前、ちょっとだけ見かけたŽIŽKA(ジシュカ)のエージェント、名前は確か――

「アーデルハイト、少し落ち着いて」

そう、アーデルハイトだ。

そして今、口を開いたのはツェラ。

「これはこれはŽIŽKAのお二人さん。まさか僕たちの活躍を拝見に?」

薄々分かってはいたけど、やっぱりツェラもŽIŽKAのメンバーなのか。

「そうですね。ツェラが気になるというから見てたんですが――」

ツェラが急に足を進める。

その歩む先は……オレのとこ?

「あの黄色い装騎、ヴラベツの?」

ツェラが指をさすのは装騎スパルロヴ。

「スパルロヴ。オレの相棒さ」

「そう」

どこか素っ気ない一言。

けど、その目は真っ直ぐ装騎スパルロヴを見て離さない。

「ツェラ?」

「ヴラベツ、これ」

ツェラがオレに手渡したのは一冊の薄い冊子だった。

その表紙には――

「特別選抜プログラム……?」

「ツェラ、その資料は極秘の――」

声を上げるアーデルハイトをツェラが制する。

「「侵攻者」殲滅の為の選抜部隊。その選考の為の試験がある。興味があるなら、参加して」

「オレが?」

ツェラは静かに頷くと、オレへと背を向けた。

「行こう、アーデルハイト」

「は、はい……」

去っていくツェラとアーデルハイト。

オレの手に残された特別選抜プログラムの資料。

「オレが――選抜部隊に……」

もしもその部隊に入ることができたのなら、この戦いを少しでも早く終わらせることができるんだろうか?


挿絵(By みてみん)

インハリテッドキャラクター名鑑

「フルク・グルル(Frc Grl」

海の向こうにある通称「新大陸」からやってきた渡航者インヴェイダーズと呼ばれる組織の少女。

口数は少ないが結構感情が豊かで動作が大げさ。

技呪術という能力によって複数の攻撃子機を自在に操り連携させるというとびぬけた空間把握能力が特徴。

名前の由来は力(Force)と少女(Girl)。

安直である。

装騎ククルクンはマヤ神話の神でケツァルコアトルと同一視されるククルカンから。


「フルク・ビィ(Frc By」

グルルの双子の弟。

姉に対して口が達者で説明したがり、解説したがりのオタクタイプ。

インヴェイダーズであるため、技呪術を使った機械操作も可能なのだが姉の方が才能があるからと自分はあまり使わない。

名前の由来は少年(Boy)。

安直である。


ちなみに、「インヴェイダーズ」と言う名称は彼らの自称であり、組織名であり国名として扱われている。

由来はマーベルコミックのキャプテン・アメリカなどが所属するヒーローチーム「インベーダーズ」から。


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