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第26話:母の名を持つ「大要塞」

それはまるで宙を漂う巨大な浮島。

抉り取った地面に推進装置をつけ、無理矢理飛ばしているような岩石の塊。

母型ティプ・マトカ……っ』

ツェラの苦しそうな声が漏れる。

あの巨大な島が、母型!

「ツェラ、大丈夫か!?」

『平気……あらがえてる』

「抗う……?」

『母型は「侵攻者」を取りまとめるモノ……わたし達「侵攻者」の持つ因子を活性化させることができる』

つまり、「侵攻者」をより「侵攻者」らしく行動させるということか。

というなら、騎士型も。

『ーーーーッ!!!』

不意に騎士型が背を向ける。

「な、待て!」

オレの制止ももちろん聞かず、母型の元へ駆け出した。

その後を追いかけようとするオレだったけれど……。

『「侵攻者」反応アリ! ……この「侵攻者」、速い!?』

騎士型と入れ替わるように母型の奥から多数の「侵攻者」が姿を見せる。

それも、かなりの速度を誇る「侵攻者」。

そしてその姿は――

「騎士、型……!?」

騎士型にそっくり。

いや、巨人型ティプ・オブルに騎士型のようなブースターを増設したようにも見える。

恐らくアレは、母型を守護する近衛兵。

近衛型ティプ・ストラーシュ……そう呼べばいいだろうか。

「ムスチテルキ隊、迎撃準備! 敵はけっこー速いぞ!」

「それに強そうですねー」

「っても、騎士型じゃあないんっしょ? なら……」

オレは近衛型と刃を交える。

「ヴラベツィー・ジェザチュカ!」

両使短剣イージークの一閃で近衛型は真っ二つ。

けれどオレは感じた。

「コイツ――思ったよりは強いぞ!」

確かに騎士型ほどの強さはない。

倒すことは不可能ではない。

けど……

「数が……多い」

グルルが呟く。

実際、一番の問題はそこだった。

「ッ! 確かに弱くはないジャン! ソレ以上に……うじゃうじゃと!」

「質より量ってヤツですねー。でも全体の質としては今まで戦った「侵攻者」の中でもかなり上とかいう厄介さですねぇ」

『恐らくは騎士型の技能を複製し、尚且つ母型の支配下に置いた特別型……基本的な実力だけなら騎士型並』

ただし、複製時の技術きおくの摩耗による劣化や、母型の強制力によって騎士型ほどの能力は発揮できないという。

「ツェラ……近衛型は――」

『そう娘型わたしの……姉妹たち』

それもそうだ。

そもそもアーデルハイトの記憶を持たせ、人間の特性を知ろうとしたのがツェラ達娘型「侵攻者」。

騎士型アーデルハイトの技術をコピーしたというならソレはツェラと同じ娘型だということ。

もしかしたら、その中でも戦闘技術を高めた娘型なのかもしれないが。

『近衛型は今の「侵攻者」にとって最強の矛にして盾。そして……』

「呑気にお話してる場合じゃないっしょ!」

「どんどん来ちゃいますねぇ」

「つらい」

「状況の把握は大事だろ!」

「把握するまでもないってーの! 敵の数が多い! 以上!!」

「あー、さっさと逃げちゃいたいんですけどー!」

「しかし、まわりこまれてしまった」

『手は打ってある。技呪術霊子砲シャマンスキー・オドストジェルの準備中。充填が終了し次第放射。その隙に撤退する』

「撤退ィ? 技呪術霊子砲でぶっ倒せないの!?」

『無理』

「あのパワーアップ版でも!?」

『無理』

「さすがにサイズ差を考えろってーの!」

「わぁったわよ! とりあえず、ちょっと持ちこたえればいいんっしょ? コレくらいなら……」

『敵増援を確認! 鳥型ティプ・プターク巨人型ティプ・オブル……それに、鮫型ティプ・ジュラロク!』

「むっちゃ来たんですケドォ――!!」

『……っ、支援機フチェラを放出。鮫型を引き付けさせて』

「諒解」

異界航行艦シュプルギーティスからフチェラが放出され、グルルの意に従って宙を翔る。

「クソッ、時間がかかればかかるほど敵が増えるッ!」

「誰か広範囲攻撃的なのできないの!? ほら、MAP(マップ)兵器みたいな!」

「グルルならデケェのあったよな!」

「フヴンス・イドグムント」

瞬間、激しい閃光が宙を引き裂いた。

「そーそーソレソレ! そーいうの!」

「ナっちゃん、結界術で上手く敵を纏められないか?」

「グっちゃんにブチかまさせればいーんですね! りょーかいでーす!」

よし調子が出てきた。

ついでにオレも――

「行くぜ、ヴラベツィー――」

両使短剣イージークにアズルを一気に流し込む。

眩いアズルの輝きが、霊子剣ヴラベツィー・ジェザチュカを超えた輝きをその刃に持たせた。

オレだって、こういう技を持ってるんだぜ!

大剣撃オボウルチュニーメッチュ!!」

それは大出力の霊子剣。

装騎スパルロヴの身の丈を圧倒的に超えた巨大な刃。

これで一気に、敵を切り裂く。

「アンタそんな技隠し持ってたの!?」

「地上じゃできねーからな!」

それに、アネシュカほどの実力なら似たようなことは不可能ではないはずだ。

「んじゃ、今度アタシも試してみるとして――ベチュカ、支援欲しいでしょ?」

「くるくる回るヤツ頼むぜ!」

「り! ドラコビイツェ・トルナード!!」

射出された鎌剣ドラコビイツェを回転させ、さらにアズルを上乗せ。

アネシュカの意思によって敵を吸い寄せる霊子竜巻が発生する。

渦の中に囚われた「侵攻者」を――両断!

「どうだ!」

「カッコ付けてる場合じゃないっしょ! まだまだ来るわよ!」

「うおっ!?」

「侵攻者」からの霊子砲撃がオレの側を通り過ぎた。

『霊子防護壁展開だ!』

『はいっ!』

『技呪術霊子砲の充填は?』

『「侵攻者」への迎撃と攻撃への対処が手一杯で……』

『まだか……厳しいな』

ゲッコー艦長が唸る。

敵の数が多くてオレ達だけでは迎撃が間に合ってない。

そのせいで「侵攻者」の攻撃が異界航行艦シュプルギーティスにまで届いてしまうんだ。

最初に展開したフォーメーションも崩れているし……。

かといって立ち直るには状況がゴチャゴチャし過ぎてる。

『各部署は被害状況を常に報告を』

『諒解!』

霊子砲などの迎撃武器や霊子防護壁があるため大きなダメージにはなっていないが、技呪術霊子砲にアズルを回せなく充填までいつも以上に時間がかかっていた。

『長引けば長引くほど撤退が難しくなる……これ以上は……』

『いっそ、ありったけの火力を敵に叩き込んでムスチテルキ隊を収容。全速力で逃げるとか……』

リブシェの提案はゲッコー艦長の考えとそう違わない。

ただし、技呪術霊子砲ほどの火力と攻撃範囲は望めない為、追撃のリスクは更に高まるだろうが。

『それに霊子砲はともかく、実弾武器の使用は控えたい。まだ月までの道のりは長いんだ』

『ですけど……』

『メトロチュカ、即興で機甲装騎を一騎組み立てろと言われたら可能か?』

不意にそんなことを口にするゲッコー艦長。

『こちら整備班! まぁ、スペックとか問わなければ今すぐにでもできますけどー』

『頼む。武装は予備の超振動剣があったな。それで頼む』

『諒解!』

『機甲装騎をもう一騎――ですが、誰が乗るんですか?』

『リブシェ、君は確かステラソフィアの士官科を出てたな?』

『は、はい』

『この艦のことも私の次に詳しい。そうだな?』

『自負してます』

『ヒノキ・ゲッコウ。出るぞ!』

それはつまり――

「はぁ!? 艦長が装騎に乗って戦うってーの!?」

アネシュカが叫ぶ。

「ってか、あの人って騎使なのぉ?」

「知らねーの?」

若干心配そうな様子の見えるアネシュカに対し、寧ろオレはワクワクしていた。

インヴェイダーズ戦争の英雄ヒノキ・ゲッコウの戦いが見られるんだ。

『発進準備完了。装騎のコードはどうします?』

「ゲツガ。装騎ゲツガだ」

『諒解。装騎ゲツガ、発進どうぞ!』

「ヒノキ・ゲッコウ、ゲツガ――行くぞ!」

異界航行艦シュプルギーティスからその装騎が姿を見せる。

灰色の装甲に細身の身体。

その両脚はオレの装騎スパルロヴのように獣脚になっていた。

『船外作業用に持ち込まれていたシャールカ型装騎を予備パーツで戦闘用に改修してみました!』

「それだけじゃないな」

装騎ゲツガが右手に握る片手剣へカメラを向ける。

『ふっふっふ……こんなこともあろうかとフニーズド製の最新武器を作っておいたんですよ!』

一見なんの変哲も無い細身の両刃剣。

しかし、装騎ゲツガがその刃を振るった瞬間、眩いアズルの輝きが迸る。

オレの両使短剣イージークと同じような、霊子砲機能付きの剣。

『名付けて、両使剣ドヴォイウジトコヴィー・メッチュスヴェトロ!』

両使剣スヴェトロにアズルが灯った瞬間、乱反射するような瞬きが周囲を照らした。

「この剣は――」

『メトロチュカ特製の新技術! アズルを乱反射させることで出力をアップさせるすごい武器なんです!』

よく見るとあの剣。

刀身の中心部分は水晶のような透き通った石で作られていた。

恐らくはアズルを精製する為に使用する魔石シュトーネと同じような物体で作られているのだろう。

その中でアズルを走らせ、乱反射させ、増幅させることで少ない量のアズルをより膨大なアズルに変化させる。

「だが制御が難しくなる――そうだな?」

乱反射するということは、放出されたアズルがどこに漏れ出すかわからないということでもあった。

それを操作し、上手く任意の方向へ放出する。

その為には高い実力と集中力が必要となるのだ。

『ですが英雄とも言われるゲッコー艦長ならいけるでしょう!』

「確かに、これくらい扱えないとカッコ悪いな」

両使剣スヴェトロの光が更に増す。

煌めきが瞬き、増大し、巨大な光剣を作り出した。

月牙魄玲げつがはくれい

薙ぎ払われたアズルがたおやかにしなりながら「侵攻者」達を焼いていく。

アズルの煌めきが――それに焼かれた「侵攻者」達が無数の星となり宇宙そらに煌めいた。

「なかなか悪くないな」

「やっぱ頭オカシイぜ。フニーズド工房は……」

「ベチュカくん、ムスチテルキ隊の指揮は任せる。どうすればいいかはわかるな?」

「はいっ! 全員、シュプルギーティスを全力護衛だ。ゲッコー艦長も手を貸してくれる。あと一押し、なんとか粘ろうぜ!」

「「「諒解っ!」」」


挿絵(By みてみん)

インハリテッドキャラクター名鑑

「騎士型「侵攻者」(Typ Rytíř」

騎士のような姿をしている巨人型の一種。

その正体は「侵攻者」に囚われ身体改造を受けたバルクホルン・アーデルハイト。

騎士型としての姿は装騎アインザムリッターをベースに改造された強化外骨格であり、その内部に「侵攻者」アーデルハイトの本体がある。

巨人型や近衛型、娘型はアーデルハイトと装騎アインザムリッターを元に作られた「侵攻者」であり、その技量や記憶を程度の差こそあれど受け継いでいる。

「侵攻者」アーデルハイト本人は母型からのマインドコントロールによって人間としての記憶を持たない戦闘兵器となっている。

アーデルハイトを母型の洗脳から解放できるのか――それはヴラベツの頑張り次第なのかもしれない。

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