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第18話:大作戦への「下準備」

「偵察任務、ですか」

「そうだ」

今、異界航行艦シュプルギーティスは目標である月にかなり近い位置にいるという。

と言うことは、月侵攻作戦の開始はもう目前。

「フチェラによる事前の偵察も行ってはいるのだが、やはり最後は直に見て確かめた方がいいだろう。実際に戦うのは君たちだ」

「諒解しました。と、言うことだが――誰が行く?」

「はいはーい!」

真っ先に手を挙げたのはどういう訳だろうか、アネシュカだった。

「どーゆうワケって偵察と言ったらアタシ! 潜入と言ったらアタシジャン!」

「確かに装騎イフリータはステルス機能もあるしこういう作戦には打って付けだが……」

アーデルハイトは心配そうな表情を浮かべる。

そりゃそうだ。

装騎自体は任務に向いてるとはいえ、アネシュカの性格が性格だからな……。

「コソコソするのとか苦手そうだし」

「失礼な。ピトフーイ警備ではそういう潜入任務もいっぱいやったのよ? この中だと一番経験あると自負してるッ」

「なんで警備員が潜入任務するんだよ……」

ただ、ここら辺はあまり詮索しすぎると企業の闇に触れそうだが。

「だがアネシュカだけでは不安だな。私が同行する」

「いや、オレが行くぜ」

アーデルハイトを制してオレは自ら偵察任務に名乗り出る。

「アーデルハイトはムスチテルキ隊のリーダーだし、艦に残っていて欲しいんだ」

「リーダーは決まってないぞ」

「そうだけど実質アーデルハイトがリーダーみたいなもんだろ? 何かあった時に一番適切に動けるのはアーデルハイトだと思うしさ」

オレは必死にアーデルハイトを説得する。

なぜなら、この二人はあまり一緒にしたくないからだ!

ただでさえ生真面目で大変そうなアーデルハイトの負担を増やすことはしたくなかった。

まぁ、だからってわざわざこんなことをする義理はないと言えばないのだが。

「ヴラベツは偵察とかしたことないだろう」

「けど、この中だと単独行動とか少数行動が得意なのはオレとアネシュカだろ?」

「そうだな」

アーデルハイトはしばらく考え込むように俯いた後、言った。

「わかった。偵察任務はヴラベツとアネシュカに任せる」

その言葉を聞いて、オレはほっと胸をなでおろしたのだった。

「いやー、アンタが名乗り出てくれて助かったわー」

「お前が名乗り出た時はヒヤヒヤしたよ」

「アタシのコト信用してないってワケ?」

「日頃の行いが悪い」

装騎スパルロヴと装騎イフリータ。

二騎の機甲装騎は発艦し、侵攻予定のルート図を参考にゆっくりと進んでいく。

「てかお前、ちゃんと宙域機動できるのか?」

「トーゼン! ちゃんと練し――じゃなくて、天才的なアタシなら屁の河童よ!」

「今時聞かねぇぞ……そんな言い回し」

「エモいっしょ」

「そうかぁ……?」

それからしばらく、シュプルギーティスのA.S.I.B.A.領域から外れる。

ここから先は母艦からの支援は受けられない。

もしも戦闘にでもなれば自分でアズルをうまくやり繰りしないといけなくなるということだ。

「大丈夫そうか?」

「モチよモチ」

A.S.I.B.A.システムと同じ要領でアズルの足場を作り、それを蹴ることで加速をつけて前に進む。

「これだけで消費量20%か……」

ただし、支援がない分アズルの消費は激しい。

もし、いつものノリでアズル場を展開すればいっきに過放出オーバーディスチャージしてしまうだろう。

「アズル自体は一瞬で回復するんだし、パッと足場作ってパッと会解除して、パッと攻撃すればいいんしょ!」

「理屈としてはな」

最近の機甲装騎ならアズルの容量は1万2千。

それが一秒では回復できるから、その一秒以内にそれ以上のアズルを使わなければ問題ないことになる。

装騎を動かしたり、各制御を行うために使用するアズルが約3千――アズル場を作るのに一回2千4百……。

「残りの4800……どう使うかか」

と言っても、こういう数値は装騎ごとに違う。

オレのスパルロヴの場合は支援AIや追加武装などの関係で基本的な消費アズルが大きいし。

「そんなことゴチャゴチャ考えたってしかたないっしょ」

「とは言え、過放出したらヤベーだろ。今みたいな状態はまだしも、敵と交戦中とかだと……」

「待って」

不意に装騎イフリータが左手を装騎スパルロヴの目前に伸ばした。

弱めのアズル場を正面に張り、その反発力で速度を落とす。

「「侵攻者」か?」

「そ、鳥型。偵察用かな」

「だろうな」

鳥型をやり過ごし、先に進む。

巨大すぎる月がオレ達の視界を阻んだ。

「コレが月、か……」

地上からだって見える月だ。

それに近付いていけばこれだけ大きくなるのは当然と言えば当然だが――

「改めて意識してみるとヤベぇな……」

ŽIŽKAの中継基地で、オレ達の住んでいた地上を見下ろした時にも思った。

これだけ巨大な球体の中に、壮大な世界が広がっているんだということを。

この月の中には一体どんな世界が広がっているんだろうか。

「アンタ、ポエマーにでもなる気?」

「才能は無さそうだしやめとく」

「才能あったらやるの?」

「ま、選択肢に入れるくらいはするかもな」

「嘘つけ」

「ああ、嘘だよ」

なんてふざけた会話をしている場合じゃない。

敵の本拠地はもう目前。

もちろん、今から攻め込もうってワケじゃないが。

「けど、結構手薄だな……」

「侵攻者」と言えば、倒しても倒しても湧いて出てくるその数が特徴的だ。

確かに地上にいる時から、一回一回に襲撃する数は少なくはあったけど。

「でもコレ、突いたら出てくるヤツっしょ。ハチみたいに」

「やっぱそうだよなぁ」

望遠カメラで表面を眺める。

多数のクレーターから本当、何かの巣のようだ。

「つっても、クレーターからは出てこないよな。どこにいるんだ?」

「そうねー。パッと見、「侵攻者」の気配はなし。確かにチョイチョイ接敵があったりはしたけど……」

「「侵攻者」はなんか工場プラントを作るんだろ? ってことはソレがあるはずなんだが……」

「この月って丸いわよねー。ってことはやっぱ、裏とかあるんジャン?」

「ボールみたいにか?」

「そーそー。何でもアタシらの住んでた地上だってボールみたいに丸いらしいジャン」

オレ達の住む地上がボールのように丸いというのは説こそ昔からあれど証明されたのはŽIŽKAが宇宙開発を行って数年。

まだイメージは湧かないが、確かにオレが見た地上は丸かった。

「それと同じように、月もまん丸ってか」

「当然のコトっしょ」

「裏まで行ってみないとダメか……」

「コレじゃ成果もイマイチだし、ちょっとウラも覗いてみますか!」

「危険じゃねーか?」

「ここまで来たならイマサラっしょ。さすがに真裏はムリだし、ちょっと影が差すとこくらいまでね」

「そうだな。危ないと思ったらすぐ撤退するぞ」

「りょーかい!」

しばらく月の表面をなぞるように進む。

なぞるといっても、距離はかなり遠い。

下手に近づき過ぎればどうなるかわからないからだ。

細かい理屈は説明されたような気もするけど……まぁ、そういうことはコンピューターが計算してくれるしな。

実際、さっきからサブディスプレイでスパルロヴが何やら必死に計算している様子が伺える。

「もうそろそろか、見えてくるぞ」

「アレは……」

月の表面に少しずつ、黒い何かが見えてきた。

これは月の影?

いや、違う。

《「侵攻者」の反応あり》

スパルロヴが警告した。

月の表面にびっしりと取り付いた何か。

まさかコレは――

「「侵攻者」の工場か……」

もしくは「侵攻者」自身――いや、寧ろ工場型の「侵攻者」だろうか。

鬼灯の実のようなものが大量に聳え立っている。

「うわーお」

アネシュカも感嘆の声を上げた。

ここに今から攻め込むのか――オレ達は。

「なーに、まっナンとかなるっしょ。っていうかナンとかしないのいけないのよね……」

「そうだな。月の裏側――ここから見えるだけでもかなりの範囲を「侵攻者」が覆ってる。それをオレ達だけで倒すか」

「とりま、これ以上はキケンね。一先ず撤退、そして報告!」

「ちゃんと引き際分かってんだな」

「トーゼン!」

その場から離れようとするオレ達。

だが不意に、

《警告。熱源の接近を感知》

スパルロヴが警告を発した!

「まさか、敵だってーの!?」

「そうみたいだ。それに――速いっ!」

この速度、この反応――間違いない!

巨大で幅広な、突撃槍とも大剣ともつかない武装、突撃剣。

騎士を思わせるフォルムに、背部から溢れるアズルの輝き。

騎士型ティプ・リチーシュ!!」

「ナンでこのタイミングで!?」

「知らねーよ! それに――補足されてるっ」

騎士型は一直線にオレ達の元へと向かってくる。

「とりあえず、撤退しながら交戦っ。撒けるならソレに越したことは無いぜ」

「りょ! しょーじき、結構苦しそうだけどねッ」

「言うな!」

オレと装騎イフリータは正面に足場を作ると、それを一気に蹴った。

勢いで背後に流れる。

騎士型と距離を取るために。

けれどさすがの騎士型は素早く、そしてしつこくオレ達を追ってきた。

「チッ、イージーク!」

両使短剣イージークを構える。

瞬間、激しい衝撃が装騎スパルロヴを揺らした。

騎士型の放った一撃が、オレの両使短剣イージークとぶつかる衝撃。

だが、それはそれで好都合!

踏ん張る必要なんかない――その一撃を利用して更に距離を離せばいい!

「ベチュカ!」

装騎イフリータがオレに鎌剣ドラコビイツェの刃を投げる。

コレに捕まれってか――けど、この勢いを利用しない訳には――

「うおっ!?」

背後から響く衝撃。

装騎スパルロヴが何かに当たったんだ。

「だからソレを投げたのに!」

オレが叩き付けられたのはたまたまそこを漂っていた岩石。

「ゴメン、見えてなかった!」

「しっかりしなさい!」

ぐうの音も出ない。

けど、今は次の問題に対処しなくては。

オレの動きが止まった一瞬を――騎士型は見逃してはくれないのだから。

「ベチュカ、援護に行くわ!」

「頼むっ!」

とは言え、ある程度はこっちで何とか、しないとな!

騎士型が突撃剣の切っ先をオレへと向ける。

オレは両使短剣イージークを構え、衝撃に備えた。

騎士型の一撃が両使短剣イージークと交差するその瞬間――騎士型が動きを止めた。

「なんだ……?」

その刃はオレのすぐ目前に。

けれど、それ以上動かない。

「コレって……!?」

アネシュカが不意に声を上げる。

《大型の反応、接近》

スパルロヴも警告を発した。

「アネシュカ、オレはいい。とりあえず隠れろ!」

「ッ!」

装騎イフリータはステルス機能で姿を消す。

どういう訳か騎士型も動きを止めているし大丈夫――なのか?

騎士型が明後日の方向に顔を向けた。

オレも思わずその先へと顔を向けてしまう。

そこには――

「何だ、アレ……」

とても巨大な何かが宙を移動していた。

巨人型を運搬する種子型ティプ・セメノにも似ているが、それよりも巨大で生物的でその姿はまるで――

「ナニアレ、まるでヴェルリバジャン」

身体の要所に生えたヒレのような突起に、巨大な口があるようにも見える。

まさにアネシュカの言う通り鯨だ。

異界航行艦シュプルギーティスよりも一回りは確実に大きいだろう。

その巨大「侵攻者」は多数の鳥型を従え、宇宙の海を進んでいった。

どれだけの時間が経っただろうか。

そのあまりの巨大さに圧巻されていたのでよくわからないが――巨大「侵攻者」は月を目指し小さく、小さくなっていった。

「あんな「侵攻者」も、いるのか……」

その通過を待って、騎士型が不意に突撃剣を引いた。

そして素早く身を翻すと、凄まじい速さで月へと消えていく。

「戦わない、のか……?」

「ったくナンなのアイツ。ナンの為にでてきたんだか!」

「とは言え、増援が来ないとは限らない。すぐ艦に戻るぞ!」

「り!」

とは言え本当、騎士型アイツは何のために出てきたんだ……?

まるでオレ達にあの巨大「侵攻者」を見せようとしているみたいだった。

いや、気のせいか――もしくは偶然か。

一先ずはこのことを報告しよう。

月への侵攻作戦はもうすぐだ。

挿絵(By みてみん)

インハリテッドメカニカル名鑑

「装騎イフリータ(Ifrita」

騎使:コソヴェツ=ショウパールチーオヴァー・アネシュカ

主武装:鎌剣ドラコビイツェ×2 ステルス迷彩

操縦系:オーバーシンクロナイズ

動力:アズルリアクター

アズル容量:12.000Azl

アズル出力:12.000Azl/s

常態消費アズル:2.900Azl

透過時消費アズル:10.900Azl

装甲B 格闘A 射撃C 機動A 霊子B

アネシュカの乗る薄い黒色の機甲装騎。

大きな特徴は姿を消すことのできるステルス能力。

ただし、作中で触れられたような弱点と莫大な消費アズルが必要なのが欠点。

ベース騎はアナフィエル型と呼ばれる機甲装騎で、ヴラベツのスパルロヴ――そのベース騎であるハラリエル2とは同時代の骨董品。

本来はピトフーイ警備保障社長アルジュビェタの持ち物だったものをフニーズド工房が近代化改修したもの。

アルジュビェタが使用していた頃の名前はピトフーイ・ディクロウス。

名前の由来はズアオチメドリの学名であるIfrita kowaldi。

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