第38話:虚空の果てからの「亡命者」!?
『来たぞ人間たち! 勝負だ!!』
「律儀なヤツだよ!」
「全くジャン!」
火星を目指すオレたちを今日もアデレード率いる「侵攻者」部隊が妨害をしてきた。
「また来ちゃいますよー! 近衛型!」
「厄介……」
「っていうかあの近衛型――前と同じヤツか……?」
「わかんの?」
「いや、なんとなく」
真っ先にその内の一体がオレの装騎スパルロヴを狙ってくる。
近衛型は思い切りのいい動きで身を捻り――その手に持った剣を閃かせた。
「見え見えの一撃だな!」
確かに動きは良いが防ぐのは容易。
まるでどこかで見たような動きだからだ。
「ん? どこかで見た……?」
オレはさっと周囲に目を向ける。
「Ahoj、近衛型! 武器変えた? 二刀流とかシャレオツジャン!」
「あー、本当だー! しかも直剣じゃないですかー!」
「直剣? アタシんとこのは曲剣だケド? ベチュカはー?」
「戦闘中だぞ!!」
「グっちゃんはどうだったりしますー?」
「うるさい」
グルルもさすがに耐えかねて毒を吐いた。
そんなグルルの装騎ククルクンが戦う近衛型は手に武器を持っていない。
代わりに、その周囲を鳥型が取り囲んでいる。
これは――まさか、
「オレたちの戦い方を、模倣している……?」
オレの戦う近衛型はシンプルに剣を一本だけ。
それもオレの両使短剣イージークと似たような丈の剣だ。
そして最初に見せた横薙ぎの斬撃――見覚えがあると思ったらアレはヴラベツィー・ジェザチュカの動き。
そうかコイツらは――
「海賊版ってコト!?」
『前回の戦闘データを含めムスチテルキ隊のデータと照合。確かに類似点が多い』
ツェラの言葉がオレの疑念を確信に近付ける。
「けど、本物はオレ達だ!!」
「そのとぉーり!」
「やっちゃいましょー!」
「ルグフトンーグ……」
装騎ククルクンが雷撃を放ち、鳥型を焼き払った。
『もう少し引き付けて。技呪術霊子光で一掃する」
「シャマンスキー・ブレスク?」
『ヴィーチェユニットを利用した広範囲砲撃。雑魚散らしにはもってこい』
「任せた!」
『艦長! 充填完了です!』
『よし、技呪術霊子光発射しろ』
異界航行艦シュプルギーティス全体にアズルが走る。
そして、閃光が弾けた。
一条の霊子を無数に放ち、さらにそれぞれが枝分かれする。
魔電霊子の檻に囚われ焼かれた「侵攻者」の被害は甚大。
『覚えてろよー!』
そんな間の抜けた声を響かせながらアデレード艦隊は撤退した。
「何だったんだ……?」
まさか「侵攻者」との戦いにこんななんとも言えない感情を抱く日がくるとは。
とは言え、油断は大敵。
なんたってやつらが「侵攻者」であることに変わりはないのだから。
そんな日々が続いたある日のことだ。
「ツェラ、ちゃんと休めてるか? 今は護衛艦の操作、ツェラも手伝ってるんだろ?」
「そう。だけど問題ない。わたしよりは人間でありながらあれだけの制御をこなすフルク姉弟をねぎらうべき」
「迷惑か?」
「……そんな訳無い。ごめんなさい、ヴラベツの意図が読み取れなかった」
「いや、オレもちょっと冗談が過ぎた。ま、問題ないならいっか!」
「まーたイチャついてる!」
「アネシュカ、また邪魔しに来たのか?」
なんて平穏な空気をけたたましい警報が引き裂いた。
『「侵攻者」反応あり! こちらに向かってきています』
『ムスチテルキ隊、出撃準備を』
いつも通りの「侵攻者」との接触。
だが、少しだけ様子が違っていた。
「あれ? いつもみたいな大層な宣言はないん?」
「アデレード艦隊ではないっぽいんですかね」
「というよりは……なんか、追いかけてる」
「追いかけてる? グルル、なんか見えるのか?」
「フチェラ一体向かわせた。映像回す」
装騎スパルロヴのモニターにフチェラを経由した映像が表示される。
確かに「侵攻者」たちは追いかけていた。
先頭を駆ける一体の「侵攻者」を。
「「侵攻者」の部隊が、魚型を追いかけている?」
「あの宇宙艇みたいの魚型ってーの?」
「ああ。大鯨型の中で見た。地上用「侵攻者」を輸送するための「侵攻者」だ」
ということはあの中には別の「侵攻者」が乗っているのか?
『これは――救難信号?』
『どこからだ』
『あの魚型からです!』
「救難信号って……どーすんの。見捨てる? 助ける?」
「助けていいのか?」
「わかってるわよ。アンタの言いたいことは」
「ではすぐに向かっちゃいましょう!」
「先制攻撃。魚型を援護する」
『ええ!? 艦長、どうしましょう』
『ヴラベツくんの判断に任せる。ツェラくんも構わないな』
『問題ない』
許可はもらった。
ならば――
「ムスチテルキ隊DO BOJE!」
戦闘自体はわりとあっさり終わった。
小型で小回りの利く魚型を追跡する為、高機動な「侵攻者」群による少数部隊だったからだ。
いやまぁ、最近はアデレード率いる大部隊とばかり戦っていて感覚がおかしくなってるだけな気もするが。
何はともあれ、魚型は異界航行艦シュプルギーティスへと無事に収容することができた。
その場にはオレ達ムスチテルキ隊を含め、ツェラやゲッコー艦長、もちろんばあちゃんも姿を見せた。
緊張が走る中、魚型から一体の「侵攻者」が姿を現す。
「助けテいただき、ありがとうございマス」
色の濃い金髪に幼い姿。
娘型ではない。
どちらかと言うとその姿は――乙女型に似ていた。
「君は?」
「ワタシの名はアリツェ。ご察しのトオリ乙女型「侵攻者」デス」
やはり乙女型……。
「「侵攻者」に追われてたな。アレはアデレード艦隊の「侵攻者」か?」
「ハイ。そうデス」
オレの質問にアリツェはあっさり答える。
「何故追われていたの?」
そう質問したのはツェラだ。
「アナタは――ナルホド、噂に聞いた脱走者ですネ」
「それは貴女も同じなのではないの?」
「ハイ。ワタシはアデレードの元から逃げ出しまシタ。だから追われていたのデス」
「何故?」
「ワタシは出来損ないだからデス」
出来損ない……?
「ワタシたち乙女型は人に近づくべしとして生まれまシタ。ですがそれでも「侵攻者」。「侵攻者」たる使命を果たすのが責務デス」
「「侵攻者」たる使命か……」
「遺伝子を、技術を取り込み仲間を増やす。それが「侵攻者」の使命」
「デスが、ソレを忘れてしまう「侵攻者」もナカにはいマス」
似たような話を聞いたことがあるような気がする。
「侵攻者」としての因子の薄い「侵攻者」――例えばツェラ達。
そして知能が高くなり過ぎた「侵攻者」には一部異常な行動を取る者がいると。
「貴女は「侵攻者」としての使命を忘れた。そう判断されたという訳ね」
「ハイ。人間とシテの意識を強く持ち過ぎタ。そう言われまシタ。ソウ判断されれバ後は廃棄デス」
「なるほどな。だから逃げた。大人しく殺されるくらいなら一か八かでも生き残れる方を選んだってワケか」
それは人として、生物としては当然かもしれない。
少なくともオレなら逃げる状況だ。
生き残らないと何も始まらない。
「その話が事実であれば、確かに「侵攻者」らしくはない。「侵攻者」は全体で一個のシステムのようなものだから」
ツェラは冷静にそう分析するが「事実であれば」という念の押し方から疑いは持っているようだ。
「ま、信用ならないしー。人間のような「侵攻者」ってコトは、ナンらかの計略の可能性だってあるし」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずですねー」
「疑惑、多し」
「ソウ簡単に信じテもらえるとハ思っていまセン。置いていただけるダケでいいのデス」
「オレは信じるぜ」
周囲の視線が一気にオレに向けられる。
何だよ。
そんな変なこと言ったか?
「いや、言ってない。てか、アンタならそーいうだろうなって」
「ツェラちゃんの前例もありますもんねー。ベっちゃんに免じて信じてあげても」
「全然かまわない……」
「な、だからいいだろ。置いてやっても」
「どうします司令」
「え、私に回します?」
「この場の最高責任者はあなたなので」
「指揮はゲッコーくんに任せるって言ったじゃないですかー」
「おい、責任を擦り付け合うな大人ども!」
「「いや、冗談ですよ(だ)」」
ばあちゃんとゲッコー艦長の無駄に息の合ったコンビネーション。
二人が師弟関係なのは知っていたが変なところで息を合わせないでほしい。
「私は当然ベチュカと同意見です。ただ、監視は付けますけどね」
「「侵攻者」側の情報を手に入れる機会でもあるしな」
ばあちゃんとゲッコー艦長の決断を聞き、ツェラが頷いた。
「諒解。念のため検査を行う。乙女型アリツェ、まずは医療室へ」
「皆サン、感謝しマス」
アリツェは恭しく頭を下げる。
「アリツェ! 終わったらちょっとオレらと話しよーぜ!」
「楽しみにしてマス」
「ああ、オレ達ムスチテルキ隊が待ってるからな!」
この判断が吉と出るか凶と出るか――それはまだわからない。
けれど、ツェラに続くオレ達人間に協力してくれる「侵攻者」――その存在はオレに希望を与えるものだった。
騎士型となったアーデルハイトを取り戻し、この戦いを終わらせる。
「待ってろよ、アーデルハイト……」




