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第37話:来る異色の「敵艦隊」

マルクト共和国に帰国してから一週間後。

再び宇宙に上がる時が来た。

ステラソフィア学園都市中央。

マスドライヴァー・ダーウィーズ基地にオレ達ムスチテルキ隊は集まっていた。

理由はもちろん、火星侵攻作戦に参加するためだ。

「作戦名はマルス・ウートチー。ŽIŽKAの総力を結した作戦です」

ばあちゃんがその名を口にする。

今、各地のマスドライヴァー基地ではオレ達と同じように宇宙へ上がる部隊を用意しているという。

衛星軌道上のŽIŽKA基地で待機している部隊もあるはずだ。

それこそ、ジェミニ姉妹の所属するパッセル隊のような。

「今回の作戦、私もシュプルギーティス隊に同行します」

「ばあちゃんが!?」

「司令、さすがにそれは――!」

ゲッコー艦長も思わず声を上げる。

「あなた達が一番厄介ごとを抱え込む部隊ですからね。実力もある。これからシュプルギーティスが旗艦となります。構いませんね」

有無を言わさぬ迫力。

立場的にも声音的にも反論はできないな。

ゲッコー艦長もついぞ諦め、

「諒解しました」

と呟いた。

なんて波乱もありながら、異界航行艦シュプルギーティスに乗り込もうとしたその時、

「ベチュカ!」

シュピチュカの声がした。

「シュピチュカ、お前学校は!」

「そんなことはどうでもいいの!」

どうでもいいのか?

「ナっちゃん、グルルちゃん、アネシュカさん。ベチュカをよろしくお願いします!」

「お前、それ言うためだけに来たのか?」

「大事なことでしょ!」

大事なことなのか?

「大事なコトっしょ。かわいい幼馴染みがアンタの身を案じてくれてるんだから」

「大船に乗ったつもりでいちゃってください! なんたってわたし達ムスチテルキ隊は最強なんですから!」

「おまかせ」

「うん! 信じてる」

ステラソフィア学園都市から宇宙空間に飛び出した異界航行艦シュプルギーティスは火星の「侵攻者」基地を目指して駆ける。

「今回の火星侵攻作戦は各シュプルギーティス級を軸にした五つの部隊を編成。各方面から火星を目指し奇襲をかけるという作戦になっている」

シュプルギーティス級異界航行艦は確か全部で五隻の建造予定だと聞いていた。

月面侵攻ムニェシーツ・シープ作戦時にはシュプルギーティスを含めた三隻しか間に合わなかったけれど。

「てか、そんな少ない戦力をバラしちゃってイーワケ?」

「気にすることは無いです。護衛艦プラーステフの数は月面侵攻作戦よりも大幅増量。プラーステフを改造した装騎部隊輸送艦も配備してありますから」

「装騎部隊輸送艦?」

オレはシュプルギーティスのモニターに目を向ける。

そこにはオレ達シュプルギーティス隊の内訳が表示されていた。

確かに護衛艦プラーステフの数は月面侵攻作戦以上の数。

だが――

「アレ? オレ達の部隊にはいなくねーか?」

「シュプルギーティス隊には邪魔だと思ったんですよ」

「アタシらだけハードモード!?」

「足りない分は護衛艦で補うスタイルです!」

そう堂々と言い張るばあちゃん。

コイツの差し金か。

「とは言え、全体でいえば我が隊の戦力は大幅にアップしている。この艦にはヴィーチェユニットも装着している」

「他の艦にはないのか?」

「シュプルギーティス隊は少数精鋭。素早く行動して素早く敵を倒す。そういうチームですからね」

「なるほど、少数精鋭って言われちゃあ仕方ないジャン!」

「むしろ、他のチームと連携取りづらいだけな気もしちゃうんですけどー」

「グルルもおもった」

「確かにそれが理由の9割ですけど」

ばあちゃんも認めやがった。

だが、言いたいことは分かる。

確かにこのムスチテルキ隊が他の装騎隊と連携をとるなんて――考えづらい。

そう考えると当然の采配か。

「ま、何にせよオレ達が火星を目指すってことにちがいはねーしな」

「そういうことです。では、行きますよシュプルギーティス隊!」


「と、ゆーワケで火星に向かってるワケだけどさー」

「お前が何を言いたいか当ててやるか?」

「「ヒマ」」

オレの声とアネシュカの声がハモる。

うん、そうだろうな。

それ月に行く時も火星から帰還する時も散々聞いた。

「ここらでどかーんと何かないものなのかね~」

瞬間、艦体に衝撃が走る。

と同時に警告音が鳴り響いた。

「うわ、なんだ!?」

「アネシュカのせい……」

「アタシの!?」

「フラグ立てちゃいましたからねー」

『「侵攻者」艦隊との接触です!」

リブシェの艦内放送が響き渡る。

っていうか「侵攻者」の――艦隊!?

モニターの隅に「侵攻者」のおおまかな編成が表示されていた。

そこに表示された編成は鮫型や種子型が多めで確かに「艦隊」と言えるかもしれない。

「ムスチテルキ隊はただちに出撃準備――』

映像が乱れる。

通信機能の不調か?

いや、違う。

『はじめまして人類諸君!』

艦内に声が響き渡る。

それは幼い少女の声――実際、モニターに映ったのも少女の姿だった。

だが、その口ぶりからすると――まさか。

「ナニよアンタ!」

『我々は貴女がたが「侵攻者インヴェイジョンズ」と呼ぶ存在! その名も――』

乙女型ティプ・ヂーフカ……』

ツェラの呟きが聞こえる。

『そんなセンスの無い名前で呼ばないでくださいます!? 私の名はアデレード! このアデレード艦隊を指揮する指揮官ですわ!!』

『アデレード……? こんな愉快な乙女型、知らない』

『貴女がた人間を研究しつくした我らがマトカが産み出したもっとも最新型にしてエッリィィイイイトな「侵攻者」! それこそが我ら新乙女型なのです!!』

声だけ聴いているとバカっぽいな。

だが「侵攻者」なのは確からしい。

実際、「侵攻者」でもオレ達と意思疎通できる個体がいるのはツェラの時点で分かっている。

となればいずれ戦いにも人間のような「侵攻者」が姿を見せる可能性は十分にあった。

そしてそれがこの乙女型「侵攻者」――アデレード!

『さっきからベラベラ……あなたの目的がわからない』

『人間は戦いの前に宣戦布告をするものだと知識にありますわ!』

『宣戦布告……』

『つまり開戦の合図! それではよろしくお願いしますわ人間の皆様。そして各部隊、攻――』

『ムスチテルキ隊、攻撃開始……』

「おう、ムスチテルキ隊DO BOJE(ド ボイェ)!」

「「「DO BOJE(ド ボイェ)!!」」」

ツェラの号令でオレ達ムスチテルキ隊はシュプルギーティスを飛び出した。

長々と演説をしてくれて助かったぜ!

その隙に出撃準備を進めて――そして、

「頼むぜグルル!」

「フヴンス・イドグムント」

奇襲を仕掛けることができる!

『なっ、卑怯じゃなくて!?』

「卑怯もらっきょもあるか! そのまま一気に攻め込むぞ!」

『全艦攻撃態勢!』

ゲッコー艦長が声を張り上げる。

『プラーステフ及びフチェラも好調快調絶好調!』

『火器管制問題ない。ヴィーチェユニットも良好だ』

「技呪術リンク完了。フチェラ、起動……」

プラーステフ戦闘態勢に入り、無数のフチェラが宇宙を駆けた。

『こっちも迎撃! 見てなさいシュプルギーティス隊! 目に物言わせてあげるんだから!』

ヒステリックな声と同時に乙女型アデレードとの通信が切れる。

それと同時に動き出した「侵攻者」艦隊。

「さて、ここからが本番か!」

不意に種子型ティプ・セメノが開くと中から「侵攻者」が姿を現した。

巨人型――いや、違う。

あの騎士型によく似た姿は――

近衛型ティプ・ストラーシュ!!」

また厄介な敵が現れたな。

その数は四体――まだ少ない方だが近衛型の性能は驚異的。

「なーに、一人一体ぶったおしてやロージャン!」

「ま、倒せなくはないですねー!」

「おまかせ」

「そうだな! 行くぜ!」

両肩のブースターを吹かし近衛型が一気に距離を詰める。

その速度は騎士型アーデルハイトに負けずとも劣らない。

だけど、

「動きが迂闊だ! ヴラベツィー・ジェザチュカ!」

両使短剣イージークを閃かせ迎撃!

その一撃を近衛型が受け止める。

「やるじゃねーか!」

実力が以前より上がっている。

けれど、オレだって前よりもっと強くなっているはずだ。

ならば――

「負けるか!」

A.S.I.B.A.を蹴り跳躍――擬似重力を利用した跳躍攻撃ムーンサルト・ストライク

その一撃を見て――近衛型は咄嗟にオレへと背を向けた。

「コイツ――!」

ムーンサルト・ストライクはバク転宙返りをすることで相手の真後ろへ着地、そこから奇襲を仕掛ける技。

まさかコイツ、その動きを知っていて予めオレを迎え撃つために背を向けた!?

その事実を把握しながらも、跳躍を止める術がない。

そのまま装騎スパルロヴは近衛型の真正面に着地する。

そこを狙う近衛型の持つ剣。

「チッ!!」

オレも相手の迎撃を予見できていたからなんとか回避できたが――。

「今のはギリだったな……っ」

もし近衛型がオレの技を知っている素振りをギリギリまで見せなかったらあの一撃に捉えられていたかもしれない。

「なるほどな。ヤツはオレの技を知っている。その対抗手段も……だけど、相手をハメるという考えが”まだ”ないのか」

相手の出す技に対応して機械的に対処する。

今の一撃が防げたのは相手に「ムーンサルト・ストライクの後に防御行動をとる」という認識がなかったからだ。

今のはオレにとって意表を突かれた一撃ではあったが、それは近衛型も同じだったということか。

だが、そう何度も通じまい。

そもそも少ない手数で相手を倒す。

それが「侵攻者」対策の基礎だしな。

「けど、分かってきた。相手の動きが……」

オレは静かに両使短剣イージークを構え相手を見据えた。

「手早く終わらせる。次の一撃で決められるはずだ」

近衛型が剣を構え、一気に駆け寄る。

この構えなら横払いの一撃。

オレはそれを回避するように、装騎スパルロヴを跳躍させた。

「見せろ! 背中を!」

その動きはムーンサルト・ストライク。

それを認識した近衛型はオレの次なる一手に備えようと背を向ける!

「A.S.I.B.A.形成――ヴラベツィー」

そこが狙い目!

地上であれば跳躍中に態勢を変えるのは至難の技。

だがここは宇宙でそれにA.S.I.B.A.システムもある。

何が言いたいかと言うと――跳躍途中にA.S.I.B.A.を形成、それを蹴りつければ

「ナーイェズト!!」

奇襲が可能ってことだ!

これで一体、撃破!

「いやっ」

機能停止していない!?

浅かったのか、奇襲に気付いたのか……。

「今までの近衛型とは一味違うってわけか」

なんて呟いてるところに飛び込んできたのは鳥型ティプ・プターク

「なんだ!?」

鳥型の戦闘能力は高くない。

だからこの程度軽くあしらう事はできるが――その隙に近衛型は姿を消していた。

鳥型を陽動に退いたのか。

いや、それだけじゃない。

周囲を見ると他の「侵攻者」も撤退を始めている。

『今回は挨拶代わり。これくらいにしといてあげるわ』

「負け惜しみを」

オレの言葉が聞こえていたのか、モニター越しにアデレードと目があった――気がした。

口元に浮かべる不敵な笑み。

どうしてもその表情がオレに向けられているように感じる。

『では、また会いましょう。人間たち』

『逃すな。技呪術霊子砲シャマンスキー・オドストジェル発射!』

乙女型本体と思しき巨大な要塞に向けて異界航行艦シュプルギーティスがその主砲を撃ち放った。

しかしその一撃は多数の鳥型が盾となり徐々に減衰。

そして、乙女型の放つ防護壁にかき消される。

擦り傷すら与えるともできず、また追撃もかなわず、乙女型率いるアデレード艦隊はその姿を消したのだった。

挿絵(By みてみん)

インハリテッドキャラクター名鑑

「乙女型アデレード(Adelaide Typu Dívky」

「侵攻者」の内、母型の次に位置する上位個体乙女型の一体。

母型や娘型と同じようにある水準の知能を有する。

アデレードという名前がアーデルハイトの英語名であることからわかるように娘型と同じくアーデルハイトをベースとする。

ちなみにアデレードという名前は自称。

本来の乙女型は母型になる可能性を秘めた存在であり、「侵攻者」の小部隊を指揮する存在。

今回の乙女型は人の存在に興味を抱いた母型が指揮用システムに人としての姿を与えた変則型。

ツェラ同様、人間としての知識はアーデルハイトの持つものがベースになっている。


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