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第49話:赤き星への「大攻勢」

「ついにこの時が来ましたね」

神妙な面持ちでスズメは呟いた。

「はい。ヨロタンくんが全艦の無事を確認しました」

「つ、ついに始まるんですね。火星侵攻マルス・ウートク作戦が……」

「リブシェちゃん緊張してます?」

「当たり前です! 月の時よりも大規模な作戦。それに……」

「そうですね。ついに、決戦です」

「決戦はいーけどさー、こんな状態で挑むの?」

アネシュカはヴラベツに視線を向ける。

そう、未だヴラベツは子どものまま。

「そうですね。本人としてはやる気まんまんなんですけどさすがに苦しい、ですかねぇ」

「とは言えお姉さまも戦ってくれるのなら心強いじゃないですかー!」

「そうだな。単純な戦力としてならヴラベツが万全状態のムスチテルキ隊と比べても上かもしれない。しかし――」

「身体、大丈夫?」

二人があの爆発に巻き込まれてからかなりの時間が経った。

アデレードの解析によると時間経過で元の身体に戻るとはいうが、その際の負荷も大きいだろうという予測もされていた。

まだ若くて体力もあるヴラベツはまだしも、スズメへの負担は特に大きいだろうとも。

「平気ですって! 若い子に負けてはいられません! まぁ、ただそろそろ元に戻っちゃうかもしれないですね」

スズメは今の身体の違和感に気付いていた。

心と身体の乖離が大きくなっていくような感覚。

「明日には火星侵攻作戦の第一段階が始まる。各艦隊による多方面攻撃により「侵攻者」の防衛部隊を崩す」

「オレもいきたい!」

「ベチュカはもうしばらくお留守番っしょ」

「小さくたって装騎には乗れる! 戦えるぜ!」

元気にピョンピョンと跳ね上がるヴラベツ。

その口調はいつも通りの喋り方に近くなってきている。

まだ記憶が完全に元通りとはいかないようだが、この変化もスズメがそろそろ今の終わりを感じる理由だった。

「分かりました。ベチュカには待機をしてもらいます」

「えー、待機ぃ?」

「絶対に出撃させます。それは約束しましょう」

「ほんとに?」

「私が嘘をついたことってありましたか?」

「たくさんあった。ひのきの林は完全えいよう食とかいってた!」

「それは本当です!」

「えー」

とまぁなんだかよく分からないやりとりをしながらもヴラベツは待機という事で話は落ち着いたようだった。

「本当ならば、ヴラベツを要に据えたかったのですが今のところは仕方ないですわね」

そこに姿を見せたのはアデレードとアリツェ。

「アデレードちゃん、決戦に向けての準備はどうですか?」

「秘密兵器は問題なく」

「秘密兵器って?」

「ええ。お楽しみに……もっとも相手を吹き飛ばすようなものではないので過度なご期待は」

雀蜂型ティプ・ヴォサの増産も順調……ちょっと、チョコ臭い、けど……」

「もうそれは仕方ありませんわ」

「可能な限りの手は打っているということか――我々も全力を尽くさねばな」

「なーに、アタシに任せなさい!」

「わたしもがんばっちゃいますよー!」

「グルルも」

「オレだってがんばるもん!」

「では、最終決戦に向けて!!」

そして、作戦決行の時はやってきた。

『パッセル、モワノー、シュペルリンク、ヴェレーブ――各艦砲撃体制に入りました』

技呪術霊子シャマンスキー・オドストジェルの充填は?』

『もう間もなく!』

『多艦との連携を怠るな』

『諒解でございます!』

『技呪術霊子砲充填完了!』

『照準完了――何時でも撃てる』

『各艦も準備完了。号令はヒノキ艦長、おねがいします!』

『技呪術霊子砲――発射!!』

宇宙を駆ける五条の閃光。

それが作戦開始の合図だった。

五方面から異界航行艦シュプルギーティス級による同時砲撃。

そして――

護衛艦プラーステフ前進! 頼むぞ、ビィ』

『諒解、プラーステフ及び無人機フチェラ全投入! 出し惜しみ無しでいきますよー』

『ムスチテルキ隊、準備いいな?』

「すぐにでも」

『では、出撃!』

「ムスチテルキ隊、DO BOJE!」

「サエズリ・スズメ、行きます!」

そしてすぐに煌めきが宇宙そらに瞬いた。

「いっぱい集まってきたジャン!」

「まるで急につつかれた蜂の巣ですねー」

蜂の巣(プラーステフ)……まけられない」

気合を入れたグルルに呼応するようにフチェラの動きにキレが増す。

霊子の閃光を放つと鳥型ティプ・プターク「侵攻者」を迎撃した。

「数は膨大だが――」

「多ければ多いほど雑にブッ放せるから楽しいですねー!」

「司令……」

スズメの能天気さにアーデルハイトは頭を抱えるが、実際問題スズメの動きはすさまじかった。

「侵攻者」を切り裂くと同時に相手を蹴って方向転換――そして別の「侵攻者」を撃破する。

そんな荒業を見ていると暗に「まずは敵をできるだけ多く倒せ」と言われているようだ。

「お姉さまの言うことは一理あっちゃいますねぇ~。ってことで、波塊結界はかいけっかい典兵嵩闘テンペスト!!」

渦巻く魔力の竜巻が、周囲の「侵攻者」を吸い寄せ巻き込み破壊する。

「グっちゃんもどかーんとやっちゃいましょー!」

「フヴンス・イグドムント……」

そして迸る魔力奔流――それは今までにも増して眩い輝きで目を焼いた。

『派手に暴れてますわね。私達も負けていられませんわ!』

『プラーステフのコントロールを譲受……援護しマス』

「てかアンタら秘密兵器とやらは!?」

『用意はしてる。でもあれはベチュカが万全じゃないと上手く機能しない』

アネシュカの問いに答えたのはツェラだった。

『そういうことですわ。アレはちょっと特殊でしてね』

「何、秘密兵器とやらを頼りに戦ってはいられまい。信じられるのは己の力――霊子全開!」

アーデルハイトの装騎アインザムリッターZ(ツヴァイ)に魔電霊子の輝きが集まる。

「突貫しろ、アインザムリッター!!」

「……ツヴァイ」

「ツヴァイ! そこまで言わないとダメなのか!?」

「ダメ」

「グルルにそう言われたら言うしかないが……」

段々と火星に近づきながらの大攻勢。

異界航行艦シュプルギーティスとアデレードの母艦を中心に、護衛艦プラーステフとフチェラ、そして雀蜂型が迎撃に出てきた「侵攻者」を次々と打ち倒した。

「イマんとこ順調ってカンジ?」

「ですですねー」

「油断大敵……」

「その通りだ。まだ母型ティプ・マトカ近衛型ティプ・ストラーシュも姿を見せていない」

「出てきてくれなければ助かるんですけどねー。なんて甘くはいかなそうですよ」

『「侵攻者」接近! 近衛型ティプ・ストラーシュです!』

母型と火星を守る近衛兵は「侵攻者」の中でも屈指の強さを誇りながら、数も膨大。

そしてその近衛型を先導するのは――

「あの近衛型、見覚えがあるっしょ」

「本当ですねぇ。なんだっけ?」

「V……」

手に持ったのは両使短剣イージークにも似たやや大きめの短剣。

そう、あれはアデレードが生み出したヴラベツの戦闘スタイルを学習した近衛型だった。

『"あの戦い"で逃げ出したと思ったら、母型と合流してましたのね!』

「アデレード、あの「侵攻者」は君が作ったのだろう? コチラ側に引き込めないのか?」

『信号は飛ばしまくってますわよ。ですが聞きませんわ。どうやら完全に母型の下についたようですわね』

「裏切者か」

『ま、「侵攻者」として裏切者というのならば私達のことになるのですけれど』

「最後まで「侵攻者」として戦うねぇ。こー言っちゃなんだけど、ベチュカってそんなキャラでもないような」

「いや、きっとあの近衛型は雪辱を晴らしたいのだろう。そう考えるのならばヴラベツ的だ」

「理由はどうあれ、楽しそうな相手ですね。あのベチュカ風近衛型は私が抑えます!」

口元に笑みを浮かべると装騎スパロー・オリジンが一気に飛び出す。

「やれやれ、困った司令官だ……」

アーデルハイトはハァとため息をついた。

「疑似的に孫と戦うようなものですからね。身体が若いうちに一回くらいはやっておきたいんですよ!」

とは言え、スズメは感じていた。

両手と両足に力が入らなくなってきていることを。

それはおそらく、もう少しで奇妙な若返りの効果が消えるということだ。

「ゲッコーくん、ベチュカの発進準備を」

『はっ!』

「さて、最後に楽しませてもらいますよ……」

そして装騎スパロー・オリジンと近衛型Vの両使短剣がぶつかり合った。

そこに殺到するような動きを見せる他の近衛型「侵攻者」。

だが――

「甘いです!」

スズメはその動きを利用する。

他の近衛型を撃破したり、蹴りつけた反動で方向を変え、加速するお得意の戦法だ。

近衛型Vが何やら腕を横に出すような仕草を見せる。

その動きで近衛型を含めた他の「侵攻者」が装騎スパローOと近衛型Vを避けるように動いた。

「数で攻めても勝てないってことに気づいたようですね。ですけど――」

一対一で勝てると思うならそれは甘い!

そういうように装騎スパローは怒涛の攻撃をけしかける。

とは言え、それを捌く近衛型Vもなかなかのものだった。

ヴラベツの戦闘スタイルを学習した上で更に独自の戦い方を生み出せる。

それがこのムスチテルキ隊を基にした近衛型なのだから。

「なるほど……コイツは意外と、面白いっ」

スズメは右腕を薙ぎ払うように力を込める。

不意に走る痺れ――

「力がっ……」

それはほんの僅かな隙――しかし近衛型Vは見逃さなかった。

近衛型Vが何か合図をするように左手を掲げる。

それに反応し、四体の近衛型が装騎スパローOを狙い、走った。

数による圧倒――ではない、適切なタイミングで適切な支援を求めるチームワークの戦い。

それはアデレード艦隊との戦いで近衛型Vが学んだものだった。

「クッ、こちらの限界を読まれてるっ」

手足が震える。

恐怖でも武者震いでもなく、単純に力が入らない。

虚脱感が身体を襲う。

「あと、もう少しッ」

気合で身体に鞭を振り、近衛型を一体撃破した。

風を感じる。

スズメは確かにその風を感じた。

もう少し。

あと、もう少し。

そして再び近衛型Vと装騎スパローOの持つ両使短剣がぶつかり合った。

力が入らない。

押し負ける。

刃が閃く。

その一撃は――虚空に散らされた。

「後は頼みましたよ――ベチュカ」

「ったく無理すんなばあちゃん!!」

風が吹いた。

挿絵(By みてみん)

インハリテッドメカニカル名鑑

「護衛艦と無人機」

異界航行艦の他にŽIŽKAが主力として使用している兵器。

元々はインヴェイダーズの使用していた無人兵器にエヴロパの技術を合わせたもの。

イメージとしては完全に機動戦艦ナデシコのチューリップとバッタ。

シュプルギーティス隊では主にビィがプラーステフを、グルルがフチェラを操っていることからわかるように、各艦に数人、操縦者が乗っている。

シュプルギーティス隊は今までビィとグルルの二人にその運用を任されていたが、火星侵攻作戦へ向けた増強後はツェラにも、またアデレード艦隊との合流後はアデレードとアリツェにも一部指揮権がゆだねられた。

これは「侵攻者」の指揮系統とインヴェイダーズの指揮系統が似通っているから可能だった。

ちなみにプラーステフは蜂の巣、フチェラはミツバチを意味する。

アデレードの新造した「侵攻者」が雀蜂型なのもそれに合わせたためか。


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