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第2話:傍迷惑な「幼馴染」

「ベチュカ、付き合って!」

「……は?」

土曜日の午前。

次の授業がある教室にいち早く移動し、机に伏せて眠っていると聞き慣れたうるさい声が眠りの邪魔をした。

シュピチュカだ。

「今日は土曜日だよ! だから付き合って!」

「土曜日……弁当か?」

「そう!」

このステラソフィア機甲学園では毎週土曜日、近所の弁当屋が弁当を売りにやってくる。

なんでもその弁当が超美味しくて、人気も非常に高いため争奪戦になるとか。

通称ステラソフィア購買戦争……。

いつもはシュピチュカ1人で弁当を買いに行っているはずだが……。

「それが今日はあの伝説のメニュー、チョコレートパフェが並ぶという噂を聞いたのよ! これは是非食べるしかないっ!」

「弁当じゃねーのかよ」

「今回の購買戦争はいつもにも増して苛烈――だからベチュカも手伝って!」

「パス。ただでさえ土曜日とか面倒な日に授業入れてるんだ。コレ終わったら寮に帰りたい」

ステラソフィアの授業は各自での選択制。

土曜日の授業を選んだのは自分ではあるけど……だからと言って更に面倒を背負い込む必要はないだろ。

「お願いベチュカ! 一生に3度までのお願いっ!」

「2度目だぞ」

「やった!」

面倒くさいではあるけれど、小さい頃にしてしまったよく分からない約束。

それをこんなことで済ませられるなら安いもんだ。

そう思い、渋々だけれどシュピチュカの願いを聞き入れることにした。

そして、授業が終わりお昼休みが始まる。

「行くわよベチュカ!」

「引っ張んなって!」

その瞬間、シュピチュカはオレの手を引き教室を飛び出した。

「ベチュカ、ここから購買部までの最短ルートは!?」

「知らねーよ!」

「スパちゃんに聞いて!」

「スパルロヴはそういうのに使うためのもんじゃ……」

「いつもスパちゃんに寮まで帰る最短ルートを聞いてるくせに!」

「うっ……」

ズバリ、シュピチュカの言う通りだった。

というかオレはちょっと方向音痴だからスパルロヴに助けてもらってるだけだっての!

「ちょっとぉ?」

「なんだよ」

「もう。それはいいから聞いて!」

「はいはい」

HMDを額から目元に下ろし、スパルロヴのAIと接続する。

《ルートの算出は完了しています》

スパルロヴが計算したというデータが表示される。

このまま真っ直ぐ。

階段を降りて玄関から……ってアホか。

「スパルロヴ、いつも通り頼む!」

《承認。ではルートプランAをご確認ください》

その内容にざっと目を通す。

よし、ちゃんと"いつも通り"だ!

「しっかりついて来いよ、シュピチュカ!」

「ええっ!?」

オレは思いっきり加速を付けた。

オレがシュピチュカを引っ張るような形になる。

そしてこのまま――

《次の窓から外へ》

「跳ぶぞ!」

「跳ぶって!?」

大きく開け放たれた窓。

その窓から――飛び降りる!

「ひぇぇええええええええ!!!???」

シュピチュカの叫び声がうるさい。

この程度でそんな声を出すなんてまだまだだな!

降りた先は渡り廊下――の屋根の上。

そのまま真っ直ぐ走って、

《左斜め前方。下です》

もう一回、飛び降りた。

足元が歪む。

激しい音が鳴り響く。

けれど強度は十分。

《このまま更に――》

「下へ!」

そして用具入れの屋根から地面に飛び降りる!

高さは2m程度の小さいヤツだ。

この程度なら余裕余裕!

「ベチュカ、いつもこんな道を――っていうか道じゃないし! スパちゃんも何でこんな所を案内するのよぉ!」

「スパルロヴの元になったのはオレのばあちゃんだぜ? 当然だろ!」

「確かにあの人なら……。最近会ってないけど――かなりのお年でしょ。元気なの?」

「元気元気。寧ろあのババア、60超えて更に元気になってやがる」

「相変わらずみたいね……」

なんて雑談もほどほどに何とか購買部のある棟までたどり着いた。

「どうやら戦いはこれからみたいだな……」

湧き上がる声。

駆けだすステラソフィア生たち。

そこでは仁義なき戦いが繰り広げられていた。

「いつもにも増して数が、すごい……っ」

息をのむようなシュピチュカの声。

普段からステラソフィア購買戦争に参加しているシュピチュカすら驚愕するこの状況。

ステラソフィアに入学したばかりの頃、一度だけシュピチュカと購買戦争に参加したけれど――確かにその時と比べても段違いだった。

「こんなんどーしろって言うんだ」

「もちろん、出し抜くの!」

「出し抜くって」

さっきまでキャーキャー叫んでたシュピチュカが「ここは私の戦場だ」と言わんばかりに瞳を燃やす。

「まずはここを突破して、購買棟に入る! ベチュカ、準備はいい?」

「仕方ねーから付き合ってやるよ!」

シュピチュカと頷きあい、オレたちは駆け出した。

目指すは購買棟の正面玄関。

「けどどーするよ。あれだけの人ごみ――どう突破すんだ?」

「人が邪魔ならその上をいけばいいの!」

「上って言っても……」

購買棟は1階建て。

玄関も窓も人が埋め尽くして容易にたどり着けない。

となると、他に上を行くなら……。

「他の人の上に登る……?」

いや、無理だ。

もうすでに生徒たちは2段に重なっている。

更にその上に登るか?

寧ろ、回り込んだりした方がいいんじゃ……。

「その辺は抜かりなし! そろそろ――来た!」

「何が?」

「アマリエ氏、やって来ました!」

「誰だよ」

「チーム・アイアンガールズ所属の1年。マッコイ・ヘンリエッタです!」

チーム・アイアンガールズ。

発明バカか脳筋しかいないとよくネタにされるチームだ。

過去にはステラソフィアをゾンビやチョコレート塗れにした先輩がいるとかいないとか。

さて、このマッコイとか言うヤツは……。

「見てくださいアマリエ氏! 私の作り上げたこのカタパルトを!」

カタパルトだと!?

つまり、上を行くってーのは……。

「エッタ、射出準備!」

「諒解っ!」

「アマリエ・シュピチュカ、いきまーす!」

全くの逡巡しゅんじゅんもなく飛び出すシュピチュカ。

さすがはオレの認めたバカだ。

「ささ、シュヴィトジトヴァー氏もどうぞ」

「どうぞって言われても……」

あと、このマッコイとか言うヤツ――コイツもバカだな絶対。

「レッツゴー!!」

「おいまて、オレは行くなんて!」

あのアマ、ぜってー後で締めてやる。

体勢を崩しそうになるのを必死にバランスを取る。

このままだと確実に誰かの上に着地してしまう。

「ああもう、なるようになれっ!!」

オレが空から降ってくるのに、1人の女子生徒が気付いた。

「ヴラベツ!?」

驚きの声を上げたのはオレのよく知る先輩――

「カケル先輩!?」

ワシミヤ・カケル先輩。

同じチーム・ブローウィングに所属している機甲科の3年生だ。

まぁ……この人ならいいか。

「ふがっ!?」

「ごめん、先輩っ!」

カケル先輩の人並み外れた耐久力を信じて、肩を蹴り一気に加速を付ける。

やっと追いついた!

「シュピチュカ!」

アレだけ人でごった返していた外と違い、中は思ったよりも広々としていた。

何故ならば――

「はい、ちゃんと並んでくださーい」

「きちんと列を作るようにー」

「抜け駆けは許しませーん」

「出たわね……購買部治安維持部隊!」

「は?」

「見ての通り最後の壁。突破するべき難関、治安維持部隊よ!」

「突破するべきって――突破するのか?」

購買部の補佐をしているという何人かのステラソフィア生たちが、購買棟に辿り着いた生徒たちを誘導している。

多くの生徒はその誘導に従い列を作っているが……。

「今日こそは突破してやるのさ!」

オレ達の背後からまた1人、女子生徒が購買棟へと飛び込んできた。

「カルラ先輩?」

「フッ、見せてやろうじゃあないか! 金以外の私が持てる力をッ!!」

バカみたいな叫び声を上げながら購買部治安維持部隊とやらに突っ込むのは例によってチーム・ブローウィングの先輩。

2年生のイェストジャーボヴァー・カルラ先輩だ。

ちなみに、言動からも分かるようにバカみたいとうか完全にバカだ。

「よろしくおねがいしまぁぁああああああす!!!!」

両手にクレジットカードを扇のように広げながら治安維持部隊の作る壁を突破しようとするが、

「各員、フォーメーションA!」

「「「諒解!!!!」」」

さすがはアレだけ猛っているステラソフィア生を整列させるだけの力のある部隊だ。

あっさりとカルラ先輩の動きを止めると、流れるような動きで外へと追い出した。

「やっぱり治安維持部隊はすごい……だけど、今日は、今日ばかりは素直に並んでいる訳にはいかないの!」

「お前、マジでアレを突破する気なのか!? 確かにカルラ先輩はバカだが、あの統率力と防御力、生半可なことじゃあ……」

「わかってる。でも、だからベチュカにも来てもらったの。1人より2人。2人なら無敵だから!」

「理解不能……」

なんて話をしていると、また背後から誰かが入ってくる。

「よろしくおねがいしまぁぁあああああああああす!!!!!!!!」

ってまたお前かよカルラ先輩!

「いい加減しになさいっ!」

「ごはァッ!?」

鋭い蹴りがカルラ先輩を襲った。

「カルラちゃん、聞き分けの無い子は痛い目みますよ。分かりましたか?」

「…………」

「あら? カルラちゃん? カルラちゃーん! 酷い、誰がこんなことを……」

「いや、今のどう考えてもアーラ先輩の所為だろ……」

と言うか"しになさい"とか聞こえたような気がしたけど。

「あら、ヴラベツちゃん! ヴラベツちゃんもお弁当を買いに来たの? それじゃあちゃんと並んでくださいね~」

「聞いてねーし!」

ちなみにこの人もブローウィングの先輩。

4年生のストリクス・アーラ先輩だ。

どこかとぼけた人だがその実力は恐ろしい。

今のところこのステラソフィアで一番怖いのがこの人だ。

「それを突破しよーってのか!?」

「当然。治安維持部隊を突破できた人は最優先で好きな弁当を買える……それがステラソフィア購買戦争の暗黙のルール。であるならば今日こそはっ!」

なぜ弁当に、チョコパフェにそこまで本気になれるかはわからない。

わからないが――まぁ、仕方ない。

約束は守る。

ソレがオレの信条だ!

「ありがとう、ベチュカ……」

不意にシュピチュカがオレの襟首を掴む。

女神の(アンドラステ)……」

「アンドラステ?」

祝福を(ジェフナーニー)!」

コイツ、オレをぶん投げやがった!!!

「あらぁ? ヴラベツちゃん、おいたはいけませんよぉ」

「いや、今のはオレの所為じゃ……」

「ヴラベツちゃん〜」

「ギャー!!!!!!!」

気づけば目の前には満足気にチョコレートパフェを頬張るシュピチュカの姿。

「オレ、何してたんだっけ……」

「アーラ先輩のお仕置きを受けてた!」

「やめろっ!」

そういえばそうだった。

あまりにも凄惨だったせいか、あまりよく覚えてないけれど。

ったく、またコイツの所為で酷い目にっ!

「はいベチュカ、あーん」

シュピチュカがパフェを1匙さしだしてきた。

まぁ、最初の目的が達成できたならいいか……。

そう思いながらオレは1口、頂くことにする。

「甘い」

当然と言えば当然の感想。

その甘さが疲れた身体にはたまらなかった。

「また一緒に参加しようね!」

「するかバカ」

挿絵(By みてみん)

インハリテッドキャラクター名鑑

「アマリエ・シュピチュカ(Amalie Špička)」

ステラソフィア機甲学園機甲科チーム・オラシオン1年。

ヴラベツの幼馴染。

無鉄砲で真っ直ぐな少女。

モチーフは自作小説「機甲女学園ステラソフィア」のキャラ、フニーズド・ロコヴィシュカ。

言うなれば、主人公がいつでも帰ってこれる場所、帰るべき場所の象徴。

名前の由来はFate/Extraでプレイヤーキャラに付けていた名前アマリエ アレナとFGOでのプレイヤー名Špička。

アマリエは女性の名前であるアマーリエ(Amálie)が由来であり、シュピチュカには「頂点」「切っ先」などの意味がある。

装騎イツェナ(Icena)の名前の由来はイケニ(Iceni)族。

単純に好きなサーヴァントがブーディカさんなだけである。

ちなみに名前の元ネタの関係で、シュピチュカとヴラベツが過去に交わしたという「一生に三度のお願い」というのは令呪とかかってたりする。

機甲女学園ステラソフィア328部「第50話:Kam Jdeš」に出てきたアマリエ・アレナの親戚、あるいは孫ではないかと思われる。


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