第34話:最強の名を持つ「跳躍者」
「うわをっ!? あーもう、敵多すぎなんですけどー!」
「ナっちゃん、一旦退け!」
「すぐ戻りますんでー!」
今オレ達は月面から離脱する「侵攻者」の群れとの交戦真っ只中だ。
被弾により帰艦する装士イーメイレンを護衛しながら周囲を飛び回る「侵攻者」を撃破していく。
「むぅ……ちょっと補給」
「グルルも!? あーもう、いってら!」
「グルルくん、構わん。私も出る」
「ゲッコー艦長! ありがとうございますっ」
「艦は任せた。リブシェくん」
『任せてくださいっ!』
今までにないレベルの全力戦闘。
入れ替わり立ち替わりで補給と修理のために艦へ戻りながらも必死に戦う。
異界航行艦シュプルギーティスも無人機も出し惜しみ無しの全力全開。
「次どっちか戻ってきたらアタシも補給戻ってイイ!?」
「どうした?」
「アズル使い過ぎ。リアクターヤバいかも」
「それはヤバいじゃねーか!! 無理すんなよ」
「アンタもね!」
「っ……」
オレはサブディスプレイに視線を向ける。
「リアクターはまだ大丈夫そうか」
《生成効率が2%低下しています。可能であればアズルの使用を控えていただければ》
「んなことしてられねーっての」
理論上は無限に近いエネルギーを生み出せるのがこのアズルリアクター。
だからエネルギー切れに関してはそこまで心配はない。
確かに余りにもアズルを消費し過ぎればバッテリーが切れアズルを生成できなくなることもありはするが。
一番の問題は負荷をかけ過ぎたことによるリアクター自体の損傷。
それだけは避けなくてはならない。
「ヴラベツくんのスパルロヴはハイドレンジアリアクターだろ? 一旦戻ってみてもらった方がいい」
「みんなが戻って来るまでは頑張らせてください!」
「わかった」
『更に敵の反応を感知いたしました。鮫型でございます!』
やたら丁寧な喋り方なのはヨロタンか。
『さすがにA.S.I.B.A.を解除しないと鮫型には対処できませんよー!』
「構わん。各自A.S.I.B.A.の座標軸を設定しろ! シュプルギーティスはアズルの供給支援だけ頼む!」
『諒解!』
艦を中心としたA.S.I.B.A.システムが解除される。
異界航行艦シュプルギーティスはその船首を鮫型へと向けた。
「ナっちゃん再参上〜!」
「ふざけてる場合じゃない。戦え」
「はいは〜い」
装士イーメイレンと装騎ククルクンが戻ってくる。
アネシュカは――
「今リアクター積んだとこ! もうちょい待って!」
「ゆっくりしていけ! っ、ヴラベツィー・ジェザチュカ!」
『鮫型が更に増えた!? このままじゃ艦が……!』
『シュプルギーティスを全速力。艦同士の格闘戦に持ち込むしかないな』
明確に異界航行艦シュプルギーティスを狙っている鮫型を見てリュウガさんが冷静に言った。
『そうなるよねー。僕も頑張らないと』
イマイチ緊張感の無いのはビィか。
『でもそれじゃ艦長達、ムスチテルキ隊の援護ができません』
『艦が沈んでは元も子もない。艦を任されたのは君だ。判断は君に任せるが』
『うわとと! 攻撃ですよ! ジッとしてたらやられるっす!』
さすがにヨロタンも素が出始める。
オレ達ムスチテルキ隊だけではなくシュプルギーティスもピンチだった。
「アネシュカいっきまーす!」
「アネシュカが戻ってきたか……よし、リブシェ! コッチは大丈夫だ。鮫型をなんとかしてくれ!」
『そう言うけど本当に大丈夫なの!?』
「大丈夫! さっさと行け馬鹿野郎!」
『ったく! コッチの心配も知らないで! シュプルギーティスは鮫型との戦闘に入ります! 全速前進!』
『はいはいよ!』
『突っ込みすぎたらダメっすよー』
『わかってます!』
鮫型のような大型「侵攻者」はリブシェ達に任せて平気だろ。
問題は、これでオレ達ムスチテルキ隊は容易に補給や支援を受けられなくなったということか。
「てかアンタ、本当にダイジョーブなの!?」
「今んところな!」
「鮫型、まだ来る」
「マジかよ!」
シュプルギーティスは――まだ他の鮫型と交戦中か。
「装騎で鮫型をやれると思うか?」
「大きさ自在は小さめね。全力技ぶつけられればイケるっしょ」
「同意。問題は……」
「どう攻撃を当てるかってとこなんですねー」
意見は全員おなじか。
「よし、とりあえずオレが引きつける。グルル、ナっちゃん、なんとか鮫型を仕留めてくれ!」
「ヴラベツが、危険」
「気にするな! なんならオレ一人でもぶっ倒してやるさ!」
「無茶言い過ぎですよー。グっちゃん連携結界術、いけまっしゃろ?」
「いけしゃろ」
「楽しそうなコトしよーとしてんジャン! 混ざりたい!」
「アネシュカくん。我々は他の「侵攻者」を抑えるぞ」
「り、艦長ー」
「んじゃ、ぶちかますぜ! ヴラベツィー・ヴァーニツェ!」
荒れ狂うアズルの奔流が鮫型「侵攻者」の一部を焼く。
「チッ、直撃とはいかねーか!」
けれど今のはあくまで陽動だ。
オレの目論見通り、鮫型「侵攻者」はその正面を装騎スパルロヴへと向けた。
吠えるようにその口を大きく開ける。
そして、とてつもない加速力で装騎スパルロヴに向かってきた。
「うわ、迫力ヤッバ!!」
オレは全身の追加装甲に光を灯す。
そして一気に全力加速!
瞬間、足元で強烈な衝撃を感じた。
鮫型の体当たりが掠った――わけではない。
鮫型が宇宙空間を航行する為に使う推進能力の波が装騎スパルロヴを掠ったんだ。
「持ち堪えろ、スパルロヴ!」
なんとかオレは姿勢を維持する。
かなり位置は離れていたはずなのにこれだけの衝撃。
あと少し鮫型と位置が近ければとてつもないダメージを受けていただろう。
「こんなん直撃しなくてもヤベーぞ!」
体当たりの直撃は当然、紙一重でかわした程度では間違いなくあの衝撃で装騎スパルロヴはバラバラだ。
「今の位置関係を最低ラインに設定だぜ」
《諒解》
「ベっちゃーん! 結界の設置完了でーす!」
「誘導。くしよろ」
「おう!」
宙空に描かれる魔術陣。
それがナっちゃんの張った結界だ。
あとはあそこまで、鮫型をなんとか誘導する!
「ヴラベツィー・ボウジェ!」
思い切ったアズル砲の一撃を鮫型にぶちかました。
なかなか丈夫だ。
「ま、このサイズ差じゃあな……ッ!」
そしてその速度も凄いッ!
「行くぜ、スパルロヴ! アズル全てを機動力に全振りだ!」
再び追加装甲にアズルを灯し加速。
さらにA.S.I.B.A.システムによる壁を蹴り加速にプラスして加速する!
だが鮫型も速い。
見るからに速そうな流線形ボディをしているしな。
「宇宙空間で意味あるかしらねーけどな」
なんて軽口を叩きながらも、オレは必死に正面を見つめた。
その先には宙に展開した装騎ククルクンのウングと装士イーメイレンが待ち構えている。
「行けぇ!!」
背後からどんどん近づいてくる圧力。
鮫型の放出する圧倒的なエネルギーに身体が震えた。
距離は?
敵は今、どれくらいの位置にいる?
「振り向くなシュヴィトジット・ヴラベツ! オレなら、やれる!!」
意識を集中させる。
今はただ、駆けるだけ!
装騎スパルロヴの加速が更に研ぎ澄まされた。
そして――
「重戸結界・印縛土!」
強烈な重圧が鮫型「侵攻者」と捕らえる。
「ベっちゃん、今ですよー!」
「ヴラベツィー・ヴァーニツェ!!」
オレは全力で鮫型へ砲撃。
まるで悲鳴を上げるかのように鮫型が身悶えするが、結界に囚われ動けない。
よし――このまま……
「うわ、ちょっと待っちゃってください!」
「なんだ!?」
「……マズい」
グルルの呟きがオレの耳に入る。
何があった――そう状況を確認するより早く、その理由は分かった。
無数の鳥型「侵攻者」がオレ達の方に向かって飛んできたんだ。
その理由は――
「まさかアイツら、結界を解こうとしているのか!?」
ナっちゃんの結界魔術は基礎を崩せば均衡が崩れ解除される。
今回の場合は、装士イーメイレンの持つ華式直刀。
そして装騎ククルクンのウングだ。
それにより魔術陣を宙に描き結界としての効力を維持してる。
今向かってきている鳥型はその基礎を狙っていた。
「それもこんな数!!」
数体程度では結界を解くことはかなわない。
そう知っているんだ。
「侵攻者」は少しずつだが学習していくのだから!
「けど、やつらが結界を破壊する前に鮫型をぶっ倒せばいいんだろ!」
けれどうまくいかない。
出力が、上がらない!?
「いや、まだ――まだ行けるはずだ。アズルを全て両使短剣に!!」
「結界が不安定に! ベっちゃん、もうム〜リ〜ィ!!」
《リアクターが不安定です。バッテリー残量も低下》
「あと少しだろ! 頼むぜ!!」
「結界消失です! ベっちゃーん!!!!」
アズルを撃ち込まれ、青白い光を纏いながらも鮫型が大口を開けて装騎スパルロヴに迫る。
それはまるで巨大な炎の塊がオレを焼き尽くそうとしているかのようで。
「全く、無茶ばっかりしますね!」
瞬間、鮫型を別方向から飛んできたアズルの一撃が貫いた。
「なんだ!?」
オレはその一撃を放ったであろう装騎を探す。
そしてそこにいたのは――装騎、いや、違う。
「小型艇か!?」
四角錐を思わせるようなシルエット。
四本の爪が一点に伸びたような上下左右が対称な見たことのない兵器が鮫型へ肉薄してきた。
どう見ても装騎ではない。
ならばシュプルギーティスのような異界航行艦、もしくはオレの言ったように小型艇か。
「増援か! それにその声は……」
ゲッコー艦長の声に子どものような興奮が混じる。
『照合用データ受信。ŽIŽKA所属の強化艇ヴィーチェ。そして……』
強化艇ヴィーチェから一つの影が姿を見せた。
恐らく、ヴィーチェと一体になっていたのだろう。
そしてそれは紛れもなく機甲装騎。
それも、オレもよく見知った――
「サエズリ・スズメ、スパロー・オリジン。行きますよ!」
逆関節の脚部が特徴的なサンドイエローの装騎スパロー!
ってことは――
「ばあちゃん!?」
「サエズリ司令、よく来てくれました!」
「変な交戦があるから様子を見に来ただけですけどね。まさか――いえ、やっぱりシュプルギーティス隊ですか」
「コッチも色々あったんだよ!」
「その話は後で聞かせてもらうとして――今はここを片付けますよベチュカ!」
不意にオレのところにデータが送られてくる。
これは強化艇ヴィーチェのデータか。
「ばあちゃん、これは?」
「今のスパルロヴじゃこれ以上は戦えないでしょう。使いなさい!」
強化艇ヴィーチェ。
その名の通り、異界航行艦シュプルギーティスに装着して強化ユニットとする為に作られたものか。
さらに装騎用の強化アーマーを介することで機甲装騎にも装着ができる。
主な機能はリアクターの追加と武装の追加。
つまり――
「リアクターが不調なオレにうってつけってわけか」
ばあちゃんに助けられたみたいで少し癪だが仕方ない。
オレはヴィーチェを装備する。
スパルロヴ・ヴィーチェってところか!
「さぁ、行くよベチュカ!」
「ああ、やってやるぜ!」
「ステラソフィアシリーズ命名規則」
ネタギレですか? はい。
ご存じの通り(?)ステラソフィアシリーズでは(姓)・(名)でキャラクターの名前が統一されている。
例)シュヴィトジット・ヴラベツ、バルクホルン・アーデルハイト
舞台となるマルクト共和国から東にある華國、極東の我国も例外ではなく、中黒も省略されない。
例)誘・奈、水仙・流雅
ミドルネームが入る場合は(姓)・(M)・(名)となる。
例)エレナ・ロン・サリナ、リサデル・コン・イヴァ
ロシア系の名前の場合、父称が入るのもミドルネームと同じ位置になる。
例)テレシコワ・イヴァノヴナ・チャイカ、カリナトルスタヤ・アレクセエヴナ・ダーリヤ
ハンガリー人に相当する人種でも名前のルールは変わらない(ハンガリーは日本などと同じ姓・名の順
例)フェヘール・ゲルトルード、フェケーテ・リハールド
ハンガリーモデルの人名で「フォン」が付く場合はハンガリー人と同じく名前の先頭に来る。
例)フォン・バログ・アールミン
その他、言語による命名ルールの変化はキャラの環境によって受けたり受けなかったりする。
例)サエズリ・スズメは戸籍上はサエズリオヴァー・スズメが本名だが普段は通称で通してる。これは育った地域によってそう登録するようになっているから。ただし公文書以外では使う風習がない。
例)ピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタはチェコ語系の名前だが姓が女性形になってない。これはビェトカは他国に亡命した一族だったので元いた地域の慣習が残ってないため。
例)シュヴィトジトヴァー・ヴラベチュカは本名だが本人は女性形の名前が嫌で男性形であるシュヴィトジット・ヴラベツを名乗ってソレで通している。
などなど……
ルールを守って楽しく創作!(ステラソフィア内だけじゃん……




