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第24話:時を超えた「真事実」

「みんなに……話をしたい。どうしてわたしが「侵攻者」と戦うことを選んだのかを」

異界航行艦シュプルギーティスのブリッジ。

そこにはいつものブリッジクルーにオレ達装騎隊。

そして各部署の班長達が集まっていた。

それ以外のクルーも全員、艦内のモニターで今この集まりを見ていることだろう。

「まずは、これを見てほしい」

ツェラがブリッジのモニターに映し出したのは、あの大鯨型ティプ・ヴォルヴァニの体内でオレが見たあの光景だった。

そう、ツェラと全く同じ姿をした大量の少女達。

「結論から言うと――あれは"わたし"」

恐らくあの少女達は「侵攻者」。

寸分(たが)わぬその姿。

多くの同型「侵攻者」は完全にコピーしたような姿をしている。

それはあの少女達もそうだった。

「わたしは一年前、火星にある拠点で造られた「侵攻者」。名付けるとするのなら――娘型ティプ・ツェラ

娘型「侵攻者」。

それがツェラの正体。

それも少女(ヂーフカ)ではなくツェラだという。

もちろんその理由もあった。

「わたしが造られるより更に一年前。「侵攻者」に捕まったある人間――その遺伝子を元につくられた。その人間の子どものような存在。だからツェラ

ツェラが「侵攻者」としてではなく、人類側に属しているのもその"所為"だという。

多種多様な形態を持つ「侵攻者」――それが一つのグループとなるにはある共通点があるからだ。

それをツェラは"因子"と呼んでいた。

その因子が「侵攻者」としての本能を生み出し、それを多くの種族に植え付けることで勢力の拡大を図っている。

「わたしにも「侵攻者」の因子がある。けれどその因子は弱い。だから人間としての性質と記憶がまさった」

「侵攻者」因子は代を重ねるごとに強く、濃くなるという。

まだ「侵攻者」としては最初の代であるツェラにはその束縛が弱かった。

「本来ならわたし達初代は次の世代――孫娘型ティプ・フヌチュカを生み出すために消費される運命。けど、そうはならなかった」

だからツェラはここにいる。

そして、その何かというのが――

「わたし達の積まれていた「侵攻者」が月拠点への移動中、何者かの襲撃を受けた。その混乱に乗じて脱出――わたし達はあなた達の住む星へ降りることができた」

何者かの襲撃。

それがあったからツェラは「侵攻者」としての使命を脱することができたらしい。

けれどそこで疑問が残る。

「何者かってナニモノ?」

アネシュカがズバリな問いを放った。

それにツェラは月拠点への移動中と言っていた。

ツェラが造られたのは一年前だとも。

一年前に月を越えた先に、「侵攻者」と敵対する勢力が存在したというのは何かおかしな話だ。

「そもそも……月に「侵攻者」、巣食ってる。そう判明したのは一年前、ツェラがŽIŽKAに加わってからのはず……」

そう言ったのはグルルだ。

その横でビィも頷く。

「ナニソレ、そーいう話聞いてないんだけど」

「お二人さんはインヴェイダーズですからねぇ。それもフルクの名を持つとなると王族みたいなものですからー」

「王族では、ないけれど……」

「ま、近しいかな」

この二人はインヴェイダーズ……「侵攻者」を撃退することを使命としている一族の代表だ。

オレ達の知らないことも知っているらしい。

「ってなると、まさか第三勢力!? メンドージャン!」

「違う」

アネシュカの予想をツェラは一蹴。

「常識的に一年前、月・火星間で人類が「侵攻者」と接触することはない。ただし、非常識なことが起きたとしたら?」

「非常識なことっていうと……?」

「例えば、艦一隻が一年前の火星に跳躍させられたとか」

「あー、そーいうのアニメ見たコトあるジャン。空間跳躍ワープかと思ったら、同時に時間跳躍タイムスリップもしてたみたいなねー」

つまり、そういうことなのか?

ツェラが静かに頷く。

オレ達は月で「侵攻者」工場の爆発に巻き込まれてどういう訳か今いる火星周辺に跳ばされた。

それは「侵攻者」の使う跳躍装置の誤作動によるものだという。

けどその時、同時に時間跳躍もしていたというのなら。

「本来ならば発生する確率は限りなく低い。けれど、起きてしまった」

「つまり今は――一年前。月面侵攻作戦から一年前にいるってことなのか!?」

「そう」

ということは――ツェラの乗っていた「侵攻者」を襲った何者かというのは。

「オレ達ムスチテルキ隊が――ツェラを――」

「そう。"あなた"が"わたし達"を救ってくれたの。それが――わたしが「侵攻者」と戦う理由」

「ならば、他のツェラは……?」

「大鯨型内に収容されていた娘型わたしは四十体。内脱出に成功したのは十三体。無事に人類と接触できたのは二体……」

「なら、もう一人――」

ふと、オレは思い出した。

オレが「侵攻者」と戦うことを決意する一番のきっかけとなった出来事。

あの戦いで、オレの腕の中で死んだあの子(ツェラ)は……。

「オレが助けられなかったあの子は……」

「わたしの他に、唯一無事だった娘型わたし

「…………」

「けれど、あれはあなたのせいじゃないわ。彼女は大気圏突入時に既に傷を負っていた。彼女の死の直接的な原因はそのダメージだから」

「それでも……」

「あの"娘型わたし"は幸せだったわ。自分を救い、心の支えとしてきた人の腕の中で散ったのだから」

彼女の死に際はよく覚えている。

いや違う。

忘れられないんだ。

どうしても。

オレの名前を尋ね、どこか満足気に逝ったあの表情を。

「もし自分のことを責めるのなら、諦めずに前に進んで。あの子は――わたし達は信じてる。あなた達が「侵攻者」を打ち倒す鍵になると」

ツェラはつづける。

「わたしはわたし達の思いを無駄にしない。あなたに救われたということを無駄にしない。その為にこの艦を造り、このメンバーを集めた。それはアーデルハイトの思いを無駄にしない為でもある」

「アーデルハイト……」

彼女はオレを助けようとして死んだ。

戦いから艦に戻り、ずっと考えていた。

オレはツェラ達を助けない方が良かったのかと。

けれど、オレがツェラ達を助けたからツェラは今ここにいる。

結局、どうするのが正解だったのか。

「進んだ時は戻らない。二度の時間跳躍が起きた今、三度目の目処はない。ならば、進むしかない」

「二度?」

一度は言うまでもなくオレ達が火星まで跳ばされたことだろう。

けれど――もう一度?

「結論から言う。アーデルハイトも、生きている」

今までの話を総合すると、アーデルハイトが生きている理由は簡単に推察できた。

爆発の衝撃で時空間転移が起きる(場合がある)。

となればアーデルハイトも大鯨型の爆発で、時間か空間――もしくはその両方を跳躍していたとすれば?

「大鯨型にも空間跳躍能力はあった。それはごく短距離しか跳躍できない装置ものだったけれど、それが技呪術霊子砲シャマンスキー・オドストジェルのアズルと反応して暴走した」

「それでアーデルハイトは跳ばされた、か。どこに? いや、いつにだ」

「場所はここからそう遠くない。火星のすぐ近く。時は今から一年前」

「それは月面侵攻作戦から見て二年前――ってことでいいのか?」

「そう」

一年前の火星にアーデルハイトは跳ばされた。

あの爆発で。

「ケド、ソレって確定情報なワケ? アタシらは月から火星まで跳ばされた。一年巻き戻しのオマケ付きで。んならアーデルハイトも一年戻った。それはわかる。でも火星にいるって確信があるの?」

「今は火星にはいないはず」

「は?」

「けれど、一年前の時点で火星に運ばれたのは確か。そのことは"覚えている"から」

「覚えている……? ツェラ、きみは――もしかして」

「わたし達娘型はあなた達人類を研究する為に造られた。けれど、人はその性質上、人に出会うことで人となる。ただコピーを作っただけでは"人"にはなれない」

人間の強さは技術力。

それは何百年も、何千年も受け継がれてきた過去の結晶。

ただ人と同じように生き物を作ったとして、その過去が伴わなければ人を知ることはできない。

実際、オレ達が使っている機甲装騎や魔電霊子アズルをはじめとした技術はそういう過去の積み重ねから築いてきたものだ。

文化や言語も含めて、今なお変化し続けているというのもある。

そういうのを比較的手早く入手するにはどうすればいいのか。

それは――

「だから「侵攻者」はコピーした。捕獲した人間の記憶を。わたし達に」

記憶はツェラのベースとなった人間の記憶。

その人間は一年前、火星周辺にいた一人の人間。

「わたしにはアーデルハイトを基礎として作られた「侵攻者」。アーデルハイトのツェラ。そして、アーデルハイトの記憶を持つもの」

「そういうことか……」

「もっとも、アーデルハイトとしての記憶は曖昧。だから手探り状態だった。それにその記憶は火星の拠点に囚われたところで途切れている」

その後、ツェラを造るため何かしらの処置を受けたのだろう。

そして、ツェラが生まれた。

「わたしはアーデルハイトの信じた仲間たちを集めた」

それかこの異界航行艦シュプルギーティスのクルーであり、オレたちムスチテルキ隊か。

「生き残る為に可能な限り最善を尽くした」

恐らくは、異界航行艦シュプルギーティスに搭載されるあらゆる機能――技呪術霊子砲や霊子防護壁、フチェラなどもそうなのだろう。

「そして――ここから先はわたしの記憶にない領域」

そう言うツェラはどこか不安に感じているようだった。

最善を尽くしたとはいえ、「侵攻者」の数は膨大だ。

予測していたとはいえ、今、異界航行艦シュプルギーティスは孤立している。

そして、今この状況に導く為に大鯨型への攻撃を許可し、予定通りアーデルハイトは消息不明になった。

ツェラはそのことに負い目を感じている。

「オレはツェラを信じる」

「ヴラベツ……」

「そして、アーデルハイトが生きてるっていうなら助け出す」

「ヴラベツ、それは……」

不可能かもしれない。

それでも、諦めたくない。

少なくともアーデルハイトが生きているうちは。

「これから先は何が起きるかわからないんだろ? つまり、アーデルハイトを助けられるかもしれないってことだ」

「まっ、ツェラだって「侵攻者」なんっしょ? ソレがコッチに着いたってならアーデルハイトなら――」

「……ワンチャンある」

「前例もあるなら賭ける理由としては十二分ですねー!」

いつもと変わらないムスチテルキ隊。

わりとシリアスな話題のはずなのにコイツらが言うと人気の限定メニューを食べられるか食べられないかみたいな話のように聞こえてくる。

ま、そのノリがオレ達のいいところなのかもしれない。

「信じて、いい?」

「信じろ。オレもツェラを信じる」

「……ありがとう」

これは間違いなくオレ達の転機。

一つの区切り。

「ツェラ、それでこれからどうする?」

「一先ずは月まで。そこでŽIŽKAの部隊と合流する――それでいい? 艦長」

「もちろんですよ。目標は月だ! 全速前進!」

そしてここから、オレ達の帰還のための旅が始まることになる。

挿絵(By みてみん)

ステラペディア

「「侵攻者」(Invasions」

宇宙の向こうから来る謎の侵略生物群。

その形態は様々だが共通の"因子"を持っているらしく、その因子を持つ存在を「侵攻者」と呼ぶ。

大きく分けて自律型と非自律型があり、基本的にはその二種類で大別される。

侵攻した星の技術や生態系を利用し新たな「侵攻者」を生み出す為その種類は膨大な数に及ぶ。

初出はR-18小説「異形戦記ミゼレオール」においてだが、ミゼレオールに登場する「侵攻者」の多くは人間大を基準としている反面、本作に登場する「侵攻者」は機甲装騎を基準としたサイズをしている。

このように、侵攻する星の持つ技術力やスケールを反映させ、適応するのが「侵攻者」の大きな特徴となっている。

基本的には侵攻した惑星の生態系を「侵攻者」で乗っ取ることで侵略を完了とし、一部の個体がまた宇宙へと飛び立つ。

その多くは「侵攻者」としての使命に忠実に動くが、娘型ティプ・ツェラのように因子が薄い「侵攻者」や、知能が高くなり過ぎた「侵攻者」はその使命から逸脱することがある。

そうなった場合に抑えつける為、「侵攻者」には母型ティプ・マトカと呼ばれる司令塔がいる。

尤も母型はあくまで末端の「侵攻者」を纏め上げる本体であり、その大元である地母神型ティプ・ボヒニェマトカの居場所は知れない。


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