第39話:なぜこうなった「百物語」
「百物語しよージャン!」
「……は?」
唐突にアネシュカがそんなことを言い出した。
「新たな仲間、アリツェちゃんも増えたことだしみんなで仲良くなるために百物語をしよージャン!」
「なんで百物語なんですかー?」
ナっちゃんの疑問にはオレも同感だ。
というか季節的にも外れすぎだろ。
「宇宙に四季とか無いし。てかそもそもアタシの眩い夏はこんな戦いに参加したせいで終わっちゃったし!!」
「夏っぽいことがしたいのか?」
「冬っぽいこともやりたい!」
「クリスマスも近いですからねー」
まぁ、間違いなく今年のクリスマスはシュプルギーティスで過ごすことになるだろう。
「去年も、ここだった」
グルルの言う通り、一年間は宇宙を彷徨っていたわけでクリスマスもここで過ごしたということになるのか。
「それもあんのよ! 去年はそもそも状況が混乱しすぎててクリスマスだとか考える余裕なかったし!」
「一年前に時空間跳躍なんてバイヤーでしたもんねー」
「てか思ったんだケド、また火星まで一年かかんの? んで、帰るまで更に一年?」
「話を聞いてなかったのか?」
「聞いてなかった」
尋ねるオレにアネシュカはあっさりと言い切る。
変なところで気持ちのいい割り切り方するのやめてほしい。
「加速ブースター、建造。お陰で速度アップ。節約する必要もない」
「つまり、前より速く行けるってコト?」
「そう」
オレたちが火星から月に戻る時は時空間跳躍の影響やバッテリー、推進剤の節約ということもあり最大加速での航行が不可能だった。
今回はグルルの言った通り加速ブースターや万全の準備、オレたちシュプルギーティス隊による予めの航行データのお陰でより速く火星へ到達することが可能となっていた。
「ざっと二ヶ月では着く」
「さすがに早すぎない?」
「遅いよりいいだろ」
それにこれはあくまで出発時の予定。
各種トラブルや、別行動している艦隊の調子、そして「侵攻者」との交戦頻度と内容如何ではまた変わってくるだろう。
なんたってアデレードとかいう厄介な敵も現れたわけだし。
そんな会話はさておき、オレ達はレクリエーション室に来ていた。
「アリツェちゃんはまだ来ないんですかねー?」
「ちゃんと申請したのか?」
「当然です! ナっちゃんの管理能力なめないでくださーい」
アリツェは監視対象。
接触するには艦長やツェラへの申請が必要なのは当然だろう。
「待たせた」
そう言いながらレク室に入ってきたのはツェラとアリツェ。
そして――
「歓迎会するんですか? いいですね!」
「いや何しに来たんだよババア」
ばあちゃんだった。
「歓迎会、するんじゃないんですか?」
「てか仕事は? 一応司令官だろ」
「一応ですし……指令室にいたら他のスタッフが緊張するからって追い出されましたし……」
「かわいそう……」
「おばあさま、今夜はわたし達と楽しんじゃいましょう!」
なんだこの複雑な気持ち。
ばあちゃんが友だちと同レベルのノリでつるんでるのを見せられるとか何だこれは。
「それで、何をするんですか?」
「百物語するジャン!」
「百、物語……ですカ?」
アリツェが首を傾げる。
よく見るとツェラもあまり合点のいってないような表情を浮かべていた。
もしかしてアーデルハイトは百物語を知らないのか?
「こういう些事な情報は残されていないだけかも。戦闘には必要ないから」
「ですネ」
「こーいうトコが人間の人間らしいトコだってのに、わかってないわねー」
とは言え、こんな状況で百物語をしようなんて同じ人間のオレでもあまり理解できないぞ。
「百物語ってーのはね、ロウソクを百本つけて怪談――つまりは怖い話を一人ずつ話すってやつ」
「話が終わったらロウソクを消すんでしたっけー?」
「……ソレ、意味あるのデスか?」
「ふふふふふ、最後のロウソクを消した時ナニかが起こる……んだってふふふふふ」
「アネシュカキモい」
「せめて怖いって言いなさいよ!」
「怖いことデスか……一酸化炭素中毒でしょうカ」
「すっごい科学的に怖いこときたな」
実際問題、密室で大量のロウソクは危険そうなので注意しなくてはならないではある。
「今回は百物語アプリを使っちゃうので問題ないですよー」
とか言いながらナっちゃんが出した情報端末機器の画面にはロウソクが表示されている。
なるほど、これなら一酸化炭素中毒も火事の心配もない。
風情もないが。
「開始は艦内時間で一時。つまりは消灯時間ね」
この異界航行艦シュプルギーティスでは一時を過ぎると艦内の通路などは照明が暗くなる。
時間感覚を忘れないための処置だ。
「で、参加はここにいる全員でいいの?」
オレ、アネシュカ、グルル、ナっちゃん、ツェラ、ばあちゃん、そしてアリツェか。
あまり数を増やしすぎても何だしこんなもんだろうか。
「ニムハさんやロチュカにもメッセ飛ばしたケド来れなさそうだしコンくらいかぁ」
なんて話をしている間に時刻は一時を回った。
「そんじゃ、始めるっしょ!」
レク室の明かりが消える。
オレ達を照らすのは百物語アプリのロウソクの輝き。
「そんじゃ、トップバッターは言い出しっぺのアタシから!」
そして、話が始まった。
コレはアタシが子どもの頃の話ね。
アタシは今勤めてる警備会社の社屋が家みたいなもので子どもの頃から会社に住んでたのよ。
とても広い――とは言えないけれど、家としてはかなり大きな会社でね。
それも古い建物を改装したものだから、特に夜になると奇妙な雰囲気が漂っていたわ。
静まりかえった廊下は冷え冷えとしていて、風の音が反響して不気味な音楽を奏でる。
元は小さな廃病院だったって噂もあって、かわいいキュートな女の子だったアタシには怖かったわ。
本当なら夜には通りたくない場所だけど、どうしても通らないといけない時がある。
そう、トイレね。
夜中にトイレに行きたくて目が覚めた時の恐怖わかる?
もうチビりそうだったわ。
チビらないためにトイレ行くのにね。
「さっきからちょいちょい上手いこと言ったみたいな顔すんのやめろ」
「うっさいわね。続けるわよ」
トイレに向かう途中、アタシはふと気付いたの。
ナンかヘンな音が聞こえるコトにね。
シャーーーー
ナニかが擦れ続けるような音ってーの?
うまく言えないケド、気味の悪い音だったわ。
その日はそれだけだったんだケド、問題はその次の日。
同じように夜中に目を覚ましたアタシは気が付いたのよ。
昨日聞いたシャーって音。
ソレが部屋にいても聞こえるってコトに。
次の日も、その次の日もナンだかその音が日に日に大きくなっていってる気すらするの。
そしてある日、ついにその音がアタシの部屋の入り口まで近付いてきた……。
アタシは恐怖以上の興味に負けて、扉をそっと開けてしまったの。
そこにはーーボサボサの長髪で猫背の奇妙な生物が……その後気付けば朝になっていたわ。
アレがいったいナンだったのかーーソレは今でもわからない。
「ビェトカですよ」
「割といい雰囲気だったのぶち壊すなよ!」
「まっ、そんな気はしてたジャン」
とりあえずこれで一話目。
まだまだ先は長いな。
「んじゃ次はベチュカね! とっておきの話お願い」
「そんなねーぞ……」
とは言え何かを捻り出さないといけないか。
アネシュカほどのやる気はないのでテキトーに。
「これはオレが中学の時の話なんだが……」
その日、機甲装騎の授業がありオレは授業用の装騎に乗り込んだんだ。
いつも通り装騎を起動させチェックをする。
ふとオレは気付いた。
なんだか奇妙な音がする。
カサカサ……カサカサ……。
それはオレの足元から聞こえた。
それだけじゃない。
何かがオレの足に触れた!
オレは慌てて装騎から飛び出ると中を確認した。
「ネコが紛れ込んでた」
「そーいうオチは言ったらダメっしょ!」
「でも怖くね? もし間違えて踏んでたらと思うと……」
「そーだケド!」
ここからそんな感じで話が進んでいく。
ナっちゃん。
「夜にですねぇ、台所でですねぇ、奇妙な物音が聞こえてですねぇ」
「やっぱ物音は定番だな」
「やだなぁ〜、怖いなぁ〜。そう思ってですねぇ、わたし、逃げちゃったんですけどね」
「逃げたのかよ」
「だからぁ、それ以上のネタはなかったりして」
「だろうな」
グルル。
「……hll…………」
「グルル?」
「…………! ………………………………っ……」
「なんて言ってんのかわかんねーけどなんか怖い!!」
「cmon…………ッ…………GDNSッ!!」
「たまに聞こえる言葉も意味分からなくて怖い!!」
ばあちゃん。
「ステラソフィアでグランドに現れる幽霊装騎という怪談があるの知ってますか?」
「聞いたことあんな」
「実はアレ、私の友達が広めた噂なんですよ」
「アンタら一族はいらんネタバレする遺伝子でもあんの!?」
「ちなみにその友達、幽霊なんですよね……」
「ナニソレ!?」
ツェラ。
「呪いの動画って、知ってる?」
「呪いの動画……?」
「その動画を再生すると、黒髪の少女の姿がアップで映る。そして突然けたたましい音」
「ナっちゃんの動画みたいだな」
「……それ見て思いついた」
「わたしのことを何だと思ってるんですかー!」
アリツェ。
「怖い話……ですカ…………」
まぁ案の定、アリツェにそういうレパートリーはなさそうだ。
「別に怖くなくてもいいのよ。不思議だなーとか変だなーとかそういう話で」
「不思議ダナー、変ダナー、ですカ」
「そうそう」
「ナゼあなたがたはワタシに優しくしてくれるのデショウか」
「仲間だからな」
「お人好しすぎマス。タシカにワタシはあなたがたがお人好しだというデータをもってマス。ですからアテにしまシタ。デスが、想定以上デス」
「想定以上とか言われてもなー」
「この人たちはこういう人たち」
ツェラが言った。
「わたしの時も同じだった。たしかに不思議。でもこれは可能性だと思っている」
「カノウセイ……?」
「あなたがわたし達の仲間でいたいと願うなら、きっとわかる」
「不思議デス」
少し変な空気にはなったが、まだまだ話は続いていく。
「お前の髪の毛だーッ!!」
「その日はその友人の命日だったんだ」
「虫をですね、裸足でですね……踏んじゃいましてね……」
「…………! ……ッ!!」
「友人の幽霊が卒業したいとか言い始めてですね」
「呪いのフォトステ、知ってる?」
「人は不思議デス。変デス」
もちろんそのうちネタは尽きていく。
オレはもうとっておきの不思議な良い話を使わざるを得なくなった。
頼みのアネシュカがネタに走り始めたのも痛い。
ナっちゃんは最初からああなので特に当てにはならない。
グルルは相変わらず怖いが何を言ってるのかわからない。
ばあちゃんはもう学生時代の思い出話みたいになってる。
というか何気に最初から呪いの○○で通していってるツェラはすごくないか?
そしてアリツェは哲学していた。
「そしたら勝手に扉が開いて――ふげっ!!??」
「うおっ!?」
アネシュカの番。
セリフにリンクするようにレク室の扉が開いた。
アネシュカの悲鳴と重なるように、男性の声が響く。
「い、いたのか……」
そこに立っていたのはゲッコー艦長だった。
「どうしたんですかゲッコーくん」
「いえ、アリツェくんの歓迎会をしているにしては静かだったので……これは?」
「百物語だぜ」
「なるほど……」
「せっかくだし、艦長も一つ話していくジャン!」
「あー、いいですねぇ! どうぞおひとつ」
「……どうぞどうぞ」
アネシュカ達にすすめられ、部屋に連れ込まれるゲッコー艦長。
「仕事もあるんだ。一つだけになるがいいかな?」
「一つでいい。お願い」
「飛び入りデスね」
「では」
ゲッコー艦長がコホンと咳払いをする。
そして、話はじめた。
「君たちは知っているかな? この艦、異界航行艦シュプルギーティスはインヴェイダーズ戦争時に使われた異海潜航艦シュプルギーティスを改造したものだと」
確かインヴェイダーズの住む新大陸へ向かう為に造られた艦だったか。
「この艦の造りはほとんど当時のままだ。例えばこのレクリエーションルーム。ここも当時から残っているものの一つ」
「そうなんですよ。私が作ってと頼みました」
ばあちゃんリクエストだったのかよ。
「これはそのインヴェイダーズ戦争時代の話だが、ある日私は夜中に目が覚めてな。眠れなかったから艦内を軽くランニングしていたんだ」
薄暗い通路を軽く走る。
聞こえてくるのは機械音と低く唸るアズルリアクターの稼働音だけ。
なんとなく通りかかったレクリエーションルームの前で、私はふと気付いた。
「扉が、開いてる……」
そう、レクリエーションルームの扉が開いているのだ。
それも中から奇妙な音――いや、声が聞こえる。
ボソ、ボソ……と呟くような声が…………。
そっと覗き込むとそこには――暗闇の中で女性が一人、恐ろしい表情で立っていたんだ。
不意にその女性と目が合ってしまう。
すると女性は――
「人だァァァォアアアアア!!!」
と叫びながらこちらに向かって走ってくる!
私はなんとか逃げ切ることができたが――あれは、怖かった。
「で、オチは何です?」
大体話の読めたオレは尋ねる。
「それ私です」
だろうな!
「だってせっかく作ったのに誰も遊びに来ないんですよ!?」
なんていうばあちゃんの嘆きは置いといて、ゲッコー艦長が去った後も話は続き――そして……。
「ってワケで夢って怖くない!?」
「ですかー?」
「もし起きている時に夢の中みたいな状態になったらソレこそ自分を他人だと思い込んじゃったりとか……」
「……たしかに」
これでまた一つ話が終わる。
そして――
「残り一話か……」
ついにここまで来てしまった。
途中から「どうして空は青いのか」みたいな話になってたような気はしなくもないがなんとか九十九話絞り出せた。
「うー、っても誰かネタとかあんの? アタシむりー」
「ではワタシが」
そう名乗り出たのはアリツェだった。
「お、積極的になってきたジャン! ではアリツェちゃんどうぞ!」
「では……コノ艦は一時に消灯なのデスよネ」
「そうだな」
「では逆に点灯時間ハ?」
「六時だっけか」
「その通り」
「五時間デスね。なるほど」
「それがどうかしたのか?」
暫くアリツェは何かを考えるように宙を仰ぐ。
「消灯時間に百物語を完遂させるニハ、一人三分で話を終わらせる必要がありマス」
五時間は三百分。
その時間内で百の物語を終わらせるには一人三分。
簡単な計算だ。
「デスが、前半はたっぷり大容量。終盤は終盤でグダグダな展開や合間の雑談も含めドウ見積もっても一人三分では足りていまセン」
確かに前半は前半で主にアネシュカが本気の怪談をガッツリ演出込みで話してくれた。
後半はネタもなくなって来たため話を考える時間の方が多くなってきた。
アリツェの言う通り平均すると一人三分では収まっていないだろう。
「って……ことは?」
「本来ナラもう、点灯時間になってないとオカシイです。不思議デス。変デス」
「…………解散しよっか」
アネシュカがポツリと呟いた。




