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第44話:ムスチテルキ隊「再結集」!

母型ティプ・マトカだって!?」

それは以前出会ったあの浮島みたいな「侵攻者」か。

この乙女型ティプ・ヂーフカ要塞をさらに巨大にしたようなあの……。

「どうしてお母様が直接出てくるのだわ!?」

「この前も一度戦ったな……」

けれどあれだけ巨大な「侵攻者」、今の戦力でどうにかなるものなのか!?

「今は退くのが得策ですわ。逃げなさい人間達」

「逃げろって……」

「アデレードの言う通り。今までの戦闘でダメージもある。継戦しても消耗戦になるだけ。そうなれば……」

勝ち目がないって訳か。

「素直に従来の予定通り火星周辺での決戦を待つべき」

「わかった。ムスチテルキ隊、撤退だ!」

「ワ、わたしとツェラさんは魚型ティプ・リバデ脱出を。お姉様モ!」

「先に行くのですわアリツェ」

「お姉様?」

「良いですか? 私はまだ納得していません。人間に膝を屈するなど乙女型としての誇りが許しませんわ」

アデレードの瞳には炎が宿っている。

決起の炎が。

「私の最期は私が決める。この場に人間達は不要。人間に肩入れする弱い「侵攻者」達も!」

「アデレードお前……」

言い方は不器用だが、アデレードの言いたいことはわかった。

要約するなら「ここは私が食い止める。お前達は逃げろ」ってことか。

「逃げるならお前も一緒だ、アデレード!」

「うるさいですわね!」

不意に鳥型ティプ・プタークがその先端をオレ達へとむける。

「人間達の選べる選択肢は二つ! ここから逃げるか、ここで死ぬかですわ! それ以外は――認めない!」

「ったく、捻くれた姉だな!」

「ヴラベツさん、ココはお姉様の思うようにさせてくれませんカ?」

アリツェが意を決したように口を開いた。

「時間も、ありません。決めあぐねればあぐねるほど余裕はなくなります……」

わかっている。

敵はあまりにも膨大。

ということも含めて被害を最小限にとどめてかつ主力を逃すためには誰かが囮になるのが最適だと。

爆煙が吹き抜けてくる。

「チッ、防衛線が破られそうですわね。貴女達がすぐに逃げ出してくれれば良かったものを」

「ッ……わかった。オレも退く。ツェラとアリツェも撤退を!」

装騎スパルロヴに乗り込み、反転させる。

「アーデルハイトは!」

騎士型、アーデルハイトは答えない。

「お前……」

それはきっとアデレードについていくーーそういうことなんだろう。

「アーデルハイトがいるなら安心だな」

騎使型が静かに頷いた。

「またな」

オレはそう一言だけ残して帰艦した。

激しい戦いは星の輝きを飲み込むように光を放つ。

その光を背にして異界航行艦シュプルギーティスはその場を後にした。

「強力な霊子反応……自爆でもしたんでしょうか」

シュプルギーティスの指令室でリブシェが呟く。

戦いの様子が気になり指令室に来ていたオレが目にしたのは強烈な閃光。

かなりの距離を離れた筈だが、他の星々を圧倒する輝きが見えた。

だがそれも、次第に小さくなり……戦いの終わりをオレ達に知らせる。

アデレード艦隊の反応はもう掴むことはできなかった。

「あ゛ー、死ぬかと思いましたわ!!!」

格納庫でアデレードが叫び声を上げる。

「無事だったのか!」

「んなワケねーんですわ! "本体"の八割は欠損、艦隊も壊滅! 僅かな製造プラントをなんとか残せた程度の大損害ですわよ!!」

「でも、生きててよかった」

「バッカじゃないの!?」

「それにアーデルハイトもな」

騎士型は答えない。

どこか気まずそうな雰囲気だけは感じられる。

まぁ、アイツの性格なら無理もないかもしれない。

「ったく、さっさと降りて来たらどうですの!? 一番居場所のない私が堂々としてるのですから貴女も堂々とするのですわ!」

理由はどうあれ今まで散々敵として戦ってきたんだ。

何もなかったような顔はできない。

「だぁもう!」

アデレードが業を煮やしたように騎士型に近付くとその背によじ登りうなじの辺りで何かをしはじめる。

それからすぐ、騎士型の背が開き中から何かを引き摺り出した。

「アーデルハイトか?」

「……」

アデレードの背後から視線を泳がせるアーデルハイト。

その姿はオレ達の知っているアーデルハイトとは違った。

以前より髪も伸び、アデレードやアリツェのように「侵攻者」らしい風貌になっている。

それでもその真っ直ぐな瞳や顔立ちは変わらない。

なんというか……

「アっちゃんカッコよくなっちゃいましたねー! 裏山!!」

言葉を発しづらい空気をあっさりナっちゃんが吹き飛ばす。

「あ、アっちゃん……?」

さすがのアーデルハイトも困惑したようにそんな声を上げた。

「アーデルハイトだからアっちゃんじゃないですかー! 呼ぶときの為に取っておいたんですよ」

「取っておいた、とは……まるで意味がわからん」

「あー、だからアタシを"カっちゃん"って呼ぶワケね」

アーデルハイトもアネシュカも名前はアからはじまる。

被らないようにってことか。

まぁ、そんな話はどうでもよくて。

オレが言いたい言葉は――

「……おかえり。アっちゃん」

グルルに先に言われたがそういうことだ。

「おかえり、アーデルハイト!」

「……ただいま、帰還した」

「"ただいま"だけでいいのに」

そうは言いながらもアーデルハイトなりの照れ隠しなのはわかっていた。

何はともあれ、これでムスチテルキ隊完全復活だ!

「それで今後の予定はどうするつもりなのですの?」

「プランに変更はない。あなたの頭に入っている通りに」

アデレードの言葉にツェラが答える。

「火星の「侵攻者」基地に対する多方面からの奇襲攻撃ですわね」

「不満が?」

「特には無いですわ。ですが……」

「敵は、強大。それはわかっている」

オレ達シュプルギーティス隊でも母型の本体一つと戦うには戦力が足りない。

それが火星の本拠地自体に攻撃を仕掛けるとなるとシュプルギーティス級五隻で足りるのだろうか。

たしかに護衛艦プラーステフも大量に用意してある。

それでも――

「難しいかもしれませんわね」

アデレードはそう判断した。

「ですが――手はなくもない」

「本当か?」

「そこの作戦については今後協議をするとしましょう。今は少し休ませてくださる?」

アデレードは伸びをすると艦の奥へ歩いていく。

「アデレード、どこへ?」

「なんだか良さげな部屋があるのでしょう? ビオトープ、と言いましたっけ?」

「案内するぜ。アーデルハイトも来いよ。ドゥが待ってるぜ」

「……ああ」

「ってかナンでアイツ、こんなに艦について詳しいワケ?」

「お姉様はわたしとメモリーを共有してマス。ソレにツェラさんとも同期をしましたカラ」

同期――アデレードの要塞内でツェラが被ったヘルメットみたいなのがその装置か。

「彼女はわたし達のことをわかってくれた。だからここにいる」

「ソウです」

呟くアリツェの表情にはどこか安堵が見える。

「よかったな」

それに気付いたオレの一言。

「ハイ」

アリツェは小さく笑みを浮かべてそう答えた。

「ってことは、同じように同期しちゃえば他の「侵攻者」も仲間にできたりしないんですかねー」

「可能性はある。リスクもある。そこは見極めないといけない」

「……リスク?」

「敵にコチラの情報を奪われる。わたしの持つ知識が。それは致命的な損害」

「お姉様と同期スルのも、正直賭けでしタ。お姉様がわたしと同じ存在であるコト、そしてヴラベツさんの一押しがあったカラ成功したのデス」

「でも、アリツェもアデレードも仲間になれたんだ。きっと他の「侵攻者」達だって仲間になれるさ」

「ソウですね。希望はありマス。わたしやお姉様と同ジク、アーデルハイトさんを母とした子たちなら」

「そうか、アリツェ達もツェラと同じような存在ってことか」

「わたし達のDNAと知識はアーデルハイトさんを基にしてマスから」

だからどこかツェラと似てるところがあるのか。

「ん?」

ふとアネシュカが何かに気付いたような顔をする。

「ってことはツェラもそうだけどアリツェ達もアーデルハイトの子どもってコトになんの?」

「クローンの方が近いとは思いマスが――そうですね。母と言っても構わないでショウ」

「だってさー。かわいい娘が三人もできたジャン!」

「確かにかわいいが……」

アーデルハイトはハァとため息。

というかやっぱり多少の愛着はあるらしいな。

それは乙女型要塞内でアデレードを助けたことからも分かってはいたことだけれど。

「血のつながった肉親のようなものだと分かれば情も湧く。私には肉親はいないしな」

あっさり言ったことだが、何となく予想もついた。

強いて言うなら一番の"身内"とも言えるのはきっと――

「ふぅん、情報よりいい場所ですわね」

アデレードは地面に寝ころびうんと伸びをする。

そしてそのまま目を閉じてしまった。

自由なヤツだ。

そしてアーデルハイトは――

「ドゥ、久しぶりだな」

愛亀との感動の再会ってか。

最初アーデルハイトが亀を連れ込んでいると知った時は驚き以外のなにものでもなかった。

きっとドゥのことを何よりも大切にしていたんだろう。

ならなんでそんな亀をこんな危険な場所に連れて来たのか。

それはきっと――アーデルハイトにとって家族と言えるものはドゥしかいなかったからなのかもしれない。

「ヴラベツ、ありがとう」

「おう」

今はしばしの休憩の時。

すぐにまた戦いは始まる。


挿絵(By みてみん)

ステラペディア

「魔導」

魔術と魔法の総称。

主に前者は個人の才能や素質で大気中の霊子を変質させることで行うもの。

後者は聖霊や神などの上位存在の力を借りるものを指す。

ステラソフィア世界においては魔術、魔法両者ともに使用者の数は少なくその術者は異能力者アウトノミアとされている。

エヴロパ地方に伝わる神話では、はるか過去に異世界への穴が空きその向こうから現れた人々の扱った技術が魔導とされる。

なので魔導の素養がある人々は、その異世界人の血を引いているのでは? という学説もあるほど。


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