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第19話:ついに始まる「大作戦」

「これより、月面「侵攻者」工場侵攻作戦を開始する!」

その日、戦いははじまった。

オレ達が偵察任務で発見した月裏側の「侵攻者」工場プラント

そこへの襲撃作戦だ。

「しかし、ŽIŽKA基地から増援も来るのだろ? それを待っても――」

「今この時がベスト。これでも最大限に譲歩した……これ以上は待てない」

「……わかった。君の判断を信じよう」

「ありがとう、艦長」

「各員に作戦内容を伝達。これよりムニェシーツ・シープ作戦第一段階を開始する!」

月面侵攻ムニェシーツ・シープ作戦第一段階。

「これより異界航行艦シュプルギーティスは「侵攻者」工場への奇襲をかける」

「要注意事項。シュプルギーティスの無人機フチェラを最大まで補充を。それと、使用禁止」

「つまり、シュプルギーティスに載ってるフチェラは使うなってことだね? 姉さんに伝えておくよ」

「頼んだ」

作戦は異界航行艦シュプルギーティスと護衛艦プラーステフによる月面への進行から始まる。

「出力全開! 一気に月へと接近――背面に回り込む!!」

その加速は今まで見せたこともないくらいの速度だ。

実際、この時の為に温存しておいたんだろう。

「姉さん、頼むよ」

「任せて」

それだけじゃない。

異界航行艦シュプルギーティスを中心に護衛艦プラーステフが円陣を組んだ。

更にそこから射出された数機のフチェラ。

この陣形は――――

「ブルスト――」

瞬間、光に包まれ異界航行艦シュプルギーティスが、護衛艦プラーステフが更なる加速をする。

グルルの攻撃技呪術を利用した加速用術式。

それが侵攻の為の加速を後押ししたんだ。

その勢いで、ルート上にいた斥候と思しき「侵攻者」達を蹂躙しながら一気に月の裏側へと回り込む。

「術式快調。目的達成……ブイ」

「すぐに第二段階に取り掛かる!」

ゲッコー艦長の指示で異界航行艦シュプルギーティスは一気に攻撃態勢に入った。

「ビィ、プラーステフを。グルル、フチェラを展開。攻撃開始だ!」

「おまかせを」

「りょ」

「姉さん、その言葉遣いはちょっと……」

「ダメ?」

「控えてね」

「マジ卍」

フチェラによる攻撃が「侵攻者」の工場を襲う。

オレ達ムスチテルキ隊の出番はまだだ。

攻撃に誘われ、月表面に張り付いた無数の「侵攻者」がいっきに舞い上がる。

その多くは鳥型ティプ・プタークでそこまでの脅威ではないだろう、が……。

不意に月に塔のように聳えた一つが振動を始め、異界航行艦シュプルギーティスに向かって射出された。

「報告にあった鯨型ティプ・ヴェルリバか?」

「そう。アレは「侵攻者」の移動工場」

それが異界航行艦シュプルギーティスに向かってくる。

つまり――

「戦闘能力があるのか?」

「ある。相手は戦艦クラス。対艦戦闘の準備を」

「リュウガ、艦砲のコントロールは任せる」

「……任せられた」

普段は無表情なオペレーターのリュウガさんの口元が僅かにつり上がった。

見た目から薄々感じてはいたけれど……やっぱり戦場が本職の人か!

瞬間、魔電霊子アズルの閃光が走る。

異界航行艦シュプルギーティスが先手必勝とばかりに先制攻撃を仕掛けたんだ。

対する鯨型「侵攻者」も身をよじらせながらアズルによくにた光を放つ。

「霊子防護壁展開!」

「諒解。霊子防護壁展開します!」

ゲッコー艦長の指示にリブシェが素早く従う。

いや、それ以前から準備はできていたのだろう――異界航行艦シュプルギーティスをアズルバリアが包み込んだ。

「てか、こんなのもあったんだな……」

「当然だ」

オレの呟きにアーデルハイトが答える。

「単艦で「侵攻者」の巣に飛び込むんだ。被害を抑える為の手段は色々と用意してある」

その一つがこの霊子防護壁アズルバリア

グルルとビィの操る技呪術によって「侵攻者」を攻撃し迎撃する護衛艦プラーステフと無人機フチェラ。

その存在に今まで助けられたのもそうだ。

「艦長! 月表面から鯨型が三体来ます!」

「一体では無理と悟ったか。これで艦船級の数は同じだが……」

「全体の戦力数ではどうしても相手に分があります」

「手をこまねいているヒマ、ない……艦長」

「分かりました。技呪術霊子砲シャマンスキー・オドストジェルの準備を!」

異界航行艦シュプルギーティス全体にアズルが迸る。

「主砲、発射態勢に入れ!」

「砲門開きます!」

ゲッコー艦長の指示でリブシェが異界航行艦シュプルギーティスの砲門を開いた。

それがどういう意味かというと――流線型をした艦の先端、そこがおもむろに開き始める。

それは内蔵型の高出力魔電霊子砲――それも、インヴェイダーズの技呪術も組み合わせた規格外のやつだ。

「ビィ、行けるな」

「もちろんです!」

艦の変化とアズルの充填に呼応するようにビィの身体に紋様が走る。

「シャマンスキー・オドストジェル、発射!」

瞬間、強烈過ぎる閃光がディスプレイから放たれた。

その眩さから予感される威力そのまま――灼熱の魔電霊子が四体の鯨型を、その周囲を漂う無数の「侵攻者」もろとも消し飛ばす。

いや、それだけじゃない。

シャマンスキー・オドストジェルはその威力で月の表面を焼き払った。

「どうだ?」

「火力は上々! ですけど――あー、やっぱり月はデカすぎますねぇ」

「技呪術霊子砲の再充填には時間がかかります。やはりこの攻撃だけで「侵攻者」工場の完全破壊は難しいかと」

「だろうな――予定通り作戦を第三段階に移行する!」

圧倒的な火力。

オレにとっては予想外な異界航行艦シュプルギーティスの隠し玉。

「ヒュー! アタシ達の出番なくなっちゃうかと思ったジャン」

「だが、予定通り出番が来たな」

「グルルはまだ戦えそうか?」

無問題モーマンタイ

「ハハハ華國語をおぼえましたネー」

「ナっちゃんそんな胡散臭い喋り方じゃねーだろ!」

これから敵の本拠地に攻め込むというのに気が緩みそうだ。

けど、コレが――

「ふっ。復讐姫ムスチテルキ隊風か」

「行こうぜアーデルハイト!」

「ああ。ムスチテルキ隊、ド・ボイェ!!」

異界航行艦シュプルギーティスは技呪術霊子砲で焼き払った地点目がけて高速で接近。

そのまま、「侵攻者」工場の一部にその艦体を突っ込ませる。

作戦の第三段階。

それはオレ達ムスチテルキ隊による「侵攻者」工場内側からの破壊作戦だ。

「各自、忘れ物はないな」

「モチのモチ! ってか遠足じゃないんだから!」

「遠足より……大事」

「丹精込めて作った起爆兵器ですからねー。大切にしてくださいねー」

「あーもう、意味わからねえ!」

とりあえず、オレ達に一基ずつ渡されたフチェラを改造した起爆兵器。

それを指定された場所に設置してくればいいという。

「わたし達五人で手分けして五か所に設置です! そして最後はドッカーンです!」

わたし達(インヴェイダーズ)の技呪術。それにナっちゃんの結界術を組み合わせた。高火力。高威力。敵は一撃。木っ端微塵。粉砕。玉砕。大喝采」

「玉砕したらダメだぞ」

「死んでも生きて帰ろう。行くぞ」

「ったく、アーデルハイト様は無理難題をおっしゃるわー」

「行くぞ!」

「り!」

この起爆装置はナっちゃんの結界術を利用し、大爆発を起こすもの。

ということはこの起爆装置を円形状に設置しなくてはいけない。

「盛大なお出迎えだな」

「ま、そう易々と行かせてはくれないってわけだな」

オレ達が侵入してすぐ、「侵攻者」達がその姿を見せた。

六本脚型ティプ・シェストノヒ巨人型ティプ・オブル海月型ティプ・メドゥーザ……地上でもよく見る典型的な「侵攻者」達。

「ならばそこまで苦戦はしない、か?」

「そう願いたいな。一先ずここを突破だ。いいな?」

『諒解!』

そして戦いがはじまった。

あらかじめ決めていたそれぞれ侵攻地点を目指しながら、「侵攻者」の群れを蹴散らしながら進む。

「ヴラベツィー・スヴェトロ!!」

霊子の輝きが「侵攻者」もろとも壁を貫く。

「オレはコッチ方面だな!」

「あとわたしも途中までお付き合いしちゃいまーす」

「ああ。グルルとアネシュカは私と」

「「り!」」

「グルル、アネシュカの真似をするな。莫迦になる」

「諒解。莫迦はいや」

「酷くないッ!?」

いつものことだが、アーデルハイトとアネシュカが一緒なのに不安はあるが、まぁ、さすがにこういう大作戦でバカはしないだろう。

…………多分。

「不安はわかりますけどしかたないですよー。さぁ、行きましょー!」

「おう!」

そのままナっちゃんと一緒に、壁に開けた穴を先に進む。

A.S.I.B.A.領域と機甲装騎に備わった探知波による地形探査システムも利用しながら位置情報をしっかりと把握し、目的の場所へと急いだ。

「ヴラベツィー・ジェザチュカ!」

捌波はっぱ結界・風炉御然須ぷろみねんす!」

オレの斬撃とナっちゃんの爆破結界。

なるほど、こういう感じでこの工場全体を爆発させようってわけだな。

「そのとーり!」

とりあえず今のところ順調のようだ。

通信から聞こえてくるアーデルハイト、アネシュカ、グルルの様子も変わりない。

「それじゃあここでお別れだな。また会おうぜ!」

「ではでは、お互い気を付けていきましょー!」

襲い掛かる「侵攻者」達を何のその。

いくら地上に出現する「侵攻者」より強いとはいえ、今までもたくさん戦って、空いた時間で特訓だってした。

ならばオレには敵なしだ!

まぁ、強いて言うなら騎士型とかが現れようものならキツいが――

「嫌なこと考えちまった……アーデルハイト、大丈夫なのか……?」

もし騎士型が現れるとすれば今までの行動から考えてほぼ間違いなくアーデルハイトを狙ってくるだろうし。

だが、特にそういったイレギュラーもなくオレ達五人はそれぞれ指定の場所に到達。

「スパルロヴ、設置完了!」

「アインザムリッター滞りなく」

「イフリータ! 完遂ッ!」

「ククルクン、完了」

「イーメイレン、やっちゃいました!」

ナっちゃんとグルルによって改造された爆破魔術の基点となるフチェラを設置した。

そして素早く、艦へと戻――

「っとーその前に、戴氣望だいきぼ結界・衛流守都えるすと!」

ろうとしたその瞬間、起爆用フチェラから魔力が迸る。

それは「侵攻者」プラント全体を駆け巡り、その範囲内をナっちゃんの結界魔術の内側に取り込んだことが分かった。

「さーってみなさん、遠足は家に帰るまでが遠足ですよー!」

それはナっちゃんが起爆用フチェラに仕込んでいたもう一つの結界魔術。

オレ達を支援し、導く守護の結界術だった。

「効果はよくわからないけど助かるぜ!」

「ああ、気持ち楽になった。気持ちな」

「敵が弱くなってるような……気がしなくもないジャン!」

「技呪術の通りは良くなってる。多分」

「もっと効果を実感してくださーい!!!」

そうは言われても、他の結界魔術と違ってイマイチ実感が湧きづらいので何とも言えない。

「今回は爆破メインに組んでてコレはオマケだから効果が薄いだけですぅー! でも、ないよりあったほうがいいありがたーい加護があるんですぅー!」

「わかってるわかってる。オレはナっちゃんのことを信頼してるって」

それは他のみんなも一緒だろう。

「では皆、合流するぞ!」

『諒解!』


挿絵(By みてみん)

インハリテッドメカニカル名鑑

「装士イーメイレン(Yú Měi-rén」

士使:ユウ・ナ

主武装:華式直刀×6

操縦系:オーバーシンクロナイズ

動力:ハイドレンジアリアクター(M4:A1)

アズル容量:10.000Azl

アズル出力:10.000Azl/s

常態消費アズル:2.000Azl

装甲B 格闘A 射撃C 機動B 霊子A

ユウ・ナの乗る細身で丸みを帯びた女性的な装士。

機甲装士きこうそうしとは華國で使われる機甲装騎の名称であり、搭乗者は士使ししと呼ばれる。

対「侵攻者」用に華國が建造した装士であり、実質ユウ・ナの専用騎扱いになっている。

メイン武装の華式直刀は直刀でありながら切断能力に特化させた装備であると同時に、ユウ・ナの扱う結界魔術の媒介としても使用される。

ムスチテルキ隊の他の装騎と比べると使用可能な霊子容量は少ないが、これは装騎の装甲を含めた全体に霊子を流し込んでいるからでその細身の装甲の割に防御力はかなり高いという。

名前の由来は項羽の愛人である虞美人から。

ちなみにユウ・ナの扱う結界魔術の名称は〇〇結界・××の形でそれぞれには術のイメージの言葉に別の漢字をあてたものという決まりがある。


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