第43話:終戦へ至る「可能性」
「チッ、騎士型に近衛型ーー両方相手にするのはキツいか」
「ベチュカ、そういう時こそ連携っしょ!」
「わたしたちのチームワーク、見せちゃいましょう!」
「ご照覧」
装騎ククルクンから放たれた攻撃子機。
それによる霊子砲の一斉射を合図にオレ達の戦いが始まる。
その一撃を避けるためにバラけた四体の近衛型。
騎士型だけは最低限の動きで中央を超高速で突破してきた。
「騎士型はオレが止める。アネシュカ、頼むぜ!」
「り! 狙うのはーーGよ!」
バラけたところを各個撃破。
シンプルだが当然な作戦だ。
グルルの戦闘スタイルを学んだ近衛型Gは鳥型を操っての遠隔攻撃が厄介だ。
となれば早めに潰しておきたい相手。
だからこそ初手の一撃を装騎ククルクンに任せた!
「予想どーりGが飛び出したわね!」
「グルルの戦い方、あれがよく知ってる……なら」
「難なく回避してくるってのが逆に墓穴を掘ることになっちゃうんですねー」
絶え間ないウングによる威嚇射撃の雨を他の近衛型は上手く前に進むことができずに苦戦している。
とは言えアイツらだっていつまでも手をこまねいてはいないだろう。
時間との勝負だ!
そしてオレはーー
「アーデルハイト! 見ろ、オレ達ムスチテルキ隊を!!」
アーデルハイトを食い止める!
刃と刃がぶつかり合う。
「侵攻者」となってもやはりアーデルハイトは手ごわい。
倒してはいけないともなればなおのこと。
相手を殺さずに戦闘不能にする――それを自分以上の実力の相手にしなければならない。
「「侵攻者」になって多少動きは鈍ってる……ってのを贔屓目に見ても五分五分か」
あまりダメージを与えずにアーデルハイトとしての自我を取り戻せればコッチとしても助かるのだが。
「まぁ、難しいか!!」
激しい衝撃が装騎スパルロヴを伝ってオレの身体を揺らす。
「そっちは大丈夫か!?」
他のみんなを気にする余裕はないが――気にしないといけないのもつらいところ。
ここで近衛型になだれ込まれても困るからな!
「ヘーキ、だけど、意外と粘るゥ!!」
暴風のように吹き荒れるのは鳥型「侵攻者」。
やはり鳥型を操れるのは厄介みたいだ。
「けど、いけるだろ!」
「やってやりますよーだ!」
「やっちゃいましょう!」
「そうしましょ……」
不意に魔力の渦が巻き起こる。
それは装騎ククルクンのウングを基点にした装士イーメイレンの結界魔術。
それはグルルがナっちゃんの結界魔術を十分に理解してこそ発揮できる連携。
「……楓叉結界」
「巫在留土!」
そしてその効果は――――近衛型Gと装騎イフリータを取り囲む強固な結界。
それはつまり――
「タイマンに持ち込むってことか!」
「さ、やるわよアタシ!」
装騎イフリータと近衛型Gの一騎討ち。
けれどあの状態なら恐らく装騎イフリータが有利だろう。
遠距離戦と鳥型を利用した物量戦が得意な近衛型Gと接近戦に置いて驚異的な強さを見せるアネシュカなら考えるまでもない。
そして実際、
「ドラコビイツェ・パジャート!!」
装騎イフリータの鋭い鉤爪のような一撃は近衛型Gを撃破した。
それとほぼ同時、
「一足遅かったジャン!」
他の近衛型が合流する。
「とはいえ油断は大敵だったりしますよー」
「ヴラベツ、生きてる?」
「余裕だぜ!」
なんて言いつつもやはり騎士型は強い、が――流れはオレたちに向いている気がする。
オレがここでなんとか凌げば凌ぐほど、アーデルハイトを助けられる確率が上がる、
そう考えれば頑張れるってもんだ。
「次はN型!」
「それなら任せちゃってください! 重戸結界・印縛土っ!」
揚々と得意の結界魔術を行使するナっちゃん。
しかし、特に使用頻度の高いこの術でナっちゃんの戦い方をよく知る近衛型Nを捕らえることは不可能だ。
「モチロン、そんなことは百も承知! 相手は確実に避ける……それがわかればよかったりします!」
「見えた……」
グルルの冷静な呟きと共にウングが数基、陣形を立て直す。
「あと一本!」
「おまかせ」
さらに一基のウングが装士イーメイレイの投げた華式直刀を弾き飛ばした瞬間、陣が完成した。
「範天結界・洲闘璃威無!」
近衛型Nを取り囲むように配置されたその魔術陣。
そう、ヤツが印縛土を回避することを見込んだ上でその魔術陣を利用した別の結界魔術の圏内に入るように仕向けたのだ。
激しい重圧を放つ印縛土とは反対に、激しい重圧を――解き放つ。
それも魔術陣の中心にいた近衛型Nからすれば、身体を内側から引き裂かれるような一撃だ。
「そして仕留める! 美味しいところばっかメンゴメンゴー」
そこに装騎イフリータの鎌剣ドラコビイツェの一撃。
近衛型Nも撃破!
「さらに近衛型接近」
「AとV――アタシとベチュカがベースのヤツかァ」
「厄介そうですねぇ~」
「ま、そーでもナイんじゃない?」
そうだ。
何だかんだ言ってもまだ偽物は偽物。
ただ表面を真似してるようなヤツらにアネシュカ達は負けない。
そしてオレも、お前に負けない!
「だからお前も負けるな、アーデルハイト!」
そう言えばオレはアーデルハイトと戦ったことがどれだけあっただろうか。
艦内でシミューレーターを一緒にしたことは何度もあった。
けれどこうやって直接刃を交わすってのは――もしかしたらなかったような気もする。
それこそ騎士型としてのアーデルハイトとしか戦ったことが無かった気がする。
「……オレは戦いたかった。ずっとお前と、本気で! お前はどうだアーデルハイト!」
騎士型が一旦距離を開くと、剣を構え急加速。
「スツィンティリーレン――いや、」
正面から――いや、違う。
「アインザムゲシュペンストか!」
正面から来ると見せかけて超軌道で背後に回り込むアーデルハイトの技。
だが――それなら!
「ムーンサルト――」
A.S.I.B.A.システムの疑似重力を利用した地上のような跳躍攻撃。
バク転宙返りにより相手の背後に回り込むばあちゃんから受け継いだ伝家の宝刀。
「ストライク!!」
上手く回避できた!
とは言え、この技は定番中の定番の技――攻撃の一撃は受け止められてしまった。
「はじめて会った時と比べてどうだ? オレは、強くなったか? なあ、アーデルハイト」
選抜試験の時、半ば無理矢理助けてから共にムスチテルキ隊に選ばれた。
その頃はアーデルハイトがオレに対してあまりいい心象を抱いてないことも分かっている。
反面、一番オレを信じてくれたのもアーデルハイトだった。
「絶対にお前を助けてやる。信じろアーデルハイト!」
「もうちょい右! そしてソコ真っ直ぐ!」
「ぶち当てろ、と?」
「やっちゃってみましょー!」
「ホラ当たったー! んで、ソコにー」
「ルグフトング・エドグ」
「ライトニング・エッジですねー!」
「訳しないで」
「Aも撃破!!」
「Vが撤退……逃がした」
『バカな、バカなバカな! 私のムスチテルキ隊が!!』
アデレードが叫び声を上げる。
『これが人の力。ムスチテルキ隊の力。あなたに勝ち目はない』
『勝ち目は、無い? いえ、まだです! 勝てなくても、勝てなくても一矢報いることは――できますわ! 鳥型!!』
アデレードの号令で鳥型「侵攻者」がアデレードの元へと数体集まる。
まさか――!
オレは咄嗟に装騎スパルロヴを走らせた。
騎士型は――
「アタシに任せなさい! ナンとか――して見せるわ!」
「頼むぜ、アネシュカ!!」
装騎イフリータがくい止める。
『よくて娘型! ヤツらの目的は貴女方の奪還――であるのなら、それをできなくすればいいのですわ!!』
「させるかッ!!」
オレは鳥型を一気に薙ぎ払った。
やっぱりアイツ、ツェラとアリツェを処分する為に!!
『チッ、なら私が直接――手を下すまでッ!!』
「やらせるかよっ!」
オレは素早く装騎スパルロヴから降り、地面に立つ。
そして一気に駆け、アデレードに一発蹴りをお見舞いだ!!
「バ、バカですの!? 人間が直接「侵攻者」とやりあおうだなんて!」
「バカは承知! それでもオレは二人を守る!!」
「フン、私の姿は人間の子どもそのもの――ですが「侵攻者」――そう容易く負けなくてよ」
拳と拳がぶつかり合う。
相手の腕を取り、一気に地面へ叩きつける。
だが相手も怯まない。
その頑丈さは確かに人間のものじゃない。
「大体、私を殺したいのならさっき機甲装騎で直接攻撃すればよかったのですわ。貴女は――甘いッ!!」
「んなこと分かってるよ! だってオレは思ってる。アリツェだけじゃない、お前だって他の「侵攻者」とは違うんだって!」
「世迷言ですわ!! その甘さが――貴女を殺す!」
『ベチュカ、騎士型が!!』
アネシュカの声がヘッドセットから聞こえた。
激しい圧を感じる。
オレの視界には高速でこちらに向かってくる騎士型の姿が見えた。
その後から装騎イフリータや装騎ククルクン、装士イーメイレンが追いかけてくるがきっと間に合わないだろう。
「ヴラベツ!」
「ヴラベツさんっ!」
オレはグッと両足に力を込め、騎士型を正面から見つめた。
その刃はオレを貫かんと迫ってきている。
「アーデルハイト、オレはお前を――信じてる!!」
激しい圧が身体を吹き抜けた。
騎士型の一撃は――オレを――貫かない!
「アーデルハイト!!」
「何をしていますの騎士型「侵攻者」! 貴女は「侵攻者」! 使命はムスチテルキ隊を殲滅すること! そうでしょう!?」
騎士型は動かない。
その様子に、ついにアデレードは膝を屈した。
「あなたの負けですお姉様」
「何でですの、一体――どうしてッ!」
「わかった。それをあなたに教えてあげる」
ツェラが静かにそう言いながら、ヘルメットのようなものを手に取り、被る。
「よい、のですか……?」
「構わない」
瞬間、アデレードが頭を抱え呻き声を上げ始めた。
「これがあなたの欲しがっていたもの。人の力、人の秘密、わかる?」
「これは――こんなのは、違いますわ! 私が欲しかったものは――こんなものでは」
「でも、"それ"が人の力。ムスチテルキ隊の力。人の為に、仲間の為に一途に戦うやさしさ」
「これが――こんなのが――――ッ」
「お姉様も彼女達と共にいればわかります。その優しさがどれだけ力を、くれるのか……」
「ッ…………!」
もうアデレードは完全に戦意を喪失したようだった。
つまり、この戦いは――オレ達の勝利。
「終わったのか……」
「そう。それも予想以上の終わり。可能性」
「可能性?」
「……いいえ、まだですわ!」
拳を固め、アデレードが立ち上がる。
「まだやるっていうのか!?」
そう身構えた瞬間、激しい衝撃が大要塞の中に走った。
「何だ!?」
『は? まさか自爆とか!?』
『うわー、あるあるぅ!』
『迷惑』
「違いますわ! この感じ――」
「!! お母様……!?」
「母型!」
どうやら戦いはまだ終わらないらしい。




