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第21話:閃光の先の「暗黒域」

騎士型ティプ・リチーシュの激しい攻撃。

その一撃一撃は重く、鋭い。

「だが、だからこそ利用できるはずだ」

オレ達は代わる代わる騎士型へ攻撃を仕掛ける。

刃と刃がぶつかった衝撃を利用し、少しずつ異界航行艦シュプルギーティスへと近づくのだ。

「だが早くシュプルギーティスの元へ着いてはダメだ」

「早くついてもダメってなんですかー」

「艦が騎士型の攻撃を受ける可能性がある」

「けど、遅過ぎたら爆発に巻き込まれておしまいだろ」

「ああ。シビアになるが――頼むぞ」

一刻の猶予もない状況だが、だからこそ丁寧な戦いが要求される。

急がば回れってやつかね。

「どうせなら、ここで倒しちゃっても構わないんじゃあないですかー?」

「できるならな」

「と、言うことで! 重戸結界……」

だが、装士イーメイレンが投擲した華式直刀はあっさりと騎士型に弾き飛ばされる。

その様子を見ていたアネシュカがため息をついた。

「そう簡単にコトが運べばとっくの昔に倒してるってーの」

「カっちゃんに正論言われるとムカつきますねぇ」

「ナンですって?」

「いえいえー」

ふと感じる。

重圧がさらに強くなってきていることに。

サブディスプレイに目を向けると予測爆発範囲はもうすぐそこまで迫ってきていた。

「チッ、やべーぞ!」

「だが……そこだ!」

装騎アインザムリッターが背後の壁を一突きする。

的確な一撃で壁を破壊し、その先に見えたのは――

「シュプルギーティス!」

『よかった。ヴラベツ……無事?』

「ああ。だが、その前に――」

目の前にいる騎士型をなんとかしないといけないことには変わりない。

「いや、大丈夫だ。すぐに艦にもどるぞ」

「つっても」

『グルル』

「かしこま」

異界航行艦シュプルギーティスの上部に静かに佇むのは装騎ククルクン。

無人機フチェラの使用を許可。五機でいい?』

「二機でなんとかする」

『わかった。おねがい』

異界航行艦シュプルギーティスの側面から二機のフチェラが飛び出してくると、騎士型目掛けて宙を駆けた。

「ヴラベツ、ユウ・ナ、アネシュカは艦に戻れ」

「アーデルハイトは?」

「すぐ追いつく」

「だがよ」

「ナニ、平気っしょ。アーデルハイトの二つ名は神速の騎士らしージャン? 神速っぷり見せてもらおージャン」

アネシュカはそう言いながら素直に艦へと戻る。

「まっ、そーですねー。がんばってくださーい」

ユウ・ナもその後に続いた。

本当、なんか軽いやつらだ。

けどまぁ……

「わかった、信じてるぜ!」

「ああ」

装騎アインザムリッターと騎士型の一撃が交差する。

まるで互い互いの次の動きがわかっているかのような的確な一撃。

度重なる騎士型との交戦でアーデルハイトは相手の動きを読めるようになったのか。

だがそれは騎士型も同じようだ。

やっぱりあの「侵攻者」……他にも増して厄介だ。

『バルクホルン少尉、さすがに……これ以上はっ!』

リブシェがどこか切羽詰まったような声を上げる。

わかる。

激しい圧が。

『三……二……』

「一ッ!!」

不意に装騎アインザムリッターが背後に――つまりは異界航行艦シュプルギーティスの元へと一気に跳躍した。

「霊子防護壁の展開を!」

『!! ――霊子防護壁展開!』

「技呪術行使。インルフルム・ルンフルクムント」

展開した霊子防護壁に、装騎ククルクンが技呪術による補強を行う。

装騎アインザムリッターを追い掛け、加速をつける騎士型は霊子防護壁に遮られ、そして――

「閃光が――!!」

強烈すぎるアズルの輝きに呑まれ――そして、消えた。

『総員対ショック態勢!!』

瞬間激しい衝撃が伝わる。

霊子防護壁越しだっていうのになんて威力だ!

だが、なんとか踏ん張りつつ装騎アインザムリッターを艦内に収容。

「頼むぜ、グルル」

「問題……ない」

艦全体にインヴェイダーズ特有の紋様が走り、必死に高密度のアズル爆発に耐えているのが目に見えてわかった。

そして暫く――気付けばオレ達は暗黒の宇宙空間の中に取り残されていた。

「ここは……?」

オレは装騎スパルロヴで外に出ると周囲を見回す。

辺りに散らばる何かの破片は「侵攻者」工場のものか……?

にしても、

「何もねぇ」

『周辺をスキャン。浮かんでいるのは工場の残骸だと思われますが――』

「ナニナニ? もしかしてあの爆発で月ごと全部吹っ飛んじゃった?」

「それはないな」

「ナンでさ」

「月が吹き飛んだとしても、爆発圏外にいた護衛艦プラーステフや他のシュプルギーティス級の姿が全くない事の説明にはならないだろう」

そう何もないのだ。

この周囲一帯――オレ達シュプルギーティス隊と「侵攻者」工場の残骸らしきもの以外何も。

『リブシェ、基地や他艦との通信は?』

『不可能です。現在位置も、不明……』

『恐らくは……飛ばされた。どこかに』

ツェラがそんなことを口にする。

飛ばされた?

それは――どういうことだ?

『「侵攻者」はこの広大な宇宙空間を移動する為の、特殊航行技術を有している』

「特殊航行技術?」

『一種の空間跳躍航行。その為の機器があの月面工場にも存在していた』

「空間跳躍ってことは……」

「つまりワープってコトね! アニメで見たコトある!」

アネシュカが変にロマンを感じ始めているが正直そんな場合じゃない。

『あの爆発の際、その機能が暴発したと考えられる。シュプルギーティスがいた一帯がどこかへ空間跳躍させられてしまった』

つまりオレ達は「侵攻者」工場を爆破したことでその空間跳躍ワープ機能を働かせてしまい――

「宇宙の迷子という訳か」

アーデルハイトの言葉通りの状況になってしまったらしい。

「それってヤバいんじゃないですかー!? だってこんな当てのない宇宙空間、自分たちがどこにいるのかわからないって海のど真ん中で遭難した以上じゃないですかー!」

『そうだな。せめて現在位置が分かれば帰還の手立ては見つかるかもしれないが……』

現在位置がわかる――ということは地上から観測がある程度できている範囲ということだ。

ならば、少なくとも地上へ帰る為の方向くらいなら計算できるかもしれない。

とは言え――

「分かるわけないよなぁ……」

『見当はついてる』

「見当ってこんな何も無い中でか!?」

オレの言葉にツェラは静かに頷く。

『艦長。すぐ正面に惑星が見える。あの星を確認したい。運が良ければ確証が持てる』

『確証か……。星に接近した所で確証が持てるとは信じがたいが』

とは言え他に当てが無いのも事実。

今はツェラの言葉を信じて目の前の真っ黒な星へ進むしかなかった。

『シュプルギーティス発進準備。目標は目の前の惑星だ』

「ツェラ――大丈夫か?」

ふとツェラの表情に翳が差しているように見えたオレはそう声をかけてしまう。

『問題ない』

「なんか顔色悪そうだぞ。ちゃんと休んでるか?」

『問題ない……』

「それならいいけど」

『…………ヴラベツ』

「なんだ?」

『もしわたしの指示の所為でこの艦が危険に晒されたら……』

「そんなのいつも通りだって。それにもし危ない目にあってもオレが護る」

『……期待してる』

ツェラの静かな笑顔に思わず心臓が跳ね上がる。

けれどその笑顔の裏にもよく読み取れない何かを感じた。

ツェラはきっといろんなものを背負っているんだろう。

ならば――

「オレはツェラの支えになりたくてここにいる。だから――その、ちょっとくらいは頼ってくれよな」

なんでこんなことを口にしてしまうのかはわからない。

思えば、初めて会った時からそうだったような気もする。

この選抜部隊に志願した時もそうだ。

『わかってる。わたしもあなたを信用している』

そういうツェラの言葉に嘘偽りは全くないように感じる。

なぜそこまで彼女がオレのことを信じてくれるのか。

それもそれで一つの謎ではあるが――この言葉が嘘でない以上、オレはオレのできることをしよう。

「まずはあの星の調査か……」

調査と言ってもシュプルギーティスを少しあの星に近付けるだけだ。

そしてその調査はそれだけで十分でもあった。

なぜなら――

『この反応――「侵攻者」です! それも、多数っ!!』

『多数? 数はわかるか!?』

『それが――あの星の表層全てを覆っていて』

『ということはまさか、月以上の数がいるとでもいうのか!?』

『恐らくは……』

月以上の数の「侵攻者」、だって?

それもあの黒い星全てを埋め尽くすような数だという。

いや、ということはだ。

「あの星の影――まさかそれ全てが「侵攻者」だとでもいうのか」

『そう、みたいです……』

『やっぱり――』

ツェラは何かを確信したように言った。

『ここは火星。「侵攻者」の……本拠地』

「火星ってコトは、水金地火木――だから隣ジャン!」

「そんな気軽な距離でもないがな」

確かに一般的に言われてる星の並び的に言えば近いかもしれないが……。

「っていうか、なんでここが火星だってわかるんだ? それに「侵攻者」の本拠地だってことも」

確かに「侵攻者」の数は月以上となれば本拠地と言われても納得はできるが……。

しかしその根拠はどうしても見えない。

そもそもツェラがこれだけ「侵攻者」のことについて詳しいこと自体不思議ではあるが……。

『それはすぐに説明する。今、この状況を脱せられたなら』

「この状況を……?」

『!! 「侵攻者」に動きあり。気付かれました!』

火星を覆う「侵攻者」がざわついたような気がしたその瞬間――多数の「侵攻者」がムクドリの群れのように飛び上がった。

『各員迎撃態勢! 全速前進、振り切れ!』

「艦長、我々は?」

『ムスチテルキ隊は待機だ。この状況ではまともにやり合っては分が悪い』

ごもっともだ。

『今は足を止めないで。ルートはわたしが指示する。この通りに行けば撒けるはず』

『聞いたなビィ。頼むぞ』

『お任せをっ』


挿絵(By みてみん)

インハリテッドヒストリア

「インヴェイダーズ戦争」

聖暦184年(作中より29年前)に起こったエヴロパ連合とインヴェイダーズとの戦い。

海の向こうから現れた小型兵器の襲撃により事実上の開戦となった。

開戦当初インヴェイダーズ側からの声明は何もなく、国の陰謀説やかつてマルクト共和国を恐怖に陥れたスヴェト教団一派によるもの説、ただの侵略的生命体説などが囁かれていた。

そういった混乱もあり、エヴロパ連合の多くの国が被害を出す中、マルクト共和国を始めとする主要国家が調査団を結成。

暫定的に「シュクートツェ」と呼称。

その「巣」を探す為、戦いを繰り広げながら海を渡ることとなる。

この戦いの結果、インヴェイダーズが遥か過去にエヴロパ大陸から旅立った開拓フロンティア船団の末裔であったことが判明。

その開拓船団は口減らしの為に行われたことを知った当時の人々が復讐の為に子や孫の代まで使命を受け継がせた結果起きたのが今回のインヴェイダーズ戦争だった。

新大陸に流れ着いた人々はその大陸に眠っていた技呪術という力を目覚めさせる。

その力によってさまざまな兵器を生み出し、今回、開戦に至った。

戦いは長くインヴェイダーズを先導してきた1人の老人オールド・ワイズマンを失ったことで終わりを迎える。

その後、サエズリ・スズメ率いる組織ŠÁRKAが中心となりインヴェイダーズとエヴロパ連合との講和が成立した。

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