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第22話:駆けろ宇宙を「全速力」

「シュプルギーティス……全力加速っ」

異界航行艦シュプルギーティスにインヴェイダーズ特有の紋様が浮かび上がる。

それはビィがこの艦と一体化したことを示していた。

『ビィ、わたしも援護する』

「頼むよ姉さん!」

シュプルギーティスの艦底部から無人機フチェラが排出される。

「あくまで敵を振り切るのが目的だ。フチェラの使用は最低限に」

『諒解……』

「リュウガ、艦砲の使用もだ。過剰にアズルを使用すると加速に支障が出る」

「任せろ。最低限で最大限の効果――やりがいがある」

「頼むぞ」

追跡してくる「侵攻者」の多くは鳥型ティプ・プターク

その中に種型ティプ・セメノ鯨型ティプ・ヴェルリバも混じってはいるが。

「種型や鯨型はそこまで機動性は高くない。鳥型も火力は貧弱。問題は……」

ツェラが静かにモニターへと目を向ける。

そこには探知波による解析で「侵攻者」の位置がそれぞれ表示されていた。

数も膨大なため正確性には欠けるものの、突出した動きの「侵攻者」がいれば一目でわかる。

そう、他と比べて高機動な「侵攻者」の姿があった。

「動きが速い! この「侵攻者」は!?」

鮫型ティプ・ジュラロク……」

「あの「侵攻者」の特徴は?」

「サメのような見た目。あの驚異的な加速能力。そして、攻撃力」

実際その「侵攻者」は他の「侵攻者」を振り切るようなスピードで異界航行艦シュプルギーティスの横へと並んでくる。

そして――その身体をシュプルギーティスへとぶつけてきた。

霊子防護壁によってダメージは減らせたが、艦の表面に削られたような傷ができる。

「鮫型は霊子砲などの射撃武装は持たない。けれどその分鋭利な皮膚と牙での攻撃を得意とする……」

そう、鮫型の肌からは細かい刃が生えており、その一つ一つが超振動で驚異的な切断能力を持っていた。

まるで咆哮でも上げるように鮫型が大きく口を開く。

そこに並ぶのは見るからに鋭い牙。

もちろんその牙も、肌と同じように超振動刃となっていた。

「今のところは耐えられてるけど――どうかなリブシェちゃん!」

「まだ持ちます。けれどダメージは可能な限り最小に抑えてください」

「今、この艦は僕の身体だからね。痛いのはこっちだってごめんさ」

ビィの意識が艦全体に行き渡り、感覚全てを利用して異界航行艦シュプルギーティスを操舵する。

まさにビィの言う通り、この異界航行艦シュプルギーティスはビィの一部となっていた。

「後ろから追ってくる二体の鮫型――更に加速をつけた。また攻撃を? いや、ちがうね」

二体の鮫型が異界航行艦シュプルギーティスを両脇から追い抜く。

もちろん、逃げようとしているわけでも速さ勝負(レース)を仕掛けているわけではない。

適当な距離を見計らうと異界航行艦シュプルギーティスの正面をガードした。

そしてジリジリと迫ってくる。

いや、速度を落としているのだ。

「なるほどね。このまま進めば挟み込まれる。回避運動を取れば後続が追いつくまでの時間稼ぎになる――ってことだね」

ビィはにっと口元に笑みを浮かべ、左目をつむった。

その動作に特に意味はない。

強いて言うなら気合を入れる為だろうか。

『かっこつけてるヒマ、あるなら働け』

「わかってるよ姉さん!」

不意に異界航行艦シュプルギーティスがブースターを激しく噴かせた。

それも、片側だけをだ。

もちろんそんなことをすれば――艦が回転スピンする。

この重力も摩擦もない宇宙空間で態勢を維持するのは非常に困難だ。

ちょっと加速のベクトルを間違えただけであらぬ方向へと艦体は向いてしまう。

それをビィはマニュアル操作とでも言うべきか――コンピューターによる補助無しで維持していた。

だからその出力を間違えた?

いや、違う。

『艦、回ってる』

「わざとだよ!」

頬を膨らませるグルルにビィはジェスチャーで謝りながらもそう叫んだ。

A.S.I.B.A.システムでの疑似重力もあり、回転の動き自体は伝わってはこない。

それでもやはり、自分の意思に反して視界が動くというのはそれだけでも不快なものだ。

もっともこの回転はビィにとっては意思に反したものではないのだが。

回転した異界航行艦シュプルギーティスは艦体後部を、先行く鮫型一体の"尾ヒレ"へと引っ掛ける。

艦の後部と尾ヒレが噛み合ったその結果――一体の鮫型はバランスを崩しスピンした。

反面、異界航行艦シュプルギーティスは鮫型を押し出した反動で態勢を立て直しスピン状態から回復。

「ひゃっほー!!」

スピンし、そしてそれに阻まれ同士討ちとなった二体の鮫型を背に異界航行艦シュプルギーティスは全速力だ。

「これはオマケだ」

ついでとばかりに魔電霊子砲による追撃。

走る閃光を背に異界航行艦シュプルギーティスは敵を振り切ることに成功した。

「「侵攻者」の追跡は無し。どうやら無事に突破できたみたいです」

「一安心か。だが、まだ油断するな」

安堵のため息をつきながらも、しっかりと瞳を見据えるゲッコー艦長。

その姿をリブシェが一心に見つめているのに気付かない。

もっともそんな視線はすぐにモニターの前に引き戻されるのだが。

「待ってください、「侵攻者」の反応が……!」

「位置は?」

「すぐ正面です! 待ち伏せされた……?」

「ちがう」

リブシェの言葉をツェラは否定した。

「恐らくは月へ「侵攻者」を輸送中の大型「侵攻者」」

「補給部隊か……数は?」

目の前には一体の巨大な「侵攻者」の姿が見える。

それでもあえてゲッコー艦長は尋ねた。

「反応は一つ――ですが、これは……」

確かに目の前にいる一体だけ……ただ、異界航行艦シュプルギーティスがその「侵攻者」に近づいていくにつれて段々と巨大になっていく。

それは当然のこと――なのだが。

「大き過ぎますっ!! 推定質量、鯨型ティプ・ヴェルリバを遥かに超えてます」

「見ればわかる。まさかここまで巨大な「侵攻者」がいるとはな」

「名付けるのなら……大鯨型ティプ・ヴォルヴァニ

抹香鯨ヴォルヴァニか」

「艦長、どうしましょう!?」

「敵は一体だ。それも補給部隊となると今のうちに潰しておきたいが……」

補給と言っても「侵攻者」のことだ。

つまりは追加の戦力を輸送しているのだろう。

あれだけの巨体、どれだけの数の「侵攻者」が"体内"に潜んでいるのかわからない。

「「侵攻者」は奇襲には慣れていない。確かにあの体内には多数の「侵攻者」が収容されているけれど、戦闘状態に入るまで時間がかかるはず」

「つまり、叩くなら今のうちということか」

ゲッコー艦長の言葉にツェラは静かに頷いた。

「諒解した。これより大鯨型との戦闘に入る。リブシェ、周囲の警戒を怠るな」

「はい!」

「敵の増援が来る前に削れるだけ削るぞ! ……とはいえ」

目の前の敵とは圧倒的なサイズ差。

異界航行艦シュプルギーティスのもつ武装では――

「チッ、効かない。流石にアイツを相手にするには出力が足りない」

技呪術霊子砲シャマンスキー・オドストジェルは?」

「ヨロタンさん!」

「関係各所に通達中です。あとはアズルの充填が終了されましたら射撃準備は完了です」

「諒解! アズル充填――完了、行けます!」

「リュウガ! シャマンスキー・オドストジェル、発射だ!」

「承知……ッ」

異界航行艦シュプルギーティスの先端が展開――その隙間に霊子が迸り……シャマンスキー・オドストジェルが発射される。

しかし――

「効果は、薄そうだな」

一撃を受けた大鯨型はもがいていることからダメージ自体はあったのだろう。

しかし、それほど有効には思えなかった。

「やはり火力が足りないか」

この艦が、いやこの部隊が持てる最大火力を叩き込んでも大鯨型は沈められない。

「連発も難しい……このペースでいくにはどうしても時間がかかるな」

となると、その前に増援が来る可能性が高い。

「やはり撤退か」

ゲッコー艦長がそう決断しようとした時、通信が入った。

『艦長、私たちに考えがあります』

それはアーデルハイトらムスチテルキ隊からの通信だ。

アーデルハイトの話を聞いたゲッコー艦長は静かに頷く。

「可能なんだな?」

『当然……』

『任せてください! こんなこともあろーかと練習してたんですから!』

ゲッコー艦長の問いかけに自信満々で答えたのはグルルとナっちゃん。

そう、この戦いの鍵は二人だった。


「ムスチテルキ隊、DO BOJE(ド ボイェ)!」

アーデルハイトの号令で、装騎アインザムリッタ(アーデルハイト)ーと装騎イフリータ(アネシュカ)が艦から飛び出す。

それに続いて装騎スパルロヴ(オレ)も宙を駆けた。

目的は目の前にいる超巨大「侵攻者」。

その――

「中かぁ……」

いざ目前にすると足がすくみそうになる巨体。

その中に今からオレ達は飛び込もうというのだ。

「さっきの技呪術霊子砲で与えたダメージ――その傷から中に侵入できるはずだ」

「ホントにー?」

「嘘にはしないさ」

「それってつまりよ……」

「当然、貫かせてもらう!!」

瞬間、強烈な霊子の閃光と共に装騎アインザムリッターの両手剣ツヴァイヘンダーが走る。

「開いたぞ」

「さすがだぜ、アーデルハイト」

「んじゃ、潜入しますかー!」

今の作戦はこうだ。

グルルの装騎ククルクンとナっちゃんの装士イーメイレン。

二人が扱う技呪術と結界術を複合させ、異界航行艦シュプルギーティスのシャマンスキー・オドストジェルを増幅させる結界を張るという。

オレ達の役割は、それまでの時間稼ぎ。

と言ってももちろん、機甲装騎でアレだけ巨大な大鯨型を陽動するというのは無理だ。

となればオレ達が陽動するのは――ヤツの体内にいる「侵攻者」ってことになる。

「侵入を察知したか」

「まるで免疫機能だな」

「ソレ、アタシが言おうとしてたのに!」

「お前そんなコメントできるのか?」

「バカにしないでもらいたいジャン」

なんて軽口を叩きながらも、久々に姿を見たような気がする六本脚型ティプ・シェストノヒを切り裂いた。

「一先ず手分けをするぞ」

「諒解!」

「り!」

「そんじゃあ、暴れてやりますか!!」


挿絵(By みてみん)

インハリテッドオーガナイゼーション集

「マルクト共和国立ステラソフィア機甲学園」

ヴラベツやシュピチュカが所属する国内随一の国立学園。

首都カナン郊外に位置し、円形の学園都市を形成している。

メインとなるのは高等部だが、基礎教育課程(幼稚園に相当)から初等部、中等部と義務教育課程にも対応している。

※マルクト共和国では幼稚園も義務教育に含まれる

高等部では機甲科、技術科、教職科、士官科の少人数学科(男女合わせて一学年64人)と大人数の進学科の計五つの学科がある。

元々は機甲科のみであったが、後の発展に合わせてそれぞれの学科が増設された。

開校当初はステラソフィア女学園という名称で女子校だったが、ヒノキ・ゲッコウ入学の代から共学となりステラソフィア機甲学校に改称。

後にマルクト30年戦争と呼ばれる戦争の最中に設立されたステラソフィア女学園では授業の一環として生徒が装騎部隊の一員として戦争に参加していた。

これは他の国立高等学校、認可高等学校が与えられる最上位の栄誉であるが、その中でもステラソフィアは最優先されるほどの有力校だった。

当初は千人超を擁する機甲科だったが、大敗北と呼ばれる戦いでその多くが戦死。

戦いで生き残った32人をリーダーとして縦割りのチーム制度が導入されたことから32という数が今でもステラソフィアの基準になっている。

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