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第27話:ムスチテルキ隊「再決起」

「オレとアネシュカが前衛を。ナっちゃんとグルルは艦から援護を頼む!」

「私も前に出よう。技呪術霊子砲シャマンスキー・オドストジェルの充填完了まであと30%……攻撃を通しさえしなければ数分では終わるはずだ」

「つっても、この敵の数っしょ? 大変そうジャン」

「だからこそコッチだってチームワークの見せ所ってヤツだぜ」

「わたしたちイマイチ纏まりないですけどねぇー」

「それな」

「それなじゃない! ここでなんとかしねーと全滅だぞ」

「わーってるわーってる! まっ、頑張りますかっ! んじゃ、しっかりお願いねリーダー!」

「は?」

ムスチテルキ隊(アタシたち)への指示を任されたのはベチュカっしょ? ならベチュカはアタシらのリーダーってコトっしょ」

「その通りですね! 頼りにしてますよリーダー!」

「ったく……」

こんな茶化しあいをしてる場合ではないっていうのに。

「……あいかわらず」

「全くだ」

「でも、わたしも頼りにしてる」

グルルが――装騎ククルクンが親指を立てオレに向けた。

ま、頼りにされてるってーなら何とか頑張るしかないか。

それに、こんな緩い空気こそオレ達ムスチテルキ隊流だ。

「ったく、仕切り直しでいくぞ! ムスチテルキ隊、」

DO BOJE(ド ボイェ)!!』

「グルル、弾幕展開!」

「諒解」

装騎ククルクンの攻撃子機ウング支援機フチェラが隊列を組み、霊子砲を放射する。

「アネシュカ、前衛だからと言って無理に敵を撃破する必要はない。今は艦から距離を離せればいい!」

「り!」

「ナっちゃん、なんか攻撃補助できる魔術はないのか? ぴんぼうるだっけ? アレみたいな手数を増やせるようなやつ!」

「んー、そうですねぇ。毘武防流ぴんぼうるは相手を囲まないと使いづらいですしぃ。アレで行きましょう! グっちゃーん!」

「やむなし」

ナっちゃんの呼びかけで装騎ククルクンのウングが陣を描くように配置を変える。

輝反きはん結界・符璃杜霧ぷりずむ!」

装士イーメイレンがその中央に華式直刀を放り投げ、陣が完成した。

「この結界は?」

「霊子攻撃を増幅、拡散させる結界です!」

「つまり――ヴラベツィー…………ボウジェ!」

両使短剣イージークにアズルを集め、ヴラベツィー・スヴェトロを超えたボウジェのような一撃を放つ。

その一撃がナっちゃんの作り出した結界に触れた瞬間、溢れ出し、弾け、そして虹色の雨となって「侵攻者」に降り注いだ。

「広い範囲を攻撃するにはいいな!」

「でっしゃろー」

「ベチュカくん。せっかくだ獣脚スパロー型の使い方を少しだけ教えてあげようか」

「獣脚型の、使い方?」

不意に装騎ゲツガが跳躍するように宙を駆ける。

凄まじい加速力で「侵攻者」を一体引き裂いた。

だが、それだけでは終わらない。

切り裂いた敵を足場にさらに跳躍。

別の「侵攻者」を標的にして撃破。

それは流れるような連続撃破。

特に重力という制限のない宇宙空間なら獣脚型の最大の特徴である跳躍力と加速力を最大限に生かすことができるのか。

「けど、これだけ敵に斬りこめば――」

隊列が乱れて、隙を作ることになる。

それはゲッコー艦長もわかっているはずだ。

更にもう一騎、「侵攻者」を撃破したところで装騎ゲツガは今まで以上に強烈な蹴りを放った。

その反動で加速のついた装騎ゲツガが元いた位置へと戻る。

「獣脚型の強みは瞬発力。他の装騎よりも高速で動ける分、少し突っ込んだ動きもできる」

そして、突っ込んで動きをしながらも、素早く隊列を組み直せる機動力も、か。

「その通りだ。脚を使え。そして目と、頭をだ。常に敵と味方の位置を把握してここぞという場所に斬りこめ。それが獣脚型の使い方だ」

「脚を使え、か」

それはばあちゃんにもよく言われてたのを思い出す。

何よりこの獣脚型はオレのばあちゃんが史上最初の騎使だしな。

「何、君ならできるさ」

そう言われてやらないっきゃない。

敵と味方の位置を把握して斬り込む。

「ベーチュカ! アンタはアタシらのリーダーなんだからソコんトコも忘れないよーに!」

「わかってるって!」

ゲッコー艦長の助力もあり、それからしばらく、なんとか戦い続けることができた。

そして――

技呪術霊子砲シャマンスキー・オドストジェル充填完了! そして、発射!』

「ムスチテルキ隊は帰艦だぜ!」

「私も戻るぞ」

強烈な霊子の閃光が「侵攻者」達を焼き払う中、オレ達は素早く異界航行艦シュプルギーティスに帰艦。

『グルル。加速をお願い』

「承知した」

異界航行艦シュプルギーティスの背後にフチェラが集まり陣を組み、そして――

「ブルスト」

月でも見せた超加速技呪術により異界航行艦シュプルギーティスは一気にその場を離脱した。


「なんとか凌いだな……」

母型ティプ・マトカに統率された「侵攻者」を振り切ったことを確認し、安堵のため息が漏れる。

「母型って言ったか。まさかあんなのが現れるなんて」

「わたしも、驚いた」

オレの呟きにツェラが答えた。

「本来は火星の基地で待機してるはず。まさかわたしたちを追いかけて来るなんて」

「アタシらにキョーミがあったとか?」

「その可能性は高い。母型は「侵攻者」を統率するための知能を持つ「侵攻者」。それに、アーデルハイトや娘型わたしたちの記憶も多少は把握しているはず」

「一目見てみたくなったということですねぇー。いやしかし」

「びっくり」

「だな」

とりあえず、どうやら敵のボスに目をつけられてしまったらしい。

「それでも、かなり距離も離した。母型は火星から遠くへは離れられない。当分は大丈夫、なはず」

「ま、何かあったらオレらがなんとかすればいいしな」

「って言うケドさ、ベチュカ!」

アネシュカが人差し指を立てオレに向かって突き立てて来る。

騎士型ティプ・リチーシュを逃したこと自体はまだ許してないからね!」

「それは……」

「見てて分かる。アンタ手を抜いてたっしょ? ナンであんな――」

そう。

アネシュカ達はまだ知らない。

騎士型の正体がアーデルハイトであることを。

オレはツェラを一瞥した。

静かに頷くツェラ。

オレに任せる。

そう言うように。

実際、ムスチテルキ隊のリーダーはオレということになっているらしい。

となれば、コイツらに伝えるのはオレの仕事か。

「わかった」

一瞬悩んだが、ここで言わなかったからと言って何も変わらない。

コイツらなら騎士型がアーデルハイトだとわかったからと言って怯まないだろうしな。

「結論から言う。騎士型はアーデルハイトだ」

「は?」

アネシュカはよくわからないと言うように声をあげた。

「お前らもツェラから聞いただろ? ツェラはオレ達と同じ人間をベースにした「侵攻者」だって」

「なるほどですね!」

最初に理解を示したのはナっちゃんだった。

いや、コイツ本当にわかってんのか?

「大体、ツェラちゃんの乗ってた大鯨型ティプ・ヴォルヴァニは火星から発進したと推測されます。んなら、火星周辺で産まれたと考えるのが自然ですよね」

「んー、そーなんの?」

「そーです。で、火星周辺まで到達した人類はわたし達が初めてのはず。なら、どういう理由があればわたし達より先にあの辺りに人がいるということになるのか」

「アタシらのとこから連れてきたんじゃないの?」

「「侵攻者」工場なら月にありましたし。今があの作戦から一年前だというなら今も健在じゃないですか。わざわざ火星まで行く意味ないじゃんですかー」

ナっちゃん、わりと話を理解してくれてるようで助かる。

「つまりだ。あの戦いで行方不明になったアーデルハイトは一年前のあの辺りに跳ばされてたんだ。オレ達と同じようにな」

「あー、んでソコで「侵攻者」に捕まって改造された……とか言いたいワケ?」

「そうらしい」

アネシュカは理解はしたが納得はしていないとでも言いたい表情を見せている。

「マジなのツェラ?」

そこでこういう話では一番信用できるであろうツェラに話を振った。

「本当」

シンプルな一言。

それにアネシュカは頭を抱える。

「つまりマジで騎士型はアーデルハイト?」

「わたしはアーデルハイトを元に造られた。その記憶もある。まず間違いない」

「ソレがミスリードの可能性は?」

「なくはない。けど、否定する材料もない」

実際騎士型の姿は思い起こせば思い起こすほどアーデルハイトの装騎アインザムリッターと重なるところがある。

さっき戦った騎士型にいたってはアーデルハイトの面影を多く残していた。

「もちろん、本当にアーデルハイトなのか、それこそツェラみたいにアーデルハイトの記憶を植えられた別の存在なのかもしれない。それでもオレは――」

「救いたい? アーデルハイトを」

グルルの言葉に頷く。

「それにツェラみたいにオレ達の仲間になってくれるかもしれないしな」

そう。

一番オレに希望を与えてくれていたのはツェラの存在。

彼女がいるからオレはアーデルハイトを救えるんじゃないかと思った。

「アネシュカ、ナっちゃん、グルル――みんなにも協力してもらいたいんだ。ダメか?」

「わたしは構いませんよー」

「当然」

「アンタ、本当に救えるとか思ってんの?」

頷くナっちゃんとグルルに対してアネシュカはいまだそう疑いの眼差しを向ける。

「それは、わからないけど」

正直わからない。

けど、

「みんなとならできると思ってる」

「はぁ、わーったわーった。アタシも協力してあげればいーんしょ?」

「お願いできるか?」

「どうせやることはそんな変わらないんしょ? ついでにちゃちゃっとやったげるわよ」

「ありがとう」

アネシュカが目を丸くする。

なんだその顔。

「ったく、ガチのガチってワケね。いージャンやったロージャン!」

オレの決断が良かったのか悪かったのか――それはわからない。

けど、コイツらとなら。


挿絵(By みてみん)

インハリテッドメカニカル名鑑

「装騎ゲツガ(月牙」

騎使:ヒノキ・ゲッコウ

主武装:両使剣スヴェトロ

操縦系:オーバーシンクロナイズ

動力:アズルリアクター

アズル容量:10.000Azl

アズル出力:10.000Azl/s

常態消費アズル:2.500Azl

装甲C 格闘A 射撃E 機動B 霊子C

ヒノキ・ゲッコウの乗る灰色の獣脚型装騎。

ベース騎はスパローの系譜であるシャールカ型装騎。

本来は民間騎であり、シュプルギーティスにも船外作業用として持ち込まれていた。

そもそも扱い辛いシャールカ型を船外作業用にするのはありえないのでゲッコー艦長の持ち物の可能性もある。

それに装騎アインザムリッターのパーツや予備の戦闘用アズルリアクターを搭載し急遽戦闘用にしたもの。

民間騎ではアズル容量が5.000Azl程度なのでそれだけで倍近い違いがある。

武装の両使剣スヴェトロはメトロチュカが持ち込んでいた工房製の特注武器。

頭身の中央に加工された魔石がはめ込まれ、中で霊子を乱反射させることで強烈なアズルを生み出す。

名前の由来は武器の一部の名称である月牙より。

方天戟などの武器についている三日月状の刀身部分のこと。


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