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第25話:人より出でし「敵対者」

「ヴラベツ……」

「ツェラ?」

異界航行艦シュプルギーティスが月へ向かって進路を取る中、オレはツェラに呼び出された。

「大事な用があるって聞いたけど」

「……」

ツェラはどこか俯くように目を伏せる。

しばらくの沈黙。

ツェラは何か決心をしようとしている。

それはオレにもわかった。

敢えて何も言わない。

彼女の決断を尊重しよう。

「この話は……ヴラベツにとっても辛い内容になると思う。それでも、話しておきたい」

「それは……」

「先の話で、わたしは明確にしていないことがあった」

先の話というと、ツェラが「侵攻者」であること。

そして、アーデルハイトの記憶を持ったアーデルハイトのツェラであるというあの話。

「明確にしてないこと?」

「「侵攻者」に捕まったアーデルハイトがどうなったのか」

アーデルハイトを元にツェラが産まれた。

それはつまり、その後どうなったのか――ということか?

「とりあえず、アーデルハイトは生きてるんだろ?」

ツェラはそう言っていた。

オレの言葉にツェラは頷く。

それは間違いなさそうだ。

「でも、無事でもない」

それは……考えたくもなかったけれど当然かもしれない。

ならば、どうなっている?

アーデルハイトは。

「結論から言う。アーデルハイトは――」

不意に鳴り響く警報。

まったく、お約束なタイミングだぜ。

『「侵攻者」の接近を確認。明確に本艦を目指してることから追撃隊かと思われます』

「……まさか、来たの?」

ツェラが何かを感じ取るように虚空を見つめる。

「ツェラ……?」

「間違いない。来るのは――」

『照合完了。騎士型ティプ・リチーシュです!』

「アイツか……!」

『ムスチテルキ隊は直ちに発進準備を!』

リブシェの声が艦内に響いた。

もちろんだ。

「ツェラ、行ってくる!」

「ヴラベツ……っ!」

格納庫に急ぎ、装騎スパルロヴに飛び乗る。

「遅いジャン!」

「わりぃ!」

「準備、OK?」

「おう」

「そんじゃ、いっちゃいましょー! 号令どうぞ!」

瞬間、漂う沈黙。

いつもならアーデルハイトがお決まりの号令をかけるタイミング。

ナっちゃんが「しまった」と焦り顔を見せる。

まったく、仕方ないな。

「ムスチテルキ隊、出るぜ(ド・ボイェ)!」

オレの号令で四騎の装騎は宇宙空間へと飛び出した。

相変わらず、騎士型の動きは"神速"。

だが、今回遭遇した騎士型は今まで見知った姿とはどこか違う。

幅広の剣、騎士のような出で立ち――それは特に変わったところはない。

見た目で一番変化の分かる場所と言えば――

「あの両肩、ブースターか?」

肥大化した両肩からアズルの光が迸る。

それはまるで、アーデルハイトの装騎アインザムリッターのような……。

「チッ、舐めてやがるッ!」

装騎スパルロヴの両使短剣イージークが騎士型の持つ突撃剣とぶつかった。

「援護する……」

「やっちゃいまーす!」

宙を翔る装騎ククルクンの放つ攻撃子機ウング

その中に入り混じった装士イーメイレンの華式直刀が騎士型を襲う。

だがそれを、騎士型は突撃剣を振り払い弾き飛ばした。

的確かつ凄まじい速さの剣捌き。

だが、その動きにオレはどこか違和感を覚えていた。

「そこだっ!」

剣を振り払ったその直後、オレは一気に装騎スパルロヴを突っ込ませる。

激しい衝撃が身体を襲った。

装騎スパルロヴの身体と騎士型の身体がぶつかった衝撃。

こちらの攻撃が防ぎきれないと知って、わざと身体をぶつけてきたんだ。

瞬時にコチラの動作を予測しての行動――だけどなんだろう、どこか粗があるようにも感じる。

「アネシュカ!」

「り!」

騎士型の背後が揺らぎ、姿を見せたのはアネシュカの装騎イフリータ。

両手に構えた鎌剣ドラコビイツェを振り払い――騎士型に一撃を入れた。

「捕まえたァ!!」

一撃はまだまだ浅い。

けれど、ドラコビイツェの湾曲した刃が騎士型の肩――その隙間に食い込みその動きを止める。

「ヴラベツィー……ジェザチュカ!」

閃く両使短剣イージークの一撃。

閃光が弾け、アズルの奔流が溢れ出した。

「今の光は――っ」

オレの入れた一撃が発したものではない。

いや、まったく無関係という訳ではないだろうが、これだけのアズルが放出されるのは不自然。

となると――

「目つぶしってワケ!?」

アネシュカの言う通りだ。

オレの一撃を利用して、アズルを発生させた。

と、いうことは――

「キャッ!」

アネシュカの悲鳴が聞こえる。

拘束から突破した騎士型が装騎イフリータを襲ったんだ。

「無事か!?」

「ッ……ジョーブッ」

オレは騎士型を睨む。

ダメージで変形した左肩のブースターからアズルを噴き出している。

騎士型はオレの一撃を利用し、わざとブースターに当てることで霊子爆発を起こさせた。

その爆発の閃光と衝撃を利用し、オレ達の包囲から脱出したんだ。

相変わらず、単騎でオレ達4人を相手取る実力。

多少無茶に見えるがしっかりと生還を果たすそのしぶとさ。

「だが、まだだ!」

オレは全身の追加装甲ヤークトイェーガーに光を灯す。

「スパルロヴ、駆逐スチーハチュ形態」

追加装甲の刃が展開され、さらにブースターからアズルが噴出した。

一気に付けた加速から、騎士型と距離を詰める。

そして再びぶつかり合うオレの両使短剣イージークと騎士型の突撃剣。

「どうした、動きが鈍ってんぞ!」

交差する刃と刃。

弾け飛ぶアズルとアズル。

その剣筋がよく分かる。

オレも強くなったのか?

いや――確かに今までよりも強くはなったとは思うがそれとは違う不思議な感覚。

これは――――動揺か?

相手の動きは確かにすさまじいものがあるが、その動きに合わせた時に奇妙な間が生まれる。

「侵攻者」も動揺するのか……。

とも思ったが、ツェラみたいに知能の高い「侵攻者」であればオレ達人間と同じような反応を見せてもおかしくはないか。

「もしそうだとすれば、騎士型は――」

高い知能を持つ、か。

それこそツェラみたいに。

「侵攻者」は学習をして強くなるというのは以前から言われていることだ。

この騎士型も学習途中――途中?

「……ッ!!」

そうだ、なんで今まで気付かなかった。

オレ達は月工場での戦いの後、一年前のこの場所に跳ばされた。

つまり、この騎士型はオレ達と出会う一年前の騎士型?

だからあの時程の力はない。

それどころか戦い方に面影がある。

そうか、だからオレはコイツの動きに容易についていけたんだ。

それがオレのずっと覚えていた違和感の正体。

学習途中だということで、初めて出会った騎士型ほど強くないと言うこと。

そして、"元になった人間"のクセがまだ多く残っていること。

「間違いない……ッ」

コイツは――

「お前は、アーデルハイトか!!」

もしかしたら、ツェラの伝えたかったことっていうのは。

『そう……騎士型は、アーデルハイト』

囁くようにツェラ言う。

『この事実を知っているのは、わたしとあなただけ』

オレは気付いた。

今、ツェラから入っている通信は、普段使っている指令室からではなく個人の回線からになっていることに。

ツェラは決心が付けられてないのだ。

オレ以外のみんなにこのことを打ち明ける決心が。

「とりあえず……この場はオレが、なんとかしてみせるッ」

閃く刃。

輝くアズル。

「援護しちゃいまーす」

「待ってくれナっちゃん」

「はぁ!?」

オレの制止にナっちゃんが素っ頓狂な声を上げる。

声に出さないだけで、アネシュカやグルルも怪訝に思ったことだろう。

「コイツは――オレ一人で何とかして見せるッ」

「ナニ言ってんのアンタ! 確かに優勢っぽいケド――だからって!」

「油断大敵」

「わかってる!」

ただひたすら力をぶつける。

この騎士型アーデルハイトがまだ「侵攻者」となって日が浅いのなら、それこそツェラのように解放することができるのかもしれない。

だからオレは呼び掛ける。

「アーデルハイト! アーデルハイトだろ!? オレだ、ヴラベツだ!!」

けれど騎士型の手は緩まない。

それどころか、オレの動きを学習し、更にキレを増していく。

だからと言って負けるわけにはいかない。

それにこの程度ならまだまだ――余裕だ!

『ヴラベツ……それ以上は』

「けど、アイツはアーデルハイトなんだろ!? なら、説得すれば絶対に……!」

『あの騎士型が説得に応じることはない。それはあなたもわかっているはず』

「わからねーよ!」

『騎士型は今から一年後にわたし達の敵として立ちはだかった。つまり――』

ここでオレの説得を受け入れたのならば、あの時オレ達は騎士型と戦うことはない。

つまりは――そう言いたいんだ。

それでも――可能性があるのなら。

「アーデルハイト、オレだ!!!!」

呼び掛けるッ。

何度でも、何度でも何度でも――――ッ!

「アーデルハイトォ!」

瞬間、衝撃が身体を襲った。

「ぐあっ」

騎士型の一撃が装騎スパルロヴに命中する。

だが、まだだ。

「この程度のダメージならッ」

戦えるっ。

「言うことを聞かねえってなら!」

両使短剣イージークを振り払い、騎士型の四肢を狙った。

それでもなかなか当たらない。

それもそうだ。

殺す気で行くならまだしも、あれだけ強い「侵攻者」相手を生け捕りにしようなんて。

それでもやらないといけないんだ。

「絶対に、アーデルハイトを――取り戻さないといけないんだッ!!」

両使短剣イージークが宙を舞う。

それと同時に、騎士型の持つ突撃剣も。

互い互いに素手となったオレと騎士型。

それでもまだ、戦うことはできる。

呼び掛けることはできる。

「目を覚ませ、アーデルハイト!!」

装騎スパルロヴの右手を騎士型の頭部に思いっ切りぶつけた。

その衝撃からか、騎士型が動きを止める。

そして、装騎スパルロヴをジッと見つめるかのように動きを止めた。

「アーデルハイト……」

オレはそっと手を伸ばす。

今なら、もしかしたらアーデルハイトを――

『ッ!! ヴラベツ、危険』

「なんだ!?」

不意に騎士型が悲鳴を上げるように頭を抱え始めた。

なんだ、これは!?

「ツェラ、何が!?」

『頭が……マズい、来る……っ』

「何が!?」

母型ティプ・マトカ……っ』

挿絵(By みてみん)

ステラソフィアキャラクター名鑑

「ツェラ(Dcera」

対「侵攻者」組織ŽIŽKAのアドバイザー。

「侵攻者」との戦いがはじまったばかりの頃、「侵攻者」との交戦地帯で見つかった少女。

ŽIŽKAの総司令であるサエズリ・スズメに保護され、後にŽIŽKAのメンバーとなる。

その正体は作中で明かされたようにバルクホルン・アーデルハイトを基にした「侵攻者」。

本来であれば次世代の「侵攻者」を生み出す為の素材にされるところだったが、ムスチテルキ隊の襲撃で偶然にも脱出。

内少数が地球に降下することとなる。

「侵攻者」として持つ知識の他、僅かではあるがアーデルハイトの記憶を継承しており、その記憶を元に対「侵攻者」の為の装備や設備をスズメと共に整えていた。

そしてツェラの母体となったアーデルハイト――彼女もまた「侵攻者」となっていたことが今回判明し――

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