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第35話:艦と装騎と「新装備」

強烈な加速に視界が目まぐるしくまわる。

「これが……ヴィーチェの力か!」

操作感は完全に装騎のものとは違った。

それもそうか。

完全に小型艇と化しているんだから。

「操作の殆どは自動化してますからね。ベチュカでも扱えますよ」

「そうだな。これくらい……簡単だっ!」

ばあちゃんに張り合いたくて豪語をしたものの、イマイチ勝手がわからない。

けど、操作自体は確かに簡単だ。

あくまで人型である機甲装騎と船型であるヴィーチェの操作感の違いがあるというだけで。

でもこの程度ならすぐに――

「慣れてやるさ」

周囲の「侵攻者」に視線を向ける。

四方八方、うごめく様々な「侵攻者」達。

「武装は――魔電霊子砲!」

オレは操縦桿のトリガーを引いた。

瞬間、正面から伸びた四本爪の外側から放たれるイルミネーションのような白銀のアズルの輝き。

「この色――普通のアズルじゃないのか!?」

アズルは通常、青系色か赤系色。

もしくはその中間である紫色の光を放つ。

けれどこの強化艇ヴィーチェの放つ光は白銀。

「まさかコランダムリアクターなのか!?」

「ふふん、よく気付きましたね」

ばあちゃんはとても嬉しそう。

なぜなら、ばあちゃんは長い間このコランダムリアクターの開発に力を注いでいたからだ。

そしてそれがついに完成したということか!

いつものアズルとはやはり手応えが違う。

「この安心安全のコランダムリアクターなら高濃度の魔電霊子を纏っても平気ですよ」

「つまり――」

「ぶちかましてやりなさい!」

「おう!!」

コランダムの光が溢れていく。

溢れたコランダムは、だが強化艇ヴィーチェに引き寄せられるようにその装甲を覆った。

リアクターの容量内に収まらない魔電霊子をも操り留めておけるようにする事で、今までは行使がかなわなかった量の霊子も操れる。

「これが無限駆動インフィニットドライブです!」

「主砲展開! 名前は――えーっと、ヴラベツィー・オドストジェル!!」

強化艇ヴィーチェの爪が開き、その間に霊子が迸った。

そして放たれる強烈な白銀魔電霊子砲の一撃!

宇宙を駆ける閃光は――「侵攻者」を焼き払った。

「どうやらお元気のようですわね」

「2日ぶり、です」

通信から聞き覚えのある声が聞こえる。

双子姉妹のアーニャとマーニャだ。

『異界航行艦パッセルが合流。ジェミニ隊が援護を申し出ています』

「助かるぜ、アーニャ、マーニャ!」

味方との合流も果たせて百人力。

「このまま一気に、突っ切る!!」

やがて、戦闘は終了した。

『「侵攻者」の殲滅率……七割、ですか』

「この戦力なら十分ですよ」

「逃したのはつれぇけどな……」

「ゲッコーくん、一先ずシュプルギーティスはマルクトに帰還を。ここは他の隊に任せなさい」

「諒解しました」

そうか、やっと帰れる……。

けど、まだ戦いは終わっていない。

火星で見た「侵攻者」の拠点のこと、この一年間のことをばあちゃんに話さないといけないし。

「シュプルギーティスには私も同行します。話は帰りながら聞かせてもらいますね」


「うわわぁー! サエズリ・スズメさんですよー!」

ナっちゃんがやたらテンション上がっている。

というか選抜試験の時にも会っただろ。

「って言ってもちょっと見た程度じゃないですかー!」

「だっけか」

オレ達ムスチテルキ隊とゲッコー艦長はなつかしのレクリエーションルームに集められていた。

もちろん、今までの一年間の旅やそこで起きたこと、得た情報をばあちゃんに報告するためだ。

「スズメさんって意外と物腰やわらかいですねぇー」

話を続けるばあちゃんとゲッコー艦長をよそにナっちゃんがそんなことを小声で言う。

「ま、表面上はな」

「わたしはもっと厳しいおばあ様かと思ってましたよ。老人をなめんじゃないよ! みたいなタイプの」

「実際厳しいババアだけど……普段敬語だからかな」

そういえばナっちゃんの作った物語でばあちゃんは厳しい口調の司令官だったな。

中身はあんな感じと言えばあんな感じなんだけど。

「なんだか楽しそうな話をしてますね」

げっ、ばあちゃん。

「物語がなんとかって」

「はい! わたしの作ったアズル特装隊ムスチテルカっていうのがあるんですよ~。スズメさんにもゼヒ読んでもらいたくて」

読ませる気かアレを。

コイツ、メンタルが青磁鋼セラドニウムで出来てんのか?

「ユウ・ナちゃんはおばあちゃんとは全然タイプが違いますね」

「そう言えばおばあ様と御知り合いなんですよねっ!」

だからナっちゃんは今回のムスチテルキ隊に参加することになったんだっけか。

ついでに言うなら――

「てか、スズメさんとウチの社長が繋がりあったからアタシもコンナとこに寄こされたのよね。ナンか複雑」

アネシュカもそうだったか。

「ビェトカからはネーシャちゃんの参加は自主的って言ってましたけど」

「だってあのクソ社長、アタシが行かないならイフリータを取り上げるって言ってたし」

「装騎イフリータはスパロー……装騎スパルロヴと同じように対「侵攻者」用にアップデートし続けた騎体ですからね」

「チッ、なるほどね」

つまりアネシュカの装騎イフリータとオレの装騎スパルロヴはある意味姉妹騎ってことになるのか。

「そうですね。ベース騎もほぼ同時期に開発されたものですし欠番騎ですしね」

本来は開発されていないはずのハラリエル2型とアナフィエル型……そんな話を昔聞いたことがある。

「グルルちゃんも元気そうですね」

「うん」

やっぱりグルルとも知り合いか。

「グルルちゃんたちフルクの一族は「侵攻者」を倒す使命を持った一族ですからね」

なんだかんだでここに集まった全員には集まるだけの理由があったってことか……。

「さて、話も一通り聞きましたし――」

なんか嫌な予感がする。

ばあちゃんが晴れやかな笑顔を見せる時は大抵なんかある時だ。

特にこういう場面では。

「マルクトに帰るまで、特訓と行きましょうか」

だろうな!


艦内を走り回らされ、筋トレをさせられ、シミュレーターを散々やった後の格納庫。

オレはばあちゃんに呼び出されここにいた。

「これは――」

オレは装騎スパルロヴを見上げる。

その背後に取り付けられた新装備。

「装騎用の強化ユニット、とか言ってたっけ」

「そうです。元々は装騎スパルロヴ用に開発していたコランダムリアクター追加ユニットですよ」

たしか強化艇ヴィーチェと合体するための中継ぎとしても使っていたはずだが。

「ヴィーチェユニットを運搬する為に急造で合体できるようにしたんですよ。すごいでしょ」

「まぁすごいけどさ」

なんだその自慢気な顔は。

「本当は装騎と連結させて運用する予定のなかったヴィーチェと合体させたんですよ!?」

意訳するともっとほめろってことだ。

「で、コイツ単体だとどうなるワケ?」

だが特に構わず話を先に進めることにする。

「コランダムリアクターが増えるだけですごいじゃないですか」

「それだけ?」

無限駆動インフィニットドライブ――いえ、最早それすら越えたオーズドライブとでも言える力を発揮でいるんですよ!」

すごいような、よくわからないような。

「もちろん、戦況に合わせてヴィーチェユニットの使用もできるようになりますし、スパルロヴ本体のリミッターも解除するので今まで以上に戦えるますよ」

「リミッター?」

「当然です。今までのベチュカじゃスパルロヴの全力は扱いきれなかったですから」

「チッ、余計なことを……」

「尤も今なら十分に扱える――とは限らないですけど」

「使いこなして見せるさ」

「言いますね。なら特訓です」

「おう」

装騎スパルロヴの真の力。

そして新たな装備。

これがあればまだまだ戦えるのだろうか。

一先ず、オレ達の旅は一区切りがついたらしい。

画面に映る青い星がそれを告げていた。


挿絵(By みてみん)

ステラペディア

「魔電霊子」

生命の持つ霊子セジと電力を特殊な魔石シュトーネで結合させたことで生まれるエネルギー。

僅かな電力から無限と思えるほどのエネルギーを取り出すことができる。

マルクトなどのエヴロパでよく使われる蒼色魔電霊子アズルと極東の我国でよく使われる赤色魔電霊子マーダーと大きく二つに分けられる。

この違いは使用する魔石によるもので、アズルは蒼魔石ブルエシュトーネ、マーダーは赤魔石レトシュトーネを使用する。

その性質も大きく違い、アズルは安定性があり出力の上下の幅が小さい。

マーダーは人の士気によって出力が大きく上下する為、士気が低いとより低く、高いとより高くなる。

華國の装騎及びヴラベツの装騎スパルロヴはその両方のリアクターを搭載したハイドレンジアリアクターというものをしようしている。

ハイドレンジアはアズルとマーダー両方の性質を取り入れることができるがアズル程の安定性はなく、マーダーほどの爆発力もないという点もある。

アズルとマーダーは打ち消し合う性質があるのだが、その両者を上手く結合させた新たな力が白銀魔電霊子コランダムである。

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