第3話:これがオレの「先輩達」
「チーム・ブローウィング、シュヴィトジット・ヴラベツ。装騎スパルロヴ、出るぜ!」
警報が鳴り響く中、オレは装騎スパルロヴで飛び出した。
「フォーメーションはいつもどおり。ヴラベツちゃんとカケルちゃんのツートップでぇ!」
「「諒解!」」
「カルラちゃんは2人の支援を。アーラは後方支援しまーす」
「ふっ、良いだろう!」
「ではぁ、GO! ブローウィングGOですわぁ!」
アーラ先輩の号令でオレとカケル先輩の装騎テンペストは並び、駆ける。
《「侵攻者」巨人型、六本脚型を確認》
「いつも通りのはぐれ部隊か」
「だからって油断するなよ〜?」
「カケル先輩こそ!」
「先手は――いっただきィ!」
先に仕掛けたのはカケル先輩の装騎テンペスト。
大型のバックパックに白い装甲。
強烈な加速能力を持つ機甲装騎だ。
装騎テンペストは左腕から何かを巨人型に向かって射出した。
その先端――鋭く尖った刃が巨人型に突き刺さる。
「手繰り寄せる!」
刃の後ろに伸びるワイヤー、装騎テンペストはそれを引っ張った。
巨人型の「侵攻者」がワイヤーエッジによって引き寄せられ、一気に距離が詰まる。
「そして、斬るッ!」
装騎テンペストが右手に構えるのはサメの歯のような鋭い可動式の刃が並ぶ咬斬剣フーイ。
その刃が激しく振動し、上下し、けたたましい音を鳴らす。
歯が浮きそうになる騒音を撒き散らし、激しすぎる火花を舞い散らせながら巨人型を切断した。
「相変わらずスゲー武器ですね。整備性もクッソ悪そうだし……」
「手のかかる子ほどかわいいってね!」
「もしかして、自分でメンテしてるんですかソレ」
「もちろんさ!」
オレならこんな面倒な武器は使いたくないけどな……。
普通の超振動剣ならもっと整備性も値段も良いしさ。
とかいいつつ、
「ヴラベツィー・スヴェトロ!」
「でもお前の武器だってワンオフじゃん! しかも霊子砲内蔵で展開ギミック付きとか!」
そうなんだよなぁ。
まぁ、オレの両使短剣イージークはばあちゃんから無理矢理押し付けられたヤツだし、まぁな。
「お喋り結構! だが来てるぞお二方!」
オレとカケル先輩の間から顔を覗かせたのはカルラ先輩の装騎イェストジャーブ。
鮮やかな青色でその存在感を誇示している。
両手で構えた霊子連弩砲イェストジャービー・ドラープからアズルの光が迸った。
真面目な話、霊子砲なのに連弩の体をとってる意味は全く無い武器だ。
「そういうな! この鷹の爪のような鋭い翼、まさにイェストジャーブの名に相応しいではないか!!」
「翼なんだか爪なんだか!」
「翼であり爪だ。オールインワンというヤツだな!」
「それは違うと思うなぁ」
ついにはカケル先輩にもそう言われる。
「そしてそこに私の鷹の目が合わされば――」
こんなバカみたいな先輩だが、ただ1つオレも一目置いてる部分はある。
「そこだ!!」
霊子連弩砲イェストジャービー・ドラープの一撃は的確に六本脚型「侵攻者」の急所に命中した。
カルラ先輩の持つ広い視野に咄嗟の判断能力。
先輩の言う「鷹の目」――それがオレ達チーム・ブローウィングの前衛と後衛の強い架け橋だった。
「この私の華麗なるテク! うーん、さすがは王者たるイェストジャーブ家の後継者!」
こういう所が無ければもうちょっとだけ尊敬出来るんだけどな。
「そして、もう一体! 我が華麗なるテクで仕留めて見せようじゃあないかぁ!!」
「え〜い」
装騎イェストジャーブが霊子連弩砲イェストジャービー・ドラープを向けた六本脚型「侵攻者」。
それが一条のアズルによって撃ち抜かれる。
「あぁ、私が倒そうと思っていたのにぃ!」
「あぁら。そうでしたのぉ? ごめんなさいね、あんまりにもチンタラしてたものですから〜」
アーラ先輩の装騎ノクス。
全身が無光沢の黒色で塗られた細身の機甲装騎。
頭部のカメラアイが通常の装騎より大きく肥大していることから狙撃用に調整されていることがわかる。
「さぁ、撃ちますよぉ〜」
武装はもちろん狙撃銃オーレスミラビリス。
霊子砲機能と実弾発射機能、それに――
「モード・バースト……えいっ!」
巨人型「侵攻者」の胸部に鏃のようなものが突き刺さる。
瞬間、その僅かな傷が抉られるように、内側から破裂するように巨人型「侵攻者」は爆発した。
今のは鏃による傷からアズルを相手の身体の中に注入。
破裂させることで内側から破壊するモード・バーストだ。
アーラ先輩はそういう色んな機能のある弾丸を使い分けて戦うサポータータイプだった。
「ヴラベツちゃん。最後の巨人型、あなたが一番近いですわ」
「当然! 行くぜ、電撃!」
オレは装騎スパルロヴを一気に加速させる。
「稲妻!」
距離が詰まる。
装騎スパルロヴと巨人型「侵攻者」がぶつかる――側からはそう見えるに違いない。
だがもちろん、そんなことはない。
「熱風!」
一気に跳躍!
獣脚型装騎であるスパルロヴの最大の特徴はその跳躍力!
相手の頭上を取り、そして、
「銀風星叉!!」
切り裂く!
地面に描かれた✳︎。
一瞬のうちに8方向からの斬撃を加えるオレの必殺技!!
《必殺技データベースからの引用。再現率70%です》
うるせー!
倒せりゃいいんだ倒せりゃ!
「うぅーん……これで最後、とは言えなさそうですねぇ」
装騎ノクスが上空を見上げている。
その視線をオレが辿るより早く、大きな影が差した。
「あれは……!」
「おっ、たまにはすごいの来るねぇ。大物じゃないか!」
「フフッ、闘志が湧くな! 矢張り、ああいう大物を倒してこそイェストジャーブの名が轟くというものさ」
なんて言ってる間に轟音。
そして衝撃!
空から降り立った巨大な「侵攻者」が大地に降り立ったその余波だ。
《ŽIŽKAのデータベースより照合。超大型「侵攻者」》
「竜型……」
『Kahhhhhhhhhhhhhhh!!!!!』
甲高い咆哮のようなものを上げながら、首を大きくもたげる。
その姿はまさに竜種のソレ。
竜型「侵攻者」はその口を大きく開いた。
口内に怪しく光る青白い輝き。
アレは――アズル?
「退避!」
『Kyyyyyyyyyyyyyyyy!!!!!』
不意に薙ぎ払われた竜型「侵攻者」のアズルブレス!
強烈な熱線が周囲を薙ぎ払う。
何とかオレ達に被害はないが……。
「ステラソフィアは?」
「だいじょうぶ。ちゃんと防衛用のアズル防護壁が作用していますわ」
もちろん学園の真っただ中で戦闘をするんだ。
学園側だって防衛用の設備はちゃんと備わっている。
「だがしかし、そう何度も耐えれるものでもないぞ。このアズル防護壁の建造には我がイェストジャーブ財閥も関わっている――だからこその忠告だ!」
「知ってる知ってる。それに実際問題、こんなヤツをいつまでものさばらせるワケにもいかんしねー」
「ええ。チーム・ブローウィング、標的の可及的速やかな排除を」
「「「諒解!」」」
『Kyiiiaaaaaahhhhhhhhh』
身体を激しく蠢かせながら口からアズルの閃光を放つ。
「あの予備動作のお陰で読みやすいけど――」
「ちょっと気持ち悪いな! もっと優雅にできんものかね!」
気持ち悪い?
いや、違う、オレはもっと違う印象を抱いた。
アレは――そう、苦しんで、いる?
「イージーク!」
オレは両使短剣イージークを構える。
瞬間、その刃が展開し霊子砲モードに――その状態でアズルを固定することで霊子剣モードだ!
「どうあれ、お前が「侵攻者」である以上、オレは、倒す!!」
「ヴラベツ、行くのか! よし、ワタシも続くよっ」
「カケル先輩! いつも通りの挟撃スタイルでお願いしますよっ!」
「モチのロンっ!」
オレの装騎スパルロヴとカケル先輩の装騎テンペストは弾けるように2方向へと分かれる。
竜型「侵攻者」の周囲を駆け、相手を挟み撃つ形に。
「しっかし、アレだけデカいと射撃武器ないとつらいねー」
「ワイヤーでなんとか頑張ってくださいよっと」
「私も援護してやる! 危なそうならコッチに気を引いてやるさっ!」
「わたくしは援護と弱点の精査を――させて頂きますわ!」
『Kyyyyyyyyy!!!???』
装騎ノクスの狙撃が竜型「侵攻者」の瞳を的確に射抜いた。
その一撃に竜型「侵攻者」の視線が装騎ノクスに向く。
「今度はオレだ!!」
オレは装騎スパルロヴを一気に跳躍させ、翼のようになっている部分を――
「斬る!」
両断!
竜型「侵攻者」の鋭い眼光がオレの身体を、装騎スパルロヴを射抜いた。
「こっちこっち!!」
瞬間、竜型「侵攻者」の首筋に一本のワイヤーエッジが突き刺さる。
「そしてそのまま――巻き取るッ」
装騎テンペストは一気に竜型「侵攻者」に取りついた。
『Kah! Kuha!!』
頭を激しく上下、左右させながら装騎テンペストを振り払おうとする竜型「侵攻者」。
装騎テンペストはそんな程度では振り落とされない!
ワイヤーエッジからアズルを流し込み、咬斬剣フーイを突き立てた。
「効いてるんじゃん?」
「そうかぁ?」
カケル先輩はそういうが、さすがにサイズが違いすぎる。
オレも両使短剣イージークでの斬撃と射撃でダメージを与え続けるがイマイチ手ごたえがない。
「アーラ先輩、まだか!?」
「解析完了ですわ! あの竜型「侵攻者」――胸部に霊子反応炉が備わってますの。アレを破壊すれば――」
アズルリアクター。
人や生物の持つ生命力を特殊な結晶石ブルエシュトーネを通し電力と結合させたエネルギー、それがアズル。
つまりはそのアズルを生成する為の器官があの竜型には埋め込まれてる……?
「だけどさ、アズルは生物には有毒なんじゃかったっけ?」
「その通ぉりだ! 少量なら悪影響は無いが、リアクターを体内に埋め込むとなると――いやはや、そんな邪悪な実験、我がイェストジャーブ財閥では到底行えんな!」
「そうか――だから……」
カルラ先輩の言葉にオレは確信する。
あの竜型「侵攻者」が苦しんでいるように見えた理由はまさにソレだ。
きっとあの竜型は無理矢理アズルリアクターを結合させられている。
《肯定。竜型は恐らく原生種を改造した現地改造型の「侵攻者」と思われる》
「チッ、「侵攻者」共め……」
そう、「侵攻者」と一口に言っても多種多様だ。
よく遭遇する六本脚型は襲撃初期から見られる純粋な「侵攻者」だ。
それとは別に、巨人型はオレ達の使う装騎の技術を模倣したものだと言われている。
そして、この竜型は――既存の生き物を組み合わせて「侵攻者」として改造したタイプの「侵攻者」。
胸糞悪くなるぜ……ッ。
「それで、どう倒す!?」
「わたくしが胸部を狙撃して傷を付けますわ。そこから何とか――」
「リアクターを破壊する、だな! 任せたまえ!」
「いきますわ――!」
装騎ノクスが狙撃銃オーレスミラビリスを構えた。
そして、撃つ。
「モード・バースト!」
装騎ノクスの撃った鏃は的確に竜型「侵攻者」の胸部に突き刺さった。
そしてその先端からアズルが竜型へ注ぎ込まれる。
『Kohhhaaaaaaaaaaa!!!!!!』
激しい唸り声を上げる竜型「侵攻者」――けれど、アズルリアクターを破壊するには至らない。
「まだですわ。まだまだ! カルラちゃんも!」
「当然さ! 我が霊子連弩砲――その力を見せてあげようじゃあないか!」
装騎イェストジャーブの一撃も的確に竜型の胸部を撃ち抜く。
この先輩達のすごいところは、動き回る竜型相手に的確に射撃のタイミングを合わせ、そしてほぼ同じ部位を攻撃し続けているところにある。
アーラ先輩の狙撃の腕、カルラ先輩の鷹の目――自分の腕に絶大な自信があることがわかった。
装騎ノクスの鏃と装騎イェストジャーブの嚆矢――その2つがじわりじわりと押し込まれていきそしてやがて――――
『Gahhhhhhhhhhh!!!!!!!!!!!!!』
アズルリタクターへと達した。
胸部からアズルの光が漏れ出して来る。
「トドメは任せますわ!」
「ヴラベツ!」
「カケル先輩!」
装騎テンペストが両腕のワイヤーエッジを竜型「侵攻者」に突き立てた。
「行けるよな?」
「行くしかないだろ!」
アズルが装騎テンペストのバックパックに集まっていく。
それは急加速の前兆。
そして――――一気に弾け飛ぶ!
装騎テンペストと竜型「侵攻者」の距離が詰まっていく。
その間に入ったのは――オレの装騎スパルロヴ!
「テンペスト!」
「スパルロヴ!」
オレは思いっきり両足を踏ん張る。
その両足が装騎テンペストの胸部とぶつかった。
つまり、装騎スパルロヴが装騎テンペストに思いっ切り押し出される形になる!
そう、コレがブローウィングに代々伝わる合体技!
「「ブレードブリット!!!!」」
激しく加速したオレの装騎スパルロヴはまさに巨大な弾丸。
両使短剣イージークにアズルを灯し、そのアズルは装騎スパルロヴの全身を覆った。
「衝突!!!!」
オレの放った一撃は竜型「侵攻者」を、そのアズルリアクターを貫き息の根を止めた。
「やったなヴラベツ!」
「はい」
「さぁ、寮に帰るのですわ~」
「フッ、中々に戦い甲斐のある敵だった」
先輩達の後に続き、オレもブローウィングの寮室へと足を向ける。
だけど、こんな戦いはいつまで続くんだろうか?
オレが考えても仕方のないことなのかもしれない。
けれど――
インハリテッドキャラクター名鑑
「イェストジャーボヴァー・カルラ(Jestřábová Karla」(イラスト中央
ステラソフィア機甲学園機甲科チーム・ブローウィング2年。
マルクト三大財閥と言われるイェストジャーブ財閥の次期後継者。
ステラソフィア機甲科内では実力が最下層ということから「財力はある」とよくネタにされる。
名前の由来は鷹
「ワシミヤ・カケル(鷲宮 翔」(イラスト右
ステラソフィア機甲学園機甲科チーム・ブローウィング3年。
真っ直ぐな性格に中性的な見た目から女子生徒から人気が高い。
無鉄砲なヴラベツの性格を同じアタッカーとしてよく理解している良きパートナー。
名前の由来はワシ
「ストリクス・アーラ(Strix Ala」(左
ステラソフィア機甲学園機甲科チーム・ブローウィング4年。
優しい笑顔とあふれ出る母性でステラソフィア機甲科のお母さん的存在。
と同時に割とすぐ実力行使に出がちな所から、かなり恐れられてる。
名前の由来は梟